介助費用って加害者に請求できるのかな?
今回の記事では、交通事故により介助が必要になってしまった場合に受け取れる賠償金について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭うと、体を自由に動かせずに看護や介護が必要になってしまう方が少なくありません。
看護や介護にかかった費用も「交通事故によって発生した損害」といえるので、加害者や保険会社へ請求できます。
今回は交通事故で看護や介護が必要になった場合の賠償金計算方法や相場、慰謝料についてご説明しますので、示談交渉中の方、事故で大怪我をされた方などはぜひ参考にしてみてください。
目次
交通事故の付添看護費とは
交通事故でケガをすると、相手に「付添看護費」を請求できる可能性があります。
付添看護費とは、家族や看護師に看護してもらったときに請求できる賠償金です。
場合によって異なる付添看護費の金額
病院や自宅で専門職の看護師に看護してもらった場合、医療費がかかるので当然「実費」を請求できます。
それだけではなく、家族に看護してもらったときには実際には費用を払っていなくても「付添看護費」を請求できます。
ただし入院時と通院時など、状況によって請求できる付添看護費の金額が変わってきます。
以下で家族に看護してもらったとき付添看護費の種類をみてみましょう。
入院時の付添看護費
入院すると、1人では身の回りのことができないので看護が必要になるケースが多数です。
基本的には医師が「付添看護が必要である」と判断した場合に限り、親族に付き添ってもらった日数分の付添看護費を請求できます。
ただし医師の指示がない場合であっても、被害者の症状の程度や年齢などの具体的な事情により、親族の付添看護費が認められる可能性があります。
たとえば被害者が極めて重症、幼児や高齢者などの場合には病院で完全看護体制が敷かれていても親族の付添看護費が認められやすいでしょう。
入院時の付添看護費が認められるのは「症状固定するまでの間」です。
通院時の付添看護料
入院までは不要で通院しただけのケースでも、付添看護費を請求できる可能性があります。
ただ通院の場合、付添看護の必要性は入院時よりもさらに厳しく判定されます。
基本的には幼児に親が付き添う場合、重症で本人が歩行困難な場合、高次脳機能障害が残って1人で通院できない場合などの限定的なケースにおいて、付添看護費が認められやすいと考えましょう。
通院時の付添看護費が認められるのも「症状固定するまでの期間」となります。
自宅付添費
場合によっては被害者が自宅療養する場合にも付添看護費が認められる可能性があります。
医師による指示がある場合や被害者の症状や年齢、状態によって特に看護が必要とされるような状況であれば、請求が認められやすいでしょう。
後遺症が残った場合の将来の介護費用
交通事故で後遺症が残ると、症状固定後も親族や介護人による介護が必要になるケースが少なくありません。
そういったケースでは、将来に渡って必要な介護にかかる費用を請求できます。
このような費用を「将来介護費」といいます。
後遺障害の等級表では、「要介護(介護を要する)の後遺障害」は別表1の1級と2級のみとなっています。
これらの後遺障害に該当したら、当然将来介護費を請求できると考えてかまいません。
また別表2の後遺障害や3級以下の後遺障害でも、介護の必要性が認められれば将来介護費を請求できるケースがあります。
たとえば症状の程度が重く被害者が1人で生活できない場合、親族による監視が必要な場合などには3級、5級、7級などの後遺障害等級であっても将来介護費を払ってもらえる可能性があると考えましょう。
付添看護費の相場はいくら?
付添看護費を請求できる場合、具体的にいくら払ってもらえるのでしょうか?相場を確認しましょう。
入院付添費
親族が付き添った場合の入院付添費の金額は、自賠責基準と法的基準(弁護士基準、裁判基準)とで計算方法が異なります。
自賠責基準とは、自賠責保険や共済が保険金や共済金を計算する基準。
この場合、1日あたり4300円とされます。
弁護士基準は弁護士が示談交渉するときや裁判所が損害金を計算するときに適用する基準。
この場合、基本的に「1日あたり6,500円」としますが、状況に応じて金額が増減する可能性があります。
だいたい5,500円から7,000円程度になると考えましょう。
通院付添費
親族による通院付添費が認められる場合、自賠責基準であれば1日あたり2,100円として計算されます。
弁護士基準の場合、基本的には「1日あたり3,300円」ですが、状況に応じて3,000円から4,000円程度の範囲で増減する可能性があります。
自宅付添費
親族に自宅で付き添ってもらった場合の自宅付添費の金額は、自賠責基準の場合1日あたり2,050円となります。
弁護士基準の場合には個別の状況に応じて判断されますが、入院時の付添看護費用よりは低くなるのが通常です。
家族が仕事を休んだ場合の休業損害
家族が入院時の付添看護などを行う場合、仕事を休まなければならないケースも多いでしょう。
その場合、家族の「休業損害」を請求できる可能性があります。
基本的には家族の1日あたりの平均賃金を計算し、その金額と6,500円を比較して大きい方の金額が補償額となります。
ただし家族の実収入が高く、プロの看護師や介護士に依頼した方が安くなる場合には、プロに依頼した場合の相場の金額まで抑えられます。
具体例をみてみましょう。
家族の1日あたりの基礎収入が10,000円の場合
この場合、家族の1日あたりの基礎収入額である10,000円は6,500円より高額です。
そこで家族の実収入が採用され、1日あたり10,000円の休業損害(付添看護費)を請求できます。
家族の1日あたりの基礎収入が25,000円の場合
家族の1日あたりの基礎収入が25,000円の場合、一般的には看護師や介護士に依頼した日当の方が安くなるでしょう。
そこでプロに依頼した場合の一般的な相場の金額(1~2万円程度)にまで金額が抑えられる可能性が高くなります。
家族の1日あたりの基礎収入が3,000円の場合
家族の1日あたりの基礎収入が2,500円の場合、付添看護費の相場である6,500円より低くなります。
よって付添看護費用が採用され、1日あたり6,500円として合計額を請求できると考えましょう。
将来介護費
自宅で家族が介護する場合には、1日8千円程度になるね。
介護費用の計算方法について、チェックしてみよう。
後遺症が残った場合の将来介護費の金額は、「誰が介護するのか」によって大きく変わってきます。
介護士に依頼する場合には、実費を請求できます。
状況にもよりますが、1日あたり1~30,000円程度になるケースが多いでしょう。
家族が介護する場合には、1日8,000円が標準となります。
ただし状況により4,000~10,000円程度の幅で増減する可能性があります。
介護費用の計算方法
将来介護費の金額は、以下の計算式によって計算します。
将来介護費用=「日額×365日(1年の日数)×平均余命に対応するライプニッツ係数」
「平均余命」とは、同じ年齢の人が平均してあと何年生きられるか、という数字です。
平均寿命とは異なるので注意しましょう。
たとえば令和元年の場合、50歳男性の平均余命は32.89年、50歳女性の平均余命は38.49年です。
ライプニッツ係数とは、中間利息(将来にわたって発生するお金を一括で受け取る利益)を控除するための特殊な数字です。
ただし2020年4月に改正民法が施行されて数値が変更されたので注意しましょう。
2020年3月31日までの事故では法定利率が5%、2020年4月1日以降の事故では法定利率が3%となるためです。
あてはめるべき数値が異なるので、事故発生日時に応じたライプニッツ係数を採用しましょう。
将来介護費計算の具体例
たとえば55歳男性の場合、平均余命は28.34年なので28年として計算します。
するとライプニッツ係数は18.764(法定利率3%を適用)です。
親族が介護する場合、8,000円×365日×18.764=5479万880円の将来介護費を請求できることになります。
介護が必要な場合に請求できるその他の賠償金
交通事故で後遺症が残ってしまったら、将来介護費用以外にも請求できる賠償金があります。
自宅改装費用
「被害者を自宅で介護したい」と思っても、今まで居住してきた家のままでは介護に適していないケースも多いでしょう。
バリアフリーにしたりトイレやキッチンを改装したりホームエレベーターをつけたりして改築が必要になるご家庭が多数です。
その場合、自宅改装費用も交通事故によって発生した損害といえるので、相手に請求できます。
ただしリフォーム代などのすべての費用が認められるとは限りません。
家族が便利に暮らすためのキッチンのリフォームなど、介護と無関係な費用については賠償の対象から外れる可能性が高いので注意しましょう。
車両や介護用品代
被害者を介護するには、さまざまな「物」が必要となる可能性があります。
たとえば通院用の介護車両を購入したりこれまでの車両を改造したりするケースもありますし、介護用ベッドなども必要となるでしょう。
こういった介護用品についての費用も相手に請求できます。
介護費用を請求するために必要な資料
自宅改装費や介護用品などの費用を請求するには、具体的にかかった費用を証明する資料が必要です。
以下のようなものを手元に残しておきましょう。
- 自宅改築や車両改装の見積書
- 請求書
- 介護用品を購入したときの明細書、内訳書
- 領収証
- クレジットカードの支払明細書
また親族による具体的な介護の内容を記録するようお勧めします。
どのような介護が行われているのかわからなければ、費用の請求が難しくなるためです。
介護の1日のスケジュールや被害者の状態を記した看護日誌、忘備録などを作成して保管しましょう。
慰謝料について
交通事故で介護が必要な状態になったら、被害者は大きな精神的苦痛を受けるので、以下のような慰謝料を請求できます。
- 症状固定するまでの入通院慰謝料
- 後遺障害認定を受けた場合には認定等級に対応する後遺障害慰謝料
ただし慰謝料の金額は任意保険会社の基準と弁護士基準とで大きく異なります。
任意保険会社の基準を適用されると大幅に減額されるケースが多いので、慰謝料請求するなら弁護士に依頼するのが得策です。
まとめ
弁護士に相談する事で、賠償金がアップするなんて知らなかったよ!
交通事故で入院看護や介護が必要な状態になったら、請求できる賠償金額も相当高額になるものです。
自己判断で示談を成立させてしまったら損をしてしまう可能性もあるので、一度交通事故に詳しい弁護士に相談して適正な賠償金額についてアドバイスを受けましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。