慰謝料ってどのくらい請求できるの?
だけど、過失相殺により減額されてしまう事があるんだ。
今回の記事では、交通事故により手術が必要になってしまった場合に受け取れる慰謝料や、慰謝料を増額できるケースについて、詳しく見ていこう。
交通事故で重傷を負うと、手術が必要となってしまうケースも少なくありません。
手術費用が高額になった場合、全額を加害者へ請求できるのでしょうか?
また手術をするほどの重傷であれば被害者の精神的苦痛も大きくなるので、高額な慰謝料を請求したいと考える事でしょう。
今回は交通事故で手術が必要となった場合の治療費や慰謝料について解説します。
事故で重傷を負ってしまった方はぜひ参考にしてみてください。
交通事故で手術が必要なケースの治療費
交通事故でケガをすると、手術を必要とするケースが多々あります。
たとえば大怪我をして腕や足を骨折したり脊髄の損傷、脳挫傷、内臓の損傷などが起こったりしたら、すぐに病院に運ばれて緊急手術が行われるでしょう。
事故で手術が必要になった場合、治療費はどのくらい払ってもらえるのでしょうか?
手術代は全額請求できる
事故によって手術が必要になった場合、手術費用は基本的に全額損害賠償できます。
事故がなかったら手術は不要だったといえ、手術費用は事故と因果関係があるためです。
相手の任意保険会社が病院へ直接手術費用を払ってくれるケースも多いでしょう。
その場合、被害者が病院の窓口で入院費用や手術費用を支払う必要はありません。
過失相殺で減額される可能性
ただし被害者側に過失があれば、手術費用を全額払ってもらえるとは限りません。
過失割合に応じて「過失相殺」されるからです。
たとえば被害者側に3割の過失があれば、請求できる賠償金は7割に減額されてしまいます。
手術費用が200万円の場合、140万円しか払ってもらえなくなるでしょう。
ケガの治療に必要とはいえない場合
治療のために手術が不要と考えられる場合、手術費用を払ってもらえない可能性もあります。
たとえば以下のような場合です。
- 手術をしなくても日常生活を送れているが、軽い後遺症が残っている
- 手術によって症状が改善する可能性はあるが医学的に実証されておらず、効果は不確実
- 上記のような状況で、患者があえてリスクを取って手術を行う
上記のような場合、手術は怪我の治療のために必ずしも必要とは言い切れません。
患者がリスクを取って手術に踏み切っても、保険会社からは費用負担を拒否される可能性があります。
症状固定後の手術代
手術の時期によっても相手に手術費用を請求できるかどうかが変わります。
基本的に、手術費用を請求できるのは「症状固定時まで」です。
症状固定とは、それ以上治療をしても症状が改善しなくなったタイミングをいいます。
症状固定したら、治療を続けても意味がないので治療を打ち切ることとなり、治療費や休業損害の支払いも止まります。
症状固定後に患者があえて手術を行っても、費用を払ってもらえないのが原則です。
ただし症状固定後も現状を維持するために治療が必要な状況は考えられますし、症状固定後に体内に埋め込んだボルトなどを除去するための再手術が必要となるケースもあります。
このように、症状固定後にも手術が必要と判断されたら、症状固定後の手術費用も請求できる可能性があります。
交通事故で手術を受けたときの慰謝料
手術をしたんだから慰謝料はより多くもらえるんだよね?
慰謝料には、入通院期間に応じて受け取れる入通院慰謝料と、後遺症が残ってしまった時に受け取れる後遺障害慰謝料、そして死亡した場合に遺族が受け取れる死亡慰謝料の3種類があるよ。
交通事故で被害者が手術を受けた場合、被害者は相当大きな精神的苦痛を受けているはずです。
以下で手術が必要となった場合の慰謝料について、みていきましょう。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は入通院の期間に応じて払われる慰謝料です。
通院期間よりも入院期間の方が高額になるので、入院手術を受けたら比較的高額になりやすい傾向があります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、事故によって後遺症が残って「後遺障害」として認定された場合に受け取れる慰謝料です。
認定された後遺障害等級が高いほど慰謝料額が上がります。
事故で手術が必要となった場合、さまざまな後遺症が残る可能性があるでしょう。
そういった場合にきちんと後遺障害認定を受けられたら、認定等級に応じた慰謝料を請求できます。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は被害者が死亡してしまったときに遺族が請求できる慰謝料です。
手術を受けても生命を維持できず死亡してしまった場合、遺族が加害者へ死亡慰謝料を請求します。
手術を受けたら慰謝料は増額される?
事故で手術が必要となったからといって慰謝料が増額されるわけではありません。
ただし通院期間より入院期間の方が入通院慰謝料額は高額になるので、その意味では慰謝料が高くなりやすいともいえるでしょう。
また以下のような状況であれば、一般的な相場よりも慰謝料が増額される可能性があります。
- 手術によって著しい苦痛を受けた(痛みが強かった、何度も手術を繰り返したなど)
- 妊婦が中絶手術を受けざるを得なくなった
- 症状固定後に手術を受ける可能性がある(将来治療費が払われない場合には、慰謝料で調整されるケースがあります)
交通事故慰謝料に関する3つの計算基準
弁護士基準が最も高額な計算方法となるんだけれど、弁護士基準で計算するには、弁護士に依頼する必要があるんだよ。
交通事故の慰謝料には、以下の3種類の計算基準があってそれぞれ金額が異なります。
- 自賠責基準…自賠責保険が保険金を計算する際に適用する基準です。
金額的には低額になります。 - 任意保険基準…任意保険会社が各々定めている社内基準です。
会社によって異なりますが、自賠責基準より多少高額になるケースが多数です。 - 弁護士基準…弁護士や裁判所が適用する法的基準です。
金額的にはもっとも高額になります。
慰謝料の計算方法
入通院慰謝料の計算方法
自賠責基準の場合、以下のように算定します。
4,300円×治療期間
ただし実治療日数が少ない場合、治療期間ではなく「実治療日数×2」の数値を適用します。
たとえば30日入院して手術を受け、その後半年通院した場合には治療期間が210日間なので、4,300円×210日=903,000円となります。
ただし実治療日数が90日の場合、4,300円×180日=774,000円に減額されます。
同じケースでも弁護士基準で計算すると入通院慰謝料は149万円程度となり、大幅に増額されます。
手術した場合の後遺障害慰謝料
交通事故で手術を受け後遺障害認定を受けた場合の後遺障害慰謝料は、等級によって異なります。
弁護士基準による相場と自賠責基準をみてみましょう。
等級 |
弁護士基準 |
自賠責基準 |
1級 |
2800万円 |
1100万円(要介護の場合1600万円) |
2級 |
2370万円 |
958万円(要介護の場合1163万円) |
3級 |
1990万円 |
829万円 |
4級 |
1670万円 |
712万円 |
5級 |
1400万円 |
599万円 |
6級 |
1180万円 |
498万円 |
7級 |
1000万円 |
409万円 |
8級 |
830万円 |
324万円 |
9級 |
690万円 |
245万円 |
10級 |
550万円 |
187万円 |
11級 |
420万円 |
135万円 |
12級 |
290万円 |
93万円 |
13級 |
180万円 |
57万円 |
14級 |
110万円 |
32万円 |
任意保険基準の場合、自賠責基準より少し高いくらいの金額になるケースが多数です。
弁護士基準で計算すると他の基準と比べて慰謝料が2~3倍にアップすると考えてください。
手術後に後遺障害が残ったら、弁護士に依頼して弁護士基準で慰謝料請求する必要性が高い状況です。
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料の金額は被害者に扶養されていた人がいたかどうかで異なります。
自賠責基準の場合、本人の慰謝料額は300万円です。
遺族1人なら550万円、2人なら650万円、3人なら750万円となり、被扶養者がいればさらに200万円加算されます。
最高額は1,300万円です。
弁護士基準の場合、一家の支柱であれば2,800万円程度、母親や配偶者なら2,500万円程度、それ以外のケースで2,000~2,500万円程度です。
ただしこれらはあくまで「相場」であり、状況によっては3,000万円を超える可能性もあります。
任意保険基準は弁護士基準より大幅に下がり、上記の相場から1,000万円以上減額されるケースも少なくありません。
交通事故で手術を受けたとき、慰謝料を増額させる方法
弁護士に依頼すれば、より高い後遺障害等級を取得する事ができるし、増額事由に該当する場合にはアドバイスしてもらう事も可能だよ。
交通事故で手術が必要になったとき、慰謝料を増額するには以下のような方法をとりましょう。
弁護士基準を適用する
まずは慰謝料計算の際に弁護士基準を適用することが最重要です。
任意保険基準で計算されたら入通院慰謝料も後遺障害慰謝料も大きく減額されてしまいます。
弁護士基準で慰謝料を計算するには弁護士に示談交渉を依頼するか、訴訟を起こさねばなりません。
自力で訴訟を起こすのは難しいので、まずは弁護士に示談交渉を依頼するのがよいでしょう。
高い等級の後遺障害認定を受ける
手術をするほどのケガをしたら、後遺障害が残るケースも多いでしょう。
その場合、なるべく高い等級の後遺障害認定を受けるべきです。
後遺障害認定を受けられたら後遺障害慰謝料が支払われるので、一気に慰謝料額が増額されます。
ただし後遺障害認定の手続きには専門的な知識や対応を要求されます。
自己判断で行うと後遺障害が認定されにくくなってしまう可能性があるので、弁護士に任せましょう。
慰謝料の増額事由を主張立証する
高額な慰謝料を受け取るには、個別事情による慰謝料の増額事由がある場合、しっかり主張して証明すべきです。
極度の精神的苦痛を受けた場合
たとえば麻酔なしで手術を受けた場合や、何度も手術を繰り返さねばならない場合、生死をさまよった場合などには「極度の精神的苦痛を受けた」として慰謝料を増額してもらえる可能性があります。
こうした個別事情を漏らさず主張し、確実に慰謝料算定の際に考慮してもらいましょう。
流産、中絶した場合
妊婦が交通事故に遭うと流産してしまうケースが少なくありません。
妊婦自身のレントゲン撮影などを行うため、泣く泣く中絶せざるを得ない方もおられます。
流産、中絶してしまった場合、慰謝料を増額できる可能性が高いので必ず資料をもって主張し慰謝料の増額を請求しましょう。
将来手術が必要になる可能性が高い
重傷を負い、一応症状固定したけれども将来再手術が必要になる見込みが高い場合、再手術の費用の代わりに慰謝料を増額してもらえる可能性があります。
医師に診断書を作成してもらうなどして、再手術の必要性を立証しましょう。
弁護士に対応を相談する
弁護士基準を適用するためにも適切な等級の後遺障害認定を受けるためにも個別事情を評価してもらうためにも、弁護士が必要です。
弁護士に後遺障害認定の手続きや示談交渉を任せれば、依頼者自身が保険会社と直接関わる必要はありません。
大船にのった気持ちで高額な賠償金を獲得できる可能性が高くなります。
事故対応は必ず弁護士に相談しましょう。
交通事故で手術が必要になったら、治療費や慰謝料請求で損をしないため交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士へ相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。