ドアパンチされた時にはどのくらいの慰謝料を受け取ることができるの?
今回の記事では、ドアパンチされてしまった時にはどんな賠償金を請求できるのか、ドアパンチされてしまった時の対処法について、詳しく見ていこう。
駐車場などに車を置いているとき、隣の車両から「ドアパンチ」されるケースがあります。
ドアパンチとは、隣の車両のドアがこちらのボディにぶつかって車に傷がついてしまうことです。
ドアパンチで車体を傷つけられたら、相手に慰謝料やその他の賠償金を請求できるのでしょうか?
今回はドアパンチの被害に遭ったときの対処方法をお伝えしますので、ぜひ今後の参考にしてみてください。
目次
ドアパンチとは
「ドアパンチ」とは車のドアが必要以上に大きく開かれて、隣の車にぶつかり傷つけてしまうことです。
駐車場などでは隣の車と近接して停めているケースが少なくありません。
そのようなとき、隣の車に注意せずに勢いよくドアを開けたり、不意に風が吹いてきて煽られてドアが大きく開いたりしたら、隣の車にぶつかってしまいます。
そんなときに車が傷つくのがドアパンチです。
駐車場に車を置いて離れている間に隣の車からドアパンチされて、「当て逃げ」されるケースも少なくありません。
ドアパンチでは慰謝料は発生しない
もしも隣の車からドアパンチで車体を傷つけられたら、相手にどのような請求ができるのでしょうか?
大切な車を傷つけられたら「慰謝料を請求したい」と考える方も多いでしょう。
しかしドアパンチでは基本的に慰謝料は発生しません。
慰謝料は「人が怪我をしたり死亡したりしたとき」に発生するものだからです。
慰謝料とは「相手から不法行為をされたときに受けた精神的苦痛」に対する賠償金です。
法律上、車を傷つけられただけでは、慰謝料が発生するほどの精神的苦痛は受けないと理解されています。
そこでドアパンチされても慰謝料は請求できません。
ドアパンチで慰謝料を請求できるケースは?
ドアパンチされたとき、慰謝料請求できるケースは一切ないのでしょうか?
ドアを開いたときに発生する交通事故であっても以下のような場合であれば、慰謝料が発生する可能性があります。
前方車両のドアが開いて後方からきた車両が衝突
前方に自動車、後方から単車や自転車があって同一方向へ向かって走行しているとき、前方車両がいきなりドアを開いたら、後方車両が前方車両のドアにぶつかってしまう可能性があります。
後方の単車や自転車が前方車両の開いたドアに当たって転倒したら、ライダーは怪我をしてしまうでしょう。
このように前方車両がいきなりドアを開いたためにバイクや自転車などの後方車両が衝突した場合、前方の四輪車には「後方に注意しなかった」過失が認められます。
後方のライダーが怪我をしたら人身事故になるので、前方車両のドライバーへ慰謝料を請求できます。
慰謝料の種類
後方車両のライダーが前方車両のドアにぶつかった場合に発生する慰謝料は以下の3種類です。
- 入通院慰謝料
怪我によってライダーが受ける精神的苦痛に対する慰謝料です。
金額はライダーが入通院した日数に応じて計算され、治療期間が長くなればなるほど慰謝料額が上がります。 - 後遺障害慰謝料
前方車両のドアにぶつかってライダーが転倒し、後遺障害が残った場合に請求できる慰謝料です。
後遺障害の内容や程度により金額が異なり重度障害の場合、3000万円近い慰謝料を請求できる可能性もあります。 - 死亡慰謝料
不運にも後方から来たライダーが死亡してしまったら死亡慰謝料が発生します。
本人は請求できないので、相続人となった遺族が加害者へ死亡慰謝料を請求します。
ドアパンチされたときの対処方法
加害者がいる場合には、連絡先の交換、加害者がその場におらず、当て逃げされてしまった場合には、周囲に防犯カメラがあるかどうか、チェックしてみよう。
停車中に隣の車からドアパンチされたら、どのように対応すればよいのでしょうか?
対応の手順を示します。
警察に連絡する
まずは警察へ連絡しましょう。
ドアパンチは「物損事故」で交通事故の一種ですから、道路交通法により警察へ届け出なければなりません。
加害者が報告しないなら、被害者の立場であっても自主的に報告しましょう。
警察に報告しないと事故証明書が発行されず、保険金の請求などしにくくなる可能性があるので、面倒で急いでいても必ず110番通報してください。
加害者がいる場合の対応
ドアパンチされたときの状況として、加害者が「その場にいる場合」と「いない場合」があります。
状況によって対処方法が異なるので、分けてご説明します。
加害者がいる場合には、連絡先を交換しましょう。
相手が任意保険に入っていない場合や保険を適用しない場合、加害者へ賠償金を直接請求しなければならないからです。
相手がどこの誰かわからなければ自分の加入している保険会社にも報告しにくいので、氏名や住所電話番号など連絡先を聞いておきましょう。
相手の車のナンバーや特徴も控えておくようお勧めします。
加害者がいない場合
駐車場などに停めていると、車を離れている間に誰かにドアパンチされていて、車のある場所に戻ってきたらもはや加害者はその場にいないケースもよくあります。
その場合、警察に連絡した後に加害者を特定しなければ賠償金を請求できません。
駐車場であれば監視カメラが設置してあることも多いので、探してみましょう。
カメラがあれば管理会社などに連絡して状況を伝え、映像を確認させてもらうとよいでしょう。
また「当て逃げ」は道路交通法違反の犯罪となるので、警察に捜査してもらえます。
警察に報告すると、捜査に必要な範囲で警察が管理会社のカメラを確認してくれるでしょう。
任意保険会社へ連絡
ドアパンチによって車が破損したとき、自分が加入している任意保険の「車両保険」を利用して修理する方法があります。
加害者が逃げてしまってしばらくは見つかりそうもない場合、加害者が保険に入っておらず賠償金をスムーズに支払ってもらえない場合などには車両保険を利用する方法も検討の余地があります。
ただし車両保険には「免責額」があり5~10万円までは自己負担となるケースが多数です。
車両保険を適用すると保険等級が下がって翌年度からの保険料が上がってしまうケースも少なくありません。
修理費用が低額な場合、車両保険を使うと損をしてしまう可能性があるので、適用するかどうかは慎重に判断しましょう。
保険会社に相談すれば、車両保険を使った方が得になるかどうか試算してもらえます。
ドアパンチの加害者の刑事責任は?
ドアパンチした相手には刑事責任が発生するのでしょうか?
物損事故の場合、加害者が事故現場にとどまって警察を呼び適切な対応をすれば、刑事責任は発生しません。
ドアパンチされても加害者が逃げずに警察へ報告をしたら、刑事事件になりません。
しかし物損事故でも「当て逃げ」は道路交通法違反です。
警察への報告義務違反として「1年以下の懲役または10万円以下の罰金刑」が適用されます。
また運転免許証の点数も加算されます。
駐車場に停車している間にドアパンチされて逃げられたら、警察に捜査を進めてもらいましょう。
ドアパンチ被害で受け取れる賠償金
損傷が大きく、車を買い替えなければならなくなった場合には、買い替えのための諸費用も請求することができるんだ。
ドアパンチで受け取れる賠償金について、詳しく見てみよう。
ドアパンチされたとき、慰謝料は基本的に請求できませんが「物的損害」については賠償請求できます。
具体的に何を請求できるのか、賠償金の種類をみていきましょう。
修理費用
相手のドアが当たって自車が傷ついたら、修理費用がかかるでしょう。
修理費用は相手の不法行為によって発生した損害といえるので、請求できます。
通常の国産車の場合、ドアパンチにかかる修理費用の目安は5万円から10万円程度です。
ただし高級車で特殊なコーティングを施しているケースなどでは数十万円などの高額になる可能性もあります。
まずは修理工場などに見積もり依頼を出しましょう。
車の価値が低い場合、修理代が高い場合
登録年数が古い車や走行距離が相当長くなっていて傷みの激しい車などの場合、車の時価がほとんど0円になる可能性があります。
車の時価よりも修理費用が高くなる場合、相手からは修理費用を全額払ってもらえません。
支払われる金額は「車の時価額」が限度となります。
たとえば時価が3万円の車で修理費用が10万円かかるとしても、支払われるのは3万円までです。
買い替え費用や諸費用
ドアパンチによる損傷が大きく車を買い換える必要がある場合には、買い替え費用や買い替えにかかる諸費用を払ってもらえます。
ただし新車を購入するための全額が払われるわけではありません。
支払われる限度額は、車の時価額までです。
買い替え諸費用として請求できるのは以下のような費用です。
- 登録手数料
- ディーラーの代行手数料
- 車庫証明の費用
- ナンバープレート代
- リサイクル関連費用
- 車検整備費用
- 消費税
- 自動車取得税
- 自動車重量税の未経過部分
- 廃車手数料
代車費用
車を修理に出している間や買い換える車を探している間、車を使えない状況になります。
その場合、必要に応じて代車費用を請求できます。
代車費用は基本的に同程度のクラスのレンタカー代が基準となり、使った日数分の費用が支払われます。
公共交通機関を利用した場合には実費、タクシーを使う必要性が認められる場合にはタクシー代も払ってもらえます。
評価損
傷ついた車が比較的新しい高級外車などで、ドアパンチによって価値が低下してしまったら「評価損」を請求できる可能性があります。
評価損とは、交通事故によって車の価値が低下してしまう損害です。
たとえば特殊コーティングしているポルシェなどの場合、ドアパンチで傷ついたことによって大幅に価値が下がり、修理しても完全にはもとに戻らないケースも考えられるでしょう。
そんなときには修理費用の3割程度を評価損害として払ってもらえる可能性があります。
ただしドアパンチされたときに評価損を必ず請求できるわけではありません。
払ってもらいやすいのは登録年数が3年以内など比較的新しい高級外車などのケースです。
どちらにしても、被害者が自分で保険会社と交渉しても支払いに応じてもらえない可能性が高くなるため、弁護士に交渉や訴訟を依頼する方がよいでしょう。
まとめ
加害者ともめてしまうような場合には、弁護士に相談するのがおすすめだよ。
ドアパンチされると加害者が不明なケースも多いですし、相手の保険会社から提示された賠償金額に納得できない方も少なくありません。
1人で対応するのに限界を感じたら、交通事故に熱心に取り組んでいる弁護士に対応を相談してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。