交通事故で使われる、和解や調停ってどんな意味なの?
調停とは、裁判所を仲介にして話し合いをすることを呼ぶんだ。
今回の記事では、交通事故でよく使われる専門用語について、解説していくよ。
目次
和解と調停の違いとは
和解や調停について、何となく意味は分かるけれど、よく分からないという方も多いと思います。
ここでは、少し掘り下げて説明をしてみます。
和解について
まず、和解とはどのようなことでしょうか。
和解は、民法695条に定められていて、条文は、次のとおりです。
(和解)
第六百九十五条
和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。
和解の要件としては、
- 紛争の存在
- 互譲(お互いに譲歩をすること)
- 紛争を終了させる合意といったこと
が挙げられます。
要は、紛争について、お互いに譲るところは譲って、一定の条件で解決をしようという合意のことを和解と呼んでいます。
一度、和解が成立すると、原則としてその内容を覆すことはできません(和解の確定効といいます。)。
この内容からすると、交通事故に関する示談(裁判等によらず、話し合いでの解決)も和解の一種ということができます。
では、和解は、示談以外の使われ方もするのでしょうか。
弁護士が口にする和解は、裁判上の和解のことを指すことが多いと思われます。
裁判上の和解は、和解の効力として民事訴訟法267条に定められています。
条文は、次のとおりです。
(和解調書等の効力)
第二百六十七条
和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。
裁判上の和解は、裁判を終了させる事由の一つとして定められていて、交通事故に関する損害賠償請求訴訟において、原告と被告が和解をした場合、裁判は和解の成立をもって終了します。
裁判上の和解も、民法で定められている和解と同様のことを裁判上行うと理解してもらえれば良いかと思います。
調停について
次に、調停とはどのようなことでしょうか。
辞書などには、対立している両者の間に入り、仲直りさせるといった意味合いで記載されています。
日常用語でいう調停は、紛争の当事者の間に第三者が入って仲裁するといった意味合いになるでしょう。
それに対し、弁護士が口にする調停は、裁判所で行われる民事調停のことを指すことが多いと思われます。
民事調停は、調停を申し立てた側を申立人、申し立てられた側を相手方、裁判所を仲介役として話し合いをすると考えていただければよいと思います。
交通事故を例にとっていえば、被害者で損害を被ったと主張している側が調停を申し立て、加害者が相手方になり、被害者の損害賠償額について、裁判所を間に入れて、話し合っているという方がイメージがつきやすいかもしれません。
民事調停においては、裁判官及び2人の調停委員が間に入って、申立人と相手方との間の調整をします。
民事調停が成立すれば調停成立、成立しなければ調停不成立となります。
しかしながら、実は、交通事故の損害賠償に関していえば、民事調停はそれほど多く活用されているわけではありません。
弁護士が代理人として就いて、話し合いができない場合には、紛争処理センターへの申立て、又は、裁判(訴訟)をすることが多いからです。
ただ、加害者から交通事故に関する紛争を終わらせようとするために、話し合いの手段として、民事調停(債務不存在確認調停といいます。)が利用されることはあります。
交通事故における和解率
交通事故における和解率は高い
裁判所では、毎年、「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」を公表しています。
第10回の報告書(令和5年7月28日公表)によると、令和4年に終結した交通事故に係る裁判の和解率(ここでいう和解は、裁判上の和解のことです。)は、65.3%となっています。
話し合いでまとまらず、裁判になった事案において、和解率が65.3%であることからすると、交通事故事案の全体の和解率(ここでいう和解は、裁判上の和解と示談などの協議での和解を含みます。)はより高いものと思われます。
交通事故の事案は、過失割合を始めとして、多くの事案や裁判例が積み重なっており、裁判所の判断を予想しやすいという点や損害保険会社が裁判所の和解案に従うことが多いといったことが、交通事故における和解率が高いことの背景にあると考えられます。
和解のメリット
一般的にいわれる和解のメリットは、
- 早期に解決することができる
- 自身にかかる費用を抑えることができる
- 敗訴のリスクを軽減できる
- 当事者同士が認めたことなので加害者から任意の支払を期待できる
といったことを挙げることができると思います。
紛争を継続していくというのは、心理的にも負担のかかることなので、紛争から解放されるというメリットは、金銭には代えがたい大きなメリットであると考えられます。
交通事故で使われる用語
保険会社の示談書が元になって広がった言葉なんだ。
その他にもよく使われる交通事故の専門用語として、慰謝料や休業損害、後遺障害認定、逸失利益や過失割合、過失相殺、赤本青本、症状固定という言葉についても簡単に解説するね。
交通事故では、日常用語と異なる用語が使われることがあります。
そのうちの代表的なものを説明したいと思います。
示談
上記の和解のところでも記載しましたが、示談も和解の一種です。
交通事故に関する損害賠償の紛争を協議で解決する際に使われる言葉です。
損害保険会社が解決の際に、示談書という書面を使用するので、広まったものと思われます。
交通事故では、示談というと、協議での解決を意味することが多いです。
示談も和解の一種ですので、一度、示談をすると、原則として、その内容を覆すことができなくなります。
慰謝料
慰謝料は、精神的苦痛に対する損害賠償のことを指します。
ですので、慰謝料は、損害賠償の一部を構成するということになります。
交通事故でいうと、交通事故によって傷害を負った被害者が入院や通院の期間に応じてもらうことができる慰謝料を入通院慰謝料と呼びます。
また、後遺障害が残存した場合の後遺障害に対する慰謝料を後遺障害慰謝料と呼んでいます。
後遺障害慰謝料は、赤い本にその目安が記載されています。
休業損害
休業損害は、その言葉のとおり、交通事故によって休業せざるを得なくなったことに関する損害です。
交通事故による傷害によって、勤務先を休み、給与が減額された場合などが典型例です。
実務的には、交通事故発生前の3か月の給与を参考にして、1日分の休業損害の金額を算出し、実際の休業日数に乗じて算出することが多いです。
休業損害は、給与所得者に認められることはもちろん、自営業者や専業主婦(専業主夫)にも認められます。
参照:自営業をしている人が事故に遭ったら、休業補償・休業損害はもらえるの?
参照:専業主婦・専業主夫でも休業損害がもらえる? 家事ができない分の慰謝料がもらえる?
後遺障害認定
交通事故でいう後遺障害は、交通事故で負った障害のうち、治療をしても残存してしまった症状のことを指します。
日常用語では、後々出てくる症状のことも後遺障害と呼ぶことがあるかと思いますが、交通事故における後遺障害は、後々出てくる症状のことは指しません。
実務的には、保険会社を通じて損害保険料率算出機構に後遺障害の認定のための資料を送り、損害保険料率算出機構において損害調査をしたうえで、後遺障害の等級認定がなされるという流れとなります。
後遺障害の等級は、1級から14級まであり、数字が小さい方が後遺障害として重いものとなります。
後遺障害の等級が認められない場合には、非該当となります。
後遺障害の等級が認定されると、損害の項目として、後遺障害慰謝料及び逸失利益(次項目で解説)が増えるため、損害賠償額が大幅に増えることとなります。
参照:後遺障害認定を受けた場合の慰謝料と症状による獲得の条件
逸失利益
逸失利益は、被害者に後遺障害が残存し、等級が認定された場合や死亡した場合などに認められる損害項目です。
イメージとしては、後遺障害や死亡することがなかったとすれば、被害者が稼ぐことができた給与等の金額を計算するということになります。
もう少し具体的にいうと、次の計算式で算出されます。
基礎収入(※1)×労働能力喪失率(※2)×労働能力喪失期間(※3)
※1:交通事故の前年の年収を基礎収入とすることが多いです。
※2:後遺障害の等級ごとに労働能力喪失率の目安(赤い本に記載があります。)があります。なお、死亡の場合には、100%の労働能力の喪失となりますが、生活費もかからなくなりますので、生活費控除率という数字も乗じることとなります。
※3:労働能力喪失期間は、症状固定時期の年齢から67歳になるまでの期間に対応するライプニッツ係数を使用します。なお、症状固定時点で既に67歳を超えている場合には、平均余命の半分の期間に対応するライプニッツ係数を使用します。
過失割合
交通事故でいう過失割合は、当該交通事故を発生させた責任の割合を指します。
例えば、追突事故が発生した場合の過失割合は、追突した車両の運転者100%に対し、追突された車両の運転者0%となります。
この場合、追突した車両の運転者は、追突された車両の運転者の損害を100%賠償しなければなりません。
それに対し、追突された車両の運転者は、追突した車両の運転者に損害が生じていようとも、その損害を賠償する責任はありません。
このように過失割合を定めることによって、交通事故の当事者に生じた損害をどのように振り分けるかが決まるわけです。
赤い本に交通事故の類型ごとの過失割合の目安や修正要素等が記載されています。
過失相殺
交通事故でいう過失相殺は過失割合と似たような場面で使うこともあります。
ただ、厳密にいうと、少し異なります。
例えば、本来、被害者30%、加害者70%の過失割合における事故で、被害者が損害100%を加害者に請求してきた場合、加害者は被害者にも30%の過失があるので、100%の損害賠償はおかしい、70%の損害にすべきだと主張するでしょう。
ここでいう、加害者が、損害賠償の減額のためにする主張を過失相殺の主張といいます。
参照:過失相殺とは
赤い本、青本
交通事故の過失割合や考え方などが記載されている参考となる本として、赤い本、青本があります。
赤い本は、日弁連交通事故センター東京支部が発行しており、青本は日弁連交通事故相談センター本部が発行しているものです。
詳細は次の記事を確認してください。
症状固定
交通事故でいう症状固定は、現在の医学水準では、これ以上治療しても劇的な治療効果をあげることができない状態、症状が一進一退の状態などといわれます。
多くの場合は、後遺障害診断書に記載された時期、つまり、主治医の判断した症状固定時期が症状固定時期になります。
ただ、実務的には、症状固定時期が争われることもあります。
症状固定は、交通事故において非常に重要な概念で、症状固定時期以降は、治療費、休業損害といった損害は原則として認められません。
また、症状固定となった時期の症状を基に後遺障害の等級認定をするということになります。
参照:症状固定とは?できるだけ損をせず、慰謝料をもらえる方法を解説
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。