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交通事故により鞭打ちになってしまった場合の慰謝料はどの位?
交通事故は、例え軽い接触事故、追突事故であった場合でも、ドライバーや同乗者は鞭打ちを起こしてしまう場合が多くなります。
特に、衝撃へ身構えられない後ろからの衝突事故は、頭部を大きく振られ、首に負担をかけて損傷してしまいやすいのです。
鞭打ちは、正式には頚椎捻挫や外傷性頸部症候群などと言われます。
交通事故でむち打ちになった場合、加害者側に対して慰謝料を請求できます。
鞭打ちを交通事故で患ってしまった場合、それにより発生する慰謝料の金額は自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準とある3つの基準で大きな差があります。
3つのうち、最も慰謝料が発生する金額が少ないとされるのは自賠責基準による慰謝料です。
- 自賠責基準の場合
慰謝料計算式としては、「実通院日数×2」あるいは「治療期間」を比較し、どちらか少ない方に対して4,200円をかけて算出します。
例えば、治療期間が120日で実通院日数が50日(50×2=100)の場合ですと、少ない方である実通院日数に4,200円をかけ、慰謝料は420,000円となります。
むち打ちの治療期間の多くは3ヶ月から6ヶ月程度です。どれだけ通院するのか、治療期間が長引くのかにより金額に差は出るものの、仮に治療が早めに終わる90日の治療期間で計算されたとしても、378,000円の慰謝料が発生します。
次に、任意保険基準での慰謝料についてです。
- 任意保険の場合
自賠責保険に比べてやや高めの慰謝料が発生する事があります。
どれほどの慰謝料になるのかは、鞭打ちの程度、加入している保険などによって違いが現れるものの、大まかに言えば入院した期間と通院した期間によって算出されます。
保険会社によって慰謝料額にはばらつきが見られるものの、平成10年まではそれぞれの保険会社で使われていた旧任意保険支払い基準では、入院1ヶ月に対し、252,000円、通院1ヶ月に対して126,000円と計算されていました。
なので、3ヶ月という早めに鞭打ちの治療が終了したと仮定すると、通院慰謝料は378,000円となり、あとは事故直後に入院したかどうかも慰謝料額に影響してきます。
最後に、3つある基準の中でも、最も高い慰謝料が発生しやすいのが弁護士基準です。
- 弁護士基準の場合
弁護士基準における慰謝料の計算は、14段階に分けられている後遺障害の等級に応じ、一定の金額が定められています。等級 14級 13級 12級 11級 10級 9級 8級 7級 6級 5級 4級 3級 2級 1級 慰謝料 110万円 180万円 290万円 420万円 550万円 690万円 830万円 1000万円 1180万円 1400万円 1670万円 1990万円 2370万円 2800万円 また、後遺障害における慰謝料の弁護士基準は、被害者本人の慰謝料にすぎず、実際のところ重度の後遺障害が残った場合、被害者の家族に対しても固有の慰謝料が認められるケースがあります。
自分だけではなく、家族の慰謝料のみであっても多額の慰謝料となりますので、後遺障害が残るような交通事故の事例に関しては、弁護士に依頼するのが望ましいでしょう。
精神的苦痛を味わった事による慰謝料の金額
交通事故の被害者になった事で請求できる損害賠償金の中でも、特に多くの割合を占めているのが慰謝料です。
この慰謝料というのが肉体的や精神的な苦痛に対する補償金を指しており、積極損害や消極損害などの財産的損害とは違い、精神的損害と言われます。
交通事故による鞭打ちで請求できる精神的損害の慰謝料は「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」に分けられます。
このうち、必ず支払いを受けられるのが入通院慰謝料で、さらに後遺障害に認定される事ができれば、後遺障害慰謝料を受けられるようになります。
精神的苦痛の慰謝料のうち入通院慰謝料は、交通事故を原因として通院や入院を強いられた際の、肉体的や精神的な苦痛に対する慰謝料です。
鞭打ちの場合、脊髄や脳髄液を損傷するような大怪我でなければ入院するケースはそれほど多くありませんので、基本は通院や治療に対する慰謝料がメインとなるでしょう。
また、後遺障害慰謝料も精神的苦痛を味わった事に事に対する慰謝料としてもらえるものです。
交通事故が原因で後遺障害が残り、肉体的な精神的な苦痛に対して支払われる事になります。
後遺障害慰謝料は、14段階に分けられている後遺障害の等級に応じて金額が決定し支払いされます。
これら精神的苦痛に対する慰謝料は、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準の3つのうちどれかの基準を採用し、具体的に金額が決定します。
後遺障害の等級によって異なる慰謝料の金額とは
後遺障害は全部で14段階の等級に分けられており、等級に応じて慰謝料の金額が異なります。
また、等級に加え、慰謝料を算出する基準によっても金額に大きな差が生まれてきますので、前もって確認しておく事が大切です。
まず、介護を必要とする後遺障害に適応された場合、自賠法施行令にて、改正がない限り、過去の例を参考にすると
- 第1級が1,600万円
- 第2級が1,163万円と慰謝料額が決まっています。
それ以外の後遺障害に適応された場合は、
等級 | 14級 | 13級 | 12級 | 11級 | 10級 | 9級 | 8級 | 7級 | 6級 | 5級 | 4級 | 3級 | 2級 | 1級 |
慰謝料 | 32万円 | 57万円 | 93万円 | 135万円 | 187万円 | 245万円 | 324万円 | 409万円 | 498万円 | 599万円 | 712万円 | 829万円 | 958万円 | 1100万円 |
となります。
これらの金額に加えてその他の保険金も合わさるため、実際には2倍ほどの金額を受け取る事が判例を見ると多くなっています。
また、介護必要とする後遺障害や第1級から第3級に該当し、なおかつ被扶養者がいる場合、一定の慰謝料額が増額されたり、初期費用として250万円以上増額されたりしたケースがあります。
任意保険基準ですと、自賠責保険では足りない損害賠償が、加害者に変わって支払われます。
任意保険会社の支払い基準は、法的に認められる賠償額の全てを保険会社が補填すべきですが、実際に提案してくる金額は、保険会社独自の支払い基準である事がほとんどで、実際に保険会社と示談したケースでは弁護士基準よりも低い金額を伝えてくる事が目立っています。
交通事故の被害の中でも、後遺障害が認定されるほどの怪我を負ってしまった場合ですと、通常は後遺障害慰謝料は高額になりやすいです。
慰謝料の額が高くなればなるほど、算定基準の違いがもたらす金額の差は自然と大きくなってしまいます。
そのため、保険会社が提案してくる金額を鵜呑みにしたり、納得いかない金額のまま示談交渉を受けたりすると、重たい後遺障害を負った上に、被害者が納得できるような賠償を受けられない可能性があるのです。
被害者が少しでも納得し、後遺障害に少しでも見合うような賠償金を受け取るためには、弁護士基準で後遺障害の慰謝料を算出してもらうのが良いでしょう。
弁護士基準の場合、これまで積み上げられてきた裁判例を目安に賠償額を算出してくれますし、その差は自賠責保険基準と比較した場合、あるいは任意保険基準と比べた場合であっても、大きな差がみられます。
後遺障害等級認定を受けるには
後遺障害等級認定を受けるためには、まず、事故で負った鞭打ち等の怪我を治療、あるいはリハビリしていきます。
治療や検査を継続的に行っていく事が必要で、最終的にかかりつけの医師から症状固定としての診断を受ける事が欠かせません。
症状固定の診断を受ける事が、後遺障害等級認定の手続きを始めるスタート地点とも言えます。
後遺障害等級認定は、「被害者請求」と「事前認定」と言われる二通りの申請手続きの方法があります。
被害者請求は、被害者が自ら後遺障害等級認定の申請手続きを行う事で、事前認定は加害者の保険会社に申請手続きをしてもらう方法です。
事前認定で手続きを進める場合、医師から受け取った後遺障害診断書を、任意保険会社に提出することで、そのほか手続きに必要となる資料などについては、保険会社が集めるように対応してくれます。
対して、被害者請求の場合は自ら手続きを進めるよう準備しなければなりません。
どういった後遺障害なのか、内容が書かれた後遺障害診断書を医師に作成してもらい、そのほかレントゲンなどの画像検査の結果などを用意します。
それ以外にも多くの書類が必要で、
- 「自賠責保険金請求書」
- 「交通事故証明書」
- 「事故発生状況報告書」
- 「診療報酬明細書」
- 「通院交通費明細書」
- 「休業損害証明書」
- 「印鑑証明書」
なども求められる場合があります。
これらのような必要書類が求められることが多いのですが、書類が不足すると、保険金の支払いが滞る可能性があります。
万が一にも書類が漏れてしまうことがないよう、弁護士などに相談し、確認してもらう方が安心でしょう。
鞭打ちとその他の症状との慰謝料の違いとは
交通事故に遭った時、患う怪我として多いのは「鞭打ち」と言われますが、事故の状況によりますので、当然ですが全ての被害者が鞭打ちになるとは限りません。
例えば、交通事故で手首や足首、鎖骨などを骨折してしまう例も少なくありません。
鞭打ちと比べると、日常生活や仕事を困難とさせるため、重症といっても不自然ではない被害です。
骨折の慰謝料は、後遺障害の等級や治療期間によって決定されますが、重傷である骨折であった場合、高額の後遺症慰謝料になる事も珍しくありません。
骨折となると、まともに仕事が出来ない可能性がありますので、休業損害などの請求も積み重なっていくでしょう。
ちなみに、骨折における後遺症とは、例えば骨が短縮したり変形したりするほか、上手く骨が結合されない偽関節化という状態があげられます。
これらは、レントゲンやCTなどの画像検査で明らかに後遺症が確認されますので、第三者機関との後遺障害認定において、長引いたり問題が挙げられたりする事は少ないでしょう。
ただ、リハビリが不十分で可動域制限が起こったりする場合には、特級認定を十分に受けられない可能性があるため注意が必要です。
鞭打ちの場合の慰謝料算出方法
鞭打ちの慰謝料は入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の二種類が、大きく分けると受け取れる賠償金です。
入通院慰謝料は、交通事故による怪我が原因で治療や通院をした慰謝料のことで、病院や整骨院で治療を継続的に行った時、治療費とは別に支払われる賠償金の事を言います。
そして、後遺障害慰謝料も鞭打ちでもらえるケースはあるものの、鞭打ちを起こしたからといって必ずもらえるとは限らず、症状が残り、後遺障害として正式に認定されるほどでなければ、鞭打ちで受け取れるとは限りません。
鞭打ちの慰謝料算出方法としては、上記でも説明しましたが、、自賠責基準と任意保険基準、そして弁護士基準の三通りの中から一つ採用し、慰謝料が計算されます。
自賠責基準は、自賠責保険から支払われる計算方法で、交通事故被害に対する裁定の賠償金が保証されます。
自賠責基準ですと、「治療期間」と「実治療日数×2」の数字を比較し、低い方と4,200円をかけて計算されます。
続いて任意保険基準は、自賠責保険に加えて加入する自動車保険が定めている基準です。
それぞれの任意保険会社によって基準が決められており、今ではその基準は非公開なため、保険会社により慰謝料の算出額にばらつきがあります。
ただ、一つの目安としては自賠責基準より高く、弁護士基準に比べて安い金額となります。
おおよその計算としては、1ヶ月の通院に対して12万3千円と言われており、1月ごとにこの金額が増えていく計算です。
最後に弁護士基準は、別名で裁裁判所基準と言われる基準です。
お願いする弁護士が代理で示談交渉を行ったり、裁判所で採用される基準であったりします。
話し合いによって示談交渉が成立しない場合には、裁判基準により、慰謝料が算出されます。
弁護士基準ですと、おおよそ通院期間1ヶ月に対して16万円から29万円の慰謝料となっており、1ヶ月ごとにこの金額が増えていきます。弁護士基準の慰謝料額には幅がありますが、これは怪我といっても軽傷や重傷の差があり、それぞれのケースにおいて適当な金額を採用するためにあります。
しかしいずれにしましても、任意保険と比べた時よりも、高く慰謝料が算出されるのです。
その他の症状による慰謝料算出方法
慰謝料の算出は、症状により金額が異なってきます。
例えば、自覚症状があるのか、あるいは他覚症状があるのかどうかという点です。
自覚症状は、被害者自身が感じられている症状を指しており、首が痛かったり、痺れたりするような症状などがあります。
対して他覚症状とは、例としてはレントゲンで異常が写りこんでいるような、誰の目で見ても明らかな異常がある場合、他覚症状と言われます。
仮に自分自身しか感じ取れない自覚症状のみ、そして軽傷のケースになりますと、入通院慰謝料の額面が3分の2程度に引き下げられるケースがあるのです。
あくまで自覚症状に加えて軽傷のケースとなりますが、被害者がそれを理由に慰謝料を引き下げられる事を望まないのであれば、弁護士に相談して、より一般的な水準に近づくよう、慰謝料請求できるように対応される事をおすすめします。
慰謝料の増額を希望する場合には
交通事故で鞭打ちを患った時、少しでも慰謝料を増額したいのであれば、その手段の一つとしては後遺障害の申請を行うことです。
交通事故にて後遺障害が残ってしまった場合、内容や症状の具合により、後遺障害慰謝料を請求できるようになります。
鞭打ちの場合、認定を受けることが可能な後遺障害の等級については、「14級9号」や「12級13号」があげられます。
「14級9号」は、神経症状が局部に残っているもので、例えばレントゲンなどの画像検査で医学的な症状の証明を行えなくとも、被害者の症状が医学的に推測できるものについては、これに該当する可能性があります。
そして「12級13号」は、頑固な神経症状が局部に残っているもので、画像診断のほか、神経学における検査にて医学的に神経症状が出ていると証明できる場合のものです。
むち打ちを患った時、これらの後遺障害認定を受けることにより、通常よりも慰謝料の増額を図れます。
また、鞭打ちで後遺障害の等級認定を受けるには、交通事故に遭った時から継続的に病院へ通院していること、事故に遭った時からの症状の訴えに一貫性や連続性があること、そして重篤かつ常時性があることなどが申請のポイントとなります。
なにより、事故の当初から病院に行き、継続的に受診することがとても大切です。
整骨院や接骨院に通院して施術を受けることも重要ではありますが、定期的に整形外科を受診し、精密な検査を受けることも欠かせません。
単に整骨院などで施術をうけるだけでは、画像診断をしてもらう事はできないため、整形外科や総合病院へ行くことが大切なのです。
後遺障害等級認定の手続きにおける重要な要素として、画像診断があげられます。
ただ、画像診断では他覚所見が認められないことがあるので、その時は神経学的な検査を受け、他覚的な症状を証明できる場合があるため、必要に応じて神経学的な検査も検討しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。