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交通事故の過失割合認定基準とは
交通事故が起きた時、事故の結果に対する責任が加害者と被害者の間で発生します。
この事を過失割合といい、多くの場合には一方的にどちらかの責任にならず、被害者に対しても少なからず過失が認められる事になるでしょう。
一般的に、加害者と被害者の過失割合は「9:1」「8:2」「7:3」などとなる事が多いです。
この過失割合を決める事において、過失割合の認定基準が参考にされます。
この基準が公開されるまでは、同じような事故でも裁判官によって過失割合が違うなど、不公平感が漂う事例もありましたが、基準が公開されている今は、そのようなケースはほとんどなくなっているため、ぜひご自身のケースでも参考にしてください。
交通事故における損害賠償の請求の際には、過失相殺が問題として取り上げられやすいです。
過失相殺は、当事者間で、加害者だけではなく被害者の過失も斟酌し、公平に損害賠償の金額を決定する制度のことです。
この時、当事者双方の過失がどれくらいあるのかという事を過失割合といい、この割合により損害賠償の負担額が変動するため注意が必要となります。
例えば被害者に2割の過失があり、損害賠償額が1,000万円だとすると、そのうち、200万円は被害者が負担するため、加害者に対して請求できる賠償金額は2割を除く800万円になります。
車両保険に加入している状態で、自分の車が破損している場合には、過失割合により、過失相殺できない部分の負担分を、車両保険にて補う事になります。
このような過失相殺のため、過失割合がどうなるのかは非常に経済的にも重要な事です。
そこで参考にされるのが過失割合の認定基準です。
これまで多くの裁判例が蓄積されてきた認定基準がありますから、その情報を基本とし、過失割合が決められる事になります。
実務上の基準とされているのは、2016年時点では「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版」、別冊判例タイムズ第38号となっているため、この情報から一定の過失割合が判断されることになるでしょう。
交通事故の過失割合で損をしないために
交通事故が発生し、加害者側との交渉が進んでいくと、保険会社から過失割合に関する連絡があります。
ほとんどの場合、任意保険に加入していることと思いますが、自賠責保険会社でカバーできない金額の部分を、任意保険会社が負担する事になります。
任意保険会社から、過失割合を提案してくる事になるのですが、その時、そのまま保険会社の交渉内容を鵜呑みにしてしまっては、過失割合において損をしてしまう恐れがありますから、注意が必要です。
そもそも、加害者側の保険会社が提示してきた過失割合は適正かどうかその場では判断できませんし、具体的な説明を受けなければ納得できないところもあるでしょう。
実際に本来の適正な過失割合よりも、自信に過失が多めに乗っかっている可能性も考えられるため、冷静で客観的な判断をしなければいけません。
過失割合は、事故の実際のケースによって大きく異なるため、素人が簡単に判断できるものではありません。
損をしないためにはやはり、弁護士に依頼して適正な数字を教えてもらう事をおすすめします。
過失割合は誰が決めるの?
交通事故の過失割合は、警察が決めているように思ってしまう人は多いかもしれませんが、実際には当事者の保険会社がそれぞれ協議して決めるのが一般的です。
事故が発生した時、まずは警察官が現場を確認し、当事者との状況確認が行われます。
それらの情報をもとに、事故の記録を残していきます。
警察が対応するのは主にそういった記録を残す部分で、過失割合については民事上の部分にあたる事から、警察が介入する事ではないのです。
民事不介入という決まりが警察にはあるために、過失割合には関わりません。
交通事故による過失割合は保険会社が決定するものの、保険会社で担当している人においても、その割合の決め方は、警察の過去の交通事故による判例などと照らし合わせ、事務的に決められている事が多いようです。
そのために、よくある事故判例に当てはめて割合への参考にされますが、責任の割合はばらつきがみられます。
必ずしも、正確に調べ、最も正当な過失割合として決められているとは限らない事を理解しなければなりません。
よって、保険会社から過失割合を提示されたとしても、それはあくまで保険会社にとって都合が良い割合と疑いをかけておく方が良いでしょう。
過失割合の減算、加算となる場合とは
過失割合は様々な要素で減算や加算がされます。
例えば、道路交通法における優先権の有無により、割合が異なる事があります。
道路交通法に違反した者は過失割合が加算されやすいです。
例として、青信号と赤信号でそれぞれ直進車の事故では、赤信号で直進して事故を起こした車の方が過失が大きくなりますし、直進車と右折車では、右折車の方が過失が大きくなります。
他にも、信号の無い交差点だった場合、一時停止表示のある道を走っている車の方が過失割合は大きくなる傾向にあるのです。
言い換えるならば、交通事故の記録にて青信号で走行していたり、一時停止表示の無い道を走っていたりする事実が明らかになれば、過失割合が減算される可能性があります。
また、過失相殺にはいくつかの修正要素があり、その要素により割合に変動がみられる場合があります。
例えば夜間ですと、車両からは歩行者を発見しづらいのに対して、歩行者側から車両はライトによって確認しやすいです。
そのため、歩行者の過失に加算される可能性があるのです。
他にも横断禁止場所での事故では、車の過失が減算される場合があります。
また、歩行者は特別な事情がないのに急に立ち止まったり後退したり、あるいはふらついて歩いていたりすると、歩行者に対して過失割合が加算されやすいです。
これらのように、交通事故の過失割合において、どういった状況だったのかというのが数字を修正させる要素となりますので、現場検証は非常に今後の示談交渉に影響するため大切になります。
過失割合を有利にするために
過失割合は損害賠償を請求する際に、その金額に大きく関わってくる要素となるため、少しでも自分に有利になるよう対応する事が大切です。
基本的に自分に優位に運ぶためにはまず、事実の評価について考えます。
これは、警察の調書や刑事記録がとても重要となり、言った言わないというような曖昧なやりとりよりも、書面が何よりの鍵です。
刑事記録に基づいて主張をしなければ、相手側も納得してくれませんし、過失割合に影響するものとはなりづらいでしょう。
いかに、相手に非を認めさせるかが重要で、刑事記録に基づいて、相手に非があるという意識を持ってもらわなければなりません。
事故車両の写真を撮ったり、ドライブレコーダーなどの記録映像を確認したりするなど、今後の争点になりえる部分は、記録として集めておくべきです。
また、正しい法的な知識を持ち、相手側と争うことも欠かせません。
判例タイムズをチェックし、これまでの交通事故と過失割合の判例を確認する事が大切です。
実際に、過失割合が決められるのに参考となる資料に判例タイムズを使用されている事が多くあります。
過去の判例を参考にしなければ、過大な要求をしてしまう可能性もありますので、あくまで適正な主張や要求をするために、過去の判例を確認する事は欠かせません。
事実だけ主張したところで、それが損害額へと結果的に結びつくとは限らないため、刑事記録をとり、過去の判例などをチェックした上で交渉する事が、正当な保険金を得るために必要な工程ではないでしょうか。
過失割合と慰謝料の関係とは
過失割合は、慰謝料を含む損害賠償額が変動する大切な数字です。
交通事故の後、示談交渉をする際には争点となりえる部分でもあります。
運転者側の立場からすると、被害者側の過失割合が大きい方が支払わなければならない額面が少なくなりますし、被害者の立場からすると加害者の逆の考え方です。
慰謝料、つまり損害賠償の金額は、過失割合と大きな関わりがあるため、もしご自身で納得しない場合には弁護士に相談し、客観的な状況を相談すると良いでしょう。
不当な過失割合を提示された場合であって、自ら事前に過去の判例などからおおよその過失割合をリサーチしておいた場合、正当な過失割合であればそれ以上無理に引き上げる必要はありませんし、過大な要求は新たな争点を生み出す原因になりますので注意しましょう。
過失割合に納得できない場合には
保険会社から提示される過失割合は、いわば損害賠償額の負担額を示している数値でもありますので、相手に提示された割合を安易に受け入れるのは良くありません。
相手側は、少しでも負担額を減らすべく、過失割合を不当に申しつけてくる可能性がありますので、納得できない過失割合の場合には、正しい知識で割合を正していく事が大切です。
例えば、判例タイムズを参考にしたと言われた場合には、その根拠をしっかり示してもらいましょう。
具体例を言われたとしても、判例タイムズのコピーをもらうなどして、その情報が本当に正しいものなのか確認します。
今では、保険会社は判例タイムズを参考にして過失割合を算出している事がほとんどですから、本当であればこの要求を断られる事はありません。
相手に根拠を示してもらい、それからご自身で算定するという行動は、相手側を牽制する意味でも効果があるでしょう。
もし、相手側の保険会社から送られてきた詳細が良く理解できない場合は、交通事故の相談所を利用し、第三者の見解を聞くと良いです。
交通事故を専門とする機関の見解を耳にすれば、ある程度の相場が見えてきます。
相場と保険会社が提示する過失割合に相違があるのなら、修正要素は何を適用しているか、現場をみて判断したのか、供述に違いがないかなど、一つ一つ相手側の主張を確認していきましょう。
過失割合を正すための交渉は、ご自身でするとどうしても骨が折れる作業となりやすいです。
専門の知識が無い方は特に、一つ一つの意味を理解していくのに大変な労力を伴います。
だからこそ、交通事故紛争処理センターなどの外部機関を利用したり、あるいは弁護士に相談したりする事が非常に大切になるのです。
保険会社に過失割合を出してもらうデメリット
過失割合を加害者の保険会社に出してもらうのにはいくつかのデメリットがあります。
何より、過失割合は保険会社が対応する損害賠償額に大きく関わるため、少しでも負担額を減らそうとしてくるのが自然です。
損害賠償金の多さに応じて、被害者の過失割合が高ければ高いほど加害者側の負担額は減りますので、引き上げようとするのには無理もありません。
過失割合は、基本となる割合に対して修正要素が影響してきます。
修正要素は簡単に述べると、どのような状況だったのかという記録が関わってくるもので、停車していたのか、不自然な動きはなかったのか、青信号だったのかなどの要素です。
保険会社に過失割合を出してもらうと、この修正要素によって割合が変動させられる可能性があるのです。
どのような詳細で過失割合が決められているのかを確認するため、過失割合の算出に影響している修正要素は必ず保険会社に確認しましょう。
これらのように、相手側の保険会社に過失割合を出してもらうと、適正な割合を導くのに労力がかかってしまうため、そこがデメリットと言えるのではないでしょうか。
弁護士に相談する
過失割合は、判例タイムズを参考にし、ある程度の数値を割り出しています。
しかし、判例タイムズが過失割合を決定するすべてではありません。
事故の態様は様々で、過去の判例だけで判断する事は容易ではないため、類似事案を探し出し、そこから裁判や交渉に持ち込まなければならない場合もあります。
交通事故の事実に争いがあると、被害者が有利な立場にあったと証明するため、1から証拠の収集を行うなど、示談や裁判に向けて備える必要があります。
歩行者と自動車の交通事故であれば過失割合は10:0である事があるのですが、自動車同士ですとそうとも限りません。
自身に少しでも過失がある場合には、事故の当初から弁護士に相談し、少しでも有利になるよう進めていきたいものです。
弁護士に依頼すると、加害者側の保険会社から不当な過失割合を提示された場合でも、適正な割合に正し、ご自身の負担額を減らせる可能性が高まるでしょう。
過失割合について争う場合には
交通事故にて過失割合に関して争うと予想できる場合、弁護士に依頼し、正当な損害賠償額を得られるよう行動すべきです。
もし、争う場合ですと、事故状況や事故現場、判例タイムズにおける類似事案の確認、自動車の損傷状況、防犯カメラやドライブレコーダーの確認、現地調査など様々な情報が必要になってきます。
これらの記録は、過失割合の話し合いをすることにおいて欠かせないものばかりです。
当事者同士ですと、感情的になった争いを生じやすいため、弁護士に依頼し、第三者を交えた話し合いをする事が、正当な損害賠償額を受け取ることに繋がるでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。