どうすれば良いの?
今回の記事では、交通事故加害者が嘘をつく場合の対処法を詳しく見ていこう。
交通事故に遭ったとき、加害者が嘘を言うことがよくあります。
たとえば、信号機の色について嘘をつかれることもありますし、当時出していたスピードや一旦停止義務などについて、虚偽を述べられることもあるでしょう。
事故の相手が嘘をつくときには、どのように対応したら良いのでしょうか?
今回は、交通事故の相手が嘘を言うときの対処方法について、解説します。
目次
交通事故の加害者は、なぜ嘘をつくのか?
交通事故の加害者は嘘をつくことが多いと言いましたが、そもそもどうして嘘をつくのでしょうか?
それは、嘘をつくことにより、加害者がいろいろな意味で有利になるからです。
具体的には、「刑事責任が軽くなること」と「民事責任が軽くなること」を狙っています。
それぞれがどのようなことなのか、見てみましょう。
刑事責任が軽くなる
まずは、加害者の刑事責任が軽くなります。
交通事故の中でも人身事故を起こすと、加害者には犯罪が成立します。
通常程度の過失による事故なら「過失運転致死傷罪」が、故意と同視すべき危険な運転によって事故を起こしたなら「危険運転致死傷罪」が成立します。
ただ、同じ罪が成立する場合であっても、加害者に適用される具体的な刑罰は、加害者の責任度合いによって異なってきます。
たとえば、過失運転致死傷罪でも、加害者の過失割合が小さければ、軽い罰金刑などで済む可能性も高くなってきますし、反対に、加害者の過失割合が大きいということになると、懲役刑で実刑となり、刑務所に行かねばならないかも知れません。
このようなことがあるので、加害者は、なるべく罪を軽くしようとして、虚偽を延べます。
事故現場で言っていたことと違うことを言い出すことも多いので、注意が必要です。
民事責任が軽くなる
加害者が嘘をつき始めるもう1つの目的は、民事責任を軽くすることです。
交通事故を起こすと、被害者には治療費や休業損害、慰謝料などのさまざまな損害が発生するので、加害者は被害者に対し、こうした賠償金の支払いをしなければなりません。
このとき、加害者の過失割合によって支払うべき賠償金の金額が、大きく変わってきます。
加害者側の過失割合が高くなれば示談交渉により、加害者が負担すべき賠償金が高額になりますが、過失割合が小さければ、その分支払金額が減額されるからです。
そこで、加害者は、自分の負担金額を減らすためにも、事故の状況について嘘をつくことが多いのです。
任意保険会社に加入していれば、賠償金の支払いは全て保険会社が行う事になりますが、自動車保険未加入の場合には、加害者自身が賠償金の支払いをしなければいけません。
中には自賠責保険にも未加入な場合もありますが、被害者救済や被害者保護のために、政府保障事業で最低限の補償は可能です。
交通事故加害者の嘘のパターン
その他のパターンについても、見てみよう。
実際に加害者が嘘をつくとき、どのようなパターンが多いのでしょうか?
信号機の色
まずは、信号機の色について、嘘をつかれるパターンがあります。
たとえば、赤信号であっても「黄色だった」「青だった」と主張することがありますし、事故当時には「赤でした」と言っていたのに、後になって「途中で赤になったが、交差点に入ったときには青だった」などと言い出すこともあります。
信号機の色は、過失割合に直結するので、相手が嘘を言い出したら、非常に重要な問題となります。
速度
速度に関する虚偽も多いです。
たとえば、加害者がスピードオーバーしながら交差点に突っ込んできたケースや、住宅街で危険な速度を出して運転していたようなケースでも「徐行していました」などと言い出すことがあります。
また、「被害者が結構な速度を出していました」などと、被害者側の速度について、嘘をつかれることもあります。
徐行や速度も交通事故の過失割合に直結するので、真相を明らかにする必要性が高いです。
一旦停止義務
加害者や被害者に一旦停止義務があるケースがあります。
この場合にも、加害者が嘘をつくことが多いです。
たとえば、事故現場では、明らかに一旦停止していなかったのに、後になって「一旦停止しましたが、被害者の車が急に現れて対応できませんでした」などと言ってくるので、被害者は驚いてしまうことがあります。
見通し状況
道路の見通し状況についても、嘘をつくことがあります。
明らかに見通しがよく、特に障害物もなかった道路であっても「現場は意外と狭くて、見通しが悪かったです。事故を避けるのは難しかったと思います」などと言い出すことがあります。
被害者にとっては、到底納得できないでしょう。
道路状況、天気
道路の状況や当時の天候について嘘をつかれることがあります。
たとえば、道路に特に問題がなかったはずなのに「現場は雨が降った後で、ぬかるんでいた」などと言い出すこともありますし、「現場の道路が傷んでガタガタになっていた」とか、「曇っていて、被害者の車体を確認できなかった」などと言われることもあります。
被害者の飛び出し
加害者にとって、被害者の過失割合を高くすると、自分の過失割合を低くすることにつながります。
そこで、住宅街などの事故では「被害者が急に飛び出してきた」と言い出すケースが多いです。
また、幹線道路上の事故などでも、「車の走行が多い場所で、被害者がふらふら歩きをしていた」などと言われることがあります。
被害者がきちんと普通に横断歩道を渡っていたとしても、突然このような主張をされるので、被害者は驚いてしまうことが多いです。
嘘がバレるとどうなるの?
加害者に何か罰則はあるのかな?
だけど、嘘をついている事が証明できれば、賠償金額のアップを期待できるね!
交通事故の加害者は、上記のように嘘をつくことがあるのですが、もしもこのような嘘がバレた場合、ペナルティはないものでしょうか?
犯罪になるのか
まず、加害者が嘘をついたとき、「犯罪にならないのか?」と疑問を持たれる方が多いでしょう。
結論から言うと、「嘘をついただけでは、犯罪になりません」。
ただし、嘘をついていると、加害者の刑事事件において、適用される刑罰が重くなる可能性があります。
先ほども説明した通り、交通事故の加害者には「過失運転致死傷罪」「危険運転致死傷罪」という犯罪が成立します。
ただ、それぞれの罪における刑罰には幅があります。
たとえば、過失運転致死傷罪の刑罰は、7年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金刑です。
実際に適用する刑罰については、個別の加害者の情状により、裁判官が裁量で決定します。
このとき、加害者が「有利になるために嘘をついている」と認定されると、加害者の情状はかなり悪くなります。
そのことにより、裁判官が選択する刑罰が重くなる可能性は十分にあるのです。
たとえば、嘘をつかずに素直に罪を認めて謝罪すれば罰金刑になるところ、嘘をついて罪を免れようとしたために懲役刑になるケースなどがあります。
被害者参加制度により、被害者は、裁判に出廷できるように法律で定められていますが、裁判には参加せず、被害者が加害者がどのような罪となったのか、刑事裁判の結果を確認したい場合には、被害者通知制度を利用することで、確認可能です。
嘘が犯罪になるケースとは?
それでは、加害者が嘘をつくこと自体が犯罪になることはないのでしょうか?
基本的に、嘘をつくだけで犯罪が成立することはありません。
それは、日常生活を考えてみても分かるでしょう。
単純に「嘘をついた」というだけで成立する罪はありません。
ただ、嘘をついて人を騙してお金を取ったときに「詐欺罪」などが成立するだけです。
ただ、嘘をつく方法や場所によっては、犯罪が成立することもあります。
有名なのは「偽証罪」です。
裁判所で証言をするときに嘘をつくと、それ自体が犯罪となるのです。
それでは、交通事故の加害者が裁判所で偽証したら、偽証罪になるのでしょうか?
まず、加害者の刑事事件で嘘をついても、「偽証罪」にはなりません。
加害者の刑事事件において、加害者は「被告人」の立場です。
つまり、起訴されて刑罰を適用されようとしているまさにその本人です。
本人が罪を免れようとして嘘をつくのはある程度やむを得ないと考えられているので、被告人本人が嘘をついても、偽証罪は成立しません。
次に、民事裁判であっても、原告被告などの「当事者」が嘘をつくことは「偽証罪」になりません。
原告や被告などは「当事者」であり、「証人」とは異なると考えられているためです。
ただし、原告や被告であっても、嘘の証言をすると、民事訴訟法によって「10万円以下の過料」が科される可能性はあります。
これは、刑罰とは異なる「行政罰」であり、違反した人が国に支払うお金です。
嘘をつくと、賠償金が増額される?
それでは、加害者が交通事故の状況についてあからさまな嘘を述べているとき、損害賠償額が増額されることはないのでしょうか?
この場合、「慰謝料」が増額される可能性があります。
慰謝料とは、交通事故によって被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償金ですから、被害者が被った苦痛が大きくなればなるほど、高額になります。
慰謝料算定の際には、加害者の態度や誠実さも評価の対象となりますので、明らかな嘘を言って責任を免れようとしていると、加害者の責任は重くなると考えられます。
そこで、加害者が明らかな嘘を述べているなら、慰謝料を増額させることができるケースがあります。
ただし、どのくらい増額されるのかについては、裁判所の裁量となりますし、大きな増額にはならないケースもあります。
加害者の悪質性に応じて、ケースバイケースで判断されるでしょう。
また、慰謝料を増額されるには、「加害者が嘘をついている」ことを証明しなければなりません。
被害者としては「相手が明らかに嘘を言っている」と思っていても、客観的に、加害者の言っていることと被害者の主張の「どちらが正しいかわからない」状態では、賠償金算定の際に、考慮してもらうことはできません。
嘘をつかれたときの対処方法
現場保存ができなかった場合には、防犯カメラや、目撃者などを探してみよう。
怪我などの症状が落ち着かない場合には、弁護士に依頼するのもお勧めだよ。
交通事故で加害者が嘘をついているときには、加害者の嘘を証明することがもっとも重要です。
以下で、その方法を順番にご紹介します。
嘘であると立証する方法
加害者の嘘を立証する方法としては、以下のような手段が考えられます。
- 事故現場で、記録を残しておく
- 目撃者を確保する、探す
- 実況見分調書を取得して、精査する
- ドライブレコーダーの画像をチェックする
- 監視カメラなどを探す
以下で、それぞれの方法について、詳しく説明します。
事故現場で、記録を残しておく
加害者の嘘を暴くために非常に重要なことは、交通事故現場で、自分なりに記録を残しておくことです。
たとえば、相手の車両や自分の車両の写真を撮影しておきます。
このとき、傷ついた場所やその様子がわかるように、いろいろな角度から撮影し、接写と全体が写る写真の両方を撮っておくことが重要です。
また、道路状況なども撮影しておきましょう。
あとで「見通しが悪かった」「道幅が狭かった」などと言われる可能性もあるからです。
メモを残しておくことも大切です。
写真だけだと、後から見たときに「何のために撮影した写真だったか」忘れてしまうことがあるためです。
事故の相手が当時供述していた内容も、メモしておきましょう。
相手が後で異なることを言い出したときに、照らし合わせてみると、見えてくる真実があるものです。
目撃者を確保する、探す
事故現場では、できるだけ目撃者を確保しましょう。
目撃者は、被害者にも加害者にも加担しない立場の第三者ですから、証言内容に信憑性があると考えられるからです。
後に加害者と被害者の言い分が異なる状況となったとき、目撃者の証言があると、被害者の主張が正しいことを証明できるケースがあります。
事故に遭ったら、まずは周囲を見渡して、見ていた人がいたら、すぐに声をかけて連絡先を聞いておくことをお勧めします。
後に何かあったときには協力してくれるよう、お願いしておくと良いでしょう。
もしも、交通事故現場で目撃者を確保できなかったケースでも、あきらめる必要はありません。
事故後、現場に「〇年〇月〇日に発生した交通事故の目撃者の方を探しています」という貼り紙をしておくと、目撃していた人から連絡を受けられることもあるからです。
時間が経過すると人の記憶は薄れていくので、目撃者捜しをしたいときには、早めに開始しましょう。
症状固定になっていなかったり、後遺障害が残ってしまい、自分自身で動けない場合には、弁護士に依頼する方が良いでしょう。
実況見分調書を取得して、精査する
事故状況を明らかにする方法として非常に有用な資料が「実況見分調書」です。
実況見分調書とは、交通事故後に警察が来たときに行われる「実況見分(現場検証)」の結果をまとめた書類で、事故現場の図面つきで、天候や道路幅、車両の位置関係や接触した方法、状況などが非常に詳しく書かれています。
事故直後に警察が現場を確認して作成する書類なので、非常に信用性が高いと考えられているものです。
また、警察によって加害者や被害者の調書もとられることがあり、そういったものを見ると、加害者が後で嘘を言い出したことを明らかにできるケースもあります。
実況見分調書は、弁護士に依頼しないと取得できないと思われていることもありますが、被害者本人でも申請取得できます。
ただし、捜査中の資料は開示請求できないので、起訴か不起訴かの処分が決定した後で、検察庁に連絡をして、申請する必要があります。
自分で申請手続きをするのが手間になる場合や方法が分からない場合には、弁護士に相談すると、スムーズに手続きを進めることができます。
ドライブレコーダーの画像をチェックする
交通事故の現場の状況は「ドライブレコーダー」に写っていることも多いです。
そこで、自分の車にドライブレコーダーが搭載されていたら、その画像を分析して、加害者の嘘を暴ける部分がないか、精査してみましょう。
また、加害者がドライブレコーダーを搭載していた場合には、それを提出させることも考えられます。
相手が提出を拒絶する場合には、裁判を起こして、裁判所の職権で提出させる方法もあるので、弁護士に相談してみましょう。
監視カメラなどを探す
交通事故現場周辺に監視カメラなどがあった場合には、そうしたカメラに残った画像をチェックすることで、事故の状況を明らかにできるケースもあります。
たとえば、駐車場内には防犯カメラが設置されている可能性が非常に高いですし、路上などでもカメラによって撮影されていることがあります。
事故現場に行って状況を確認し、カメラがあったら施設の管理者に連絡を入れて、画像を確かめさせてくれるように頼んでみましょう。
嘘を立証できると示談金がアップする
加害者の嘘を立証できたら、示談金がアップしますが、その理由は以下の通りです。
過失割合が下がる
加害者の嘘を暴くことができたら、加害者の過失割合が上がって被害者の過失割合が下がります。
すると、下がった割合分、賠償金が増額されます。
たとえば、損害額が1000万円の事故で、もともとの被害者の過失割合が3割とされていたら、賠償金は700万円です。
ここで、加害者の嘘がバレて、被害者の過失割合が2割に減ったら、賠償金は800万円に増額されます。
慰謝料が増額される
加害者が悪質な嘘をついている場合、上記でも説明したように、慰謝料がアップする可能性もあります。
このように、加害者の嘘が明らかになると、過失割合と慰謝料の両面から賠償金のアップが期待できるので、被害者にとっては非常に有利です。
損害保険会社などの担当者によっては、賠償額の増額を少しでも食い止めようと治療の打ち切りなどを言われる事もありますが、症状固定となるまで、しっかりと治療を継続しましょう。
まとめ
だけど、後からでも加害者の嘘を立証できる方法はあるから、写真を残しておくことが出来なかったからといって、諦める必要はないんだよ。
今回は、交通事故で加害者が嘘をつく理由や対処方法について、ご説明しました。
加害者が嘘をつく場合、そのままにしておくと、被害者の過失割合が上がってしまい、賠償金が減額されてしまいます。
目撃者を確保し、実況見分調書やドライブレコーダーなどを分析して、加害者の嘘を許さないように厳正に対処しましょう。
被害者1人の力で対応ができない場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。