運悪く交通事故に遭ってしまった場合、治療費が嵩んで出費が多くなる一方で、仕事量が減り収入が少なくなるため、経済的に苦しくなることが少なくありません。
相手の過失が大きかった場合は慰謝料を含む損害賠償を受け取ることが出来ますが、交通事故に遭った直後に損害賠償が受け取れるわけではありません。
事故に遭ってから損害賠償を受け取れるまでの期間は決して短いものではなく、場合によっては数年かかることもあります。
今回の記事では、慰謝料支払いまでにかかる期間や、示談交渉中・裁判中にかかるお金の上手なまかない方などを解説いたします。
目次
交通事故の慰謝料はいつもらえるの?
交通事故の被害者側が慰謝料を受け取れるのは、示談がまとまったあと、もしくは裁判が終わったあとです。
示談とは当事者同士の合意で損害賠償額を決めるシステム、裁判は司法に損害賠償額の決定を委ねるシステムです。
通常は示談がまとまるまでにかかる期間のほうが、裁判にかかる期間よりも遥かに短いため、ほとんどの被害者は示談を選びます(加害者側の保険会社の対応があまりにもひどい場合はその限りではありませんが)。
示談の場合
示談は慰謝料を含む損害賠償請求をするためのものですので、通常は損害額がだいたいいくらになるのかという目安が見えてこないと、交渉がうまく行きません。
入通院期間も、後遺障害が残るかどうかもわからない交通事故直後の段階から示談の交渉を始めても、長引く場合が多いです。
示談が一度まとまリ、損害賠償額が決定すると、あとから追加で損害賠償を請求することが極めて難しくなるため、焦って示談をまとめるのは危険です。
示談交渉のスタート時期は、怪我が完治した時期、もしくは症状固定され後遺障害が認定された時期です。
症状固定とは、これ以上治療期間が長くなっても、状態がよくも悪くもならず、症状が固定される時期です。
残った症状(後遺症害)は画像診断などを得て、後遺障害認定とみなされます。
後遺障害が残った場合は、その重さ(等級認定)に応じて、入通院日数に対する慰謝料とは別に、後遺障害に対する慰謝料を請求できます。
後遺障害が残らない軽い怪我の場合はすぐに示談交渉に入れますが、後遺障害が残るかもしれない怪我の場合は
- 治療を重ねる
- 症状固定される
- 後遺障害の等級を認定される
というステップを踏まなければならないため、後遺障害診断書を作成し、示談開始となるまでに時間がかかることが多いです。
交通事故が発生してから示談がまとまり、実際に慰謝料を受け取れるまでには短くとも数ヶ月、長い場合は1年半程度の期間がかかります。
これは交通事故の示談に長けている弁護士に依頼した場合であり、不慣れな弁護士に依頼した場合はさらに長くなることも考えられます。
裁判の場合
示談交渉というプロセスを全く経ずにいきなり裁判になることはありません。
まずは被害者の弁護士と加害者側の保険会社が示談に向けて話し合い、お互いに納得できる結論が出なかった場合のみ、裁判に進むという流れになることがほとんどです。
従って、裁判になる場合は、示談をまとめようとするのにかかった期間に、裁判にかかる期間が上乗せされます。
交通事故の裁判の平均審理期間は12.2ヶ月です(最高裁判所「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」より抜粋)。
裁判だけで丸1年以上かかる計算になります。
従って、示談の交渉決裂を経て裁判をする場合は、慰謝料支払いまで1年~4年程度の期間はかかると覚悟しておいたほうがいいでしょう。
振れ幅がずいぶん大きいようにも思えますが、怪我が軽く示談期間が短い場合は1年に、怪我が重く後遺障害等級で揉めそうな場合は4年に近づくと考えてください。
一括で全ての慰謝料をもらう事ができるの?
交通事故の賠償金は原則として一括払いです。
慰謝料も賠償金の一種ですので、交通事故の慰謝料は一括でもらうことが出来ます。
双方が合意すれば分割払いにしてもらうことも出来ますが、被害者から見た場合は一括払いのほうが何かと安全です。
慰謝料を分割で受け取ると、途中から慰謝料が支払われなくなる可能性があるからです。
交通事故の加害者が雲隠れしたり、失職したり、自己破産したりする可能性は、慰謝料が全て支払われるまで否定できません。
特に怖いのは自己破産です。
自賠責保険の場合は、被害者に直接請求権が認められるため、被害者は加害者の保険会社に対して直接保険金の支払いを被害者請求をすることが出来ます。
加害者が自己破産しようがしまいが全く関係ありません。
しかし、任意保険に関しては直接請求権が認められていないため、被害者は加害者に慰謝料を請求せざるを得ません。
ただし、被害者は保険金請求権についての特別先取得権を有するため、加害者が自己破産した場合、他の債権者(自己破産した人にお金を貸していた銀行など)よりも優先的に慰謝料を受け取ることが出来ます。
ただし、手続きには時間も手間もかかりますし、そもそも加害者が全く財産を持っていないようなケースも考えられますので、やはり分割で受け取るべきではありません。
交通事故によりかかる費用とは
交通事故でいわゆる「被害者」になった場合は、一時的に多くの費用を負担する(立て替える)ことになります。
主な費用は
- 治療費
- 弁護士費用
の2つになります。
病院で支払う費用は立て替えなければいけないの?
交通事故被害者が病院で治療を行う場合、その治療費は最終的には加害者やその保険会社が負担することになりますが、一時的に被害者が支払いを建て替えることが大半です。
病院側からすれば、あくまでも入通院治療を受けたのは被害者だからです。
最近はお願いすれば病院が直接加害者やその保険会社に請求をしてくれるケースが増えてきていますが、そうならないことも多いため期待しすぎてはいけません。
そのような場合は、仕方がないので被害者が一旦立て替えます。
交通事故の治療では健康保険を使うことも出来ますが、手続きが面倒などの理由で自賠責保険が使われることが多いです。
患者から見た場合、健康保険でも自賠責保険でも大した違いはありませんが、自賠責保険では自由診療が受けられるため、先進医療が受けられたり、健康保険の範囲外の治療や薬が使えたりします。
また、自賠責保険の場合は実質的に治療費が0割負担(加害者側の保険会社が負担してくれる)となるため、3割負担の健康保険よりもお得です。
ただし、自賠責保険の限度額は120万円と低いうえに自由診療なので、この範囲を超えてしまうことがままあります。
相手が任意保険に入っていた場合はそこから出るので問題ありませんが、そうでない場合は自分の任意保険を使う、裁判を起こすなどの工夫が必要になります。
自賠責保険の限度額を有効に使いたいのならば、健康保険の活用も検討しましょう。
治療費として請求できる範囲
診察、治療、投薬にかかった治療などは原則としてすべて全額請求できます。
また、治療を受けるためにかかった交通費や、装具費用、診察初代、各種証明書の取得費用なども請求できます。
しかし、明らかに治療費として妥当でないと考えられる費用については、請求できないことがあります。
例えば、軽い腕の打撲などでタクシーに乗って通院した場合は、治療費として請求できないことがあります。
治療費に含まれるか含まれないかよくわからない費用については、事前に弁護士に確認した方がいいでしょう。
弁護士費用は弁護士費用特約をつけていれば実質0円になる
通常、弁護士を雇う場合は費用がかかりますが、被害者が任意保険に加入しており、なおかつ弁護士費用特約をつけている場合は、弁護士費用が実質0円になります。
実際には上限額が定められていますが(上限額は300万円が一般的)、弁護士費用が上限まで届くこと自体が非常に稀なため、利用者は、ほぼすべてのケースで実質0円となります。
弁護士費用特約に加入すると、被保険者(保険に加入している人)だけでなく、その配偶者、被保険者や配偶者の同居親族、被保険者や配偶者の別居中の未婚の子供、それ以外の契約自動車に乗っていた同乗者なども特約を使えるようになります。
弁護士費用特約は、自分の過失割合が0でなくても使えます。
被保険者に重大な過失があった場合や、無免許運転、酒気帯び運転などがあった場合は支払われませんが、通常の注意を払っていて運転していればまず問題ありません。
弁護士費用特約にかかる費用は保険会社によってまちまちですが、平均費用は年額で1500円程度です。
年額1500円でいざというとき弁護士が雇える安心を買えるのならば、決して高い買い物ではないはずです。
仮渡金とは
仮渡金とは、交通事故の被害者が経済的に困窮するのを防ぐために支払われるお金です。
交通事故発生後に支払った費用は、後で損害賠償金として回収することはできるのですが、前述の通り交通事故の発生から損害賠償金の支払いまでにはかなりのタイムラグがあります。
この期間中に支払う費用が用意できずに、被害者が経済的に困窮するのを防ぐために作られたのが仮渡金です。
これは自賠責保険に組み込まれた制度であり、被害者が当座の治療費などを支払うためのお金です。
加害者が自賠責保険に加入していれば(自賠責保険は強制保険ですので、通常は加入しているはずです)、仮渡金を受け取れます。
仮渡金の上限額は法律で決められており、具体的には以下のような決まりになっています。
- 死亡者1人につき 290万円
- 以下の傷害を受けた者1人につき 40万円
(脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有する場合)
(上腕又は前腕骨折で合併症を有する場合)
(大腿又は下腿の骨折)
(内臓破裂で腹膜炎を起こした場合)
(14日以上入院を要する傷害で30日以上の医師の治療が必要な場合) - 以下の傷害を受けた者1人につき 20万円
(脊柱の骨折)
(上腕又は前腕の骨折)
(内臓破裂)
(入院を要する傷害で30日以上の医師の治療を必要とする場合)
(14日以上の入院を必要とする場合) - 11日以上の医師の治療を要する傷害を受けた者1人につき 5万円
慰謝料をもらうためには手続きが必要?
交通事故の慰謝料を受け取るためには、幾つかの手続きを経る必要があります。
- 警察への届け出
- 保険会社へ連絡~過失割合の決定
- 治療~休業損害証明書の作成
- 示談交渉or裁判
また、慰謝料を受け取るためには、以下の書類も必要になります。
- 交通事故証明書
- 診療明細
- 治療にかかった費用の領収書
- 休業損害証明書
警察への届け出
慰謝料の受け取りには、自動車安全運転センターが発行する交通事故証明書が絶対に必要になります。
交通事故証明書は警察が作成する資料に基づいて作成されるため、事故に遭ったらすぐに警察に連絡しましょう。
保険会社への連絡はその後でも十分です。
警察に正確な資料を作ってもらうためには、こちらから性格な状況を伝える必要があります。
警察が到着するまで事故現場には極力触らず、事故発生当時の状況がよく分かるようにしておきましょう。
交通量の多い通りなどでそれが難しい場合は、車を移動させる前に全体像を携帯電話で撮影し、画像や動画などで残しておくと良いでしょう。
ドライブレコーダーがある場合は、その動画も証拠となるかもしれません。また、目撃者の証言も重要な証拠の一つとなるため、周囲に人が居た場合は丁寧に協力を依頼しましょう。
交通事故証明書はその後、自動車安全運転センターで発行してもらいます。
自動車安全運転センターは各都道府県に原則1つ(北海道は5つ)設置されている施設で、例えば東京都の場合は品川区東大井1-12-5(鮫洲運転試験場内部)にあります。
発行可能となるのは、加害者、被害者、被害者の親族で損害賠償を請求する権利がある人などです。
人身事故の場合は事故発生から5年、物損事故の場合は3年という期限があり、これを超えると発行してもらえなくなるので、なるべく早く申請しましょう。
保険会社への連絡~過失割合の決定
警察に連絡し、必要なことをあらかた伝えたら、保険会社に連絡しましょう。
被害者と加害者の双方の保険会社は、警察から聞き取り調査を行い、どちらにどれくらいの過失があるのかを判断します。
双方の過失の大きさを過失割合と言います。過失割合は100:0になったり、80:20になったり、50:50になったりします。
過失割合は過去の判例などをもとに、双方の保険会社が話し合って決めます(警察が決めているわけではありません)。
ただし、過失割合が0である場合、被害者の保険会社はその話し合いに参加できません。
このような場合は、前述の弁護士費用特約を使って弁護士に交渉を依頼するとうまくいくケースがほとんどです。
自分で話し合おうとすると大抵の場合相手側の保険会社にうまく丸め込まれますし、なによりストレスが掛かり心身に悪影響が出ます。
過失割合が大きくなると、それだけ受け取れる慰謝料が少なくなってしまいます。
例えば、自分に過失割合が2割ある場合、本来受け取れる慰謝料から20%減額されてしまいます。
治療~休業損害証明書の作成
治療は怪我や病気を治すだけでなく、正統な金額の慰謝料を受け取る上でも非常に重要です。
治療を受けて症状の大小を確認しないと、その人の被った損害がどれくらい大きなものなのかが正確に測れないからです。
前述の通り、治療にかかった費用は原則としてすべて損害賠償として請求できます。
病院や診療所などで治療を受けた際には診療明細(診療内容や検査内容、処方薬などが記載された書面)が発行されますので、きちんと保管しておきましょう。
また、治療に伴って発生した出費がある場合は、そちらの領収書も保存しておく必要があります。
領収書がない出費が発生した時は、出金伝票に記録をとっておきましょう。
治療と合わせて、休業損害証明書の作成を行います。
休業損害とは、休業することによって発生した損害(事故にあっていなければ稼げたはずの給料など)のことです。
交通事故においては、休業損害も請求することが可能です。
会社員の場合は会社の人事部に申請すれば作成してもらえますが、自営業者の場合は自身で作成しなければなりません。
アルバイトやパートタイマーであっても、出勤率に応じて休業損害を請求できます。
専業主婦の場合も、金額は少なくなりがちですが、休業損害を請求できます。
作成のルールは複雑なので、自営業者や専業主婦の方には弁護士に作成してもらうことをおすすめします。
示談交渉~裁判
過失割合が決まったら、示談交渉を開始します。
最初から被害者にとって納得の行く示談の条件が提示されることは殆どありません。
交渉によって損害賠償額が増えることが多いですが、交渉がうまく行かなかった場合は裁判に進みます。
裁判になった場合はまず和解案が提示され、それでも合意に至らない時は判決によって結論を出します。
交通事故後に被害者がすべきこと
交通事故に遭った被害者が、必ずやるべきことは以下の6点です(「一部の内容が慰謝料をもらうためには手続きが必要?」と重複していますが、こちらのほうがより深く解説しています)。
- 警察に連絡する
- 加害者の身分を確認する
- 事故現場の状況を記録する
- 目撃者を探す
- 保険会社に連絡する
- 病院で医師の診断書をもらう
警察に連絡する
交通事故に遭ったときに一番最初にやらなければならないのが、警察への連絡です。
交通事故発生直後は気が動転しているかもしれませんが、落ち着いて110番しましょう。
警察に連絡しないと前述の通り交通事故証明書がもらえません。
連絡は加害者がしても被害者がしても構いませんが、確実を期すためにも被害者自らが連絡することをおすすめします。
たとえ加害者が嫌がろうが、そんなことは関係ありません。
加害者が免停になろうが免許取り消しになろうがそれは自業自得です。放っておきましょう。
加害者の身分を確認する
加害者の情報は、少なくとも
- 住所
- 氏名
- 連絡先
- 年齢
- 車のナンバー
- 保険の種類
について把握しておく必要があります。
嘘をつかれる可能性もあるので、複数の身分証明書を提示してもらい、メモしておきましょう。できれば名刺ももらっておいてください。
加害者が協力的でない場合には、自動車のナンバーを写真に撮っておきましょう。
また、警察が来るまでのやり取りも大切な証拠になるので、スマートフォンの録音機能などを使って保存しておきましょう。
事故現場の状況を記録する
事故が起きた場所の確認は非常に大切です。
詳しい確認は警察が来たあとで行われますが、例えばタイヤ痕などは消えてしまう可能性があります。
これらの証拠はなるべく記憶・記録しておきましょう。
周囲の状況出来る限り詳しく撮影し、信号や一時停止などの有無はあったのかについても確認しておきましょう。
目撃者を探す
人通りのある場所で発生した交通事故の場合は、目撃者の証言も重要になります。
目撃者がいる場合は、その人の氏名・住所・連絡先などを聞いておくといいでしょう。
なお、交通事故の目撃者には証言をする義務はありません。
目撃者の証言はもらえて当然、と考えるのはやめたほうがいいでしょう。
保険会社に連絡する
警察に連絡し、加害者の情報も手に入ったら、自身の加入している保険会社に連絡しましょう。
保険会社には早くから資料集めなどに動いてもらったほうがコチラにとっては有利になるため、交通事故が発生したその日のうちに連絡するのが原則です。
病院で医師の診断書をもらう
交通事故の被害者になった場合、目立った症状がなくても必ず病院で検査を受けましょう。
自覚症状はなくても、脳内出血などを起こしている可能性は否定出来ないからです。
すぐに病院に行かないと、症状と事故の因果関係が否定されることも考えられます。
傷害を負っていると診断された場合は病院で診断書をもらいましょう。
交通事故後に被害者がやってはいけないこと
交通事故発生後は気が動転しているので、冷静に考えればやってはいけないはずのことをやってしまいがちです。
不用意な行動は自身大きな不利益をもたらすことになるため、平常時から肝に銘じておかなければなりません。
主なやってはいけないことは以下のとおりです。
- 大した怪我ではないと思い立ち去る
- 曖昧な記憶のまま証言する・妥協する
- 怪我の治療を受けない
大した怪我ではないと思い立ち去る
自動車事故に遭った直後に痛みがなくても、家に帰ってから、あるいは数日経ってから痛みが出ることは珍しくありません。
自動車事故に遭った直後に痛みがなくても、必ず警察を呼び、相手の身分も確認しておきましょう。
日常生活に新たな面倒事が持ち込まれるのは決して愉快なものではありませんが、自分の生活を守るためと思って我慢しましょう。
曖昧な記憶のまま証言する・妥協する
交通事故発生後に呼ばれてやってきた警察官は実況見分を行います。
実況見分とは交通事故の加害者、被害者、目撃者などの証言や、ドライブレコーダーの記録などをもとに、どのような状況で事故が発生したのかを見極めるための作業です。
ここでした証言は後々の重要な証拠になるうえ、一度作成した実況見分調書が訂正されることはあまりないため、曖昧な記憶のまま話してはいけません。
実況見分にやってくる警察官は、直接事故を目撃していないので、現場に残されたタイヤ痕や車の損傷具合などから、何となくどのような事故だったのかを予想しながら話すことがあります。
これらは彼らの警察官としての経験に基づくものであり、悪意があってやっているわけではありませんが、たまに事実とは違うことについて「こうだったのではありませんか?」と問われることがあります。
交通事故発生直後は気が動転しているかもしれませんが、間違っていることを聞かれた場合は「間違っている」と答えなければなりません。
妥協してしまうと、後で自分の過失割合が大きくなる可能性があります。
記憶に無いことについて問われた場合は、曖昧な記憶のまま証言せず「わからない」と素直に言いましょう。
間違っていることは間違っている、正しいことは正しい、わからないことはわからないと証言するのが最も正しいやり方です。
怪我の治療を怠る
交通事故で怪我を負った場合、病院で治療を受けることになります。
打撲などの比較的軽いけがや、骨折のように完治のタイミングがわかりやすい怪我の場合はともかく、ムチウチなどの分かり辛い怪我の場合、ちょっと良くなっただけで通院をやめてしまう人が少なくありません。
これは非常に危険なことです。
通院を途中でやめてしまったり、通院と通院の間隔が長くなったりすると、症状が再び出てきたときに、その症状と交通事故の因果関係が認められないことがあるからです。
交通事故に遭った場合は、必ず主治医の指示に従って、一定の期間治療を受けてください。
治療中に症状が強くなったり、新たな症状が出てきたりした場合には、必ずそのことを医師に告げ、カルテに記録してもらいましょう。
示談にする場合に注意する事
交通事故で裁判に発展することは稀で、大抵の場合は示談がまとまります。
裁判は手間がかかりますし、割合的に多い小さな事故ならばそこまで話がもつれることもないからです。
ただし、示談は裁判よりも損害賠償額が少なくなりやすく、被害者にとってあまり望ましくない結論が出ることも少なくありません。
加害者側の保険会社に言いくるめられないためにも、以下のことに気をつけてください。
- すぐに示談しない
- 示談の時効は3年なので、それまでに結論を出す
- 極力弁護士を雇う
すぐに示談しない
怪我の治療が終了して完治・症状固定されたら、加害者側の任意保険会社と損害賠償の交渉を行いますが、相手の提示してきた金額をすぐに飲んで示談してはいけません。
たとえ相手が誠実そうに見えてもです。
担当者が誠実であることと、提示された金額が損害賠償として適正なものであるかは全くの別問題です。
大抵の場合、保険会社が提示してくる金額は適正な損害賠償金額にとても届かないものです。
損害賠償金額の算定基準には「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」という3つの基準があります。
後者ほど高額になります。
このうち、任意保険会社は任意基準や、保険会社基準で提示してきます。
任意基準は非公開ですが、自賠責保険基準より少し高い程度で、弁護士基準や、裁判基準と比べると低いです。
一方、弁護士基準は過去の判例をもとに東京弁護士会の交通事故処理委員会が作成した基準で、任意保険基準よりも遥かに高いです。弁護士基準や、裁判基準まで持っていくには裁判が必要ですが、弁護士基準に近い所(80~90%)までならば示談でも持っていけます。
弁護士に法的根拠を交えて交渉してもらえば、損害賠償額は大きくなるはずです。
示談の時効は3年なので、それまでに結論を出す
交通事故における損害賠償の請求については、時効が3年と定められています(ひき逃げなど、相手がわからない場合は除く)。
そのため、ただ示談を重ねているだけでは、時効が来てしまいます。
治療や症状固定に時間がかかったり、交渉が難航していたりする場合は、任意保険会社に「時効中断承認申請書」を提出すると、時効がストップします。
ただし、これはあくまでも一時的なものです。
どうしても結論が出ない場合は、裁判で強制的に結論を出すしかありません。
極力弁護士を雇う
示談の交渉は自分で行うこともできますが、損害賠償の上積みや、自ら交渉することによるストレスなどを考えると、やはり弁護士を雇うに越したことはありません。
現時点で弁護士費用特約をつけてないという方には、なるべくつけることをおすすめします。
まとめ
- 交通事故に遭ってから損害賠償金が支払われるまでには数ヶ月~数年のタイムラグが発生する
- 慰謝料は一括で受け取ったほうが安全
- 治療費用は病院が直接加害者側に請求してくれることもあるが、してくれないこともある
その場合は治療費を一時的に建て替えて、後で損害賠償として請求する - 弁護士費用は弁護士費用特約を使えば実質0円になる
- 治療費を建て替えられない場合は、自賠責保険の仮渡金が使える
- 交通事故に遭ったらまずは警察に連絡し、相手の身分を抑えておく
- 実況見分を後から書き換えるのは難しいので、曖昧な記憶のまま話さない
交通事故に遭うと誰しも動転してしまうものですが、落ち着いて対処することが肝心です。
万が一交通事故に遭ってしまった場合は、この記事を読み返して対処していただければと思います。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。