交通事故で、高次脳機能障害と診断されたんだ。
高次脳機能障害って何?
脳に障害が残ってしまっている状態だね。
高次脳機能障害は、慰謝料も高額になるんだよ。
本当に?!
高次脳機能障害になるとどの位の慰謝料を受け取ることができるの?
症状や等級によって、受け取れる慰謝料が変わってくるんだ。
今回の記事では、高次脳機能障害の慰謝料について、詳しく見ていこう。
「交通事故後、本人の性格が変わったような気がする…」
「交通事故に遭ってから、忘れっぽくなった」
「交通事故後、高次脳機能障害になり、自分一人ではほとんど何もできなくなった」
交通事故で脳を損傷すると「高次脳機能障害」になってしまうケースがあります。
高次脳機能障害は重症になることも多く、各場面で適切な対応を要求されます。
今回は、交通事故で「高次脳機能障害」と診断されたときの慰謝料について、解説します。
目次
高次脳機能障害とは
交通事故のケースで多い「高次脳機能障害」とは、どのような傷病なのでしょうか?
これは、脳の「認知機能」に発生する障害です。
認知機能というのは、物を感知する能力のことです。
具体的には、物を見たり聞いたりして内容を理解すること、記憶すること、物に触れて確かめること、言語を操ること、計画を立てること、感情をコントロールすることなど、人間の基本的な感覚や行動には、すべて認知機能がかかわっています。
交通事故で脳を損傷するとこうした脳の認知機能が失われるので、被害者側はさまざまな苦労を背負い込むことになってしまいます。
仕事ができなくなってしまう方も多いですし、日常生活に必要な最低限のことすら自分でできなくなる方もおられます。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害は、どんな症状のことを呼ぶの?
もう治らない症状なの?
高次脳機能障害には、記憶障害だけではなく、その他にも様々な障害があって、元の状態に戻るのは非常に難しいんだ。
高次脳機能障害の症状について、チェックしてみよう。
高次脳機能障害になると、具体的にどのような症状が顕れるのか、みてみましょう。
- 記憶障害
まず、本人に記憶障害が起こることが非常に多いです。
新しい物事を覚えられなくなるので、約束や納期を守れなくなります。
また、過去にあった出来事を忘れてしまうこともあります。 - 注意力の障害
集中力や注意力がなくなり、1つのことを長時間続けられなくなったり、仕事上でミスが増えたりします。 - 半空間無視
視野の半分を認識できなくなる症状です。
左側を認識できなくなるケースが多く、その場合には、食事をするときに右側のものばかりを食べたり、左側の壁にぶつかってしまったりすることがあります。 - 遂行機能障害
ものごとについて計画を立てて、計画通りに進めることが困難になります。
同時に2つ以上のことをするのも難しくなることがあります。 - 社会適応障害
高次脳機能障害になると、一見性格が変わったかのように見えるケースが多いです。
たとえば感情の起伏が激しくなり、怒りっぽくなったり暴力的になったりして家族が困ることや、会社でトラブルを起こすことがあります。
反対に、無気力にあってぼんやりしていることが増えるケースもあります。
どちらにしても、社会に適応することが難しくなる症状です。 - 失語症
言葉が出てこなくなり、コミュニケーションをとれなくなってしまう症状です。 - 失行症
今までできていた当たり前のことができなくなる症状です。
たとえば食事をすること、着替えること、歯磨きなどの行為も自分一人ではできなくなってしまうことがあります。 - 失認症
物を見たり聞いたり触ったりしても、何であるかを認識できない症状です。
このように、高次脳機能障害の症状はさまざまですが、内容や程度はケースによって異なります。
軽度な場合には仕事を続けることも可能ですが、重度になると、仕事どころか日常生活すら一人で送れなくなってしまいます。
家族や専門の介護人による全面的な介護を要する状態になる方もたくさんいる重大な障害です。
介護が必要になると、介護費などの負担も大きくなってしまいます。
高次脳機能障害になりやすい傷病
高次脳機能障害は、どんな傷病で発症しやすいの?
外傷性くも膜下出血や内出血、びまん性軸索損傷の時に発症しやすいんだよ。
交通事故で高次脳機能障害になりやすいのは、どのような傷病を負った場合なのでしょうか?
以下では、代表的な例をご紹介します。
外傷性くも膜下出血
「くも膜下出血」という傷病名を聞いたことがある方は多いでしょう。
高齢者の方なども、よく「くも膜下出血」で倒れて病院に運ばれるケースがあります。
くも膜下出血は、脳の外側のくも膜の下で出血が発生し、脳が圧迫されて脳障害が起こる傷病です。
交通事故でくも膜下出血が起こる場合、外部からの衝撃が原因なので「外傷性くも膜下出血」と言います。
脳内出血
脳内出血は、脳の内部の細かい血管が破れて出血することです。
くも膜下出血とは出血の部位が異なります。
脳内出血の場合にも、やはり血液が流れ出して脳が圧迫されるので、脳に障害が起きます。
びまん性軸索損傷
高次脳機能障害の原因になりやすい症状として「びまん性軸索損傷」があります。
これは、脳全体の神経が傷ついてしまう症状です。
交通事故で、脳が強く揺さぶられることなどによってこの症状が発症します。
びまん性軸索損傷になった場合、脳外傷や脳出血と比べてMRIやCTなどで異常を発見しにくいという事例が多くあります。
高次脳機能障害で後遺障害認定を受ける要件
高次脳機能障害で、後遺障害認定等級を受けるにはどうすれば良いの?
要件を満たしていないと、高次脳機能障害として後遺障害認定を受けることが出来ないんだよ。
必要となる3つの要件について説明するね。
高次脳機能障害になった場合、仕事も日常生活も大変不便になりますから、適切に保険会社から損害賠償金を受け取る必要があります。
高次脳機能障害の場合にも、交通事故の「後遺障害」として認定を受けられます。
以下では、高次脳機能障害で、後遺障害認定を受けるための要件を説明していきます。
高次脳機能障害で重要なのは、以下の3要件です。
これらを満たす場合、高次脳機能障害と認められて、後は程度に応じて等級がつけられるという流れになります。
- 脳外傷の診断がついている
- 意識障害がある
- 典型的な精神症状が出ている
それぞれがどのような要件なのか、確かめていきましょう。
脳外傷の診断がついている
高次脳機能障害として認定されるには、高次脳機能障害の原因となる傷病の診断を受けていることが必要です。
たとえば以下のような傷病が、高次脳機能を誘発すると考えられています。
- 脳挫傷
- 外傷性くも膜下出血
- 急性硬膜下出血
- びまん性軸索損傷
これらの診断名がついておらず、単に「脳しんとう」などと診断されている場合には、高次脳機能障害として認められない可能性があります。
意識障害がある
次に、交通事故直後に意識障害があったことが非常に重要視されています。
意識障害のレベルとして、以下の2つの基準があります。
まず、事故直後から6時間以上の昏睡状態や半昏睡状態が継続した場合には、高次脳機能障害に必要な意識障害として認められます。
それがなかった場合でも、健忘状態が事故後1週間程度継続した場合にも意識障害があるとされます。
典型的な精神症状が出ている
高次脳機能障害として認められるためには、本人に典型的な精神症状がみられることが必要です。
典型的な精神症状とは、たとえば怒りっぽくなったことや忘れっぽくなったこと、認知障害や行動障害、人格の変化などです。
どの程度、こういった精神的な症状があるかにより、高次脳機能障害になっているかどうかやその程度を判断しています。
高次脳機能障害の証明方法
高次脳機能障害を証明する為には、何が必要なの?
医師の診断書や、治療で行われた画像、カルテの記載などが必要となるんだ。
高次脳機能障害であることを証明するにはどのような方法があるのか、説明します。
画像
まず、画像診断が非常に重要です。
高次脳機能障害では、基本的に画像所見がないと後遺障害認定されないからです。
重視されるのは、CTとMRIの画像です。
頭蓋骨の骨折などがあれば、CTで把握できますし、出血がある場合にはMRIで確認できます。
画像所見で問題になりやすいのは、びまん性軸索損傷のケースです。
びまん性軸索損傷は神経繊維の損傷ですが、CTは骨の撮影に使う機器ですし、MRIでも神経繊維までは把握できないので、これらの撮影によってもびまん性軸索損傷を把握できないことがあるのです。
ただ、びまん性軸索損傷となった場合、事故直後に点状の出血が発生することがあります。
また、時間の経過によって脳室が拡大してきたり脳萎縮がみられたりするので、そういった時の経過による脳の変化を追いかけていけば、びまん性軸索損傷を把握することが可能です。
このようなことから高次脳機能障害となった場合には、事故当初からMRIやCTによる画像撮影を継続していくことが必要です。
交通事故で頭に衝撃を受けて意識障害などが発生したなら、すぐにMRIやCT撮影を行い、以後継続的に入通院によって検査を継続していきましょう。
意識障害の証明
意識障害を証明するためには、病院のカルテや看護記録などを取り寄せて、本人の状態を把握する方法があります。
また、救急搬送された場合などには救急記録を取り寄せると判明することもあります。
家族による看護記録も資料になるので、事故後本人が健忘状態になった場合などには、詳細に記録をつけておきましょう。
また、後遺傷害の等級認定を申請する際には、医師に「頭部外傷後の意識障害についての所見」という書類を作成してもらう必要があります。
精神症状の証明
被害者の精神症状は、被害者の日常生活や仕事上の変化ですから、家族が一番良く知っている事情です。
具体的には家族が「日常生活状況報告書」を作成することによって証明します。
日常生活状況報告書には、本人の記憶や性格の変化、日常生活でできることとできないことなど、さまざまな項目があるので、本人の現状を正確に書いていく必要があります。
また、本人の問題行動については、できるだけ具体的に書くべきです。
日常生活状況報告書の書式だけは書き足りない場合、別紙の説明書をつけることも可能です。
被害者が子どもや学生の場合、学校生活状況も問題になるので「学校生活の状況報告」という書類を作成して提出します。
精神症状を証明するには、家族だけではなく医師による医学的意見も必要です。
そのため、医師に「神経障害に関する医学的意見」という書類を作成してもらいます。
これについても自賠責保険の書式があります。
ただ、医師は本人と一緒に暮らしているわけではなく、診察の時に短時間話を聞くだけですから、本人が具体的にどのような状況にあるのか、理解していないことも多いです。
医師に神経障害に関する医学的意見を作成してもらうときには、本人もしくは家族から、医師に対して本人がどのような状況にあるのかをじっくり伝えて、状況を正確に書類に反映してもらう事が、等級認定システムの上で大切です。
以上のように、高次脳機能障害を証明するためには、いろいろな資料が必要となり、それぞれ的確に作成する必要性が高いです。
被害者やご家族だけで対応すると証明が不十分となって後遺障害認定を受けられない可能性も出てくるので、後遺障害認定の手続きを進めるときには、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に依頼することで、弁護士基準や裁判基準での賠償金の受け取りとなりますから、慰謝料の金額が増額されます。
高次脳機能障害で認定される後遺障害の等級
高次脳機能障害の場合、後遺障害認定の等級はどの位になるの?
障害の程度によって、等級が変わるんだよ。
交通事故によって高次脳機能障害となったら、後遺障害の等級は何級になるのでしょうか?
この場合、障害の程度に応じて以下の等級が認定される可能性があります。
1級1号 | 神経系統の機能は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 本人1人では日常生活に必要なことすらできず、常時の介護が必要な状態です。 |
2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 日常生活に支障が大きく、家族による声かけや随時の介護が必要な状態です。 |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 一応介護がなくても生活できるが、仕事は一切できない状態です。 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 単純作業などであればできる可能性もありますが、学習能力がなく、集中力や適応能力などに問題があり、仕事をするには周囲の理解や援助が必要な状態です。 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 一応働けますが、一般人と同じようにはいかず、簡単な仕事しかできない状態です。 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 一般就労できますが、効率的に働くことや持続的に作業をすることなどが難しく、仕事内容が制限される状態です。 |
高次脳機能障害で請求できる慰謝料
高次脳機能障害の場合には、慰謝料はどの位受け取ることができるの?
これも後遺障害認定の等級によって変わってくるんだよ。
高次脳機能障害となったら、どのくらい損害賠償請求できるのでしょうか?
高次脳機能障害で認められる慰謝料には後遺傷害慰謝料と入通院慰謝料があるので、それぞれについてみてみましょう。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、交通事故で後遺障害が残ったときの精神的苦痛に対する賠償金です。
後遺障害の等級によって金額の相場が決まっています。
具体的には、以下の通りです。
- 1級 2800万円
- 2級 2370万円
- 3級 1990万円
- 5級 1400万円
- 7級 1000万円
- 9級 690万円
上記は目安なので、個々のケースによって増減があります。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故で被害者が怪我をしたときに加害者や、加害者側が加入している任意保険会社に請求できる慰謝料です。
後遺障害が残らなくても入通院治療を受ければ治療期間に応じた入通院慰謝料を請求できます。
高次脳機能障害の場合、リハビリなどが必要になって入通院期間が長引くことも多く、そういった場合には多額の入通院慰謝料が発生する可能性があります。
たとえば入院1か月、通院6か月の場合の入通院慰謝料は149万円、入院2か月、通院8か月の場合の入通院慰謝料は194万円、入院4か月、通院10か月の場合の入通院慰謝料は256万円が相場となります。
高次脳機能障害の場合、入通院慰謝料は100万円を超えることが多く、200~300万円、ときにはそれ以上になる可能性もあります。
後遺障害慰謝料と入通院慰謝料は別々に計算されるので、被害者はこれらを合計した慰謝料を取得できます。
慰謝料以外の賠償金
慰謝料以外にも受け取れる賠償金ってあるのかな?
治療費や、休業損害、入院費や慰謝料などの保険金の他にも、逸失利益を受け取ることが出来る可能性もあるね。
高次脳機能障害になったとき、慰謝料以外の賠償金にも注目すべきです。
特に重要となるのは後遺障害逸失利益なので、以下で説明します。
逸失利益
逸失利益とは、後遺障害が残ったことによって失われた将来の収入です。
高次脳機能障害などの後遺障害が残ると、仕事ができなくなったり、今までより簡単な仕事しかできなくなったりして、減収が発生することが多いので、その減収分を「逸失利益」として相手に請求できるのです。
高次脳機能障害の逸失利益の金額は、認定された後遺障害の等級によって大きく異なります。
1級~3級になった場合、労働能力喪失率が100%になるので、後遺障害逸失利益は非常に高額になります。
被害者の年収にもよりますが、1億円やそれを超えるケースも珍しくありません。
たとえば事故当時の年齢が35歳、年収700万円の被害者が高次脳機能障害で3級となったら、逸失利益は1億1062万1000円となります。
5級~9級の場合にも数千万円単位の逸失利益が発生することが多いです。
たとえば後遺障害5級、事故当時の年齢が30歳、年収が500万円の被害者の場合、逸失利益は6600万8450円となります。
逸失利益が認められるのは、事故前に働いていた人や主婦、学生、子どもなどの被害者です。
逸失利益は慰謝料よりも高額になることが多く、交通事故に遭ったときには正確に逸失利益を計算して請求することが大切です。
まとめ
高次脳機能障害や、受け取れる慰謝料について良くわかったよ。
等級によって受け取れる慰謝料は大きく変わってくるんだね。
高次脳機能障害は、損害賠償額が高額になるため、示談交渉が難航してしまう事も少なくないんだ。
スムーズに解決するためにも、出来るだけ早く弁護士に依頼するのがお勧めだよ。
交通事故で高次脳機能障害となった場合、本人に自覚症状がなく、周囲も「性格が変わった」「ストレスで怒りっぽくなっている」などと見過ごしてしまうこともよくあります。
また、びまん性軸索損傷の場合、MRIを撮っても異常が見つからないので、医師でも見落としてしまうケースがあります。
高次脳機能障害が疑われる場合には、早めに専門外来のある病院に行って適切な治療を受けましょう。
お困りの場合には、交通事故に強い弁護士に相談してみることをお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。