バスやタクシーに乗車している時に交通事故に遭ってしまった場合には、慰謝料は誰に請求すれば良いの?
バスやタクシーに乗車中に事故に遭ってしまった場合には、バスやタクシーに過失がない場合を除いて、全てバス会社に賠償金を支払ってもらえるよ!
じゃあ、ひき逃げに逢ってしまった場合など、相手がわからない場合には、誰に賠償請求をすれば良いの?
相手がわからない場合の事故では、政府保障事業を利用することができるんだ。
今回の記事では、交通事故によって起こりうる様々なケースの賠償金請求について、詳しく見ていこう。
ひと言で「交通事故」と言っても状況はさまざまです。
自分で自動車を運転していた場合だけではなく、バスやタクシーに乗車しているケースもありますし、歩行者と自転車の事故や、ひき逃げ被害に遭う場合、加害者が飲酒運転していた場合なども考えられます。
このようなイレギュラーな状況で交通事故に遭った場合、慰謝料や賠償金はどのくらい受け取れるものでしょうか?
今回は、バスやひき逃げ、飲酒運転などさまざまな状況で交通事故に遭った場合の損害賠償方法について、解説します。
目次
状況によって異なる交通事故慰謝料・賠償金
交通事故に遭うと、通常は事故の相手方に対して損害賠償を行います。
たとえば追突事故に遭った場合には、追突してきた相手方や相手の保険会社に賠償金を支払ってもらいます。
しかし交通事故によっては、事故の相手以外の人にも賠償金を請求できるケースがあります。
たとえば、バスやタクシーに乗車していたときには、バスやタクシーの運転手にも過失がある場合が多いです。
その場合、バスやタクシーの運転手にも賠償金の請求が可能です。
また、ひき逃げに遭った場合には、事故の相手方が明らかにならないので、相手が見つかるまでは相手方本人や保険会社に請求することができません。
その場合、政府による補償を受けることができます。
また、相手が飲酒運転していた場合もあります。
この場合、相手の過失割合が大きく高まるので、請求できる金額が高額になりやすいです。
ただし相手が飲酒を否認するケースもありますし、相手の保険会社が被害者を丸め込んできて賠償金を低く抑えられてしまうリスクがあります。
以下では、こうしたさまざまな状況における交通事故の慰謝料、賠償金の問題について、詳しくみていきましょう。
バスが交通事故を起こしたときの乗客の損害
バスに乗車している時に交通事故が起きたら、乗客全員慰謝料を受け取ることができるの?
持っている物が壊れてしまったり、怪我をしていなければ、賠償金を受け取ることはできないんだよ。
バス乗車中の事故は、一般道でも高速道路でも乗客が怪我をしていなければ、物損事故となるんだ。
まずは、バスに乗車していたときの交通事故の損害賠償について、説明します。
基本的にタクシー車両でも同じです。
バス乗車中の事故で受け取ることができる賠償金の種類
バスに乗車中に交通事故に遭ったとき、どのような賠償金を請求できるのでしょうか?
交通事故の賠償金の種類は、ケガをしたかどうかで異なります。
ケガをしていない場合には、「物」に発生した損害のみを請求できます。
たとえば、持っていたスマホや眼鏡、時計などが壊れた場合には、そういったものの修理費用を支払ってもらえたり、時価の弁償を受けたりすることができます。
壊れた物がない場合には賠償金の請求ができませんし、慰謝料請求はできません。
物が壊れても慰謝料が発生するほどの精神的苦痛は発生しないと考えられているからです。
つまり、物損事故扱いになります。
これに対し、事故の際にケガをした場合には、以下のような損害賠償が可能です。
- 治療費
- 付添看護費用
- 入院雑費
- 通院交通費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
【後遺障害が残った場合】
- 後遺障害慰謝料
- 後遺障害逸失利益
【死亡者が出た場合】
- 葬儀費用
- 死亡慰謝料
バスやタクシーに乗車していたときの交通事故でも、通常の人身事故と同様の損害賠償ができます。
人身事故の場合には被害者の受ける精神的苦痛が大きくなるので、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、死亡慰謝料などの慰謝料請求が可能です。
被害者が死亡した場合には、相続人が、賠償金請求を行います。
バス乗車中の事故で、賠償金は誰に請求するのか
バスやタクシーに乗車中に事故に遭ったとき、賠償金を誰に請求すべきかが問題となります。
賠償請求の相手方は、単独事故か相手が事故かによって異なるので、分けてみてみましょう。
バスの単独事故の場合
まずは、バスの単独事故の場合に賠償金を請求する相手方は誰なのか、説明します。
基本はバス運転手とバス会社
単独事故とは、運転手の運転ミスなどの過失により、バスのみが損害を受ける交通事故です。
典型的な単独事故は、運転ミスでガードレールや施設にぶつかったり溝にはまったり崖から落ちたり中央分離帯に乗り上げたりする場合などです。
バスの単独事故は、100%バスの運転手の過失によって引き起こされます。
そこで、バスの運転手に不法行為が成立し、ケガをした乗客はバスの運転手に対して賠償金の請求ができます。
また、バス会社はバスの運転手を使って利益を得ているので、バス会社には「使用者責任」が発生します。
そこで、バスの単独事故に遭ったときには、バスの運転手とバス会社の両方に対して慰謝料や賠償金の請求が可能となります。
タクシーの場合も同様で、タクシー運転手とタクシー会社の両方に賠償金の請求ができます。
運転手とバス会社、どちらにどれだけ請求できるのか
バスの運転手とバス会社の両方に賠償金の請求ができるとき、「どちらにどれだけ請求すれば良いのか?」と迷ってしまいますよね?
実はこのように、2人以上の人に不法行為が成立するときには、両方に対して全額の損害賠償請求ができます。
バスの運転手に半額、バス会社に半額、というように分けて請求する必要はありません。
複数の人に不法行為が成立する場合、「共同不法行為」となり、それぞれの不法行為者は「連帯責任」を負うからです。
バス会社に全額の賠償金を請求したとき「まずは運転手本人に支払い請求するように」などと言われることはありません。
バス運転手に資力がなくても、バス会社に資力があったら全額の賠償金を支払ってもらうことができます。
車内事故となってしまった場合の対応
さて、バス車内で単独事故に遭うパターンには「車内事故」という特殊な事故形態があります。
車内事故とは、バスの運転手が急ブレーキをかけたときなどに、はずみで車内の乗客が転倒するなどしてケガをする事故のことです。
対外的には被害が発生していないけれども、バス車内だけで人身事故となってしまうので、車内事故と呼ばれます。
被害者のほとんどは高齢の女性で、昼間の時間に発生することが多いと言われています。
足元のおぼつかない高齢の方の場合、バス車内で立って動こうとした瞬間に転倒し、頭を強打して死亡してしまう事例もあります。
バスの車内事故の責任
車内事故であっても、通常一般の単独事故(人身事故)として扱われるので、警察に報告をして、人身事故扱いにしてもらう必要があります。
車内事故だから報告をしなくても良いということにはなりません。
もしもバス車内で人が転倒してケガをしたのに、バス運転手が無視してバスを発進させて運行を続けたら道路交通法違反です。
また、車内事故も人身事故の1種ですからバスの運転手とバス会社の両名が損害賠償責任を負います。
請求できる賠償金の種類も、上記で紹介した人身事故の賠償金と同様です。
車内事故に遭ったときの適切な対処方法
車内事故に遭ったら、すぐに自分からケガをしたことをアピールして、警察を呼ぶように要求すべきです。
何も言わないと、気づいてもらえずにそのままバスを発進されてしまう可能性が高いからです。
その場で警察を呼んでもらえなかったら、後から申告しても車内事故の証拠がなく、信じてもらえないかもしれません。
事故がなかったことにされて賠償金を支払ってもらえなくなるおそれもあります。
また、人身事故を起こすと免許停止や取消になるおそれが高いので、運転手が積極的に警察を呼ばない可能性もあります。
さらに車内事故は、「当たり屋の温床」とも言われており、バスの運転手が懐疑的な目を向けてくるケースもあります。
当たり屋は、赤信号でバスが止まった瞬間にわざと尻餅をついて「転倒した」などと言い、事故を偽装したりする人です。
もちろんこのような悪質な当たり屋でないケースも多いのですが、バス運転手にしてみると、悪質な当たり屋と本当の被害者の区別がつきにくいので、真摯に対応しないケースがあります。
車内事故に遭ったとき、ケガがたいしたものではないと考えて、申告しない被害者がおられます。
しかし、事故後数日経ってから痛みが出てくるケースもあります。
その場合、後から病院に行って「実はあのとき転倒してケガをした」と言っても、信用してもらえない可能性が高くなります。
バス乗車中に転倒したり身体をぶつけたりしたら、必ずその場で申告して警察を呼んでもらいましょう。
相手のある事故の場合
次に、バス乗車中の事故で、事故の相手がいる場合について説明します。
相手のある事故では、バス運転手に過失があるかないかで対応が変わってくるので、分けてみてみましょう。
バス運転手に過失がない場合
バス運転手に過失がない場合には、事故の相手方に全面的な責任が及びます。
たとえば相手が一方的に後ろから衝突してきた場合や、バス運転手が信号を守っているのに相手が赤信号で突っ込んできた場合などです。
このような場合、バス運転手には不法行為が成立しないので、バス運転手には賠償金の請求ができません。
またバス運転手に不法行為が成立しない以上、バス会社にも慰謝料を払ってもらうことはできません。
この場合、慰謝料や賠償金請求は、事故の相手方に対して行います。
事故の相手方の一方的な過失によって損害が発生しているからです。
通常は、事故の相手方の保険会社側に賠償金の請求を行うことになりますが、相手が保険に入っていなかったら相手本人に慰謝料や賠償金を払ってもらう必要があります。
運転手と相手方の双方に過失がある場合
次に、バス運転手にも事故の相手方にも、双方に責任がある場合をみてみましょう。
この場合には、バス運転手と事故の相手方の双方に不法行為が成立します。
すると、先に説明したのと同じ「共同不法行為」となり、バス運転手と事故の相手方は「連帯責任」を負います。
また、バスの運転手に不法行為が成立する以上、バス会社にも使用者責任が発生します。
そこで、被害者は、バスの運転手とバス会社、事故の相手方の3者に慰謝料や賠償金の請求ができます。
それでは、この場合、誰にどれだけの賠償金を請求できるのでしょうか?
バスの運転手と事故の相手方にはそれぞれ過失割合があるので、それぞれの過失割合にもとづいた金額の請求しかできないのでしょうか?
実は、このような場合にもやはり3者全員に「全額の賠償金請求」ができます。
全員の連帯責任となるためで、バス運転手と事故の相手方の過失割合は無視できます。
たとえバス運転手の過失割合が1割でも、バス運転手やバス会社に全額の賠償金や慰謝料を支払ってもらえます。
それでは、事故の相手は一円も賠償金を支払わなくて良いのでしょうか?
そういうわけではありません。
たとえばバス会社が全額の賠償金を支払ったときには、事故の相手に対し、過払い分(事故の相手方が負担すべき分)を求償できます。
またバスの運転手にも、同じくバス運転手が負担すべき分を求償可能です。
事故の相手やバス運転手が逃げ得になることはないのです。
このように、法律では加害者相互の問題は加害者間で処理するようになっていて、被害者はそこに配慮する必要がありません。
被害者としては、バス運転手、バス会社、事故の相手方のうち、もっとも請求しやすい人に請求をすれば足ります。
ひき逃げに遭ってしまった場合の損害賠償請求
ひき逃げに遭ってしまった場合には、どうすれば良いのかな?
損害保険会社に出向いて、政府保障事業の利用申請をしよう!
次に話を変えて、ひき逃げに遭ってしまった場合の損害賠償請求について説明します。
加害者不明の場合、加害者や保険会社に請求できない
一般的な交通事故の場合には、事故の相手方が加入している任意保険会社などの自動車保険に対して損害賠償請求を行います。
事故を起こした本人が任意保険の契約者ではなくても、配偶者が任意保険に加入していると、家族内で保険適用となる契約となっている事が多いでしょう。
相手が保険に入っていない場合には、自賠責保険と相手本人に慰謝料や賠償金を払ってもらいます。
しかしひき逃げの場合、相手が不明なケースが多いです。
その場合、相手も保険会社も不明なので、賠償金の請求ができなくなってしまいます。
自賠責保険会社も不明なので、自賠責保険金すら受けとることができません。
政府保障事業を利用する
ひき逃げに遭ったときには、「政府保障事業」という制度を利用して補償を受けることができます。
政府保障事業とは、事故の加害者が自賠責保険に入っていない場合や、ひき逃げなどで相手が不明で自賠責保険から保険金を受け取れない場合に、政府が代わって補償を行う制度です。
政府保障事業によって支払われるお金のことを「てん補金」と言い、支払われる金額は自賠責保険の保険金と同じになります。
政府保障事業が適用されるケース
政府保障事業を利用できるのは、以下のようなケースです。
- ひき逃げ事案で、加害者が不明なケース
- 加害者が自賠責保険に加入していないケース
- 泥棒運転などで、車の所有者に責任が発生せず自賠責保険が適用されないケース
政府保障事業を利用する方法
政府保障事業を利用するには、お近くの損害保険会社の窓口に行って、政府保障事業の利用申請をする必要があります。
以下の書類を揃えて相談に行きましょう。
- 交通事故証明書
- 印鑑登録証明書
- 事故発生状況報告書
- 診断書、診療報酬明細書
- 後遺障害診断書
- 通院交通費明細書
- 休業損害診断書
申請をすると、損害保険料率算出機構で調査が行われ、その結果に応じててん補金が支払われます。
飲酒していた場合の過失割合
交通事故の相手が飲酒していると、賠償金が多くなるって聞いたんだけれど本当?
飲酒をしていると、相手の過失割合が上がるから、その分賠償金額が高くなる可能性があるね。
飲酒していると、相手の過失割合が上がる
交通事故で、相手が飲酒していたら慰謝料や賠償金にどのような影響が及ぶのでしょうか?
飲酒運転は犯罪ですから、飲酒運転が発覚すると、相手は刑事事件になる可能性が高いです。
ただ、相手に犯罪が成立するからと言って、賠償金がアップするわけではありません。
たとえ被害者死亡でも、犯罪が成立し、相手には過失致死罪、過失致死傷罪などの刑事罰が与えられるだけです。
逮捕され容疑者となり懲役を受けたとしても、民事の賠償金支払いには直結しないのです。
ただ相手が飲酒していた場合には、相手の「過失割合」が高くなるので、請求できる賠償金が高額になる可能性が高まります。
具体的には、相手が飲酒していると通常の過失割合よりも5~20%程度加算されます。
相手が酒気帯び運転の状態であれば著しい過失があるとして5~15%程度、相手が酩酊状態で酒酔い運転をしていた場合には、重過失があるとして10~20%程度、過失割合が上げられます。
相手が飲酒していた場合には、相手の飲酒状態も考慮した上で適切な過失割合を算定してもらう必要があります。
飲酒運転の事故で、慰謝料を増額させる方法
相手が飲酒運転をしていて事故に遭ったら、納得できないし許せないと思いますよね。
その場合、どうすれば慰謝料を増額できるのでしょうか?
加害者が飲酒運転していた場合でも、加害者はなんとかして責任逃れしようとすることが多いです。
「お酒を飲んでいなかった」「少ししか飲んでいなかった」「飲んでから時間が経っていた」「ほとんど運転に影響がなかった」などと言い訳をして、過失割合を小さくしようとします。
相手の保険会社もあまり多額の保険金を支払いたくないので、飲酒による過失割合の加算を行わず、通常通り過失割合を計算して被害者側の過失割合を高くされてしまうこともあります。
また、たとえ過失割合が適正に算定されたとしても、被害者が自分で示談交渉をすると、低額な任意保険会社の基準で慰謝料が計算されるので、賠償金が下がってしまいます。
飲酒運転のケースで適切な賠償金を支払ってもらうには、弁護士に対応を依頼する必要があります。
弁護士であれば、相手の飲酒状況を明らかにして、飲酒による過失割合の加算を的確に当てはめます。
また弁護士が示談交渉をすると、法的な基準である弁護士基準が適用されて、慰謝料の金額が大幅に増額されます。
たとえ、相手が納得せず、裁判になったとしても、弁護士に依頼しておけば、有利な判決になる可能性が高くなります。
飲酒運転の交通事故で泣き寝入りしないため、早めに交通事故に強い弁護士に相談しましょう。
まとめ
交通事故は、状況によって対応が変わってくるんだね!
バス乗車中の事故について、詳しく知ることが出来たよ!
交通事故は状況によって、賠償金や請求先が変わってくるから、わからない事は弁護士に相談して、弁護士回答を得るのがお勧めだよ!
交通事故にはいろいろなケースがあります。
バス乗車中、ひき逃げ、飲酒運転の事故など、それぞれのケースで適切な対応が必要です。
自分一人でできることには限界があるので、交通事故に遭ったらお早めに弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。