人身事故に遭ってしまったら、加害者側の保険会社が、交通事故慰謝料や治療費などの賠償金の手続きを進めてくれるんでしょ?
そうだね!
だけど、自分自身で自賠責保険会社に被害者請求を行う事も出来るんだよ。
相手方保険会社が手続きをしてくれるのに、なんで自分自身で手続きをする必要があるの?
よし!
では早速被害者請求によるメリットやデメリットを詳しく見ていこう!
交通事故に遭ったら、加害者の任意保険会社だけではなく自賠責保険からも賠償金(保険金もしくは共済金)の支払いを受けられます。
ただ、自賠責保険から保険金が支払われる場合、加害者の任意保険会社が一括で対応する「一括対応」や「事前認定」のケースと、被害者が自分で保険金を請求する「被害者請求」のケースがあります。
今回は、自賠責保険の「被害者請求」とはどのような手続きで、どのようなときに利用するのか、また有効な活用方法を説明します。
目次
被害者請求とは
まずは「被害者請求」とはどのようなことなのか、みてみましょう。
被害者請求は、被害者が自賠責保険へ直接請求する手続き
交通事故の保険は、自賠責保険と任意保険の2段階になっています。
まずは自賠責保険から最低限の保険金が支払われて、それだけでは不足する部分について、任意保険会社から支払われる仕組みです。
被害者請求とは、被害者が加害者の自賠責保険に対し、自分で直接保険金を請求する手続きです。
これに対し、加害者の任意保険が自賠責保険の手続きに対応することを「一括対応」や「事前認定」と言います。
以下で、より詳しく説明します。
通院治療費の一括対応とは
交通事故後に通院治療を受けるときには、加害者の任意保険会社が病院へと直接治療費を支払うので、被害者が治療費を負担しなくてかまいません。
これは加害者の保険会社が、自賠責保険の負担分までを立て替えて病院に治療費を支払っているからです。
このように、任意保険会社が自賠責保険の負担分まで一括で対応することを「一括対応」と言います。
後遺障害の事前認定とは
被害者が後遺障害認定を受けるときには、任意保険会社が自賠責保険に対し、後遺障害認定の手続きを代行して行うことが多いです。
被害者自身が後遺障害認定の手続きを進める必要はありません。
この対応のことを「事前認定」と言います。
一括対応、事前認定を適用しない場合に被害者請求になる
交通事故のケースによっては一括対応や事前認定を適用せず、被害者が直接加害者の自賠責保険へと保険金を請求したり、後遺障害等級認定の手続きを申請したりすることがあります。
それが被害者請求です。
被害者請求と一括対応、事前認定の違い
被害者請求と事前認定にはどんな違いがあるの?
事前認定の場合には、被害者側は通院する時にもお金を払う必要がないんだ。
だけど、被害者請求の場合には、かかった費用を後から請求するような形になるよ。
被害者自身が保険金請求をする「被害者請求」と加害者の保険会社が対応する「一括対応」、「事前認定」とでは何が異なるのか、より詳しくみてみましょう。
治療費の支払い
「一括対応」が適用されて加害者の任意保険会社が治療費を立替払いする場合には、被害者は病院で治療費を支払う必要がありません。
お金を持っていかなくても治療を受けられます。
しかし一括対応が打ち切られた場合や当初から適用されない場合には、被害者は自分で病院の窓口において治療費を支払う必要があります。
自賠責保険に対しては、「被害者請求」によって自分で保険金を請求しないと、治療費に相当する保険金を払ってもらうことができません。
後遺障害認定について
後遺障害の「事前認定」の場合には、加害者の保険会社が後遺障害等級認定請求の手続きを代行するので、被害者はほとんど何もする必要がありません。
医師に後遺障害診断書を書いてもらい、相手の保険会社の担当者に渡せば、手続きを進めてもらえますし、結果が出たら、加害者の保険会社の担当者から通知されます。
「被害者請求」の場合には、被害者が自分で後遺障害診断書以外の資料もすべて自分で揃えて、自賠責保険に対し、申請しなければなりません。
その代わり、被害者に有利な資料などを集めて提出しやすいです。
結果については、直接自賠責保険から被害者へと通知されます。
交通事故後、治療費の支払いや後遺障害認定は被害者にとって非常に重要なポイントですが、被害者請求はそのどちらにもかかわってくる重要な手続きです。
被害者請求をすべきケース
被害者請求はどんな時に利用すれば良いの?
加害者が任意保険に入っていない場合や、自分の過失割合が高い場合、その他にも仮渡金を受け取りたい場合や、後遺障害が残る場合などは、被害者請求を利用する事になるね!
次に、交通事故被害者が「被害者請求」をすべきケースはどのような場合なのか、みてみましょう。
加害者が任意保険に加入していないケース
1つ目は、加害者が任意保険に加入していないケースです。
一般的な交通事故の事例において、被害者が自分で加害者の自賠責保険に対して保険金を請求しなくて良いのは、加害者の任意保険会社が自賠責保険の手続きを代行してくれるからです。
ところが加害者が任意保険に入っていない場合、加害者本人は自賠責保険の手続きを代行しないので、被害者自身が加害者の自賠責保険へ保険金請求する必要があります。
治療費についても、何もしなければ自賠責保険から支払ってもらうことができないので、被害者請求により、実費や付添看護費用、雑費などの保険金を請求する必要があります。
休業損害や入通院慰謝料についても、自分で請求しなければなりませんし、後遺障害等級認定も被害者自身が進める必要があります。
加害者の保険会社が対応を拒否する場合
加害者が任意保険に加入しているケースであっても、任意保険会社が対応を拒否するケースがあります。
たとえば、被害者の過失割合が高すぎる場合には、過失相殺すると任意保険会社の負担部分が発生しない可能性が高くなるので、事故当初から任意保険会社が対応を支払いに応じないことが多いです。
このような場合、任意保険の一括対応によって治療費や休業損害等を受けとることができないので、被害者請求によって自賠責保険金を請求する必要があります。
後遺障害が残った場合の後遺障害等級認定も、被害者自身が進めなければなりません。
仮渡金を受けとりたい
自賠責保険には「仮渡金」という制度があります。
仮渡金とは、交通事故の示談が成立する前に、仮に被害者に対して支払われる保険金です。
交通事故に遭った被害者は、死亡したり仕事ができなくなったりして収入がなくなったり減ったりするのに、葬儀費用やケガの治療費や諸雑費などがかさんで経済的に困窮することがあります。
そのような被害者のために、示談が成立する前の段階で、仮に自賠責保険金の一部を支給するのが仮渡金です。
仮渡金を受けとった場合には、後に示談が成立したときの賠償金から受けとり済の仮渡金額が差し引かれます。
仮渡金が支給される場合とそれぞれの金額は、以下の通りです。
- 死亡事故 290万円
- 重傷の傷害事故 40万円
- 中程度の傷害事故 20万円
- 軽傷の交通事故 5万円
仮渡金を受けとるためにも、自賠責保険に対する被害者請求の手続きが必要です。
ただし治療費の一括対応を受けているときに「被害者請求」によって仮渡し金請求をすると、一括対応が打ち切られます。
すると、被害者が窓口で治療費を支払わないといけなくなるので、注意が必要です。
後遺障害等級認定を受けたい
被害者請求が大きな威力を発揮するのは「後遺障害等級認定」の場面です。
交通事故で被害者に後遺症が残ったら、加害者の自賠責保険に申請をして「後遺障害等級認定」を受ける必要があります。
後遺障害等級認定とは、交通事故の後遺症を正式に「後遺障害」として認め、症状の程度に応じて14段階に分類する制度です。
後遺障害等級認定をする場合、被害者は事前認定をするか被害者請求をするか、選ぶことができます。
被害者が自分で示談交渉に対応するときには、任意保険会社が当然のように後遺障害認定の手続きを進めて「事前認定」されてしまうことが多いですが、弁護士が対応する場合には、より確実に認定を受けるため、「被害者請求」を選択することもよくあります。
被害者請求をした方が、より高い等級の後遺障害認定を受けやすくなる事例が多いです。
事前認定と比べた被害者請求のメリット
被害者請求にはどんなメリットがあるの?
後遺障害認定等級を取得する時に、自分に有利な書類を提出することができるから、より高い等級になりやすいんだ。
以下では、特に後遺障害等級認定の場面において、「事前認定」と比較して「被害者請求」にどのようなメリットがあるのか、説明します。
被害者に有利な証拠を提出しやすい
被害者請求の場合、被害者に有利な証拠を集めて提出しやすいです。
事前認定の場合には、基本的に加害者の保険会社の担当者に後遺障害診断書を渡すだけで手続きが終わってしまい、被害者が他に追加資料を提出する機会は少ないです。
後遺障害の症状の証明が微妙な場合や因果関係が争われる事案では、追加の説明や資料が必要なことが多いのですが、事前認定の場合、そういった対応ができないので後遺障害の認定を受けにくくなってしまいます。
被害者請求であれば、被害者が自主的に医師の意見書や追加の検査結果についての資料、説明書などを提出できるので、より確実に後遺障害認定を受けやすいです。
手続きの透明性を保てる
事前認定で加害者の保険会社に後遺障害等級認定を任せてしまうと、被害者は手続きに関与できないので、どのような手法で請求手続きが進められているのかわかりません。
加害者の保険会社の担当者がきちんと対応をせずに放置していると、なかなか手続きが進まないこともありますし、ときには保険会社の産業医に被害者に不利な内容の意見書を書かせて提出する事例もみられます。
被害者に後遺障害が認定されると、高額な後遺障害慰謝料や逸失利益の支払いが必要となり、加害者の保険会社は負担となるので阻止しようとするのです。
そのようなことをされては、被害者にとって不利益しかありません。
被害者請求であれば、被害者自身が手続を進めるので、相手の保険会社に勝手に不利な資料を提出されるおそれはありませんし、放置されることなどもなく、安心です。
早期に保険金を受け取れる
被害者請求をすると、後遺障害の等級が認定された段階で、自賠責基準の後遺障害慰謝料と逸失利益を受けとることができます。
自賠責保険への請求は、任意保険会社との示談交渉とは独立した手続きなので、自賠責での決定があれば、示談とは無関係に支払いが行われるからです。
事前認定を利用した場合には、保険金の支払いについても加害者の保険会社を通じることになるので、示談が成立しない限り後遺障害についての賠償金も受け取れません。
早期に示談金を受け取れるのも、被害者請求のメリットです。
事前認定を比べた被害者請求のデメリット
被害者請求にはデメリットはあるの?
手続きや、書類集めが面倒という点や、書類を集めるのに費用が掛かってしまう事などがデメリットになるね!
一方、被害者請求にはデメリットもあるので、確認しましょう。
手続きが面倒で手間がかかる
被害者請求は、事前認定と比べて非常に手間がかかります。
事前認定なら後遺障害診断書1枚を医師に作成してもらうだけで足りますが、被害者請求の場合には、保険金請求書や事故発生状況報告書を作成しないといけませんし、交通事故証明書や診断書、診療報酬明細書など、たくさんの資料を集める必要もあります。
請求書類の提出後も、損害保険料率算出機構からいろいろな連絡があって追加の資料提出などに対応しなければなりません。
手続きが複雑で、被害者1人では活用しにくい
被害者請求の方法は、上手に利用できれば有利に後遺障害認定を受けやすいですが、手続きが複雑な分、使いこなすのが難しい方法です。
弁護士ならば、慣れているのでケースに応じた適切な資料等を入手して、より効果的に後遺障害認定を受けられるように活用できますが、被害者が自分で対応すると、手続きの利点を十分に活かしきれず、単に面倒なだけで終わってしまう可能性が高くなります。
費用が必要になることがある
被害者請求を行うときには、病院から診断書や診療報酬明細書、検査資料などを入手しなければなりませんが、その際には費用がかかります。
病院や取り寄せる資料の分量にもよりますが、数万円程度が必要になることが多いです。
被害者請求すべき場合
被害者請求のメリットを受けやすいのはどんな時なの?
後遺症が残る可能性が高い場合には、被害者請求を利用するのがお勧めだよ!
被害者請求にはメリットもデメリットもありますが、被害者請求すべきケースは以下のような場合です。
- 後遺障害の症状の立証が不十分として争われる可能性がある
- 交通事故と症状の因果関係が争われる可能性がある
- 後遺障害の等級判断が微妙な場合
つまり「確実に後遺障害認定される場合」以外は、弁護士に依頼して被害者請求をした方が、後遺障害認定される可能性が高まってメリットが大きくなります。
被害者請求の流れ
後遺障害認定申請を自分で行うには、まず何から始めれば良いのかな?
自分自身で書類を集めてから、自賠責保険会社に提出しよう!
被害者請求をするときには、以下のように進めましょう。
書類提出によって申請する
まずは、被害者請求に必要な書類を集めて、加害者の自賠責保険に対して提出します。
必要書類は、以下の通りです。
- 保険金請求書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 診断書
- 診療報酬明細書(レセプト)
- 通院交通費明細書
- 印鑑証明書
- レントゲンやMRIなどの検査結果の資料
- 休業損害証明書
損害調査
必要書類が自賠責保険に提出されると、自賠責保険は、「損害保険料率算出機構」の「調査事務所」に書類を送り、調査を依頼します。
損害保険料率算出機構とは、交通事故で発生した損害賠償金を計算する機関です。
調査の依頼を受けると、調査事務所は、交通事故の発生状況や損害賠償額、被害者の症状が後遺障害に該当するかどうかなどを調べます。
調査結果の報告
調査が終了すると、損保料率機構調査事務所は自賠責保険会社に対し、その結果を報告します。
それを元にして、自賠責保険は後遺障害を認定するかどうか及び、認定する場合の等級、支払うべき保険金の金額を決定します。
保険金の支払い
後遺障害認定結果が出て保険金の金額が決定されたら、自賠責保険は被害者に対し、決定した保険金を支払います。
当初に提出する保険金請求書に支払先の銀行口座を記入しているので、このとき別途指定しなくても、その口座宛にお金が入金されます。
異議申立の段階から被害者請求に移行できる
納得できない等級だった場合には、何か対策はないのかな?
そんな時には、異議申し立てをして、被害者請求により再度審査を依頼しよう!
後遺障害等級認定請求をしても、被害者が期待していたような結果が出ないことがあります。
その場合には、自賠責保険に対し、再審査を求めることができます。
再審査のことを「異議申立て」ということも多いです。
当初の請求の際に事前認定を利用した場合であっても、異議申立てするときには「被害者請求」に切り替えることが可能です。
異議申立ての際に被害者請求に切り替えるためには、被害者請求に必要な書類を集めて自賠責保険に対して「異議申立書」を提出します。
すると、自賠責保険の損害保険料率算出機構で再度調査が行われ、1度目の認定が誤りであれば、認定結果が変わる可能性があります。
ただし、同じ機関が調査と判断を行うので、異議申立を成功させるには、一度目とは異なる診断書や資料を提出する必要があります。
被害者請求を有利に進めるために
被害者請求を少しでも有利にするためにはどうしたら良いのかな?
交通事故案件を得意としている弁護士に依頼するのがお勧めだよ!
交通事故で後遺症が残った場合には、後遺障害等級認定を受けて後遺障害慰謝料や逸失利益を請求する必要があります。
後遺障害が認められるかどうか微妙な場合には、被害者請求を活用して、自分の手で手続きを進めることにより、確実に後遺障害等級認定を受けましょう。
ただ、被害者請求の手続きは、素人の方が使いこなすのは難しい方法です。
手続きの進め方についての知識やノウハウだけではなく、ある程度の医学的知識まで必要とされます。
成功させるには、交通事故に詳しい弁護士に対応を依頼する必要性が高いので、被害者請求を有利に活用するために、まずは弁護士に相談してみましょう。
まとめ
交通事故に遭ってしまったら、任意保険会社に任せておけば良いと思っていたけれど、被害者請求を利用した方が良いケースもあるんだね!
後遺障害等級を受けられる場合には、弁護士に依頼して、被害者請求を進める方が、確実に多くの損賠賠償額となるんだ。
弁護士費用を心配する人が多いんだけれど、増額した賠償金で弁護士費用を賄う事ができる事がほとんどとなるから、まずは相談してみよう!
交通事故で後遺症が残った場合には、被害者請求が有効なケースが多いです。
交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士は、たいてい後遺障害等級認定の手続きに長けていますし、上手に被害者請求を利用して後遺障害の認定を勝ち取ってくれるでしょう。
後遺症が残り、相手の保険会社に認定を任せてしまうことに不安を抱えているならば、一度交通事故に強い弁護士に相談してみることをお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。