先日、元「モーニング。娘」の吉澤ひとみさんが、飲酒運転でひき逃げ事故を起こしたことが大きなニュースとなりました。
「飲酒運転、ひき逃げ」というとかなり重大な交通違反であり、罪も重くなることは一般の方でも理解できます。
ただ具体的にどのような罪が成立するのか、どのくらいの刑罰になるのか、過失割合や示談金がどのくらいになるのかなど、吉澤被告に及ぶ責任について正確に把握している方は少ないでしょう。
今回の記事では、交通事故を起こした吉澤ひとみ容疑者の過失割合や示談金がどのくらいになるのか、予想される刑罰の内容など、事故から学べることを主に解説していきます。
目次
吉澤さんの起こした交通事故の内容
「吉澤ひとみさんが飲酒運転をした上でひき逃げ事故を起こした」
その事実はニュースなどで報道されていますが、具体的な状況を見たことがない方もおられるでしょう。
まずは動画により、状況を確認してみて下さい。
これを見るとわかりますが、吉澤さんは自動車を運転して直進し、横断歩道を渡ろうとしていた自転車と歩行者をはねています。
信号機の色は黄色でしたが右矢印が出ているので、直進車は走行が許されない状態です。
つまり吉澤さんは信号無視をして横断歩道に突っ込み、青信号を守って渡ろうとしていた歩行者や自転車をはねています。
しかも当時吉澤さんは飲酒しており、横断歩道に突っ込む際にもまったく躊躇していません。
事故を起こした後も、吉澤さんは停車せずにそのまま走り去っています。
このような行為は「ひき逃げ」に該当します。
つまり吉澤さんは、飲酒運転をした上で信号無視によって横断歩道を渡っていた自転車や歩行者をはねてそのままひき逃げするという、非常に悪質な交通事故を起こしているのです。
吉澤さんの交通事故の過失割合
吉澤さんの過失割合は100%
交通事故が発生したときには、加害者と被害者の「過失割合」が問題になることが多いです。
被害者側にも過失割合が認められる場合には、賠償責任が減り、被害者が加害者に請求できる損害賠償金の金額をその分減額されるからです。
それでは今回の吉澤さんの事故で、吉澤さんと被害者の過失割合はどのくらいになるのでしょうか?
結論から言うと、この事故では一方的に吉澤さんが悪く、過失割合が100%となります。
被害者の過失割合は0%です。
その理由はいくつかあります。
吉澤さんは信号無視している
まず、吉澤さんが信号無視をしていることが問題です。
本件では、吉澤さんの進行方向の信号は黄色ですが、右矢印信号が出ているので、直進車側、対向車側にとっては赤信号と同じ意味です。
それにもかかわらず、吉澤さんは信号無視をして横断歩道に突っ込んでいます。
道路交通法上、信号機の色による指示は絶対的なので、無視した吉澤さんの責任は重いです。
吉澤さんが飲酒している
次に吉澤さんが飲酒していたことが問題となります。
一般的な交通事故の事案で、当事者が飲酒していると「著しい過失」または「重過失」が認められて、基本の過失割合が修正されます。
一般的に酩酊状態にまでは至っていない「著しい過失」の場合に5~15%程度、酩酊状態に至っている「重過失」の場合には10~20%程度、過失割合が加算されます。
吉澤さんの場合、酩酊状態にまでは至っていなかったようですが、それでも立場は非常に悪くなります。
吉澤さんが減速していない
今回の事故の際、吉澤さんは横断歩道手前でもまったく減速していません。
道路交通法上、自動車が横断歩道の付近を通行するときには、いつでも止まれるように注意して運転しなければならないとされています。
それにもかかわらず、躊躇なく横断歩道に突っ込んでいるので、吉澤さんには道路交通法違反の行為があると言えます。
交通事故が横断歩道上で、相手が自転車や歩行者
さらに、事故の現場にも問題があります。
道路交通法上、横断歩道は歩行者のための道路なので、横断歩道上を渡っている歩行者は絶対的とも言える保護を受けます。
例外的に歩行者が信号無視をしていたら保護されなくなりますが、今回信号無視していたのは吉澤さんの方であり、歩行者は信号を守っています。
また自転車についても同様で、きちんと信号を守って横断歩道を走行していたのですから、歩行者に準じて保護されます。
結局、横断歩道に突っ込んだ吉澤さんの責任は非常に重いということです。
以上のように、本件交通事故において吉澤さんには「不利な要素」しかなく、過失割合は100%となります。
示談金はどのくらいになるのか?
本件で気になるのは、「吉澤さんが被害者に支払う示談金がどのくらいの金額になるのか?」ということでしょう。
一般的な交通事故の示談金
一般的な交通事故の場合、示談金の金額は、被害者に発生した損害内容に応じて決まります。
被害者が大けがをしたり死亡したりすれば慰謝料は高額になりますし、被害者が軽傷や無傷の場合には示談金は低額になります。
そして、加害者が自賠責保険や任意保険に加入している場合、保険会社が被害者に示談金を支払うので、加害者が自腹を切る必要はありません。
本件で、死亡者は出ず、幸い被害者は軽傷であったと報道されています。
そうだとすると、本来であれば示談金は1000万円かそれ以下になる可能性が高いです。
吉澤さんは自賠責保険、任意保険の保険料を支払っているでしょうから、示談金は全額保険屋が支払い、吉澤さん自身は負担しないのが原則です。
吉澤さんは刑事裁判のため、被害者と示談する必要がある
ただし本件のように加害者が有名人であり、なおかつ刑事事件になる可能性が高い場合、一般的な事故とは処理方法が変わってくる可能性があります。
吉澤さんの場合、交通事故が非常に悪質なので、吉澤さんは検察官によって起訴されています。
今は保釈されて外に出ていますが、刑事裁判が続いているのです。
後に説明をしますが、今回の吉澤さんの刑事裁判では、放っておくと「実刑判決」になる可能性も高いです。
実刑になると、判決と同時に刑務所に行かねばなりません。
そのような結果を避けるには、被害者の女性と男性に対し、謝罪の意思を明確にして被害弁償を行い、被害者から許してもらい、できれば罪を軽くするように嘆願してもらう必要があります。
高額な示談金を要求される可能性が高い
吉澤さんのような有名人で、夫がIT社長ということになると、通常一般程度の示談金額では被害者も納得できませんし、それだけで反省の態度を示すことにもつながりにくいです。
そこで吉澤さんは、被害者2名に対し、実際に発生している金額に上乗せして示談金を支払わないと、示談できないと言われています。
推定ではありますが、弁護士に依頼したとしても、それぞれ3000万円程度、合計で6000万円程度は支払わないといけないのではないか?という話もあります。
また、保険会社は、法的な義務の限度までしか賠償金を負担しないので、保険会社が支払わない分については、吉澤さんが自腹で支払う必要があります。
吉澤さんに成立する犯罪とは?
今回、吉澤さんは非常に悪質な交通事故を起こしているので、法律で定められた以下のような犯罪が成立します。
- 過失運転致傷(傷害)罪
吉澤さんは、明らかに重大な過失によって人をはねてけがをさせています。
このようなときには「過失運転致傷罪」が成立します。
過失運転致死傷罪は、自動車を運転するときに過失によって人にけがをさせたときに成立する犯罪です。
刑罰は7年以下の禁固または懲役もしくは100万円以下の罰金刑です。
- ひき逃げ
吉澤さんは、被害者をはねたにもかかわらず、被害者救済せずに逃亡しています。
このような救護義務違反(ひき逃げ)をすると、道路交通法違反で処罰されます。
ひき逃げの法定刑は10年以下の懲役または100万円以下の罰金刑です。
- 飲酒運転
飲酒運転も犯罪です。
吉澤さんの場合には「酒気帯び運転」となります。
法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑です。
吉澤さんには、上記のすべての罪が成立します。
すると、科される可能性のある刑罰が加重されるので、吉澤さんの場合、最長で15年の懲役刑となる可能性があります。
加害者となってしまった場合の正しい対応
今回、吉澤さんは被害者をはねたにもかかわらず、その場にとどまらずに逃走しているので余計に罪が重くなる可能性が高まっています。
交通事故を起こしたとき、本来であれば、運転手はどのような対応をとるのが適切だったのか、これを機会に押さえておきましょう。
すぐに停車する
事故を起こしたら、すぐに停車するのが鉄則です。
今回のような人身事故のケースではもちろんのこと、物損事故でもその場で停車する必要があります。
吉澤さんのように走り去ってしまうのは明らかに間違った対応です。
被害者を救護する
停車したら、すぐに負傷者がいないかどうかを確認しなければなりません。
負傷者がいたら、救護する必要があります。
救護義務は道路交通法によって「車両の運転者や同乗者」に課された責任です。
加害者だけではなく被害者にも救護義務がありますし、運転していた本人だけではなく同乗者にも責任が及びます。
また救護義務を課されるのは「車両」なので、自動車に限らず、バイクや自転車を運転していたケースであっても、けが人がいたら救護しなければなりません。
救護義務があるのにその場を去ると「救護義務違反」として「ひき逃げ」扱いとなり、罪が非常に重くなります。
周囲を片付ける
交通事故が発生すると、事故現場に危険が発生します。
周囲にものが飛散していたら片付ける必要がありますし、事故車両を路肩に寄せるなどの対応も必要です。
三角表示板や発煙筒を置いて、後続車に危険を知らせる対応もしましょう。
このような危険防止措置も、交通事故の当事者に課された責任です。
警察を呼ぶ
さらに、必ず警察に通報する必要があります。
交通事故が起こったら、事故の場所や時間、態様などをなるべく詳細に警察に説明しなければならない「報告義務」が課されるからです。
人身事故の場合だけではなく物損事故のケースでも警察への報告義務があります。
以上のように、交通事故を起こしたら、必ず車を停車して「被害者の救護」「危険の除去」「警察への通報」を行いましょう。
飲酒運転をしないためにできること
今回吉澤さんは、飲酒運転をしてしまいました。
どうしたら飲酒運転をせずに済むのでしょうか?
まず車を運転する予定があるなら飲酒しないことが一番です。
どうしても飲んでしまった場合には、代行運転を利用しましょう。
危険なのは「ちょっと仮眠をしてから車を運転する」パターンです。
「時間が経てば、酒が抜けるから大丈夫だろう」などと考えてのことです。
しかし、仮眠をしても完全に酒が抜けない可能性はあります。
自分では平気なつもりでも、呼気検査でアルコールを検知されてしまったら「酒気帯び運転」として処分されます。
さらに家で飲んでいたとしても、酒気が抜けていない可能性があるので飲んだ後は運転してはいけません。
自分では酒が抜けていると思っても、呼気検査を受ければ飲酒検知されてしまうこともあります。
今回の吉澤さんも、家で酎ハイなどを飲んだ後に運転していたようです。
飲酒後にちょっと休んだだけで本人が運転しようとするならば、必ず家族が止めるようにしましょう。
飲酒運転を避けるには、以下を徹底しましょう。
- 車を運転する予定があるなら絶対に飲酒しない
- 飲酒した場合、絶対に運転をしない
- 飲酒した後車に乗るならタクシーか代行運転を利用する
- ちょっと休んだから、仮眠をとったからと油断して運転しない
- 家で飲んだだけだからと思って油断して運転しない
吉澤ひとみさんへの刑罰と今後
今回、吉澤ひとみさんには過失運転致傷罪と飲酒運転、ひき逃げの罪が成立するので、重大な処分を受けることは免れません。
実刑になる可能性も十分にあります。
芸能人としての仕事も難しくなるでしょう。
このように、飲酒運転やひき逃げ交通事故を起こすと、それまで築いてきた信用や実績、社会的な立場を一気に失ってしまいますし、いきなり刑務所に行かねばならなくなって転落人生となってしまう可能性も高まります。
そのようなことを避けるには、交通ルールをしっかり守って運転をすることや、万一交通事故を起こしたときには落ち着いて被害者の救護や警察への通報などを行うことが大切です。
今回の吉澤さんの件から学べることは多かったはずです。
今後運転をするときの参考にしてみて下さい。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。