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自転車同士の事故にはどのような過失割合となるのか
自転車同士の交通事故の過失割合は、それほど類型化が進んでいないように思います。
その理由としては、例えば、自転車同士の交通事故は自動車が絡む交通事故に比較して損害額がそれほど多額にならないため、訴訟になりづらく裁判例がそれほど蓄積されていないことや自転車同士の交通事故での保険加入率がそれほど高くないため、類型化の要請がそれほどない(損害保険会社の実務上の要請がそれほど強くない)といったことなどが考えられます。
しかしながら、被害者となった歩行者が死亡した自転車の交通事故が発生したり、以前よりは個人賠償責任保険の加入率が上昇(自転車保険への加入を条例で義務付けている自治体もあります。)したこともあって、今後、自転車同士の交通事故の過失割合も重視されていくことと思われます。
以下、過去の裁判例も参考として自転車同士における過失割合の基本割合を見ていきたいと思います。なお、修正要素については、別項で触れます。
出会い頭の事故
直進進行中の自転車と交差方向から進行してきた自転車が衝突する場合(出会い頭の事故)、双方が同じ自転車であるため、過失割合も対等、つまりは5対5というところからスタートすると考えられます。
対向方向の衝突
道路交通法上、自転車は、歩道と車道の区別のあるところでは原則として車道を通行しなければなりません。そして、車道において、自転車は、道路の左側端部分を通行しなければならない義務があります。
また、自転車が歩道を通行できる場合には、自転車は、当該歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければならないとされています。
以上からすると、類型的には下記の2パターンに分けるのが良さそうです。
①歩道と車道の区別のあるところにおける自転車同士の正面衝突(対向方向の衝突)
②自転車が歩道を通行できる場合における当該歩道上での自転車同士の正面衝突(対広方向の衝突)
上記①において自転車同士の正面衝突が発生したということは、いずれかの自転車が車道の左側端部分を通行しなければならない義務に反しているということになります。
これが自動車の場合、センターラインオーバーをして逆走しているという非常に危険な状況ですので、逆走している自動車は100%の過失となります。
しかしながら、自転車の場合、車道の左側端部分を通行しなければならない義務があることがそれほど浸透しておらず、また、自動車に比較すれば速度も遅くて制動措置も取りやすいといえます(つまり、自動車の逆走に比べれば自転車の逆走の方が危険性は遥かに低いといえます)。
そのことからすると、自転車が逆走をしているからといって、過失として大きく評価するのは実態に合っていないと思われます。
実際には、自転車が通行していた道路状況や走行状況等も勘案しなければならないと思いますが、中央線の表示のない道路や幅員の狭い道路での正面衝突(対向方向の衝突)は5対5の過失割合からスタートして良いのではないかと思います。
それに対し、中央線の表示された幹線道路に近い交通量の多い道路などでは車道の左側端部分の通行義務違反が過失として評価されると思われます。
次に、上記②においては、いずれの自転車も歩道の中央よりも車道寄りの部分を通行しなければならないので、そもそも正面衝突が発生しやすい状況といえます。
そのような状況からすれば、5対5の過失割合からスタートして良いのではないかと思います。
同一方向での衝突
同一方向に進行している自転車同士の場合、先行自転車は後続自転車を認識することが困難であるのに対し、後続自転車は先行自転車を容易に認識し得るということがいえます。
自転車同士の同一方向での衝突の場合、後続自転車が先行自転車を追い越した、又は、追い越そうとして交通事故が発生する場合が多いと思われます。また、先行自転車が進路変更をして後続自転車の進路を塞いでしまって衝突する形で交通事故が発生する場合も多いと思われます。
まず、追い越しの場合には、概ね後続自転車の過失が大きく評価されている裁判例が多いように思います。
先行自転車0対後続自転車100の過失割合とした裁判例も少なからずあります。
次に、先行自転車が進路変更をして後続自転車の進路を塞いでしまった場合、先行自転車の過失もある程度大きいと評価せざるを得ませんので、先行自転車5対後続自転車5、あるいは、先行自転車6対後続自転車4というような過失割合の裁判例がありました。
ただし、自動車と異なり、自転車はもともと不安定な乗り物であることや車幅がそれほど大きくないということもありますので、先行自転車が少し動いた程度のことを進路変更と評価するかどうかは難しい点があります。
自転車同士の交通事故の過失割合における修正要素とは
自転車同士の交通事故においても、当然、様々な要素が考慮されます。
自転車同士の事故では類型化された過失割合がそれほどないため、修正要素という言葉を使うのが適切かは分かりませんが、自動車事故のように一定程度共通して過失として考慮されているような要素があるかどうかを検討するのは意味のあることだと思います。
また、自転車は、軽車両として道路交通法の規制の下にあるとはいえ、免許なしで乗れる乗り物であることなどから法規制が必ずしも十分に浸透していません。
また、道路交通法に形式的に違反していたとしても、それによって公平の観点から過失として評価できるのかといった問題も生じます。
つまり、法律に違反したからといって、必ずしもそのことが過失と評価されるとは限らないということです。
児童や高齢者
自動車の絡む交通事故の場合、交通弱者としての児童や高齢者は保護の対象となるべきという価値判断から、修正要素(歩行者としての児童や高齢者の過失割合が下げられます。)として評価されます。
しかしながら、自転車同士の事故の場合、そもそも自転車は児童でも高齢者でも手軽に運転できる乗り物であることから、そのことをもって修正要素とするかは少し疑問があるように思います。
このことからすると、自転車に乗っていた人が児童や高齢者であることのみによって大きく過失割合が修正されるということはないように思います。
前方不注視
前方不注視は、自転車同士の事故においても、当然に過失として評価されうるものと思います。
ながら運転
ながら運転は、例えば、スマートフォンを操作しながら自転車を運転しているというように自転車の運転に影響を与えるような動作をしながら運転することをいいます。
ながら運転は、自転車同士の事故においても、当然に過失として評価されうるものと思います。
無灯火運転
無灯火運転は、自転車同士の事故の場合に、必ず過失として評価されるとは言い切れないと思われます。
そもそも、自転車のライトはそれほど光量が多いというわけでもありませんし、街灯等で明るい場所であれば、自転車を視認することも十分に可能であると思われます。
つまり、無灯火運転が事故発生につながったかどうかを具体的に検討したうえで、過失として評価するということになると思われます。
信号無視
自転車に乗っている人が法規制を熟知していないといっても、赤信号、青信号のことは知っているはずです。
自転車同士の交通事故においては法律違反が必ずしも過失と評価されないとしても、信号という社会に浸透しており、かつ、非常に基本的な法律違反は重大ですので、信号無視は自転車同士の事故の過失と評価されます。
子どもが自転車同士の事故に遭ってしまった場合
自転車という乗り物の性質上、子どもが事故における加害者、被害者のいずれにもなってしまう可能性があります。
子どもが事故の当事者となった場合、親権者である親が関与せざるを得ない場面等も出てきます。
以下、説明をします。
何歳までが子どもなのか
現時点(本コラム執筆時)では、20歳未満の人を子どもとして扱い、親の親権に服するものとしています。
今後、2022年4月1日からは、成人年齢が18歳に引き下げられますので、18歳未満の人を子どもとして扱い、親の親権に服するものとなる予定です。
子どもと大人とで損害の内容に違いがあるのか
子どもと大人とで損害の内容に違いは出てくるのでしょうか。
例えば、仮に、自転車同士の事故で被害者が死亡した場合、一家の大黒柱とその他の場合とで死亡慰謝料には差が出ます(前者の方が高いです)。
子どもが一家の大黒柱といったケースは非常にまれでしょうから、子どもと大人とでは、死亡慰謝料に違いが出てくるケースが結構ありそうです。
また、子どもが12歳以下の場合、通院には付き添いが必要であると認められ、通院付き添い費や通院付き添い交通費が認められます。その他にも、交通事故による傷害によって学習が遅れてしまった場合、事案によっては学習の遅れを取り戻すための費用を賠償してもらうといったこともあり得ます。
そして、大人の場合には、働いている人も多いため、休業損害が発生するのに対し、子どもの場合には働いていないことが多いため、休業損害が発生しないことが多いです。
このように、子どもと大人という属性によって、結果として損害の内容に違いが出てくるということがあり得ます。
親がとるべき行動は何か
子どもの責任は
そもそも、子どもが自転車事故を起こした場合、どのような責任が発生するのでしょうか。
幼い子どもが加害者となってしまった場合、子ども自身が損害賠償の責任を負うのでしょうか。
民法714条第1項は、下記のように定めています。
「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負うものは、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」
また、民法712条では下記の通りです。
「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。」
つまり、責任能力のない子どもが自転車事故を起こして被害者に怪我をさせてしまった場合、当該子どもではなく、子どもの親が責任を負うということになります。
では、何歳になれば、責任能力があるといえるのでしょうか。過去の裁判例では、小学校高学年が一つの基準となっているように読み取れます。
ただし、過去に12歳で責任能力を肯定された事案も否定された事案もありますので、当該子どもの能力がどの程度であったかというのを具体的に検討しなければならないでしょう。
法定代理人親権者として行動しなければならない
法定代理人親権者である親は、子どもに責任能力があろうとなかろうと、子どもの自転車事故の相手と対応しなければなりません。
子どもが被害者となった場合には、親は、子どもの法定代理人親権者として子どもの代わりに加害者に対して子どもの損害を請求しなければなりません。
この場合、親は、あくまで子どもが持っている損害賠償請求権を代わりに請求しているということになります。
子どもが自転車事故の加害者となり、当該子どもに責任能力がない場合には、上記アのとおり、法定代理人親権者である親が自身の責任として被害者からの損害の請求に応じなければなりません。
また、当該子どもに責任能力がある場合でも、被害者から損害を請求された場合、親は、法定代理人親権者として当該子どもの代わりに対応しなければならいません。
納得のいかない場合
自転車同士の事故においても、加害者からの提示額に納得がいかないこともあると思います。
そして、その理由が自分の考える過失割合と異なるということもあるかと思います。
その場合、きちんと、自分の考える過失割合及びその根拠を主張し、納得のいく損害賠償額にすべきです。
ただし、損害賠償額が少額の場合、費用対効果もきちんと考えることも非常に大事です。
また、自転車事故で加害者に損害を請求する場合に非常に重要な点は、加害者が保険に加入しているかどうかです。
加害者が個人賠償責任保険や自転車保険などと呼ばれる保険に加入している場合、最終的に適切な賠償を受けられる可能性が高いです。
それに対し、加害者が保険に入っていない場合、加害者自身の懐から賠償金を出さなければなりません。経済的に余裕のある加害者であれば良いのですが、経済的に余裕がある加害者ばかりとは限りません。
そのような場合、訴訟を提起しても賠償してもらうのが難しいということもあります。
自転車事故においても、色々と迷った場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
自転車事故の場合、自動車の事故と異なり、自賠責保険がなく、また、後遺障害の等級認定手続も整備されていないことも多いです。
相談の中で、残存症状が本来ならば後遺障害と評価されてしかるべきという事案もあるかもしれません。
まとめ
以上のことをまとめると、次のようになります。
・自転車同士の事故の過失割合は類型化がそれほど進んでいない。
・自転車同士の事故の過失の修正要素は必ずしも自動車事故のものとは同じではない。特に、自転車同士の事故の場合には法律違反が必ずしも過失と評価されるとは限らない
・子どもが自転車同士の事故の当事者となった場合には当該子どもに損害賠償責任があるのかを確認する
・子どもが自転車同士の事故の当事者となった場合にはいずれにせよ法定代理人親権者である親は子どもの代わりに対応することになる
・納得いかない場合には弁護士に相談
阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。