高齢者が交通事故を起こしてしまった時でも、慰謝料や過失割合は通常の事故と変わらないんだ。
今回の記事では、高齢者の交通事故の原因や、慰謝料の相場について、チェックしていこう。
近年、高齢者が引き起こした危険な交通事故がニュースなどで取り上げられる機会が増え、社会全体で高齢ドライバーによる運転の是非が大きくクローズアップされています。
ドライバーが高齢の場合、なぜ交通事故が発生しやすくなるのでしょうか?
また高齢ドライバーが交通事故を起こした場合の慰謝料は通常の交通事故と異なる点があるのでしょうか?
今回は高齢ドライバーの交通事故の特殊性や慰謝料、過失割合について解説します。
高齢ドライバーの交通事故が起こる原因
そもそも高齢ドライバーは何歳から?
高齢ドライバーといっても「いくつから」が「高齢」になるのか定義があいまいです。
60歳以上と考える方もいれば70歳以上、75歳以上などいろいろな考え方があるでしょう。
警視庁では基本的に「65歳以上」を「高齢運転者」と位置づけて交通事故統計データをまとめています。
ただ「もみじマーク」が適用されるのは70歳以上です。
また免許の高齢者講習前に「認知機能検査」を受けなければならないのは75歳以上です。
このように、一概に「高齢ドライバーは何歳から」とは言いにくい状況でもありますが、基本的には警視庁が統計を取るときに基準としている「65歳以上」と考えるとよいでしょう。
高齢ドライバーによる交通事故の主な原因は以下の通りです。
長年の運転キャリアによる過信
現代では平均寿命も長くなっており、高齢になってもアクティブなシニア層が多くなっています。
それは喜ばしいことではありますが、反面「私は運転に慣れている」という過信につながります。
心身の衰えに気が付かない、あるいは受け入れたくない思いから、集中力や判断能力が低下しても運転を続けてしまう方がいて事故につながります。
身体能力の低下
年を取ると、当然身体能力が低下します。
瞬発力が低下して反射的に危険を避ける行動をとりにくくなりますし、情報処理能力や適切な判断能力も失われていきます。
それでも若い頃と同じ感覚で運転してしまうので、交通事故につながりやすくなります。
車の操作に対応できない
高齢になって判断力が鈍り、車の基本的な操作に対応できていない方もおられます。
たとえばブレーキとアクセルを踏み間違える、ギアを入れ間違える、オートマの操作がわからないなど。
車は「鉄の塊」であり、一歩間違えれば「凶器」と化します。
このような状態の人が操作するのは非常に危険といえるでしょう。
高齢ドライバーが事故を起こした場合の慰謝料の相場
慰謝料の相場について、詳しく見ていこう。
高齢ドライバーが交通事故を起こした場合、慰謝料はどの程度発生するのでしょうか?
加害者が高齢ドライバーでも慰謝料の相場は変わらない
実は高齢者が加害者だからといって交通事故の慰謝料の金額には変化がありません。
相手がどういった人であれ、被害者の受傷状況に応じた慰謝料が同じように支払われるのが原則です。
交通事故の慰謝料には
- 「入通院慰謝料」
- 「後遺障害慰謝料」
- 「死亡慰謝料」
の3種類があるので、それぞれの相場をみていきましょう。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は被害者が受傷したことによって発生する慰謝料で、重傷になるほど高額化します。
金額は「入通院した期間」によってはかられるので、入院や通院の期間が長くなると慰謝料も高額になっていきます。
相場は数十万円~300万円程度です。
【被害者が軽傷の場合の入通院慰謝料の相場】
入院 |
|
1ヶ月 |
2ヶ月 |
3ヶ月 |
4ヶ月 |
5ヶ月 |
6ヶ月 |
7ヶ月 |
8ヶ月 |
9ヶ月 |
10ヶ月 |
通院 |
35 |
66 |
92 |
116 |
135 |
152 |
165 |
176 |
186 |
195 |
|
1ヶ月 |
19 |
52 |
83 |
106 |
128 |
145 |
160 |
171 |
182 |
190 |
199 |
2ヶ月 |
36 |
69 |
97 |
118 |
138 |
153 |
166 |
177 |
186 |
194 |
201 |
3ヶ月 |
53 |
83 |
109 |
128 |
146 |
159 |
172 |
181 |
190 |
196 |
202 |
4ヶ月 |
67 |
955 |
119 |
136 |
152 |
165 |
176 |
185 |
192 |
197 |
203 |
5ヶ月 |
79 |
105 |
127 |
142 |
158 |
169 |
180 |
187 |
193 |
198 |
204 |
6ヶ月 |
89 |
113 |
133 |
148 |
162 |
173 |
182 |
188 |
194 |
199 |
205 |
7ヶ月 |
97 |
119 |
139 |
152 |
166 |
175 |
183 |
189 |
195 |
200 |
206 |
8ヶ月 |
103 |
125 |
143 |
156 |
168 |
176 |
184 |
190 |
196 |
201 |
207 |
9ヶ月 |
109 |
129 |
147 |
158 |
169 |
177 |
185 |
191 |
197 |
202 |
208 |
10ヶ月 |
113 |
133 |
149 |
159 |
170 |
178 |
186 |
192 |
198 |
203 |
209 |
【一般的なケースにおける入通院慰謝料の相場】
入院 |
|
1ヶ月 |
2ヶ月 |
3ヶ月 |
4ヶ月 |
5ヶ月 |
6ヶ月 |
7ヶ月 |
8ヶ月 |
9ヶ月 |
10ヶ月 |
|
通院 |
53 |
101 |
145 |
184 |
217 |
244 |
266 |
284 |
297 |
306 |
||
1ヶ月 |
28 |
77 |
122 |
162 |
199 |
228 |
252 |
274 |
291 |
303 |
311 |
|
2ヶ月 |
52 |
98 |
139 |
177 |
210 |
236 |
260 |
281 |
297 |
308 |
315 |
|
3ヶ月 |
73 |
115 |
154 |
188 |
218 |
244 |
267 |
287 |
302 |
312 |
319 |
|
4ヶ月 |
90 |
130 |
165 |
196 |
226 |
251 |
273 |
292 |
306 |
326 |
323 |
|
5ヶ月 |
105 |
141 |
173 |
204 |
233 |
257 |
278 |
296 |
310 |
320 |
325 |
|
6ヶ月 |
116 |
149 |
181 |
211 |
239 |
262 |
282 |
300 |
314 |
322 |
327 |
|
7ヶ月 |
124 |
157 |
188 |
217 |
244 |
266 |
286 |
301 |
316 |
324 |
329 |
|
8ヶ月 |
132 |
164 |
194 |
222 |
248 |
270 |
290 |
306 |
318 |
326 |
331 |
|
9ヶ月 |
139 |
170 |
199 |
226 |
252 |
274 |
292 |
308 |
320 |
328 |
333 |
|
10ヶ月 |
145 |
175 |
203 |
230 |
256 |
276 |
294 |
310 |
322 |
330 |
335 |
後遺障害慰謝料
被害者に後遺障害が残ったら後遺障害慰謝料を請求できます。
金額は後遺障害の程度によって大きく異なります。
後遺障害には1級から14級まであり、等級が上がるほど慰謝料の金額は高額になります。
等級ごとの後遺障害慰謝料の相場は以下の通りです。
等級 | 裁判基準 |
1級 | 2,800万円 |
2級 | 2,370万円 |
3級 | 1,990万円 |
4級 | 1,670万円 |
5級 | 1,400万円 |
6級 | 1,180万円 |
7級 | 1,000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
死亡慰謝料
被害者が死亡したら遺族は加害者に対し「死亡慰謝料」を請求できます。
死亡慰謝料の相場は2,000~2,800円程度です。
- 被害者が一家の支柱:2800万円
- 被害者が母親、配偶者:2500万円
- その他のケース:2000万円~2500万円
高齢ドライバーが事故を起こした場合の過失割合
加害者が高齢ドライバーの場合、「高齢になって判断能力が低下しているのに、免許を返納せず運転していたのだから過失割合が高くなるのでは?」と思われるかもしれません。
しかし法律ではそういった扱いにはなっていません。
運転者が高齢であるからといって過失割合の修正は行われず、基本の過失割合が適用されます。
ただし高齢で薬を飲んでおりぼーっとした状態で運転していた場合、認知症やてんかんなどの症状があるのに運転していた場合などには過失割合が加算されるでしょう。
またスピード違反や停止義務違反、指示器を出さずに右左折などの道路交通法違反、大回り右折などの危険な行為があった場合などには過失割合が加算されます。
高齢だから過失割合が上がるのではなく、個別の事情に応じて加害者の責任が重ければ過失割合が加算されるということです。
高齢ドライバーが認知症だった場合
高齢ドライバーが交通事故を起こしたとき、加害者が認知症だったら通常の事故と異なる取扱いになるのでしょうか?
認知症であっても自動車保険を利用可能
「認知症なのに運転していたら、自動車保険が適用されないのでは?」と心配になるかもしれません。
実際にはそういったことはなく自動車保険はドライバーが認知症でも基本的に適用されます。
対人対物賠償責任保険が適用されるので、被害者に対する賠償金は保険会社から支払われますし、自賠責保険も適用されるので必要最低限の補償は自賠責保険から行われます。
一方、ドライバー本人に対する補償が行われるかどうかはケースバイケースです。
保険会社によっては「被保険者の脳疾患、疾病または心神喪失によって生じた損害」については人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険の対象外としているケースがあるためです。
ドライバーが重度認知症の場合、自分の保険会社からの補償が適用されない可能性があります。
保険約款を確認するか、保険会社のコールセンターなどで聞いてみると良いでしょう。
認知症の場合慰謝料に違いはあるのか
高齢ドライバーが認知症にかかっていたら、被害者に支払う慰謝料の金額に変更はあるのでしょうか?
基本的にはドライバーが認知症でも慰謝料の増減額はありません。
被害者は交通事故による受傷状況に応じて精神的な苦痛を受けているのであり「加害者が認知症だから特に被害者の精神的苦痛が大きくなる」わけではありません。
また加害者であれば適正な金額の慰謝料を支払う必要があります。
「認知症なら賠償金支払い義務が免責される」とは限りません。
ただし認知症の程度が非常に重度で本人に小学校5、6年生程度の判断能力すらない場合、本人は不法行為にもとづく損害賠償責任を負いません。
不法行為責任を負うには最低限の事理弁識能力としての「責任能力」が必要ですが、12歳くらいの子ども程度の知能もない場合「責任能力がない」と考えられているからです。
家族に慰謝料を請求される可能性がある
本人が重度の認知症で責任能力がない場合には、誰も責任を負わないのでしょうか?
そのような不合理なことはありません。
本人に責任能力がない場合「監督者」が責任を負います。
監督者とは「本人を監督すべき義務を負う人」です。
認知症の高齢者の場合、通常は同居の家族が監督者となります。
よって家族の中に認知症の人がいて漫然と運転させていると、事故を起こしたときに家族が損害賠償責任を負うリスクが発生します。
責任を負いたくないなら認知症の人に運転させないよう、車のキー管理などを徹底すべきです。
なお自動車保険に入っていれば、認知症のドライバーが事故を起こして家族に責任が発生するケースでも保険が適用されて被害者への補償が行われます。
その意味でも自動車を保有するなら必ず自動車保険に入っておく必要があるといえるでしょう。
高齢ドライバ―の交通事故を防ぐために
無理やり返納させてしまうのではなく、本人が納得するように話をしてみよう。
高齢ドライバーによる交通事故は社会からも厳しい目でみられますし、事故を起こしたら本人も家族も不幸になってしまいます。
交通事故を防ぐため、以下のような対応をしましょう。
アクセルとブレーキの踏み間違い防止グッズを利用
最近では高齢ドライバーがアクセルとブレーキを踏み間違える事故が目につくので、各メーカーが「踏み間違い防止グッズ」を販売しています。
アクセルを踏み込んでも加速が抑制されて暴走を防止できるもの、1つのペダルに置いたままアクセルとブレーキの両方の操作ができるものなど、各メーカーがさまざまな商品を開発・販売しているので、車を購入したディーラーやオートバックスなどの車用品専門店で探してみると良いでしょう。
免許返納を視野に入れる
田舎などでどうしても運転しなければならないケースは別として、65歳や70歳などの高齢になってきたら免許返納を視野に入れましょう。
本人が自主的に返納しない場合には、家族から説得してみてください。
頭ごなしに「免許を返納して」と言っても聞き入れられないケースが多いので、高齢ドライバーによる危険な交通事故の事例なども示して本人にも「このままだと危ないかも知れない」と思わせましょう。
ドライブレコーダーを設置
車にドライブレコーダーを設置すると運転の様子を撮影できるので、高齢者が運転して「ヒヤリハット」が発生したら、その記録が残って確認できます。
後から家族みんなで運転の記録を見返して「今危なかったね」などと言い合い、危険を認識させて免許の返納を促してみましょう。
返納している有名人や知人の例を出す
本人がどうしても免許の返納に応じない場合、本人が好きな有名人、尊敬している人や友人知人などが免許返納している例を示すのが有効です。
「あの人も返納している」と知れば、抵抗感が薄まって返納に応じやすくなるケースがよくあります。
認知症の家族がいる家庭での対策
家族の中に認知症の高齢者がいて、放っておくと勝手に運転する可能性がある場合には、車のキー管理方法に注意が必要です。
同居の家族が合鍵も含めて肌身離さず持つか、鍵のかかる場所にしまうなどして、認知症の方が勝手に運転できないようにしましょう。
まとめ
高齢者は判断力や身体能力が低下してしまうから、車を運転する時には注意が必要だね。
交通事故を起こしてしまってから後悔することがないよう、万全の対策を取ろう。
高齢ドライバーは判断能力や身体能力が低下していても、自覚せずに運転を続けてしまう人が多いので周囲が注意する必要があります。
できるだけ免許の返納を促し、どうしても返納しない場合には安全対策を万全にしましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。