今回の記事では、信号無視で交通事故を起こすと、過失割合や慰謝料にどのくらいの違いが出てくるのか、詳しく見ていこう。
交通事故の相手が信号無視をしていたら、当然相手の「過失割合」が大きくなります。
ただし必ず100%になるとは限りません。
今回は信号無視をしていた車と事故に遭ったときの慰謝料や過失割合がどのくらいになるのか、みていきましょう。
目次
過失割合と慰謝料・賠償金の関係
交通事故に遭ったら加害者へ慰謝料を含めた賠償金を請求できますが、賠償金計算の際にはお互いの「過失割合」が非常に重要です。
過失割合とは、事故当事者それぞれの損害発生に対する責任割合です。
被害者側の過失割合が高くなると、その分加害者へ請求できる賠償金額が減額されます。
このことを「過失相殺」といいます。
たとえば発生した損害が1,000万円でも被害者の過失割合が10%の場合、被害者が加害者へ請求できる賠償金が1割減額され、請求できるのは900万円に減らされてしまいます。
「過失相殺」が適用されると賠償金が減額されますが、過失割合には交通事故のパターンごとの適正な基準があります。
そこで交通事故に遭ったときには事故の状況をもとに「自分の過失割合がどのくらいになるのか」を正しく把握する必要があります。
以下で、信号無視があったケースにおける交通事故の過失割合をみていきましょう。
信号無視による交通事故の過失割合
黄色の時にはどうなるの?
そもそも「信号無視」とは
一般的に「信号無視」というと「赤信号で進行すること」と思われているかもしれませんが、「黄信号」でも「信号無視」になります。
教習所でも習ったかと思いますが、「黄信号の場合には原則として停止しなければならず、進行して良いのはやむを得ない場合だけ」だからです。
黄信号でもかまわず交差点に進入していけば信号無視です。
このことを前提に過失割合をみていきます。
交差点での直進車同士の交通事故
交差点上において、直進車同士が接触したケースでの過失割合は以下の通りです。
信号機の色 | 過失割合 | 過失割合 |
赤信号と青信号 | 赤信号の車が100% | 青信号の車が0% |
黄信号と赤信号 | 黄信号の車が20% | 赤信号の車が80% |
赤信号同士 | それぞれ50% | それぞれ50% |
一方の車両が赤信号で信号無視をしていると当然過失割合が大きくなりますが、他方の車の信号機の色によって具体的な過失割合は変わります。
相手車が青信号なら赤信号の車の過失割合が100%となりますが、相手者の信号が黄色なら赤信号の車の過失割合は80%、どちらも赤信号なら過失割合は50%ずつとなります。
直進車と右折車の交通事故
直進車の信号機の色 | 右折車の信号機の色 | 直進車の過失割合 | 右折車の過失割合 黄 |
黄 | 青信号で進入して黄信号で右折 | 70% | 30% |
黄 | 黄 | 40% | 60% |
赤 | 赤 | 50% | 50% |
赤 | 青信号で進入し赤信号で右折 | 90% | 10% |
赤 | 黄信号で進入し赤信号で右折 | 70% | 30% |
赤 | 右折の青矢印信号で進入 | 100% | 0% |
直進車と右折車の交通事故の場合、基本的には「直進車が優先」されるので、直進車の過失割合の方が低くなるのが原則です。
ただし直進車が信号無視をしていると、過失割合が上がります。
直進車が赤信号で交差点に入った場合、右折車が青信号であれば直進車の過失割合が90%または100%となります。
直進車が赤信号、右折車が黄信号であれば基本的に直進車の過失割合が70%です。
直進車が黄信号で右折車が青信号なら直進車の過失割合が70%、直進車も右折車も黄信号なら直進車の過失割合が40%です。
お互いが赤信号で信号無視をしていたらそれぞれ50%ずつになります。
このように信号無視をしていると過失割合が上がることは間違いありませんが、具体的な数値は事故の状況や相手の信号機の色によっても異なります。
信号無視が原因で交通事故に遭ったら、まずは「過失割合の基準の数値」を調べて確認しましょう。
相手が信号無視をしていたら慰謝料を増額できる
交通事故で加害者が信号無視をしていた場合、慰謝料を標準値よりも増額できる可能性があります。
信号無視は悪質な道路交通法違反!
道路交通法上、歩行者も車両も信号機の指示に従う義務があります(道路交通法7条)。
これは絶対的な義務なので違反したら罰則が適用されますし、もちろん過失割合も上がります。
慰謝料と信号無視の関係
加害者が赤信号を無視して交差点に入り危険な事故を起こした場合、事故態様が悪質なので慰謝料が増額される可能性も高くなります。
交通事故の慰謝料には入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があり、それぞれ法律で定められた相場があります。
たとえば後遺障害14級の場合の後遺障害慰謝料は110万円、3か月通院した場合の入通院慰謝料の相場は73万円です。
相手の信号無視が悪質な場合には、上記の金額を1~2割程度増額した金額を払ってもらえる可能性が高くなります。
信号無視の事故に巻き込まれたら、慰謝料が高額になる可能性も考慮して適切な金額の賠償金を払ってもらいましょう。
相手が信号無視を認めない場合の対処方法
その他にも、信号サイクル表を利用して証明したり、実況見分調書を取得したりすることで、信号無視を証明する方法もあるよ。
交通事故が発生したとき、加害者が信号無視を認めないケースもよくあります。
事故現場ではしおらしく「すみません」などと言っていても、後に主張を反転させて「信号は青だった、被害者が信号無視していた」などと言い出すパターンもあるので要注意です。
加害者が信号無視を認めない理由
交通事故の加害者は、なぜ嘘をついて信号無視を否定しようとするのでしょうか?
それは加害者が信号無視したことになると、刑事事件や行政処分で不利になるからです。
交通事故を起こして被害者にけがをさせると、加害者は刑事事件になります。
その際、加害者が信号無視をしていると、自動車運転処罰法違反だけではなく道路交通法違反の罪も成立する上、情状も悪くなってより重い刑罰が適用されてしまいます。
また免許の点数も大きく加算され、免許停止や免許取消となる可能性が高くなります。
このように、事故の加害者にとって「信号無視を認めること」は不利にしかならないので、後に嘘をつき始める人が多いのです。
信号無視の悪質な相手に衝突された被害者としては、対応に充分注意が必要です。
以下で加害者が信号機の色について嘘をつく場合の対処方法を紹介していきます。
ドライブレコーダーの画像を解析する
事故当時の信号機の色を立証するのに「ドライブレコーダー」が非常に役立ちます。
ドライブレコーダーにはっきり信号機の色が写っていたら、相手の嘘を暴けるからです。
まずは自分のドライブレコーダーの画像を分析し、相手がドライブレコーダーをつけていたら相手にも提出させて内容をチェックしましょう
信号サイクル表を使って信号機の色を証明する
各都道府県の警察本部には「信号サイクル表」が保管されています。
信号サイクル表とは、各場所に設置してある信号機の色の変化のサイクルを秒単位で表にしたものです。
たとえば「東向きの信号機が赤信号で10秒間」→「北向きの信号機が黄信号で3秒間」などの信号サイクルが書かれています。
信号サイクル表を入手し、相手が交差点に進入する前の信号機の色や速度に関する主張内容などをもとに、信号サイクル表の秒数をあてはめると、相手が交差点に進入したときの信号機の色を推測できて相手の嘘を崩せる可能性があります。
信号サイクル表は「都道府県の警察本部」で管理されているので、必要な際には警察本部に情報開示を求めましょう。
弁護士に取得手続きを依頼することも可能です。
目撃者を探す
事故の状況を目撃した人がいれば、目撃者に証言してもらうことによって信号機の色を立証できます。
事故現場で周辺に人がいたら、その場で声をかけて「何かあったら協力して下さい」とお願いしておきましょう。
連絡先も聞いてメモをしておくようお勧めします。
警察が作成した実況見分調書を確認する
加害者の嘘を崩すため、「実況見分調書」や「供述調書」が役立つケースも多々あります。
実況見分調書とは、交通事故直後に警察官が現場にやってきて「実況見分」を行った結果を書面にしたものです。
事故発生時刻、場所、天気などの情報や事故の詳しい状況が、図面つきで書かれています。
事故直後に被害者と加害者双方の立会のもとに実況見分が行われ、それぞれの説明内容に従って実況見分調書が作成されます。
供述調書は、事故の当事者が事故について説明した内容をまとめた書類です。
加害者の事故直後の供述調書では信号無視を認めている可能性があります。
事故直後には加害者が信号無視を認めていた場合、実況見分調書や供述調書を取り寄せるとそのことが明らかになり、加害者の信号無視を立証できます。
実況見分調書の取得方法
実況見分調書や供述調書は「加害者の刑事事件のための記録(証拠)」です。
捜査期間中は捜査への影響が懸念されるので取得できません。
その後の申請先は「加害者の裁判の進行状況」に応じて異なってきます。
- 不起訴になった場合
不起訴処分となった場合には検察庁へ請求すれば開示してもらえます。 - 第1回公判期日前
公判請求されて裁判になった場合、第1回公判期日前であれば検察庁に申請して取得します。 - 第1回公判期日後判決まで
第1回公判期日後判決が確定するまでの間は裁判所へ申請して取得します。 - 判決確定後
判決が確定したら検察庁に申請して取得します。
実況見分調書については取得できても供述調書は開示してもらえないケースもよくあるので、状況に応じて対応しましょう。
実況見分調書の申請や取得は被害者が自分で行うこともできますが、時期によって申請先が異なり素人の方にはわかりづらくなっています。
自分一人では不安でしょうから、できれば専門の弁護士に依頼して取り寄せてもらうようお勧めします。
弁護士であれば、スムーズに実況見分調書を取得して書類内容の解析まで行ってくれるので安心です。
信号無視の事故に遭ったら弁護士に相談すべき理由
交通事故案件に長けている弁護士に相談することで、信号無視を立証して適切な過失割合で慰謝料を受け取ることができるよ!
加害者の信号無視による悪質な交通事故に遭ったら、必ず弁護士に相談しましょう。
信号無視の事実を暴ける
信号無視の事案では加害者が嘘をついて示談がまとまらないケースも多数あります。
弁護士に依頼したら、実況見分調書の入手、信号サイクル表の確認、ドライブレコーダーの解析など各種の方法で加害者の嘘を暴ける可能性が高くなります。
適切に過失割合を算定できる
被害者が一人で加害者の保険会社と示談交渉すると、加害者側の保険会社は適正な過失割合をあてはめるとは限りません。
被害者側に過大な過失割合を割り当てて不当に大きく過失相殺してくるケースもよくあります。
弁護士に依頼したら法的に適正な基準で過失割合を算定してくれるので、賠償金を減額されすぎる不利益を避けられます。
賠償金の増額が可能
交通事故の賠償金計算基準は複数あり、法的な基準と保険会社の基準が異なります。
被害者が自分で示談交渉をすると低額な保険会社基準をあてはめられて慰謝料などが大きく減額されてしまう危険性が高まります。
一方、弁護士に示談交渉を依頼すると高額な法的基準が適用されるので、賠償金が大きくアップします。
適正な賠償金を獲得するためには必ず弁護士に依頼しましょう。
悪質な信号無視の交通事故に遭って納得できない思いを抱えているなら、今すぐ交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみてください。
多くの事務所で「無料相談」を実施しているので、気軽に利用してみると良いでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。