今回の記事では、脇見運転による過失割合や慰謝料について、詳しくみていこう。
交通事故の原因で非常に多いのが「脇見運転」。
ついつい周囲に気を取られたりスマホやカーナビを見ていたりして、周囲の車や歩行者に気づかず事故を起こしてしまいます。
万一交通事故に遭ってしまったときに備えて、脇見運転にはどういったパターンがあるのか、また脇見運転で交通事故を起こしたらどのくらいの過失割合になるのか、知識を持っておきましょう。
今回は脇見運転による事故での過失割合や慰謝料について解説します。
目次
脇見運転は前方不注視の安全運転義務違反!
脇見運転は安全運転義務違反
そもそも「脇見運転」とはどういったことなのか、道路交通法上どのような取扱いになるのかみてみましょう。
脇見運転とは、スマホやカーナビ、道路脇の看板や物事などに気を取られたため、注意を怠って前方や周辺の状況を確認せずに運転することです。
典型的な脇見運転は「前方不注視」です。
たとえば以下のようなケースで脇見運転となります。
- スマホを利用しながら運転する
- カーナビやテレビを見ながら運転する
- 助手席の人との話しに夢中になり、前方を見ないで運転する
- 周囲で起こっている交通事故に気を取られて前方を見ないで運転する
- 車内で同乗者と喧嘩になって興奮し、前方を確認せずに運転する
脇見運転をすると、道路交通法上の「安全運転義務違反」となります。
【道路交通法70条】
車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
つまり車を運転する人はハンドルやブレーキ操作を適切に行い、道路交通や車の状況に応じて安全に運転しなければなりません。
脇見運転をすると、事故を起こさなくても道路交通法違反となり、反則金を支払わねばなりませんし運転免許の点数も加算されます。
普通乗用自動車の場合、安全運転義務違反の反則金は9,000円、加算される免許の点数は2点です。
脇見運転での事故率は高い
脇見運転が原因で事故が発生するケースは非常に多くなっているので注意が必要です。
2018年の警視庁統計データによると、事故原因としてもっとも多かったのが「安全不確認」で128,224件、次に多かったのが「脇見運転」で60,990件です。
脇見運転で交通事故を起こすと、刑事事件となって刑罰を適用される可能性もありますし、当然運転免許の点数も加算されて免許停止や取消のリスクが高まります。
最近ではスマホやカーナビを操作しながら脇見運転してしまう人が多いので、「運転中は絶対にスマホやカーナビを操作しないルール」を徹底しましょう。
脇見運転で事故を起こした場合の加点数
もしも脇見運転で交通事故を起こしたら、免許の点数はどのくらい加算されるのでしょうか?
一般的に、交通事故が「物損事故」であればドライバーに免許の加点はありません。
ただし脇見運転で不適切な運転をしていたら「安全運転義務違反」として2点が加算される可能性があります。
人身事故を起こした場合には、基本的に安全運転義務違反として2点が加算されます。
これを「基礎点数」といいます。
さらにプラスして被害者の受傷状況や加害者の過失の程度に応じて2~20点が加算されます。
これを「付加点数」といいます。
たとえば被害者が軽傷で被害者にも過失があった場合には、付加点数2点が加算されます。
安全運転義務違反の基礎点数2点と足して合計4点が加算される計算です。
被害者が死亡して加害者に100%の過失があった場合、安全運転義務違反の2点と付加点数の20点が加算されるので合計22点が加算され、1回の事故で免許取消となります。
このように、脇見運転で交通事故を起こすと事故の結果次第では免許を失ってしまう可能性もあるので、絶対にしてはいけません。
脇見運転で交通事故を起こしたときの刑事罰について
脇見運転で交通事故を起こすと、ドライバーには刑事罰が適用される可能性が高くなります。
交通事故の中でも「人身事故」を発生させて被害者にけがをさせたり死亡させたりすると、加害者には「過失運転致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」が成立するからです。
過失運転致死傷罪になるのは通常程度の過失によって事故を発生させたケース、危険運転致死傷罪になるのは故意にも匹敵するような悪質な事故を発生させたケースです。
過失運転致死傷罪の罰則は「7年以下の禁固または懲役、100万円以下の罰金刑」ですが、危険運転致傷罪が成立すると刑罰は「15年以下の懲役刑」、危険運転致死罪の刑罰は「1年以上20年以下の懲役刑」となり、大変重くなります。
著しい脇見運転をしてスピード違反をしながら人の集まっている場所につっこんだ場合などには「危険運転致死傷罪」が成立してしまう可能性もあるので絶対にしてはなりません。
脇見運転で危険な事故を起こすと刑務所に行かねばならないリスクも高まるので要注意です。
脇見運転による事故の過失割合
その他の事故の場合の過失割合について、チェックしてみよう。
脇見運転が原因で交通事故が発生した場合、加害者と被害者の過失割合はそれぞれどのくらいになるのでしょうか?
追突事故なら100%になるケースがほとんど
脇見運転をしていると、前をきちんと見ないので前方車両に近づきすぎて追突してしまう危険が高まります。
追突事故では、基本的に後方車両の過失割合が100%です。
脇見運転をして前方車両に追突したら、脇見運転していたドライバーの過失割合が100%になるので全額の賠償金を支払わねばなりませんし相手に損害賠償できません。
ただし以下のようなケースでは前方車両にも過失割合が発生します。
駐停車禁止場所に駐停車していた
前方車両が駐停車禁止場所に駐停車していると、後方車両にとっては「そこに車がある」ことを予測しにくくなります。
よって前方車両にも10%程度の過失割合が認められ、後方車両の過失割合が90%となります。
駐停車方法が不適切、ハザードランプをつけていない
前方車両が不適切な方法で駐停車していたりハザードランプをつけていなかったりしたら、前方車両にも過失割合が10~20%程度認められます。
急ブレーキを踏んだ
前方車両が急ブレーキを踏んだために後方車両が追突を避けられず事故につながった場合には、前方車両にも責任が認められるので30%程度の過失割合が認められ、後方車両の過失割合が70%となります。
ハンドルブレーキの不適切な操作があった
前方車両が急ブレーキというほどではないけれど不適切にブレーキを踏んだりハンドル操作を誤ったりした場合には、20%程度の過失割合が認められます。
後方車両の過失割合は80%となります。
脇見運転では追突以外の事故でも過失割合が大きくなる
脇見運転をしていると、追突事故以外の交通事故を起こしてしまうケースももちろんあります。
たとえば交差点で脇見運転をして対向車両とぶつかってしまうこともありますし、進路変更の際に脇見運転をして他の車両と接触してしまうケースもあるでしょう。
交通事故では「事故態様」によって基準となる過失割合が決まっているので、その基準が適用されて過失割合が決まるのが基本です。
ただし一方の車が脇見運転をしていると「著しい過失」があったとされてそのドライバーの過失割合が5~15%程度加算されます。
たとえば基本の過失割合が「被害者30%、過失割合70%」の事案でも、加害者が脇見運転をしていたら10%程度の過失割合が加算されて「被害者20%、加害者80%」となったりします。
著しい過失については次の「修正要素」の項目で詳しく説明します。
脇見運転と過失割合の修正要素
ハザードを出さずに進路変更してきたり、飲酒運転や居眠り運転などがあった場合には、修正要素として過失割合が変わってくるよ。
脇見運転の過失割合に関連して「修正要素」についても知識を持っておきましょう。
修正要素とは
修正要素とは、個別の交通事故の状況に応じて基本的な過失割合を修正する原因となる事情です。
たとえば以下のようなことが修正要素となります。
- 事故現場が視認不良
- 進路変更の際に指示器を出さなかった
- ハンドルブレーキ操作方法が不適切であった
- 一方がスピード違反をしていた
- 一方が飲酒運転をしていた
- 一方が居眠り運転していた
- 一方に著しい過失がある
- 一方に重過失がある
上記のような特殊事情があると、基本の過失割合をそのまま適用するのが不都合なので、過失割合を加算したり減算したりして適切な数値に修正します。
その原因となる事情を「修正要素」といいます。
脇見運転は著しい過失になる
「著しい過失」は修正要素の1種です。
著しい過失とは、通常想定されているよりも高い過失です。
脇見運転は、通常「著しい過失」に該当するので、脇見運転をしていると通常の事故のケースよりも5~15%程度、ドライバーの過失割合が上がってしまいます。
加害者が脇見運転でも被害者の過失割合が高くなるケース
加害者が脇見運転していても被害者の過失割合が高くなるケースとしてどういった場合があるのか、いくつか例を紹介します。
被害者が急ブレーキをかけた、ブレーキランプの故障があった
脇見運転をしていた後方車両が前方車両に追突したら、通常は後方車両の過失割合が100%となります。
しかし被害者が急ブレーキをかけたために事故になった場合には、被害者に30%の過失割合が認められます。
被害者のブレーキランプが故障していた場合、修正要素が適用されてさらに被害者の過失割合が10~20%程度上がります。
被害者の過失割合が10%加算されたら「被害者が40%、加害者が60%」となりますし、被害者の過失割合が20%加算されたら「被害者が50%、加害者が50%」となります。
ただし後方車両が脇見運転していると「著しい過失」として10%程度の過失割合が加算されるので、最終的には「前方車両対後方車両(脇見運転)」が「30%対70%」あるいは「40%対60%」となる可能性が高くなります。
被害者が急に車線変更した
進路変更する際にも交通事故が発生するケースがよくあります。
その場合の基本の過失割合は進路変更車が70%、後続車が30%です。
前方車両が指示器を出さずに進路変更した場合、修正要素が適用されて前方車両の過失割合が20%程度加算されるので過失割合は90%となります。
後方車両の過失割合は10%です。
ただし後方車両が脇見運転していたら、後方車両に著しい過失が認められて10%程度の過失割合が加算されるので、最終的には「前方車両が80%、後方車両(脇見運転)が20%」程度の過失割合となります。
以上のように、脇見運転をしていたら基本的に「著しい過失」の修正要素が適用されるので過失割合が高くなりますが、具体的な数字は事故態様によって異なります。
素人ではなかなか適切に判断できないので、交通事故に遭ったときには弁護士に相談して正しい過失割合を教えてもらいましょう。
まとめ
運転中は脇見運転をしないように心掛けないといけないね!
脇見運転をしていると、たとえ交通事故を起こさなくても「安全運転義務違反」として検挙される可能性があります。
最近はスマホの「ながら運転」への取り締まりなども強化されているので、運転の際には十分注意が必要です。
万一事故に巻き込まれてしまったら、正しく過失割合を適用して賠償金を適正に算定できるよう、交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。