今回の記事では、物損事故を起こしてしまった時の対処法や利用できる保険について、チェックしていこう。
- 壁やガードレールにぶつかってしまった
- 運転を誤って溝に落ちてしまった
- 道路上に物が落ちていてぶつかってしまった
「相手のいない単独の事故」を起こしてしまったら、どのように対応すれば良いのでしょうか?
実はこういった「自損事故」のケースでも基本的には警察を呼ばねばなりません。
そのまま走り去ると保険を使えなかったり罰則が適用されたりするリスクがあるので要注意です。
今回は自損事故を起こした場合の対処方法を解説します。
目次
単独で物損事故を起こしてしまった時の対処法
二次被害を防ぐためにも、ハザードをつけて、周囲に事故が起きている事を知らせよう。
車を運転していて壁や施設、ガードレールにぶつかった、溝に転落したなど「単独で起こした事故」を「自損事故」といいます。
自損事故には人身事故も物損事故も含みます。
自損事故を起こした場合「誰にも迷惑をかけていないから警察に言う必要もない」と考える人がいますが、それでは法律違反になってしまう可能性があります。
以下で自損事故を起こしたときの対処方法をみていきましょう。
周囲に負傷者がいないか確認する
自損事故を起こしたら、まずは周囲に負傷者がいないかどうか確認しましょう。
自分では「誰にも迷惑をかけていない」と思っていても、飛び散った破片などによってけがをした人がいる可能性もあります。
もしもけが人がいたら「人身事故」になりますし、放置して走り去ると「ひき逃げ」です。
ひき逃げは重罪なので、検挙されると実刑になってしまう可能性もあります。
必ず周囲を確認し、けが人がいれば応急処置を行って救急車を呼びましょう。
警察を呼ぶ
けが人がいる場合はもちろんのこと、その場に自分1人しかいなくても必ず警察を呼びましょう。
自損事故では「他人の物を壊している可能性が高い」からです。
たとえ誰もけがをしていなくても、ガードレールや壁、家などを壊したら「物損事故」となり賠償責任が発生します。
物損事故は道路交通法上も「交通事故」扱いになるので、当事者は警察へ報告しなければなりません。
もしも報告しなければ「報告義務違反」となって罰則も適用されます。
罰則の内容は「3か月以下の懲役または5万円以下の罰金」です。
「自分1人の問題だからかまわない」と考えて走り去るのではなく、急いでいてもきちんと警察に通報して到着を待ちましょう。
警察が来るまで危険防止措置を取る
自損事故を起こすと、壁などにぶつかって周囲に破片が散らばる可能性があります。
そのような場合、二次被害を防止するために片付けを行いましょう。
これも道路交通法上、事故の当事者に課された義務の1つで「危険防止措置義務」といいます。
警察が到着するまでの間、車は路肩に寄せてハザードランプを点灯させ、三角表示板や発煙筒を使って後続車へ事故を知らせましょう。
病院に行く
自損事故でも自分がけがをする可能性があります。
特に事故時に物にぶつかったり溝に落ちたりして大きな衝撃を受けた場合、自覚がなくてもけがをしているケースが多いので注意しましょう。
念のために病院に行ってレントゲン検査などを受けておくようお勧めします。
保険会社へ報告する
実は自損事故のケースでも自動車保険が適用されて保険金の支払いを受けられるケースがたくさんあります。
そのためには、なるべく早めに保険会社へ事故の報告をしなければなりません。
警察が来て現場での対応が終わったら、すぐに加入している保険会社へ連絡を入れましょう。
事故証明書を取得する
自損事故でも警察へきちんと報告したら、後日に事故証明書が発行されるようになります。
事故証明書は、交通事故が起こった事実を証明する書類で「自動車安全運転センター」で発行してもらえます。
保険金の受け取りをはじめとして、交通事故関係のさまざまな手続きで必要になるので、1通は手元に取得しておきましょう。
申請方法は郵送またはインターネットが便利です。
お近くの郵便局から郵送で申請するか、以下のページからネットを使って申請してみてください。
自損事故を警察に届け出ないデメリット
その他にも、当て逃げ扱いとなり、前科がついてしまう事もあるんだよ。
自損事故でも他人の物を壊したら、必ず警察に届け出なければなりません。
届け出ないと、以下のようなデメリットがあります。
事故証明書が発行されない
交通事故を起こしたとき、警察に届出をしないと「事故証明書」を発行してもらえません。
事故証明書がないと、次に説明するように「保険金」を受け取れなくなったり会社で休業申請をしにくくなったりなど、さまざまなデメリットが及びます。
保険金を受け取れない
事故証明書がないと「事故があった事実」を証明できないので、保険会社に保険金を請求できません。
自損事故のケースでも、壁やガードレール、家や街路樹などを壊したら「損害賠償」をしなければなりません。
その際、本来なら「対物賠償責任保険」が適用されて相手に対する支払いが可能です。
また自分がけがをしたら「自損事故保険」「搭乗者傷害保険」「人身傷害補償保険」などが適用されます。
しかし事故証明書が発行されないと「そもそも事故が発生したかどうかがわからない」ので保険会社は保険金を出してくれない可能性が高くなります。
発生した損害の補填が自腹になり、負担が大きくなってしまうでしょう。
後から事故の届出をしようとしても、交通事故から時間が経過すると警察が受け付けてくれなくなるケースも少なくありません。
自損事故を起こしたら、たとえ自分以外にけが人がいなくてもすぐに警察を呼ぶ必要があります。
前科がつく可能性
自損の物損事故でも、当事者には警察への報告義務が課されます。
報告しなければ道路交通法違反となり、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金の罰則が適用されます。
在宅捜査で略式裁判となれば警察に逮捕・勾留されることはありませんが、罰金刑であっても一生消えない「前科」がついてしまいます。
交通違反だからといって軽く考えてはなりません。
悪質な「当て逃げ犯人」扱いをされる
自損の物損事故を起こした場合にも警察への報告義務があるので、届出をせずに走り去ると「当て逃げ」になります。
駐車場などで人の車にぶつけたりいたずらしたりして逃げてしまう悪質な犯人と同類です。
今はいたる所に監視カメラが設置されているので、逃げても道路上のカメラに写っていて素性を突き止められる可能性が高くなっています。
たとえ悪気のない自損事故であっても被害者にしてみたら「自分の家や施設を傷つけられたのに逃げた悪質な犯人」としか受け止められないので、厳しく責任追及されるでしょう。
免許の点数が加算される
物損事故の場合、基本的には免許の点数が加算されませんが、当て逃げをすると2点が加算されます。
すると免許停止のリスクも発生します。
損害賠償できなくなってしまう
自損事故が発生したとき、必ずしもドライバーに全面的な責任があるとは限りません。
道路や設備の管理状況が悪かったために事故につながった可能性があるからです。
道路が傷んで凹凸が激しくなって放置されていたり、道路の真ん中に物が放置されていたりした場合などには施設の管理者に責任が発生する可能性があります。
このように第三者の責任で事故が発生し、車が壊れたりけがをしたりしたら、第三者へ損害賠償請求が可能です。
しかし警察に届け出ないと事故証明書が発行されず、事故が起こった事実を証明できないので損害賠償請求もできません。
本来なら自分に発生した損害の補償を受けられるのに、その権利を実現できなくなるのは大きなデメリットとなるでしょう。
自損事故で利用できる保険
それぞれどんな場合に適用になるのかを説明するね。
自損事故でも、きちんと警察に報告をして「事故証明書」の発行を受けられれば、自動車保険の適用を受けられます。
以下では自損事故で利用できる保険の種類や内容をご紹介します。
対物賠償責任保険
対物賠償責任保険は、相手方に発生した物損を補填するための保険です。
自損事故でも第三者に損害が発生するケースがあるので、対物賠償責任保険を適用できます。
たとえば事故の際に以下のようなものを壊したら、対物賠償責任保険から賠償金を出してもらえます。
- 道路
- 家
- 設備
- 街路樹
- ガードレール
ガードレールや街路樹などは市町村など自治体が管理しているケースもありますが、相手が行政庁でも損害は損害です。
壊したら弁償が必要になりますし、意外と高額になる可能性もあります。
そういった場合にも対物賠償責任保険が適用されると負担が軽くなるので助かります。
車両保険
自損事故では、運転者の車が壊れてしまうケースが多々あります。
相手のある事故なら、相手の対物賠償責任保険によって修繕ができますが、自損事故の場合には自分で修理するしかありません。
このようなときに「車両保険」を適用すれば修理費用を出してもらえます。
車両保険は自分の車が壊れたり盗難に遭ったりした場合に適用できる保険です。
車両保険の注意点
ただし車両保険にはいくつか注意点があります。
まず車両保険には「免責額」が設定されているケースが多数です。
免責額とは「その金額までは保険会社が責任を負わない」金額です。
たとえば免責額が10万円の場合、10万円を超える部分だけが支払われるので10万円までは自腹になります。
また車両保険を利用すると、保険等級が3等級ダウンします。
そうなると次年度からの自動車保険料が大きく上がってしまう可能性があります。
このようなデメリットを考えると、実は車両保険を適用せずに自分で修理費用を負担した方が得になるケースが多いのです。
車両保険を適用する前に
- 免責額がいくらになっているのか
- 次年度から3年間、どのくらい保険料がアップするのか
を計算して、メリットのある場合にのみ利用しましょう。
自分1人では試算が難しいので、保険会社の担当者と相談してみるようお勧めします。
人身傷害補償保険、搭乗者傷害保険
人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険は、運転者や同乗者などに発生した「人身損害」に適用される保険です。
自損事故でも運転者や同乗者がけがをしたら、保険金を受け取れます。
人身傷害補償保険の場合には実際に必要になった治療費の実費や休業損害など、搭乗者傷害保険の場合には「入院1日いくら」などの定額が支払われます。
これらの保険に加入しているなら、保険会社に事故を報告して支払いを申請しましょう。
自損事故保険
自損事故保険は、自損事故を起こした本人や同乗者の「人身損害」を補償するための保険です。
物損事故の場合には自損事故保険が適用されません。
入通院が必要になったときや後遺障害が残ったとき、介護が必要になったとき、死亡した場合などに支払いを受けられます。
人身傷害補償保険と補償範囲が重なる場合、人身傷害補償保険が優先して適用されるので2重の支払いは受けられません。
また金額的には人身傷害補償保険よりも低くなり「最低限度」の補償となります。
まとめ
けが人がいなければ警察に届け出る必要がないと思っていたよ。
物損の場合でも、後々トラブルに発展してしまう事があるから、困った時には弁護士に相談するのがお勧めだね!
自損事故を起こしたら、まずは警察を呼んで的確に現場対応を行う必要があります。
賠償問題が発生したら、利用できる保険を適用しながら不利益の少ない方法で対処していきましょう。
被害者や保険会社などとトラブルが発生したら、弁護士に相談してアドバイスやサポートを受けると安心です。
困ったときには交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみて下さい。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。