今回の記事では、交通死亡事故を起こしてしまった場合の加害者の責任について、詳しく説明するよ。
交通事故の中でも、死亡事故は非常に重大です。
死亡事故を起こしてしまったら、どのような責任が発生するのでしょうか?
処罰内容についても気になるところです。
死亡事故ではどのくらい慰謝料が発生するのか、誰に賠償金を支払うのか、できるだけ不利益を小さくするにはどうしたら良いかなども知っておきましょう。
今回は、交通死亡事故を起こした場合の対処方法について、解説します。
目次
死亡事故を起こしてしまった場合の法的責任
交通死亡事故とは、被害者が死亡した交通事故です。
即死した事故だけではなく、いったん病院に運ばれて、しばらく治療を施した後で死亡したケースでも死亡事故となります。
死亡事故を起こしてしまったら、加害者にはどのような責任が発生するのでしょうか?
問題となるのは、以下の3つの責任です。
刑事責任
刑事責任とは、刑事罰(処罰)を受けるべき責任です。
交通事故で人を死亡させることは、1種の犯罪となります。
そこで、死亡事故を起こすと「犯罪者」になってしまいます。
刑事裁判の被告人となり、禁固刑や懲役刑となる可能性もあります。
民事責任
民事責任とは、被害者に対して損害賠償をしなければならない責任のことです。
交通事故が起こったら、被害者にはいろいろな損害が発生します。
死亡事故の場合では、葬儀費用や慰謝料、逸失利益などが主となります。
事故の加害者には民法上の不法行為責任や自賠法上の運行供用者責任が発生しますので、そうした責任にもとづいて、被害者に損害賠償金を支払わなければなりません。
行政上の責任
行政上の責任とは、免許の点数が加算されることです。
日本では、運転免許制度に点数制が導入されており、点数が上がると免許が停止されたり取り消されたりする仕組みとなっています。
いったん取り消されると「欠格期間」が発生し、欠格期間中は再度の免許取得が認められません。
死亡事故を起こすと、被害者にも過失がある場合でも15点が加算されて一発で免許取消となります。
もっぱら加害者の過失による場合には22点が加算されて、やはり免許取消となります。
免許を再取得できない欠格期間は1年間となります。
以上のように、死亡事故を起こすといろいろな点で大きなペナルティを受けることになるので、十分注意が必要です。
どのような処罰を受ける事になるのか
次に、交通死亡事故を起こしたときにどのような処罰を受けることになるのか、説明をします。
このとき問題になるのは、過失運転致死罪と危険運転致死罪です。
特に、危険運転致死罪が成立すると、非常に刑罰も重くなるので、注意が必要です。
過失運転致死罪
過失運転致死罪は、通常要求される注意を払わず、過失によって交通事故を起こして人を死亡させたときに成立する犯罪です。
通常の交通事故で被害者が死亡したら、過失運転致死罪が成立すると考えると良いです。
過失運転致死罪の刑罰は、7年以下の懲役若しくは禁錮または100万円以下の罰金です(自動車運転処罰法5条)。
アルコール等影響発覚免脱罪について
死亡事故を起こしたときに、飲酒していると非常に刑罰が重くなる可能性が高いです。
そこで、お酒の影響が抜けるまで待って、後から出頭しようとする人がいます。
このように「アルコールによる影響を隠そうとする行為」は、より重く処罰されます。
通常の過失運転致死罪よりも刑が加重されて、懲役12年以下となります(自動車運転処罰法4条)。
危険運転致死罪
危険運転致死罪は、故意にも近いような悪質な過失により、交通事故を起こして被害者を死亡させたときに成立する犯罪です。
故意にも近いということですから、その責任は重く、刑罰も非常に厳しいです。
致死罪と致傷罪で刑罰が分けられており、致傷罪なら15年以下の懲役刑ですが、致死罪なら1年以上の有期懲役となります。
つまり、危険運転致死罪が成立すると、執行猶予がつかない限り、最低でも1年は刑務所に行かないといけない、ということです。
有期懲役の上限は20年ですから、交通事故で20年、刑務所に行かなければならない可能性もあります。
また、飲酒運転やひき逃げなどの道路交通法違反行為があると、さらに刑が加重されて、最長30年間の懲役刑が適用されることもあります。
交通事故の犯罪は近年かなり加重されているので、十分注意する必要があります。
死亡事故により被害者に負担する費用
次に、死亡事故の民事責任について、説明をします。
死亡事故を起こしたら、加害者は被害者に損害賠償をしなければなりません。
その場合、どのような費用を支払わなければならないのか、見てみましょう。
- 葬儀費用
- 死亡慰謝料
- 死亡逸失利益
- 治療関係費
- 入通院慰謝料
- 付添看護費用、雑費等
- 休業損害
以下で、それぞれについて説明します。
葬儀費用
被害者が死亡したら葬儀を行う必要があります。すると、葬儀費用が発生します。
加害者は、葬儀費用を支払わなければなりません。
ただし必ずしも全額ではなく、相場としては150万円が限度となります。
ただ、事案によってはそれ以上の葬儀費用の支払いが必要になることもあります。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、交通事故で被害者が死亡したことによる精神的損害に対する損害賠償金です。
被害者は、死亡と同時に強い精神的苦痛を感じるので死亡慰謝料が発生すると考えられています。
死亡慰謝料の金額は、弁護士・裁判基準の場合、以下の通りとなります。
- 被害者が一家の大黒柱の場合、2800万円程度
- 被害者が母親や配偶者の場合、2400万円程度
- それ以外のケースでは、2000万円〜2200万円程度
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、被害者が死亡したことによって得られなくなってしまった将来の収入のことです。
仕事をしていた人が交通事故で死亡すると、その後の収入を一切得られなくなってしまいます。
その場合、本来得られるはずだった収入を得られなくなるので、損害が発生すると考えられているのです。
死亡逸失利益を計算するときには、被害者の事故前の収入を規準とします。
主婦などが死亡した場合には、平均賃金を使って計算します。
また、死亡すると生活費がかからなくなるので、「生活費控除率」という割合を使って減額します。
さらに、将来受けとる分を先に一括で支払ってもらうので、その分の利益(利息)を控除します。
以上より、死亡逸失利益の計算式は、以下の通りとなります。
死亡逸失利益=事故前の基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
ライプニッツ係数は、中間利息を控除するための特殊な係数です。
就労可能年齢は、一般的に67歳として計算します。
治療関係費
交通事故後、しばらく入院してから死亡した事例などでは、治療関係費も賠償の対象となります。
入通院慰謝料
交通事故後、しばらく入院治療などを受けてから死亡した場合には、治療を受けている間の入通院慰謝料も発生します。
これは、入通院治療が必要になったことによって発生する慰謝料ですから、死亡を原因とする死亡慰謝料とは別のものです。
付添看護費用、雑費等
付添看護費用とは、被害者が入院をしているときに親族が付添看護をしたときなどに発生する費用です。
入院1日あたり6600円程度となります。
入院すると、1日当たり1500円の雑費も発生します。
休業損害
交通事故後、入院などによって被害者が働けない期間が発生すると、その分の休業損害も賠償の対象となります。
以上のように、死亡事故では賠償費目も多いですし、賠償金の金額が非常に高額になりやすいです。
死亡慰謝料だけでも2000万円は超えますし、逸失利益を足すと1億円を超えるケースも珍しくありません。
死亡慰謝料は誰に支払うのか
それでも賠償金の支払いは必要になるの?
被害者が死亡しなかった場合、賠償金は当然被害者に支払うことになりますが、死亡事故の場合、被害者自身は死亡しているので賠償金を受けとることができません。
それでは、誰に慰謝料などを支払うことになるのでしょうか?
遺族(法定相続人)に賠償金を支払う
死亡事故の賠償金は、遺族に支払いをします。
遺族とは、法定相続人のことです。
交通事故で被害を受けると、被害者は加害者に対して「損害賠償請求権」を取得します。
そして、預貯金や不動産などと同じように、この損害賠償請求権が相続人に相続されるのです。
法定相続人の範囲と順位
法律が定める相続人の範囲と順位は、以下の通りです。
まず、被害者に配偶者がいた場合、配偶者は常に法定相続人となります。
被害者に子どもがいた場合、子どもが第1順位の法定相続人になりますから、配偶者と子どもがいる人が死亡した場合には、配偶者と子どもに賠償金を支払いますし、配偶者がいない人の場合には子どもにのみ賠償金を支払います。
子どもがいない場合には、親が第2順位の法定相続人となります。
配偶者と親がいる人の場合には、配偶者と親に賠償金を支払いますし、配偶者がいない人の場合には親のみに支払をします。
被害者に子どもがおらず、親も既に他界している場合には、兄弟姉妹が第3順位の法定相続人となります。
被害者に配偶者と兄弟姉妹がいる場合には、配偶者と兄弟姉妹に賠償金を支払いますし、配偶者がいない人の場合には、兄弟姉妹のみに賠償金を支払います。
逸失利益は高齢者でも支払うことになるのか
被害者が高齢者の場合、逸失利益についての問題があります。
高齢者に死亡逸失利益が認められるケース
先にも説明したように、死亡逸失利益は、通常就労可能年齢までの分を計算します。
一般的に、人は就労可能年齢まで働くものと考えられているからです。
そうだとすると、67歳を超えている高齢者には、死亡逸失利益が発生しないことになります。
しかし実際には、就労可能年齢を既に超えても働く人が多いです。
このような場合、逸失利益が一切発生しないとすると不合理です。
そこで、一定のケースでは、高齢者にも逸失利益が認められます。
認められるのは、以下のようなケースです。
- 事故当時に実際に働いていたケース
- 事故当時、具体的に就業する予定があったケース
これに対し、事故当時無職であった場合には、死亡逸失利益は認められにくいです。
また、高齢者の場合、老齢年金を受給していることが多いですが、老齢年金や障害年金も死亡逸失利益計算の基礎収入となります。
そこで、年金を受給している高齢者の場合にも、逸失利益が発生します。
高齢者の就労可能年数について
高齢者の場合就労可能年数についても別途の考慮が必要です。
高齢者の場合、就労可能年齢を超えても働き続ける蓋然性が高いことも多いですし、実際に67歳を超えていることもあるからです。
そこで高齢者の場合、就労可能年数については、以下の長い方の数値とします。
- 平均余命の2分の1
- 67歳までの期間
67歳以上の人の場合には、平均余命の2分の1をもって計算します。
遺族への慰謝料も必要となるか
ここまで、被害者本人に発生する損害や慰謝料について説明をしてきましたが、交通事故で被害者が死亡すると、遺族にも大きな精神的苦痛が発生するものです。
遺族には、被害者とは別に固有の慰謝料が発生しないのでしょうか?
この点、民法は、不法行為で被害者が死亡したとき、配偶者や親、子どもは固有の慰謝料を請求することができると定めています。
そこで、基本的に遺族固有の慰謝料も認められます。
ただ、上記で紹介した弁護士・裁判基準による死亡慰謝料の金額には、基本的に遺族固有の慰謝料も含まれると考えられています。
ただし、ケースによってかなり柔軟な運用が行われており、遺族の精神的苦痛を考慮して慰謝料が増額されることも多いです。
また、自賠責基準では、わかりやすく遺族の慰謝料が加算されます。
自賠責基準では、被害者本人の死亡慰謝料は300万円と非常に安くなっているのですが、遺族がいると、500万円~900万円が加算されます。
ただ、自賠責基準は自賠責保険が支払いをするときの基準ですから、加害者が被害者に支払いをするときには適用されません。
この基準について、あまり注目する意味はないでしょう。
実際に被害者に支払いをするのは誰か?
任意保険に加入していないと、全額自己負担となってしまうんだ。
以上のように、交通死亡事故を起こすと、加害者は被害者に対し、多額の賠償金を支払わなければなりません。
その金額は1億円を超えることも珍しくはありません。
「そんな金額のお金を支払うことはできない」という方がほとんどでしょう。
そこで、多くの人は、任意保険に加入しています。
任意保険の対人賠償責任保険に加入していると、任意保険会社が必要な損害賠償をしてくれるからです。
また、保険屋の対人賠償責任保険には示談代行サービスがついているので、保険会社が被害者と示談交渉をしてくれます。
加害者本人が対応する必要はありません。
ただし、対人賠償責任保険の支払金額は保険の「限度額」に限定されてしまいます。
そこで、任意保険に加入するとき、対人賠償責任保険の限度額は「無制限」にしておくことをお勧めします。
また、任意保険に加入していない場合、上記のような慰謝料や賠償金を、加害者が全額(自賠責保険を超える部分)支払わなければなりません。
支払いができない場合には、被害者の遺族から訴訟を起こされる可能性がありますし、判決が出たら預貯金や不動産、給料等を差し押さえられる可能性もあります。
そうなったら、最終的に自己破産するしかなくなりますが、危険運転致死罪の場合には、自己破産をしても損害賠償義務が免除されないおそれもあります。
このようなリスクを考えても、やはり任意保険には必ず入っておくべきと言えます。
死亡事故を起こした場合に弁護士に依頼した方が良い理由
刑事手続に適切に対応してもらえる
死亡事故を起こしたら、いろいろな法的責任が発生します。
民事責任については、基本的に保険会社に任せられるとしても、刑事責任への対応が必要です。
きちんと対応しないと、懲役刑を選択されて実刑となり、刑務所に行かなければならない可能性もあります。
そこで、死亡事故を起こしたら、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に相談をすると、不利益を最小限度にとどめるためのさまざまなアドバイスをもらうことができるからです。
たとえば、刑事責任については、被害者にきちんと謝罪や被害弁償を行っていると、情状が良くなって処分が軽くなります。
そこで、弁護士に依頼して早めに被害者に連絡をしてもらい、示談交渉を早めに進めることによって不利益を小さくすることができるのです。
また、死亡事故で実際に起訴され、刑事裁判になってしまった場合には、懲役刑となる可能性がかなり高くなってしまいます。
裁判で弁護士に効果的な弁護活動をしてもらうことにより、執行猶予をつけるなど、刑罰を軽くすることも可能となります。
民事賠償についてアドバイスしてもらえる
民事賠償についても、弁護士に相談していると、具体的にどのような主張をしてどのように進めていったら良いのかわかるので、安心です。
任意保険に加入していなかった場合、代理人として示談交渉をしてもらえる
万が一任意保険に加入していなかった場合、自動車損害賠償保障法(自賠責保険)を超えた損害賠償金に関しては、弁護士に代理人を依頼することにより、被害者と示談交渉を進めてもらい、和解することも可能となります。
まとめ
交通事故で被害者が死亡してしまったら、加害者にとっても非常に大きな影響が及びます。
そんなとき、頼りになるのは法律の専門家である弁護士です。
死亡事故を起こしてしまった場合には、なるべく早めに交通事故トラブルに注力している弁護士を探して相談してみることをお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。