だけど、子供の場合、支払能力がないことが多いよね。
今回の記事では、未成年が交通事故を起こしてしまった時には誰が賠償金を支払う必要があるのか、詳しく見ていこう。
未成年者や学生が交通事故を起こした場合、本人に支払い能力がなかったら被害者は充分な慰謝料を受け取れない可能性があります。
親や勤務先の会社など、別の人に賠償金を請求できないのでしょうか?
今回は未成年や学生による交通事故に巻き込まれた際、困らないための慰謝料請求方法を解説します。
目次
未成年の交通事故は誰に責任があるのか
そもそも未成年者が交通事故を起こした場合、誰に責任があるのでしょうか?
未成年の交通事故は不法行為責任を問われる
交通事故によって発生する責任は「不法行為責任(民法709条)」です。
これは「故意や過失によって他人に損害を与えたとき」に発生する責任です。
ただし不法行為責任を負うには本人に「責任能力」が必要とされます。
あまりに小さい子どもには責任能力がないので、交通事故を起こしても不法行為責任が発生しません。
法律上、だいたい12~13歳程度の知能があれば「責任能力」が認められると考えられています。
交通事故の場合にも、加害者が「中学生以上」であれば、本人が不法行為責任を負うと考えて良いでしょう。
以上より12歳以上の中学生が運転して交通事故を起こした場合、本人に慰謝料などの賠償金を請求できると考えてください。
責任能力がない子供が交通事故を起こした場合には
では小学生以下の責任能力がない未成年が交通事故を起こしたら、誰に慰謝料請求すれば良いのでしょうか?
この場合「親」に責任追及できる可能性があります。
親には「監督者責任」が発生する可能性があるからです。
監督者責任とは、責任無能力者を監督すべき立場にある人が、その監督義務を怠ったことによって発生する責任です(民法714条)。
親は「親権者」として子どもを適切に監督すべき義務を負うので、子どもが不法行為を起こしたら原則的に親が責任を負います。
つまり12歳以下の子どもが交通事故を起こした場合、親が「無過失」を立証しない限り親に監督者為責任が成立します。
無過失を証明するのは難しいので、ほとんどのケースで親へ責任追及できると考えて良いでしょう。
たとえば以下のような場合、親に対する慰謝料や休業損害などの賠償金を請求できる可能性が高くなります。
- 小学生以下の子どもが勝手に親の車を運転して事故を起こした
- 小学生以下の子どもが自転車を危険な方法で運転して幼児や高齢者にけがをさせた
13歳以上でも親に責任が発生する場合とは
事故を起こした未成年者が中学生以上の場合、親には責任が発生しないのが原則です。
そうだとすると、中学生以上の子ども自身に支払い能力がなかったら、被害者は泣き寝入りになってしまうのでしょうか?
実は未成年者が13歳以上でも親に責任が発生する可能性があります。
親に過失がある場合
1つ目は「親自身に不法行為が成立するケース」です。
つまり「監督義務を怠った」のではなく「親自身が交通事故を引き起こした」といえる場合、親本人の責任として不法行為責任が発生します。
親本人が交通事故を引き起こしたといえるには、親に高い過失や故意が必要です。
たとえば以下のようなケースで親本人の責任を問える可能性があるといえるでしょう。
- 親が無免許の子どもに命令して車を運転させた
- 無免許の子どもが車を運転しているのを知りながらわかりやすい場所に車のキーを放置していた
- 未成年の子どもが無免許で危険運転しているのを知りながら、あえて注意もせず放置していた
ただしこの場合、被害者側が「親の故意や過失」を証明しなければならないので、子どもが小学生以下の場合の監督者責任より責任追及の難易度が大きくアップします。
運転供用者責任が成立する場合
親に対する監督者責任や不法行為責任を問えなくても「運行供用者責任」を追及できる可能性があります。
「運行供用者責任」とは「車の運転を支配し、利益を得ている人」に発生する責任です(自賠法3条)。
車を自分のために運転させ、運行を支配しているなら、事故による責任もとらねばならないという考え方です。
運行供用者責任は「車の所有者」に成立します。
よって未成年の子どもが「親名義」の車に乗って事故を起こした場合、親には「運転者共有者責任」が発生し、被害者は親へ賠償金の請求が可能となります。
運行供用者責任の場合、被害者が運行供用者の故意や過失を立証する必要はありません。
相手が「車の所有者」であれば、基本的に責任追及が可能です。
無免許や免許取り立ての未成年が交通事故を起こした場合、たいていは親名義の車に乗っているものです。
運行供用者責任によって親へ慰謝料請求できる可能性は極めて高いといえるでしょう。
未成年から賠償金を受け取るには
その他にも、勤務中の事故の場合や所有しているバイクや車が会社名義である場合には、勤務先に責任が生じる事もあるんだよ。
事故の相手が未成年者の場合に慰謝料を含めた賠償金を受け取る方法をまとめると、以下のとおりです。
相手が加入している任意保険から支払いを受ける
相手の任意保険が適用されるケースでは、保険会社から賠償金(保険金)を受け取れます。
任意保険が適用されるのは、以下のような場合です。
- 未成年者の親が保険に入っていて未成年者も被保険者となっている
- 未成年者の運転した車に任意保険がかかっている
保険が適用されれば、相手の資力にかかわらず任意保険基準で計算された賠償金が支払われるので、泣き寝入りになる心配はありません。
実際には多くの方が任意保険に加入しているので、保険金として慰謝料や休業損害などを払ってもらえるケースが多数でしょう。
未成年の親に請求する
任意保険が適用されない場合には、親への賠償金請求を検討しましょう。
親に責任が発生する状況は以下の通りです。
- 子どもが小学生以下で親に監督者責任が成立する場合
- 子どもが中学生以上でも親の過失が高く不法行為責任が成立する場合
- 子どもが親名義の車を運転していて運行供用者責任が発生する場合
勤務先へ請求する
未成年者本人や親に責任が発生するかどうかとは無関係に、「勤務先」に責任を追及できる可能性があります。
それは未成年者がアルバイトや社員としてはたらいており、仕事に関連して交通事故を起こした場合です。
労働者を雇用している企業や個人には「使用者責任」が発生します。
使用者責任とは、被用者(労働者)が業務の執行に際して不法行為をしたときに、その労働者を使っている雇用主に発生する責任です(民法715条)。
人を使って利益を受けているのだから、被用者が不法行為をしてしまったときの損害も負担すべき、という考え方にもとづきます。
使用者責任は、被用者の「業務執行に際して」不法行為が行われたときに成立します。
すると「業務執行」が何かが問題になりますが、これは「外形的、客観的に」判断されます。
つまり、業務中の不法行為はもちろんのこと、「実際には業務中でなくても業務中に見える場合」には使用者責任が成立すると考えましょう。
たとえば、本当は業務時間外であっても被用者が「営業用の車」や「勤務先のロゴが入った車」を運転して事故を起こしたら、勤務先には使用者責任が発生します。
以上より、未成年者が仕事中や仕事用の車で交通事故を起こした場合、使用者へ損害賠償請求が可能となります。
使用者責任が発生する具体的なモデルケース
使用者責任は、以下のような場合に成立します。
- 未成年者がピザ屋のバイトで宅配中に事故を起こした
- 未成年者が配送のバイトで軽トラックを運転中に事故を起こした
- 未成年者が仕事でマイカーを運転しているときに交通事故を起こした
- 未成年者が勤務先のロゴの入った車をプライベートで運転して事故を起こした
複数の相手に請求可能な場合の対応
勤務先に責任が発生する場合、親や未成年者との関係は「連帯債務」となります。
つまり勤務先にも親にも未成年者本人にも全額の賠償金を請求できるので、支払いをしてもらいやすい相手を選んで請求すると良いでしょう。
弁護士に相談する
交通事故の相手が未成年の場合、弁護士に相談するようお勧めします。
特に保険が適用されない場合、誰に損害賠償請求をして良いか判断がつきにくいでしょう。
複数の相手に請求できる場合もありますし、相手との直接交渉が必要となって示談が難航する傾向もあります。
弁護士に相談すれば、状況に応じて適切な相手に賠償金を請求し、スムーズに解決できるでしょう。
相手から損害賠償を受け取れない場合の対処方法
未成年者が相手の交通事故の場合、保険が適用されず親にも責任が発生せず、誰にも賠償金を払ってもらえないといった事態も想定されます。
困ったときには以下のように対応してみてください。
自賠責保険を利用する
1つ目は「自賠責保険」に対する被害者請求です。
相手が任意保険未加入などの事情で保険金を受け取れないケースでも「自賠責保険」は適用されるケースがほとんどです。
自賠責保険は強制加入であり、法律違反をしていない限り全員自賠責保険に入っているからです。
自賠責保険からは、自賠責基準で計算された保険金を受け取れます。
金額は任意保険や法的基準より低くなりますが、最低限の補償は受けられるでしょう。
ただし任意保険が適用されないケースで自賠責保険から保険金を受け取るには、被害者が自分で自賠責保険へ請求手続きをしなければなりません。
これを「被害者請求」といいます。
被害者請求のためには、以下のような書類が必要です。
- 保険金請求書
- 交通事故証明書
- 事故状況発生報告書
- 交通費の明細書
- 休業損害証明書
- 診断書
- 診療報酬明細書
- 後遺障害診断書
- 検査結果の資料等
自分で手続きするのが難しければ、弁護士に相談してみましょう。
政府保障事業を活用
相手が自賠責保険にも入っていない場合、「政府保障事業」を利用できます。
政府保障事業とは、ひき逃げや自賠責未加入などで何の補償も受けられない被害者へ向けて政府が補償金を支払う制度です。
支払い基準は自賠責と同等となっているので、申請すれば自賠責基準と同額の治療費や休業損害、慰謝料等を受け取れます。
政府保障事業から受けとったお金は、政府が加害者へと求償するので相手が「逃げ得」になることはありません。
また政府保障事業だけでは不足する損害については、加害者本人へと請求可能です。
自分の保険を適用する
重傷で治療期間が長引いた場合や後遺障害が残った場合などには、自賠責保険や政府保障事業を使っても、充分な支払いを受けられない可能性が高くなります。
そのような場合、自分の加入している自動車保険の利用も検討してみましょう。
人身傷害補償保険
人身傷害補償保険に入っていれば、交通事故でのけがや後遺障害、死亡に対する賠償金を払ってもらえます。
現実に発生した損害ベースで保険金が計算されるので、手厚い補償を受けられるでしょう。
搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険に入っていれば、受傷や死亡などの結果に応じて定額計算の保険金を払ってもらえます。
人身傷害補償保険より早めに支払いを受けられるので、物入りな場合にも役立ちます。
無保険車傷害保険
人身傷害補償保険に入っていなくても、無保険車傷害保険が適用される可能性があります。
後遺障害が残ったり死亡したりすると、任意保険基準で保険金が支払われます。
まとめ
親や勤務先に請求すれば良いってことがわかって安心したよ。
交通事故の相手が未成年の場合、充分な賠償金を受けられずに困ってしまう方がおられます。
まずは1度、交通事故に詳しい弁護士に状況を話して対応を相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。