今回の記事では交通事故で視力が低下してしまった時に受け取れる賠償金について、詳しく見ていこう。
事故で顔面に大けがをすると、視力が低下したり失明してしまったりする可能性があります。
目が見えにくくなると生活でも仕事でも大変な不利益を受けるので、適切な補償を受けましょう。
低下した視力が回復しなければ「後遺障害」認定を受けて高額な慰謝料や逸失利益を請求できます。
今回は交通事故で視力が低下した場合の慰謝料や賠償金の請求方法について、解説します。
目次
交通事故で視力が低下してしまう事故とは
交通事故で視力が低下してしまうのは、主に以下のようなけがをしたケースです。
眼窩骨折
人間の目は「眼窩」という骨によって覆われています。
また異物が目の前に来ると「まぶた」を閉じて保護されるため、簡単には傷つきません。
視力に影響が及ぶほどの衝撃を受けるのは、眼窩が骨折してしまった場合です。
外部からの衝撃で眼窩骨折すると、脳神経を圧迫したり眼球裏で内出血した血液が溜まったりして視力低下や失明につながります。
また眼球が衝撃を受け、眼窩を内側から圧迫して眼窩が骨折するケースもあります。
この場合には複視などの症状が出る可能性もあります。
網膜剥離
網膜剥離とは、眼球の中にある「網膜」という組織が破れたり傷ついたりして眼球の内壁から剥がれてしまう症状です。
網膜剥離の初期症状は「飛蚊症」や光の点滅などですが、悪化すると視野の欠損やかすみなどが発生してものを見にくくなります。
早期に治療しないと回復困難となる傷病です。
脳の障害
視力の低下は脳障害によっても発生します。
脳には視神経が通っているので、その部分に脳内出血などが起こって圧迫されると目が見えにくくなったり複視が発生したりします。
交通事故後、目が見えにくくなったら眼科あるいは脳神経外科へ行って検査を受け、適切な方法で治療を進めていきましょう。
交通事故による視力低下で受け取れる賠償金
その他にも、入通院期間がある場合や後遺症が残ってしまった時には、慰謝料を受け取ることもできるんだよ。
交通事故で視力が低下したら、どのような賠償金を受け取れるのでしょうか?
積極損害
積極損害とは、被害者が実際に支出しなければならない費用に関する損害です。
具体的には以下のようなものが該当します。
治療費
病院や薬局に支払わねばならない検査費用、診察費用、手術費、入院費、投薬料などはすべて相手に請求できます。
ただし入院中に「個室」を利用した場合、差額は基本的に自己負担となります。
付添看護費
入院中、親族に付き添ってもらった場合には1日あたり6,500円程度の付添看護費用を請求できます。
入院雑費
入院すると、1日1,500円程度の入院雑費を請求できます。
交通費
通院のために必要な交通費を請求できます。
公共交通機関の場合は実費、自家用車を使った場合には1キロメートルあたり15円のガソリン代が支払われます。
駐車場代や高速道路大も請求可能で、必要に応じてタクシー代も支払ってもらえます。
義眼、コンタクトレンズなどの装具
目が損傷して義眼が必要になったりメガネやコンタクトレンズを購入したりすると、その費用も請求可能です。
消極損害
消極損害とは、交通事故によって失われた利益です。
具体的には休業損害と後遺障害逸失利益が該当します。
休業損害
交通事故後に働けない期間が発生すると、本来得られたはずの収入を得られなくなり、損害が発生します。
それが「休業損害」です。
事故後に仕事を休んだら、休んだ日数分の「休業損害」を相手に請求できます。
サラリーマンの方の場合、事故前3か月分の給与を基準に1日分の平均賃金を算定して、休業日数分の支払いをしてもらえます。
自営業者の場合には前年度の確定申告書を基準に1日あたりの平均賃金を算定します。
休業損害を請求できるのは基本的に交通事故前に労働をして収入を得ていた人ですが、主婦も休業損害を請求できます。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益は、治療を受けても視力低下が改善せずに後遺症が残り自賠責保険で「後遺障害」として認定されたときに支払われる賠償金です。
失明したり視力が低下したりすると、事故前のように効率的には働けません。
両眼の視力が大きく低下すると、仕事を一切できなくなる可能性もあります。
すると「本来得られたはずの収入」を得られなくなるのでその損失分を「逸失利益」として相手に請求できるのです。
逸失利益の金額は、認定された「後遺障害の等級」と「事故前に得ていた年収」によって決まります。
重症で認定等級が高ければ逸失利益は高額になりますし、事故前に得ていた年収が高ければやはり逸失利益が高額になります。
逸失利益を請求できるのは基本的に有職者(実際に仕事をしていた人)ですが、子どもや主婦にも逸失利益が認められます。
慰謝料
人身事故に遭うと、被害者は大きな精神的苦痛を受けるので加害者へ慰謝料を請求できます。
目に大けがをして視力低下が発生した場合の精神的苦痛はいうまでもなく多大なので、高額な慰謝料が認められる可能性があります。
視力低下・失明した場合の交通事故の慰謝料は以下の2種類です。
入通院慰謝料
人身事故に遭った被害者に認められる慰謝料で、基本的に入通院の期間に応じて計算されます。
後遺症が残らなくても、入通院治療を受ければ慰謝料が支払われます。
入通院の期間が長引くと慰謝料が高額になり、基本的には通院期間よりも入院期間の金額の方が金額は上がります。
後遺障害慰謝料
交通事故で治療を受けても完治せず後遺症が残った場合に支払われる慰謝料です。
事故のけがで視力低下や失明状態となり、回復しなかった場合に受け取れます。
金額は認定された「後遺障害の等級」によって大きく異なり、等級が高くなるほど慰謝料の金額も高額になります。
交通事故による視力低下でいくらの後遺障害慰謝料がもらえる?
後遺障害の等級によって異なる慰謝料の金額について、詳しく見ていこう。
交通事故の受傷が原因で視力低下してしまった場合、後遺障害慰謝料はどのくらいになるでしょうか?
以下で「等級」の意味や各等級の後遺障害慰謝料の金額をくわしくみていきましょう。
後遺障害の「等級」とは
後遺障害の等級とは、後遺障害の「程度」をあらわす数字です。
交通事故の後遺障害には軽いものから重いものまでさまざまなケースが想定されます。
視力低下でも、片眼のみが0.5になった場合と両眼が失明した場合とでは、明らかに不利益の程度が異なるでしょう。
重症の被害者にはより手厚い補償が必要です。
そこで後遺障害の程度に応じて「等級」というランク分けをして、認定された等級が重いほど多くの賠償金が支払われるようになっています。
後遺障害の等級は「1級」から「14級」までがあり、1級がもっとも高く14級がもっとも低くなっています。
視力低下・失明で後遺障害等級を判断する基準
視力低下の場合、認定される後遺障害の等級が細かく分かれます。
基本的には以下の基準で後遺障害等級が判断されます。
- 視力低下・失明が生じたのは両目か片目か
両眼で視力低下・失明が生じた方が認定等級は高くなります。 - 視力がどの程度低下したか
視力低下の程度が重大であれば、認定等級は高くなります。
視力測定の方法
視力は、「ランドルト環」による視力検査で測定します。
これは、「C」のように1つの方向が切れた円を使って見える大きさを測定する方法で、学校や眼科などの普段の視力測定で使われている方法です。
注意しなければならないのは、視力は「矯正後の数値」を基準にすることです。裸眼視力が低下していてもメガネやコンタクトレンズで矯正できるなら後遺障害は認められません。
こうした器具を使っても視力を維持できない場合にはじめて後遺障害が認定されます。
事故との因果関係について
交通事故後の後遺症によって後遺障害認定を受けるには、症状と事故との因果関係を証明しなければなりません。
たとえば「もともと視力の低かった人」が交通事故後の視力測定で数字が出なくても、後遺障害には認定されません。
また交通事故時に「目や脳に損傷を受けていない」のに視力低下が発生したといっても、交通事故の後遺障害にはならないでしょう。
たとえば交通事故で下半身に衝撃を受けて脚を骨折し、顔は無傷のケースにおいて「視力が低下した」と主張しても後遺障害認定されません。
視力低下や失明を理由に後遺障害認定を受けたい場合には、症状だけではなく因果関係もしっかり意識して証明する必要があります。
後遺障害等級によって異なる慰謝料の相場
実際に視力低下や失明が生じると後遺障害の「何級」になるのか、認定される可能性のある等級と慰謝料をみていきましょう。
1級
- 両眼を失明した場合
失明とは「明暗の区別がつかない場合や何とか明暗の区別がつく」程度にまで視力が落ちた状態です。
眼球が失われた場合も含まれます。
2級
- 片眼が失明して、他方の眼の矯正視力が0.02以下になった場合
- 両眼の矯正視力が0.02以下になった場合
3級
- 片眼が失明して、他方の眼の矯正視力が0.06以下になった場合
4級
- 両眼の矯正視力が0.06以下になった場合
5級
- 片眼が失明して、他方の眼の矯正視力が0.1以下になった場合
6級
- 両眼の矯正視力が0.1以下になった場合
7級
- 片眼が失明し、他方の眼の矯正視力が0.6以下になった場合
8級
- 片眼が失明した場合
- 片眼の矯正視力が0.02以下になった場合
9級
- 両眼の矯正視力が0.6以下になった場合
- 片眼の矯正視力が0.06以下になった場合
- 両眼に半盲症、視野狭窄などの視野障害が残った場合
視野障害とは、右半分、左半分、上半分などしか見えなくなったり円上に見える範囲が狭まったり暗点が生じたりして、視野が狭くなってしまう症状です。
両眼に視野障害が発生すると9級が認定されます。
10級
- 片眼の矯正視力が0.1以下になった場合
- 正面を見たときに複視が残った場合
複視とは、ものが二重に見える症状です。
正面を向いたときに複視があれば、10級が認定されます。
11級
- 両眼の遠近調節力が低下した場合
- 両眼の眼球運動が困難となった場合
遠近調節機能が事故前の半分以下に低下した場合の調節障害や、眼球周りの筋肉の障害によって眼球の運動機能が従前の半分程度にしか、はたらかなくなった場合には11級が認定されます。
12級
- 片眼の調節力が低下した場合
- 片眼の眼球運動が困難となった場合
調節機能障害や運動機能障害が片眼に残った場合には12級が認定されます。
13級
- 片眼の矯正視力が0.6以下になった場合
- 正面以外を見たときに複視が残った場合
- 片眼に視野欠損や狭窄等が残った場合
片眼の矯正視力が0.6以下になった場合だけではなく、正面以外を見たときにものが二重に見える場合(複視)や片眼に視野欠損、狭窄が残った場合にも13級が認定されます。
このように、視力障害では1~13級までの幅広い等級が認定される可能性があります。
各等級で支払われる後遺障害慰謝料の金額は、以下の通りです。
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
まとめ
交通事故後、眼が見えなくなったり視力が低下したりすると、大変な損失です。
精神的な苦痛も大きくなるでしょう。
適切に後遺障害認定を受けて補償を受けるには、自分1人の力では不足するものです。
弁護士を入れると後遺障害慰謝料の金額が2~3倍に増額されるケースも少なくありません。
事故後の視力低下にお悩みであれば、必ず交通事故に詳しい弁護士に対処方法を相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。