今回の記事では、大学生が交通事故に遭ってしまった場合に受け取れる慰謝料について、詳しく見ていこう。
大学生が交通事故に遭うと、ケガの治療のために休学や留年を余儀なくされるケースが少なくありません。
アルバイトをしている方であれば、仕事ができなくなって減収も発生してしまうでしょう。内定が取り消される可能性もあります。
そんなとき、どのくらいの慰謝料や補償を受けられるのでしょうか?
今回は大学生が事故に遭った場合の慰謝料や休業損害、後遺障害が残ったときの補償内容について解説します。
目次
大学生が請求できる慰謝料
大学生が交通事故に遭ってケガをしたら、相手に「慰謝料」を請求できます。
学生でも社会人でも、請求できる慰謝料の種類や金額は同じです。
慰謝料とは精神的苦痛に対する賠償金ですが、人がケガをしたり死亡したりすると、年齢や性別に関係なく大きな精神的苦痛を受けるためです。
慰謝料には3種類があるので、それぞれご説明します。
入通院慰謝料
大学生がケガをして入通院治療を受けると、治療期間に応じて入通院慰謝料を請求できます。
入院期間があると通院のみのケースより入通院慰謝料が増額されます(ただし自賠責基準の場合には入院も通院も同じ金額として計算されます)。
後遺障害が残らない程度の軽いケガでも、病院にさえ通えば入通院慰謝料を払ってもらえます。
後遺障害慰謝料
事故後、手足を動かしにくくなったり麻痺や痛みが残ったりして後遺症が発生した場合、後遺障害慰謝料を請求できます。
後遺症の内容や程度により「後遺障害の等級」が認定されると、認定された等級に応じた金額の後遺障害慰謝料が支払われるのです。
たとえば交通事故でよくある「むちうち」で後遺障害が残ると、12級または14級が認定されるケースが多数です。
後遺障害慰謝料の金額は、12級の場合には290万円程度、14級の場合には110万円程度が相場です(弁護士基準の場合)。
休学、留年、退学した場合には慰謝料が増額される
大学生が事故に遭うと、休学や留年を余儀なくされるケースも少なくありません。
予定していた留学ができなくなるケース、最悪の場合には退学しなければならない可能性もあります。
このように休学や留年、退学、留学のキャンセルなどの事情が発生すると、学生が受ける精神的苦痛が大きくなるので、慰謝料が増額される可能性があります。
入通院慰謝料や後遺障害慰謝料が通常の基準より高くなるので、示談交渉の際には保険会社へ増額交渉してみましょう。
死亡慰謝料
不幸にも大学生が事故で死亡してしまった場合には、死亡慰謝料を請求できます。
金額の相場は2,000~2,500万円程度です。
大学生が事故で休学、留年してしまった場合の補償
大学生が事故に遭って休学や留年となり、余分に費用がかかった場合、以下のような費用を加害者へ請求できる可能性もあります。
- 休学や留年によって余分に必要になった学費や本などの教材購入費用
- 休学や留年によって余分に必要になった家賃(下宿代)
- 休学中の勉強の遅れを取り戻すために必要になった家庭教師代や塾代
具体的にどの程度の金額を請求できるかはケースバイケースなので、迷ったときには弁護士に相談してみましょう。
事故に遭った大学生が休業損害を請求できるケース
そんな場合には、事故による減収分を休業損害で補償してもらうことが可能だよ。
アルバイトをしていた大学生が事故に遭うと、仕事を休まねばならず減収が発生する可能性があります。
社会人学生であれば会社を休まねばならないでしょうし、学生が起業していたり、在宅ワークで稼いでいたりすると、仕事ができなくなって減収が発生します。
事故が原因で仕事を休んだら、加害者へ「休業損害」を請求できます。
休業損害とは、事故で怪我をして働けない期間が発生したときの減収に対する補償です。
休業損害の計算方法
休業損害の額=1日あたりの基礎収入×休業日数
1日あたりの基礎収入額は、事故前3か月分の給与÷90日として計算します。
フリーランスや個人事業主の場合、前年度の所得の金額を365日で割って算定します(ただしうるう年の場合には366日で割り算します)。
休業損害を請求するときの必要書類
大学生が休業損害を請求するには、以下の書類が必要です。
- 給与明細書、源泉徴収票
事故前にどの程度の収入があったかを証明しなければなりません。
事故前3か月分の給与明細書や源泉徴収票を集めましょう。 - 休業損害証明書
休業損害証明書は、休業日数を証明するための書類です。
保険会社に専用書式があるので、勤務先に渡して作成してもらいましょう。
勤務先に必要事項を記入してもらい、保険会社へ提出すれば休業損害が計算されて支払いを受けられます。 - 確定申告書
フリーランスとして収入を得ている学生の場合、確定申告書で収入を証明しなければなりません。
最新の確定申告書の控えを用意しましょう。
休業損害を請求できる期間
休業損害を請求できる期間は「事故後、完治または症状固定するまで」です。
完治とはケガが完全に治った状態、症状固定とは一定の後遺症が残っているけれど、これ以上治療をしてもケガの状態が改善しなくなった状態をいいます。
完治または症状固定したら、それ以上治療を行っても意味がないので治療を打ち切ります。
休業損害は「必要な治療を受けるために仕事を休んで発生した損害」なので、完治または症状固定するまでの分が認められます。
事故後、早めに通院を打ち切ると休業損害額を減らされてしまう可能性があるので、医師が「完治」または「症状固定」と判断するまで、定期的に通院を継続しましょう。
学生が就職できなくなってしまった場合の補償
大学生が交通事故に遭うと、就職に遅れが出てしまうケースも少なくありません。
せっかく内定していても就職できる時期が遅くなったり、場合によっては事故が原因で内定を取り消されたりする可能性もあります。
就職時期が遅れたり就職できなくなってしまったりしたら、加害者へ「休業損害」として損害賠償できます。
たとえば事故の影響で就職が1年遅れたら、1年分の収入を得られなくなったと判断されるので、1年分の休業損害を請求できるケースもあります。
就職が遅れた場合の補償金の計算方法
就職が遅れたり取り消されたりしたときの補償金の金額は、内定先の給料をもとに計算するのが原則です。
ただし内定していなかった場合には、賃金センサスの平均賃金を用いて計算します。
令和2年の場合、男性の平均賃金は545万9500円、女性の平均賃金は381万9200円となっているので、これらの数字を365日で割り算すると1日あたりの休業損害額を計算できます。
学生でも逸失利益を請求できる
大学生が交通事故に遭って後遺障害認定を受けた場合には「後遺障害逸失利益」を請求できます。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残って体が不自由になったために得られなくなった将来の収入に対する補償です。
休業損害が「完治または症状固定までの補償」であるのに対し、逸失利益は「症状固定後の将来収入に対する補償」なので、時期が異なるものと考えましょう。
なお後遺障害逸失利益が認められるには、「後遺障害等級認定」を受けなければなりません。
後遺障害が認められないと逸失利益は払われないので、後遺症が残ったら必ず適切な方法で後遺障害認定の手続きを進めましょう。
後遺障害逸失利益の金額
後遺障害逸失利益の金額は、認定された後遺障害の等級によって異なります。
等級が高ければ逸失利益の金額も高額になります。
極めて重度な後遺障害が残った場合には、逸失利益が1億円を超える可能性もあります。
むちうち程度の後遺障害であっても数百万円は請求できるケースが多数です。
大学生の基礎収入
逸失利益を計算するときには被害者の「基礎収入」を明らかにしなければなりません。
基礎収入としては、基本的には事故前1年分の収入を適用します。
仕事をしている方であれば、事故前の年収を用いて計算します。
大学生の場合「大卒者の平均賃金」を基準にして逸失利益を計算するケースが多数です。
令和2年の賃金センサスによると、男性の場合の平均年収は637万9300円、女性の場合の平均年収は451万800円となっています。
死亡逸失利益
大学生が交通事故で死亡してしまった場合、遺族が死亡逸失利益を請求できます。
死亡逸失利益とは、死亡したことによって得られなくなった将来の収入です。
大学生の場合、交通事故に遭わなかったら就職して将来にわたって稼げたはずなのに、事故で収入を得られなくなったので逸失利益が発生すると考えられます。
死亡逸失利益を計算する際にも大卒者の平均賃金を用いますが、死亡すると生活費がかからなくなるため生活費については控除されます。
大学生が交通事故に遭ったとき、弁護士に依頼するメリット
その他、弁護士であれば、受け取れる賠償金を漏れなく請求してもらうことができるから、交通事故に遭ってしまった場合には、早めに弁護士に相談してみよう。
大学生が交通事故に遭ったら、弁護士へ依頼しましょう。
以下で弁護士に依頼するメリットをお伝えします。
慰謝料が増額される
交通事故の示談交渉では、被害者が自分で対応するより弁護士に依頼した方が慰謝料は高額になる傾向があります。
保険会社は低額な保険会社基準で慰謝料を計算しますが、弁護士は高額な弁護士基準で計算するためです。
入通院慰謝料はおおむね1.5~1.8倍程度、後遺障害慰謝料であれば約2~3倍程度に増額されるケースが多々あります。
特に治療期間が半年以上の場合や後遺障害が残った場合、自分で交渉するより弁護士に依頼した方が受け取れる金額が高くなり、メリットが大きくなりやすいです。
一定以上の規模の事故なら必ず弁護士へ依頼しましょう。
正当な補償を受けられる
大学生が交通事故に遭ったら、休業損害や休学に対する補償、就職が遅れたことに対する補償や逸失利益など、さまざまな賠償金を払ってもらわねばなりません。
交通事故についての十分な知識がないと、賠償金の適正に計算されているかどうか判定できず、示談交渉で不利になってしまう可能性が高くなります。
弁護士に任せれば、必要な賠償金の費目をもれなく計算して相手に請求してくれます。
後遺障害認定の手続きも任せられるので、むちうちや骨折が完治しない場合にも強い味方となってくれるでしょう。
自動車保険の弁護士費用特約を使えば、無料で弁護士に相談や依頼ができます。
まずは一度、交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士へ相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。