この事故では、多くの犠牲者を出してしまったから、かなり多くの賠償金を加害者の保険会社は請求される事になるよ。
今回の記事では、2019年4月に起きた池袋暴走死傷事故の概要や、加害者の処遇、被害者が受け取れる慰謝料について、詳しく説明するね。
2019年4月、池袋の交差点で80代後半の高齢者が車を暴走させ、歩行者相手に交通事故を起こしました。
11人もの死傷者が出るセンセーショナルな事件だったので、記憶に新しい方も多いでしょう。
2020年10月には初公判も開かれています。
池袋暴走事件は、一般的な感覚としても「悪質な交通事故」といえるでしょう。
加害者にはどの程度の刑罰が下されるのでしょうか?
今回は池袋暴走事件の内容、予想される加害者への処分内容や慰謝料などについて考察します。
事故に関心のある方や日頃運転をされるドライバーの方はぜひ参考にしてみてください。
目次
池袋暴走死傷事故とは
そもそも池袋暴走死傷事故がどういった交通事故だったのか、簡単におさらいしましょう。
プリウスを暴走させ11人を死傷
- 事故発生日時…2019年4月19日12時25分ころ
- 事故発生場所…東京都豊島区東池袋4丁目の交差点
- 加害者…飯塚幸三氏(89歳)
- 事故の態様
加害者である飯塚幸三氏は当時、妻を助手席に乗せてプリウスを運転していました。
高スピードで事故現場に差し掛かったとき、妻から「危ないよ、どうしたの?」といわれます。
そのまま道路脇の縁石へ衝突。
しかし減速するどころか反対にアクセルを踏み込み、そのまま時速100キロメートル近い速度で一般道の交差点へ突入して多数の歩行者をはねました。 - 事故の結果
2人が死亡、9人がケガを負う大惨事となり、「高齢者が起こした暴走事件」として話題となりました。
飯塚氏は「レストランの予約のために急いでいた」事情もあったようですが、これだけの大惨事を起こした理由にはならないでしょう。
高齢者が運転をすべきではないという世論が高まるきっかけにもなったケースです。
なぜアクセルを踏み続けたのか
池袋暴走死傷事故では、飯塚氏が道路脇の縁石に衝突した後もなお減速せず、「アクセルを踏み続けた」ため多くの犠牲者が発生しました。
なぜアクセルを踏み続けたのか、詳細な理由は明らかになっていません。
推測にはなりますが、以下のような事情が考えられるでしょう。
- 飯塚氏の足が悪く、うまくアクセルから足を外せなかった
- 高齢で反射神経がにぶっていた
- 認知症の兆しがあった
- アクセルとブレーキを踏み間違えた
飯塚氏は裁判で「車の故障」を主張しています。
どういった理由にせよ、あまりに高齢の方が運転するのは危険という事実を日本中に知らしめたケースといえます。
飯塚被告は無罪を主張
飯塚氏は逮捕されませんでしたが、起訴されて刑事裁判が行われています。
裁判において飯塚氏本人は、以下のように説明して「無罪」を主張しています。
- 車の異常(故障)があった
- アクセルを踏んだ覚えがない
刑事弁護人も「飯塚氏が当時、アクセルを踏み続けた記録がない」と、同様の主張をしています。
一方で、飯塚氏は被害者に対し「心からおわび申し上げる」と延べ、謝罪の気持ちもあらわしました。
遺族としては「責任を否定するなら謝ってほしくない」「本当に人を死亡させたという重大な結果に向き合っているとは思えない」と辛い心情を漏らしている状況です。
「上級国民」「特別扱いされている」という不満が噴出
池袋暴走死傷事故では、当初から飯塚氏の処遇について「特別扱い」されているのではないか?という疑問がささやかれました。
飯塚氏の社会的地位が高かったためです。
飯塚氏は従前、旧通産省の「工業技術院」の院長職にあった人物です。
そこで「本来なら現行犯逮捕されるところ、特別な配慮がはたらいて逮捕されずに済んだのではないか?」といわれているのです。
「上級国民」という言葉も流行しました。
ただ飯塚氏自身、事故によって骨折し病院へ搬送されています。
高齢であることにも鑑みると「逃亡」や「証拠隠滅」の可能性は極めて低いといえるでしょう。
逮捕の要件を満たさないので逮捕されなかったものと考えられます。
実際に不起訴処分や略式処分になることもなく通常起訴されたことからも、現時点で特別扱いされているとはいえないでしょう。
今後、どのような処分がくだされるのかが重要です。
飯塚被告には前科あり
当時の医師から運転をやめるように言われていたという情報もあるよ。
2001年にも同様の事故を起こしていた
飯塚氏は現在刑事裁判の被告人となっていますが、刑事裁判の冒頭では検察官から過去の前科や前歴について述べられます。
そこで飯塚氏については、2001年に今回と同様の交通前科があることが明らかになりました。
今回ほど悪質なものではなかったとしても、交通事故を起こしたなら運転には通常以上に注意すべきでしょう。
高齢になっても運転を続けていた飯塚氏の姿勢は、責められても仕方のない側面があるといえます。
事故当時、医師から運転を止められていた
また飯塚氏は「足を痛めて通院中」で、医師から運転を控えるよう指示されていたという情報もあります。
それであれば、なおさら運転を続けて今回のような事故を発生させた責任は重くなると考えられるでしょう。
飯塚被告にはどのような判決が下されるのか
今後裁判が進むと、飯塚氏にはどのような判決が下されるのでしょうか?
過失運転致死傷罪
今回、飯塚氏は「過失運転致死傷罪」という罪で起訴されています。
過失運転致死傷罪とは、前方不注視やスピード違反など、一般的な過失によって交通事故を起こしたときに成立する罪です。
非常に危険な運転によって交通事故を起こしたら「危険運転致死傷罪」という別のもっと重い罪が成立します。
飯塚氏については危険運転致死傷罪が適用されてもおかしくなかったと考えられますが、検察官の判断によって過失運転致死傷罪が選択されています。
過失運転致死傷罪の刑罰は「7年以下の懲役または禁固、100万円以下の罰金刑」です。
判決の行方
飯塚氏は裁判で「無罪」を主張していますが、今後裁判が進んで行くと結果的にどのような判決がくだされるのでしょうか?
無罪主張は認められない可能性が高い
まず、飯塚氏の「無罪主張」が認められるのかが問題となります。
これについて、詳細な資料をみたわけではないので正確な判断はできませんが、認められない可能性が高いと考えます。
「車が故障していた」明確な証拠が提出された情報がないためです。
飯塚氏が「アクセルから足を離しても車が止まらなかった」と主張しても、その主張の裏付けがなかったら認められません。
当時、全国的にもプリウスで同様の不具合が発生していたという事情もないのであれば、その主張が採用される可能性は低いでしょう。
結論的に、飯塚氏には何らかの有罪判決が下される可能性が高いといえます。
実刑判決になる可能性が高い
では飯塚氏にはどの程度の処罰が適用されるのでしょうか?
過失運転致死傷罪には「懲役」「禁固」「罰金」の3種類の刑罰があります。
この中で、懲役または禁固が選択される可能性が高く、罰金は選択されないでしょう。
本件では2人も死亡者が出て他にも多数のけが人が出ており、罰金とするには結果が重大すぎるからです。
また事故が比較的悪質で被害結果が重大なため、執行猶予がつく可能性も低いと考えられます。
実刑判決となるでしょう。
とはいえ飯塚氏自身、89歳と高齢です。判決が出る頃には90歳を超えるかもしれません。
そういった事情に鑑みて、裁判所がどのような判断を出すか、どの程度の刑期を指定するのか、要注目です。
慰謝料、賠償金は?
本件で飯塚氏は被害者に対し多大な損害を発生させています。
当然高額な慰謝料や賠償金を払わねばなりません。
ただし基本的には飯塚氏が加入している任意保険(対人賠償責任保険)が賠償金の支払い義務を負います。
飯塚氏自身が払うわけではありません。
おそらく対人無制限の保険に入っているでしょうから、飯塚氏が自己負担することはないでしょう。
金額的には、数億円規模となる可能性が高くなります。
死亡者が2人もいるので、慰謝料と逸失利益を足すと1億円~2億円以上になるでしょう。
他にけが人がいるのでその人たちの慰謝料や逸失利益、休業損害も払わねばなりません。
合計すると数億円単位の賠償金が発生すると予想されます。
こういったときに自動車保険に入っていないと大変なことになります。
車を運転する方は、事故に備えて必ず任意保険に加入し「対人賠償責任保険を無制限」にしておきましょう。
万一のときに弁護士に相談・依頼できるように「弁護士費用特約」をつけるのも忘れないでください。
加害者飯塚幸三氏の今後は?
今回の事故をふまえて、飯塚氏やご家族には今後どういった未来が待ち受けているのでしょうか?
これまでのような気楽な生活は難しい
飯塚氏本人は、これまで通産省の元役人として比較的気楽に生活ができていたと考えられます。
誰からも責められることなく、お金の心配もなく余生を過ごしていたでしょう。
しかし今回の事故により、気楽な余生を過ごすのは困難となります。
数年は刑務所に行かねばならないでしょうし、刑務所から出てきたとしても世間から冷たい目で見られるでしょう。これまでのように尊敬してもらうことはできません。
また刑務所内で生涯を閉じてしまう可能性も低くはありません。
これまで築いてきた地位や名誉も、何の意味のないものとなるでしょう。
重大な交通事故を起こした代償はあまりに大きいといえます。
加害者だけではなく、家族も今まで通りの生活はできない
事故による影響を受けるのは、本人だけではありません。
家族も同様に世間からの冷たい視線にさらされる可能性があります。
妻は本人と同様高齢なのでまだしも、辛いのは残された子どもや孫などの若い親族です。
賠償金が保険から払われるとはいえ、親族が被害者を全く無視するわけにはいかないのが社会の常識です。
今後、被害者への償いを、金銭以外の側面で生涯続けていかねばならない可能性もあります。
親族が重大な交通事故を起こすと、世間から責められた家族が「うつ状態」になってしまうケースも少なくありません。
飯塚被告は無罪を主張していますが、家族としては有罪を望んでいる可能性もあります。
交通事故を未然に防ぐために
今回の事故から学べるのは「高齢者による運転は危険」という事実です。
70歳を超えたら、運転免許証を自主返納するよう強くお勧めします。
本人が返納しない場合、家族がさりげなく勧めてあげてください。
また高齢でなくても、病気やケガをしたり薬を飲んでいたりして運転に支障が出る事情がある場合に運転すると危険です。
少しでも心配な事情があるなら、決して運転してはなりません。
「ちょっとだけなら大丈夫」という油断が事故を引き起こしてしまうのです。
運転をするときには、ドライブレコーダーをつけて車検や点検を欠かさず受けて、安全運転を心がけましょう。
まとめ
高齢者が運転をすると危険だという事が良くわかったよ。
交通事故を起こすと、人生がめちゃくちゃになってしまう可能性があります。
被害者を死亡させてしまったら、一生かかっても償いきれません。
車を運転するときには必ず任意保険に入り、弁護士費用特約をつけましょう。
- 体調が悪いとき、眠いときには運転しない
- 急いでいるからといってスピードを出して危険な運転をしない
- 高齢になったら運転免許証を返納する
こういった基本的な対応によって事故を防いでいきましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。