だったら温泉療法にかかった費用も、治療費として加害者に支払ってもらう事ができるのかな?
今回の記事では、温泉療法を加害者に請求できるのはどんな時なのか、いくらまで請求することができるのか、チェックしていこう。
交通事故でむちうちや腰椎捻挫(ねんざ)などになると「温泉療法」が有効なケースがあります。
温泉に含まれる成分がよい効果をもたらすので、むちうちなどの症状を改善できるのです。
温泉療法にかかる宿泊費や交通費、入湯料などの費用は加害者へ請求できるのでしょうか?
今回は交通事故における、温泉療法を含めた「治療費」の範囲について解説します。
加害者にどこまでの治療関係費を請求できるか知りたい方は、是非参考にしてみてください。
目次
治療費として認められている費用
交通事故でけがをしたら、被害者は加害者へ「治療費」を請求できます。
治療費は交通事故によって発生した「損害」といえますし、「事故がなければ治療費を支払わずに済んだ」という意味で「交通事故と治療費(損害)との因果関係」が認められるためです。
相手に請求できる「治療費」には、以下のような費用がすべて含まれます。
- 診察料
医師と面談して問診や触診などによって診察してもらうための費用です。 - 検査料
レントゲン、MRI、CT、血液検査などの各種検査にかかる費用です。 - 入院料
入院した場合には、「大部屋」の料金が治療費として支払われます。
被害者が個室を希望する場合、個室との差額費用は基本的に被害者の自己負担となります。
ただしどうしても個室に入らねばならない特殊事情があれば、個室代金も加害者側へ請求可能です。 - 投薬料
医師に処方せんを書いてもらう費用です。 - 手術料
手術にかかる費用も加害者へ請求できます。 - 処置料
各種の処置費用も必要な範囲で加害者へ請求可能です。 - 薬代
薬局で購入する薬代も治療費の一環として支払を受けられます。
また治療費以外に「治療関係費」も相手に請求できます。
治療関係費とは、病院に直接払うのではなく、治療に伴って発生する費用です。
- 通院交通費
電車やバスなどの公共交通機関を使った場合だけではなく、自家用車のガソリン代も請求できます。
タクシーを使った場合にも、必要性があれば支払を受けられると考えましょう。
駐車場代や高速道路代、特急料金なども払ってもらえます。 - 入院雑費
入院すると、ガーゼやテープなどのさまざまな雑費がかかるものです。
入院雑費として、1日あたり1,500円の支払いを受けられます。 - 付添看護費用
被害者が入院すると、看護が必要となります。
親族が付き添った場合、入院1日あたり6,500円程度の支払を受けられます。
親族が仕事を休んで付き添ったら親族の休業損害を払ってもらえる可能性もあります。
子どもがケガをして親が通院に付き添った場合など、通院に付添が必要であれば、1回3,300円程度の付添費用を支払ってもらえます。 - 宿泊費
遠方の病院に行くために宿泊が必要となった場合には、宿泊費も請求可能です。
温泉療法の治療費、慰謝料が支払われる条件
だけど、医師が温泉療法を認めるのは非常に稀な事だから、ほとんどの場合では、温泉療法の費用を加害者に請求する事はできないよ。
交通事故でけがをしたとき「温泉療法」が有効となるケースがあります。
温泉療法とはどういった治療法なのか、かかった費用を相手に請求できるのか、みてみましょう。
温泉療法とは
温泉療法とは、温泉に身体を浸けたり温泉水を飲用、吸入したりして傷や病気を癒す医療法です。
「湯治(とうじ)」という言葉があるように、日本には昔から「ケガや病気をしたら温泉で治す」という発想がありました。
今では「日本温泉気候物理医学会」という機関が「温泉療法医」「温泉療法専門医」の認定を行っており、医学的にもきちんと確立された治療方法となっています。
「薬」や「手術」「リハビリ」などの西洋医学的なアプローチでは治癒しないケースでも、温泉療法によって症状を改善できる可能性があります。
温泉療法が有効なケース
温泉治療は「万病に効く」ともいわれますが、以下のような場合に特に有効とされるケースが多いでしょう。
- 腰痛
- 神経痛
- リウマチ
適用症状は温泉施設によっても異なります。
中には気管支喘息や皮膚炎にも有効とされる温泉も。
ただし妊婦や心臓病の方など「温泉に入ってはならない」ケースもあるので、入湯前に確認しましょう。
交通事故では、特にむちうち(頸椎捻挫)や腰椎捻挫でしつこい痛みに苦しんでいる方に対し、温泉治療が効果を発揮する可能性があります。
整形外科で治療を受けても整骨院でリハビリをしてもらっても改善しない場合など、温泉療法を検討する価値があるといえるでしょう。
温泉療法の費用は原則として治療費に含まれない
温泉療法にはさまざまなお金がかかります。
交通事故でむちうちになった方が温泉施設に行って入浴したら、その際にかかった宿泊料や交通費を加害者へ請求できるのでしょうか?
これについては「基本的には難しい」と考えましょう。
もしも温泉療法の費用が無制限に認められたら、交通事故の被害者がこぞってレジャーとして温泉施設に出掛けるでしょう。
その費用をすべて保険会社に請求すると大きな混乱が発生します。
また本来必要のない被害者の娯楽費用を保険会社が負担しなければならず、交通事故の被害者が「タダで温泉に行ける」という不当な状況が発生してしまうおそれもあります。
そこで温泉療法の治療費を保険会社に請求しても、ほとんどのケースで拒絶されます。
被害者の独断で「温泉が効くらしい」と考えて温泉に行っても、加害者から宿泊費や交通費は払ってもらえず「自腹」になる可能性が極めて高いので、注意してください。
医師が認めた場合には支払われることも
ただし例外的に温泉療法の費用を加害者に請求できるケースもあります。
それは「医師が温泉療法を指示した場合」。
医学的な判断によって「温泉治療が有効」と判断されていれば、そこにかかった費用は「交通事故と因果関係のある損害」といえます。
そこで交通費や宿泊費、入湯料を賠償金に含めて保険会社や加害者へ請求できるのです。
支払われるのは通院期間に限られる
温泉療法を受けるための費用を請求できるのは、「治療期間内」に温泉施設に行った場合に限られます。
完治した後や症状固定した後では、「もはや治療は不要」と考えられるからです。
治療修了後に自己判断で温泉に出掛けても、その費用は自腹になるので注意しましょう。
温泉療法と慰謝料
温泉治療を受けた場合、慰謝料の計算にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
交通事故の入通院慰謝料は「治療期間」に応じて計算されます。
つまり治療にかかった日数が多ければ多いほど、慰謝料額が増額される計算方法です。
特に自賠責基準では「実際に治療を受けた日数」が少ないと慰謝料が減額されるので、「治療日数」が重要となるでしょう。
交通事故の慰謝料計算において対象となる「治療期間」は「事故が発生してから完治または症状固定するまでの間」です。
この間に温泉療法を受けたら、温泉施設に行った日数も治療日数にカウントされる可能性があります。
ただし温泉療法を受けた日数を治療日数に数え入れるには、医師が温泉療法を指示しなければなりません。
自己判断で治療中に温泉に行っても慰謝料算定には影響しない可能性があるので注意しましょう。
温泉療法を受けたらいくらまで治療費を請求できる?
過去の判例も合わせてどのくらいの治療費を請求できるのかを見てみよう。
交通事故に遭い、医師による指示を受けて温泉療法を受けた場合、いくらまで治療費を請求できるのでしょうか?
全額の支払いを受けるのは困難
温泉療法には、さまざまな費用がかかります。
- 交通費
- 宿泊費
- 入湯料
ただしこれらの費用を請求しても、全額を賠償してもらえる可能性は低いと考えましょう。
裁判所が認めるケースであっても、裁量によって金額を制限されるのが一般的です。
温泉療法による過去の判例
かつて医師の指示によって交通事故費が温泉療法を行ったケースにおいて、裁判所が「費用の60%」を交通事故と因果関係のある損害として認定しました(東京地方裁判所昭和53年3月16日)。
被害者が主張した20万円のうち、16万円が支払われた事案です。
ただし温泉療法の費用が認められたケースは多くはありません。
基本的には温泉にかかった費用は請求できないと考えるのが妥当でしょう。
温泉療法を受けたい場合の対応手順
温泉療法を利用する時には、診断書を書いてもらう事を忘れないようにしよう
交通事故に遭い、温泉療法を受けたい場合には以下のような手順で対応してみてください。
医師に相談する
まずは現在かかっている医師に「温泉療法を試してみたい」と相談してみてください。
現在の症状と照らし合わせて温泉療法が適切なのか判断してもらう必要があります。
温泉に行くとしても、どういった温泉が良いのかを選定しなければなりません。
自己判断で勝手に温泉に行っても費用は払ってもらえないので注意が必要です。
温泉療法専門医に相談する
現在かかっている医師が温泉療法にあまり詳しくない場合には「温泉療法医」や「温泉療法専門医」に相談してみましょう。
こちらの「一般社団法人 日本温泉気候物理医学会」のHPに全国の温泉療法医や温泉療法専門医のリストが発表されています。
お近くの専門医を探して問合せをしてみてください。
有効性を認めてもらい、指示を受ける
医師に相談をして、医師が「温泉治療が有効」と判断したら、温泉療法を受けるよう指示を出してもらいましょう。
どこの温泉に行けばよいのかなども検討してもらってください。
診断書を取得する
温泉療法の指示を受ける際には、診断書を書いてもらうようお勧めします。
後日保険会社から「医師の指示を受けたかどうか不明」といわれたとき、証拠として提示するためです。
診断書を申請すると5,000円程度の費用がかかりますが、指示を曖昧にしないために必要経費と考えましょう。
また診断書費用も後に加害者へ請求できる可能性があります。
保険会社へ連絡する
温泉療法を受ける前に、加害者の保険会社へ連絡しておくようお勧めします。
その際、医師による指示や診断書があることを伝えてください。
相手が要求するなら、診断書のコピーを送付すると理解してもらいやすいでしょう。
温泉治療を受ける
準備ができたら温泉施設に行き、治療を受けましょう。
このとき、交通費や宿泊費、入湯料などの領収証はすべてとっておく必要があります。
領収証がないと後に費用を請求できない可能性が高くなるので、注意してください。
費用を計算して請求する
治療が終了したら、かかった費用を合計して加害者へ請求しましょう。
示談する際にまとめて請求するケースが多数です。
自腹で温泉に行く方法の有効性
温泉に入る事で、症状を緩和できたり、リラックスできるから、治療を続ける被害者にとって、効果的な治療法と言えるね。
交通事故でむちうちになったとき、温泉に行ったからといって保険会社に治療費を出してもらうのは簡単ではありません。
ただ「自腹」で費用を払う覚悟があれば、温泉治療を受けても何ら問題はないのです。
医師による指示を受けられなかったとしても、温泉治療によって身体が楽になるならメリットがあります。
お近くに温泉施設のある方であれば、数百円の入湯料で温泉に入れるケースもあるでしょう。
気晴らしに、年に1回や数回、家族と一緒に温泉旅行に出かけると豊かな時間を過ごせます。
状況に応じて温泉療法を上手に利用してみてください。
まとめ
だけど、温泉には有効成分が含まれているから、自腹で通う事を検討するのも良いかもしれないね。
温泉療法の費用は、稀に「治療費」として認められるケースがありますが、多くの場合、請求は難しいでしょう。
保険会社と治療費絡みでトラブルになったときには、交通事故に詳しい弁護士に相談してみましょう。
どこまでの治療費を請求できるのか、正しく判断してもらえます。
弁護士には示談交渉も依頼できるので、まずは一度お近くの法律事務所に問合せをしてみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。