今回の記事では、過失割合8対2となる交通事故にはどんなものがあるのか、過失割合によって慰謝料がどのくらい変わってくるのか、詳しく見ていこう。
交通事故では、被害者と加害者それぞれの「過失割合」が非常に重要です。
たとえば過失割合が「8:2」になると、相手に請求できる賠償金額が2割も減額されてしまいます。
保険会社が「過失割合は8:2です」と言ってきたとき、本当にその割合で応じてしまってもよいのか、慎重に検討すべきといえるでしょう。
今回は過失割合が8:2になるケースの典型や過失割合に納得できない場合の対処方法、慰謝料などの知識を解説します。
交通事故に遭って相手の保険会社から「過失割合は8:2」といわれている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
過失割合8対2になるのはどんな事故?
過失割合は、交通事故の損害発生に対する当事者それぞれの責任割合です。
たとえば過失割合が8:2というと、加害者の責任が8割、被害者の責任が2割となります。
被害者にも過失がある以上、被害者が加害者に請求できる賠償金額は減額されるので注意しましょう。
2割の過失割合であればその分が差し引かれるので、賠償金は2割減になります。
以下では過失割合が8:2程度とされる典型的な交通事故のパターンをいくつかご紹介します。
【信号機のある交差点で一方が赤、一方が黄色の出会い頭衝突事故】
信号機のある交差点上で、一方が赤信号、一方が黄信号で出会い頭衝突事故が発生すると、赤信号車の過失割合が80%、黄信号車が20%となります。
【両方青の交差点で右折車と直進車が衝突】
信号機のある交差点上で右折車と直進車が衝突し、信号機の色は両方とも青だった場合、直進車の過失割合は20%、右折車の過失割合が80%となります。
【信号のない交差点で右折車と直進車が衝突】
信号機のない交差点で右折車と直進車が接触した場合、直進車の過失割合が20%、右折車の過失割合が80%となります。
【信号機のない交差点の出会い頭事故で一方が一方通行違反】
信号機のない交差点での出会い頭事故で、一方が一方通行違反をしていた場合、基本の過失割合は違反していない車両が20%、一方通行違反をしていた車両が80%となります。
【一方の道路が広いケースで右折車が狭路から広路へ出る場合】
信号機のない交差点で一方の道路幅が広く、一方の道路幅が狭い場所で、狭い道路から右折して広い道路へ出ようとして、広い道路を走行する直進車とぶつかってしまうケースです。
その場合、直進車の過失割合が20%、右折車の過失割合が80%となります。
【交差点や横断歩道以外の道路で歩行者が横断】
交差点や横断歩道以外の車道を歩行者が横断していて車と接触した場合、車の過失割合は80%、歩行者の過失割合は20%となります。
【追い越し禁止の場所でバイクが前の車を追い越そうとした事故】
追い越し禁止場所でバイクが車を追い越そうとして接触事故が発生した場合、バイクの過失割合が80%、車の過失割合が20%となります。
以上のように過失割合が8:2(80%:20%)となるのは、一方の非がかなり大きくなるケースといえます。
過失割合8対2の場合の「過失相殺」とは?
過失相殺が行われる事で、慰謝料の支払いがどのように変わってくるのか、具体例をあげて見ていこう。
被害者と加害者の過失割合が8:2になる場合「過失相殺」に注意が必要です。
そもそも過失相殺とは?
過失相殺とは、被害者に損害発生の責任がある場合において、被害者が加害者へ請求できる賠償金額を減額することをいいます。
被害者にも不注意などの責任があるならば、被害者が加害者へ全額賠償請求すると不公平になるので、過失相殺をして賠償金額を調整するのです。
このように被害者と加害者に公平に責任を負わせることを「損害の公平な分担」といいます。
交通事故で被害者に過失割合があると、加害者へ請求できる賠償金が割合的に減額されるので注意しましょう。
過失相殺の具体例
以下で過失割合が8:2の場合に過失相殺が適用されるとどのくらい賠償金が減額されるのか、みてみましょう。
被害者に300万円の損害が発生した場合
事故で被害者がむちうちなどになって慰謝料などを含めて300万円の損害が発生した場合、被害者に2割の過失があると、300万円の2割が減額されます。
結果として相手に請求できるのは240万円になってしまい、満額請求できるケースとの差額は60万円になります。
被害者に5,000万円の損害が発生した場合
事故で被害者に重大な後遺障害が残って5,000万円の損害が発生したケースを考えてみましょう。
この場合、被害者の過失割合が2割になると、5,000万円が2割減となってしまいます。
結果的に、相手には4,000万円しか請求できません。
満額請求できる場合との差額は1,000万円にもなります。
このように、過失相殺によるインパクトは、賠償金額が高額であればあるほど大きくなります。
交通事故では、少しでも過失割合を低くすることが高額な賠償金や慰謝料を獲得するコツといえるでしょう。
相手に対する損害賠償
だけど、相殺払いは双方の同意が必要になるから、同意が得られない場合には、お互いの賠償額をそのまま支払うクロス払いを利用する事になるんだ。
被害者に過失がある場合、相手に発生した損害について賠償金を払わねばなりません。
被害者の過失によって相手に損害を発生させたといえるからです。
たとえば相手の車が壊れて20万円の修理費用が発生する場合、被害者に2割の過失割合があれば2割の4万円を払う必要があります。
相手がケガをして100万円の損害が発生したら、2割の20万円を払わねばなりません。
過失割合が高くなると相手に支払う賠償金の金額も高額になっていくので、注意しましょう。
相殺払いとは
加害者と被害者の過失割合が8:2の場合、被害者は加害者からお金を受け取るだけではなく、反対に賠償金を払わねばなりません。
この場合、どうやって処理をするのでしょうか?
よくあるのが「相殺払い」です。
被害者が相手に払う金額と相手から受け取る金額を「相殺」して、残った金額のやり取りをします。
たとえば被害者が相手に払う金額が20万円、相手から受け取る金額が240万円の場合、差引して相手から220万円を受け取って清算します。
交通事故の損害賠償実務においては、一般的に相殺払いが利用されています。
人身事故で相殺払いをするには「合意」が必要
ただし人身事故で相殺払いを行うには「双方の同意」が必要です。
現行民法では、身体や生命に対する不法行為にもとづく損害賠償は、基本的には相殺が禁止され「現実に支払わねばならない」とされているからです(民法509条2号)。
生命や身体を脅かされる不法行為をされたとき、被害者は現実に救済を受ける必要が高いでしょう。
それにもかかわらず加害者が相殺を主張すると、被害者は必要な治療費などの保障を受けられなくなるおそれがあります。
そこで法律は人身損害の被害者を救済するために「相殺を原則禁止」として「合意」を要求しているのです。
クロス払いとは
お互いに相手に対する支払い義務が生じているときの清算方法に「クロス払い」があります。
これは、現実にお互いに支払を行う清算方法です。
たとえば被害者が相手に20万円の支払い義務があり、加害者は被害者へ240万円の支払い義務を負う場合、被害者は相手に20万円払って加害者は被害者へ240万円を支払います。
人身事故で相殺払いの合意ができない場合には、こちらの対応が必要です。
ただクロス払いは無駄に面倒ですし、振込手数料等も余分にかかってしまうでしょう。
当事者同士で和解する場合でも、できれば相殺合意をして清算するようお勧めします。
過失割合に納得いかない場合には
適正な過失割合かどうかチェックするには、弁護士に依頼するのがおすすめだよ。
交通事故に遭ったとき、被害者の過失割合を高くされると賠償金額を減額されてしまいます。
保険会社の提示する過失割合が必ずしも正しいとは限りません。
納得できない場合には、以下のように対応しましょう。
適切な過失割合の基準を確認する
まずは交通事故ごとの適切な過失割合基準を確認しましょう。
法的には、交通事故の類型ごとに判例の積み重ねによって作られた過失割合の基準が存在します。
保険会社が主張する過失割合が法的な基準から外れていたら、訂正を求められるケースも少なくありません。
判例タイムズなどの書籍でも適正な過失割合を調べられるので、もしよければ自分で調べてみてください。
実況見分調書を取得する
過失割合が争いになると、加害者が嘘をつくケースも多々あります。
まずは相手の嘘をあばいて事故の正確な状況を把握しましょう。
事故の状況を明らかにするため、まずは「実況見分調書」の取得を検討してみてください。
実況見分調書とは、人身事故直後に警察が現場検証を行ったときの記録です。
図面つきで事故の詳細な状況が記録されているので、これをみると加害者の嘘が判明するケースがよくあります。
また事故後の加害者の供述調書も入手できる可能性があります。
実況見分調書や供述調書は担当の検察庁で保管されているので、申請してみてください。
ドライブレコーダーの画像を分析
車両にドライブレコーダーが搭載されていた場合、残っている画像や動画が重要な証拠になります。
信号機の色やお互いのスピード、車間距離などがわかるので、事故の状況を確認しましょう。
目撃者を探す
事故現場に目撃者がいた場合、目撃証言も事故状況を立証する証拠になります。
ただ、事故発生から長期が経過したら、後から目撃者を探すのは難しくなるでしょう。
できるだけ事故直後に現場で周囲の人に声をかけて、協力をお願いしておくようお勧めします。
名前や連絡先を聞いてメモをとり、必要に応じて後日に連絡をいれてみてください。
弁護士に相談する
過失割合についてわからないことがあれば、弁護士に相談するようお勧めします。
弁護士はドライブレコーダー画像の分析や目撃者探し、目撃者からの聞き取りと陳述書作成、検察庁からの実況見分調書や供述調書の取り寄せなど、各作業をスムーズに進めてくれます。
保険会社の主張する過失割合に誤りがあれば指摘して、適正な数値にあらためてくれるでしょう。
まとめ
過失割合に納得できない時には、弁護士に相談するのがおすすめなんだね!
過失割合が8:2になると、被害者が加害者へ請求できる賠償金額が2割減になります。
示談してしまう前に、本当に過失割合が適正になっているか、しっかり確認しましょう。
交通事故の過失割合に疑問や不満がある場合、弁護士に相談するようお勧めします。
弁護士の助言を受けて適正な過失割合をあてはめれば、今提示されているより高額な賠償金を獲得できる可能性が高くなります。
まずは交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士を探して、問い合わせをしてみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。