慰謝料と混同してしまいがちなんだけれど、年収によって変わるのは、休業損害と逸失利益となるんだよ。
今回の記事では、年収や職業によって変わる損害賠償金の算出方法について、詳しく見ていこう。
交通事故で被害に遭ったときには、加害者に対して慰謝料や賠償金の請求をするものですが、このとき、被害者の職業や年収によって、違いが発生するものでしょうか?
実際には、損害賠償の費目によって、年収などによる影響があるものとないものがあります。
今回は、職業や年収による交通事故賠償金の違いについて、解説します。
目次
慰謝料は、職業・年収で変わらない
慰謝料は、被害者が誰でも一律に支払われる
一般的には、交通事故に遭うと、加害者の保険会社に慰謝料を請求するイメージがあるものですが、慰謝料は、被害者の職業や年収で変わるものではありません。
慰謝料とは、交通事故の被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償金です。
たとえば、ケガをした場合には傷害慰謝料が発生しますし、後遺障害が残ったら後遺障害慰謝料、被害者が死亡してしまったら死亡慰謝料がそれぞれ発生します。
このような精神的苦痛については、被害者がどのような地位や職業、年収であっても、同じように発生するものです。
そこで、精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、被害者の属性によっては変わらず、一律計算となります。
たとえば、最も重い後遺障害である1級の場合の後遺障害慰謝料は2,800万円が標準ですし、もっとも軽い後遺障害である14級の場合の後遺障害慰謝料は110万円が標準となっています。
これらは、誰が被害者であっても同じです。
死亡慰謝料について
ただし、死亡慰謝料については、被害者の家族の中での立場が影響します。
それは、死亡慰謝料の場合、遺族の慰謝料も勘案されるためです。
具体的には扶養していた家族がいた人の場合、死亡慰謝料が高額になります。
目安としては、被害者が一家の大黒柱であった場合には、死亡慰謝料は2,800万円程度となり、被害者が母親や配偶者であった場合、死亡慰謝料は2,400万円程度、それ以外の場合(独身者や子どもなどのケース)には、死亡慰謝料は2,000万円〜2,200万円程度となります。
職業・年収で変わる賠償金とは
誰でも休業損害や逸失利益としての損害金をもらう事ができるの?
以上の慰謝料に対し、交通事故の損害賠償金には、職業や年収によって異なるものもあります。
それは「休業損害」と「逸失利益」です。
これらの損害は、基本的に、交通事故前に仕事をしていた人にしか発生しません。
また、事故前の収入が高かった人ほど、金額が大きくなります。
休業損害
休業損害とは、交通事故の受傷によって働けない期間が発生したときの減収です。
たとえば、入院していると仕事を休まざるを得ませんが、そうすると、本来得られたはずの収入が得られなくなります。
そこでその減収分の休業補償を、加害者に請求することができます。
休業損害が認められるのは、基本的に、交通事故時に仕事をしていた人です。
具体的には、サラリーマンや公務員、各種の自営業者やアルバイト、パートタイマーなどが該当します。
仕事中での事故の場合には、労災保険の適用となりますから、労災の手続きを進める必要があります。
また、専業主婦や兼業主婦の場合、家事労働には経済的な対価性があると考えられているので、休業損害が認められます。
これに対し、年金生活者は、仕事をしていないので休業損害が発生しません。
不動産所得や株式配当で生活している人も同じです。
無職無収入の人にも休業損害は認められません。
逸失利益
逸失利益とは、交通事故で後遺障害が残ってしまったときや被害者が死亡してしまったときに生じる、将来の減収分のことです。
後遺障害が残ると、交通事故前よりも労働能力が低下します。
そこで、将来にわたって得られる収入が下がると考えられます。
死亡した場合には、収入をまったく得られなくなりますから、100%の減収が発生します。
そこで、後遺障害が残ったときや死亡事故のケースでは、逸失利益を請求することができるのです。
逸失利益が認められるのも、基本的には交通事故前に働いて収入を得ていた人です。
休業損害とほとんど同じ考え方です。
たとえば、会社員、公務員、自営業者、アルバイト、パートタイマー、主婦などには逸失利益が発生します。
ただ、逸失利益の場合、請求できる人の範囲が広がります。
まず、子どもにも逸失利益が発生します。
子どもは、事故時には働いていませんが、将来職について、収入を得る蓋然性が高いからです。
また、年金生活者の場合、後遺障害逸失利益は認められませんが、一部の年金生活者には死亡逸失利益が認められています。
年収が高い方が、賠償金が高額になる
以上のように、交通事故前に仕事をしていた人の場合、休業損害や逸失利益を請求することができますが、これらの賠償金は、被害者の事故前の年収によって大きな影響を受けます。
休業損害や逸失利益を計算するときには、事故前の被害者の年収を基準にするためです。
また、逸失利益については、就労可能年齢までの分を計算するので、年齢の低い人の方が、逸失利益は高額になります。
休業損害の計算方法
主婦の場合にはどうなるのかな?
主婦の場合も含め、計算方法をチェックしてみよう。
次に、具体的な休業損害の計算方法をご説明します。
基本的な計算方法
休業損害の計算式は、基本的に以下の通りとなります。
事故前の基礎収入(1日当たり)×休業日数
事故前の基礎収入をどのように算定するかにより、請求できる休業損害の金額が大きく変わってきます。
自賠責基準の場合
自賠責基準の場合、基礎収入は一律で1日当たり5,700円となります。
ただし、実際の収入がそれを超えることを証明できる場合には、19,000円を限度として、実収入を基準に計算し、自賠責保険から受け取ることができます。
19,000円を超えた場合には任意保険会社が負担する事になります。
たとえば、会社員や自営業者などの場合には、収入を証明する資料があるために、実収入を基礎とした休業損害を支払ってもらいやすいです。
これに対し、主婦などの場合には、実際の収入がないために、自賠責基準によると、1日あたり5,700円が限度となってしまいます。
弁護士基準の場合
以上に対し、弁護士が示談交渉をするときや裁判をするときには、任意保険基準ではなく、弁護士基準によって休業損害を計算します。
そのときには、一律に実収入によって計算をすることとなり、限度額もありません。
主婦など、実際の収入を観念できない場合には、平均賃金を使って休業損害の額を計算します。
以下では、会社員や自営業者、主婦など、被害者の職業や年収別に休業損害の計算方法をみてみましょう。
会社員の場合
会社員など給与所得者の場合には、給料を基準に基礎収入を算定します。
具体的には、事故前3ヶ月分の収入額を規準にすることが多いです。
税金や保険料等を控除する前の金額により、1日当たりの基礎収入を算定することができます。
また、賞与が高額な人の場合などには賞与を含めた年収によって基礎収入を算定することもあります。
たとえば、事故前の給料が30万円(4月)、33万円(5月)、32万円(6月)、だった場合、1日当たりの基礎収入は、95万円÷91日=10,439円となります。
有休を取った日も、休業日数に含めることができます。
自営業の場合
自営業者の場合には、事故の前年度の確定申告書をもとにして基礎収入を計算します。
具体的には、売上げの金額から経費を引いた金額を1年分の収入として、それを365日で割り算します。
ただし、地代家賃や損害保険料、水道高熱費などの固定経費については、たとえ休業していてもかかるものです。
そこで、これらの金額は所得にプラスすることができます。
また、青色申告の場合の控除についても、実際には支払っていないものですから、所得に加算します。
以上を前提にすると、たとえば事故前の所得が300万円、固定経費が100万円、青色申告控除が65万円の場合、年間収入は465万円です。
これを365日で割ると、1日あたりの基礎収入は12,739円となります。
専業主婦の場合
専業主婦の場合、実際の収入はありませんが、家事従事者となりますから、賃金センサスの平均賃金を使って計算します。
賃金センサスとは、国が集計している賃金の統計資料です。
性別、年齢別、職種別、学歴別などで細かく年収が集計されています。
主婦の休業損害を計算するときには、全年齢の助成の平均賃金を使って計算します。
これによると、だいたい1日1万円程度が基礎収入となります。
パートの主婦の場合
ときどき問題になるのが、パートの主婦のケースです。
パートの主婦は、実際にパートによる収入があるために、休業損害をどのようにして計算すべきかが問題になりやすいです。
原則としては、実際の収入があるのですから、パート収入を基礎として計算すべきということになりそうです。
しかし、パート収入は月収10万円にも満たないことが多く、専業主婦の場合と比べて格差が発生してしまいます。
そこで、パートの主婦の場合、全年齢の女性の平均賃金とパート収入を比較して、大きい方の金額を基礎収入として計算します。
休業日数の考え方
次に、休業日数をどのように計算するのか、みてみましょう。
会社員や公務員の場合には、仕事を休んだ日がそのまま休業日数となります。
そこで、勤務先に休業損害証明書を作成してもらえば済むので、休業日数が問題になることは少ないです。
これに対し、自営業者や主婦の場合、休業日数について争いが発生することが多々あります。
入院していた日数について休業していたことは明らかですが、通院していた日数や自宅療養の日数については、当然には含めて計算してもらうことができません。
特に、自宅療養の日数については、多くのケースで否定されるでしょう。
自宅療養を休業日数に含めるためには、医師に「自宅にて安静を要する」などの診断書を作成してもらうことなどが必要となります。
逸失利益の算定方法
計算方法を詳しく説明するね。
次に、逸失利益の計算方法をご紹介します。
逸失利益も、被害者の年収や職業によって、大きく異なるところです。
後遺障害逸失利益
逸失利益には、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益があります。
ここではまず、後遺障害逸失利益について、ご説明します。
基本的な計算方法
後遺障害逸失利益の計算方法は、以下のとおりです。
後遺障害逸失利益=事故前の基礎収入(年収)×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
後遺障害逸失利益は、事故前の年収を基礎として計算するため、年収が高ければ高い人ほど、高額になります。
事故前の基礎収入の計算方法(考え方)は、休業損害の場合と同じです。
労働能力喪失率とは
労働能力喪失率とは、後遺障害が残ったことにより、仕事ができなくなってしまった程度のことです。
後遺障害にもさまざまな内容や程度があるので、ケースによってまったく働けなくなることもあれば、事故前と大して変わらないこともあります。
そこで、後遺障害の等級ごとに「労働能力喪失率」を定めて、それによって後遺障害逸失利益の金額を調整しているのです。
各等級における労働能力喪失率は、以下の通りです。
等級 | 労働能力喪失率 |
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
ライプニッツ係数とは
ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための特殊な係数のことです。
これだけでは、わかりにくいでしょうから、かみくだいて説明をします。
後遺障害逸失利益を受けとるときには、将来の減収分をまとめて受けとることになります。
ただ、そうした収入は、本来であれば、毎月毎年、段階を踏んで受けとっていくはずだったものです。
それを先に一括で受けとることにより、本来は得ることができなかったはずの運用利益を得られてしまうのです。
そこで、その運用利益(これを、中間利息と言います)を控除するための数値が、ライプニッツ係数です。
ライプニッツ係数を当てはめるときには、「就労可能年数」に対応するものを使う必要があります。
就労可能年数とは、働ける期間のことで、一般的には67歳までと考えられています。
ただし、高齢者が被害者の場合などには、67歳までの年数と平均余命の2分の1と比較して、長い方の期間を就労可能年数として計算します。
後遺障害逸失利益計算の具体例
後遺障害逸失利益を計算すると、どのくらいの金額になるのでしょうか?
- 症状固定時年齢が30歳、年収500万円の会社員、後遺障害6級の場合
この場合、後遺障害逸失利益は、500万円×67%×16.711=5383万8185円となります。 - 症状固定時年齢が45歳、年収600万円の自営業者、後遺障害9級の場合
この場合、後遺障害逸失利益は、600万円×35%×13.163=2764万2300円となります。 - 症状固定時年齢が35歳の専業主婦、後遺障害5級の場合
この場合、後遺障害逸失利益の金額は、3,762,300円×79%×15.803=4694万9945円となります。
死亡逸失利益
死亡逸失利益は、被害者が死亡したときに発生する逸失利益です。
被害者が死亡すると、一切働くことができなくなるので、死亡した場合の労働能力喪失率は、100%です。
基本的な計算方法
死亡逸失利益を計算するときには、以下の計算式を用います。
死亡逸失利益=事故前の年収×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
事故前の基礎収入の考え方は、休業損害や後遺障害逸失利益のケースと同じです。
生活費控除率とは
生活費控除率とは、被害者が死亡したことにより、生活費がかからなくなった分を差し引くための数値です。
被害者が死亡すると、将来の収入は得られなくなりますが、本来必要だった生活費がかからなくなります。
そこで、死亡逸失利益を計算するときには、生活費の分は控除しなければなりません。
そのための割合が生活費控除率です。
生活費控除率の数値は、被害者の立場によって異なります。
- 被害者が一家の大黒柱であった場合
被扶養者が1人なら40%
被扶養者が2人以上であれば30% - 被害者が一家の大黒柱ではなかった場合
女性の場合、30%
男性の場合、50%
死亡逸失利益計算の具体例
- 症状固定時年齢が30歳、年収500万円の会社員、妻と子どもが1人いた場合
この場合、死亡逸失利益は、500万円×(1-0.3)×16.711=5848万8500円となります。 - 症状固定時年齢が45歳、年収600万円の自営業者、独身の場合
この場合、後遺障害逸失利益は、600万円×(1-0.5)×13.163=3948万9000円となります。 - 症状固定時年齢が35歳の専業主婦の場合
この場合、後遺障害逸失利益の金額は、3,762,300円×(1-0.3)×15.803=4161万8938円となります。
子どもの逸失利益について
将来仕事をする事で、得るはずだった収入を受け取ることが出来るんだ。
子どもが被害者の場合、休業損害は認められませんが、逸失利益は認められます。
子どもは、今は働いていなくても、将来仕事をして収入を得る可能性が高いからです。
ただし、実収入がないので、何を基準にして基礎収入を算定すべきかが、問題になります。
このように、実収入が不明な場合、平均賃金を使って計算するのが通例です。
たとえば、主婦や失業者、赤字の自営業者などの場合には、平均賃金を使って逸失利益や休業損害を計算します。
同じように、子どもの場合にも、全年齢の男性や女性の平均賃金を使います。
ただ、そうなると、問題が発生します。
男性の平均賃金が女性の平均賃金より高額になるため、男児と女児とで不公平になってしまうのです。
そこで、男児の場合には男性の平均賃金、女児の場合には男女の平均賃金を使って基礎収入を算定します。
女児の方が安くなって不合理な点はありますが、それでも女性の平均賃金を使うよりは高くなるので、格差が縮まります。
まとめ
それぞれの違いについても良く分かったよ!
自分の任意保険の契約で、弁護士特約のオプションをつけていれば、弁護士費用をかけずに弁護士に依頼することが可能となるから、自分の保険契約を見直してみよう。
今回は、職業や年収による交通事故賠償金の違いについて、解説しました。
職業が年収で金額が変わるのは、慰謝料ではなく休業損害や逸失利益の部分です。
特に、後遺障害が残った場合や死亡した場合の逸失利益は、非常に高額になります。
正しく計算して、加害者に適切な損害賠償請求をし、確実に支払いを受けましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。