今回の記事では、運転代行業者が起こしてしまった事故では、誰が賠償金を支払うのか、受け取れる慰謝料について、詳しく見ていこう。
最近では飲酒運転に対する厳罰化が進んだこともあり、飲み会の帰りなどに「運転代行サービス」を利用する方が増えています。
運転代行サービスの利用中、ドライバーに交通事故を起こされたら依頼者にも責任が及ぶのでしょうか?
今回は運転代行サービスの利用中に交通事故に遭った場合の慰謝料や補償について、解説します。
事故の相手に対する責任や自分のケガに対する補償内容が気になっている方はぜひ、参考にしてみてください。
目次
運転代行による交通事故、賠償金はだれが支払うのか
運転代行サービスとは
運転代行サービスとは、本人が運転できない状況になっているとき、代わりに自動車を運転してくれるサービスです。
運転代行業者は「自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律」という法律にもとづいて営業をしています。
主に利用されるのは、本人が飲酒して運転できないケース。
飲酒運転は道路交通法によって厳しく罰せられますし、交通事故の危険も高くなるので絶対にやってはいけません。
飲み会などに参加した場合には、たとえ少しの距離でも自分で運転せずに代行業者へ依頼しましょう。
運転代行サービス業を行うには公安委員会の認定が必要ですし、ドライバーには2種免許が要求されます。
要件を満たさない業者は違法なので、代行業者を利用するときにはきちんとドライバーが2種免許をもっているかどうかを確認してください。
運転代行ドライバーが交通事故を起こした場合の責任は?
運転代行の依頼者の責任
もしも運転代行サービスを利用して、ドライバーが交通事故を起こしたら依頼者に責任が及ぶのでしょうか?
確かに依頼者は乗っていただけであり、交通事故を発生させたとはいえないようにも思えます。
しかし一定のケースでは依頼者にも責任が発生する可能性があるので注意しましょう。
運転代行を利用する場合、運転する車は「依頼者の車」です。
依頼者は自分の車をドライバーに運転してもらい、そこに同乗するのが基本。
そして交通事故が起こると、自動車の所有者には「運行供用者責任」が発生します。
運行供用者責任とは、自動車の運行を支配し利益を得ている人が負うべき責任。
以上から、運転代行業者に「自分名義の車」の運転を任せた場合、交通事故が発生したら依頼者にも責任が発生する可能性があるのです。
なお代行運転を任せた車が依頼者名義でない場合には、運行供用者責任は発生しません。
運転代行ドライバーの責任
運転代行ドライバーが交通事故を起こした場合には、当然ドライバー本人にも責任が発生します。
事故を起こした当事者なので「不法行為責任」を負わねばなりません。
ただし追突された事故などで加害者(事故の相手)の全面的な過失による場合には、ドライバーに責任が発生しない可能性もあります。
運転代行業者の責任
運転代行ドライバーが交通事故を起こした場合、その使用者である「運転代行業者」にも責任が発生します。
法律により、被用者が不法行為を行った場合には雇用者にも使用者責任が発生すると規定されているからです。
交通事故によってけがをしたら、運転代行業者にも損害賠償請求できる可能性があるといえるでしょう。
事故の相手方の責任
交通事故の相手に過失があれば、相手に対しても損害賠償請求できます。
相手から一方的に追突されたような場合には、相手に100%の責任を追及できる可能性もあります。
運転代行は保険加入が義務付けられている
運転代行ドライバーが交通事故を起こしたら、依頼者にも法的な責任が発生する可能性があります。
では依頼者が実際に事故の相手へ賠償金を払わねばならないのでしょうか?
多くのケースでは、そういった結果にはなりません。
運転代行業者の「任意保険」から必要な賠償金が払われるためです。
法律により、運転代行業者は必ず任意保険へ加入しなければなりません。
運転代行業者が加入すべき任意保険には最低補償額の規定もあります。
- 対人賠償席に保険は8,000万円
- 対物賠償責任保険は200万円
- 車両保険については200万円
損害額が上記を下回る場合には、依頼者が賠償金を支払う必要はありません。
ただし運転代行業者の自動車保険を上回る損害が発生した場合には、依頼者自身に責任が及ぶ可能性もあります。
依頼者の自動車保険は適用されない?
依頼者が加入している任意保険で利用できるのは、同乗者などに適用される、人身傷害補償保険、搭乗者傷害保険や、車両保険だけになるよ。
運転代行業者が保険に入っていなかった場合や限度額を超えた損害が発生してしまった場合、依頼者本人が加入している保険を適用できるのでしょうか?
対人対物賠償責任保険
運転代行を利用した場合、依頼者が加入している対人賠償責任保険や対物賠償責任保険は適用されません。
自動車保険の約款で、「運転代行業者が起こした交通事故には適用しない」とされているからです。
事故の相手に対する補償については、自分の自動車保険を使えないと考えましょう。
人身傷害補償保険、搭乗者傷害保険
人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険は、被保険者や家族、契約者の同乗者などの人身損害へ適用される保険。
これらの保険は、運転代行業者が起こした事故であっても適用されます。
ただし運転代行ドライバー本人には適用されず、同乗していた依頼者や家族、友人などだけが適用対象です。
車両保険
車両保険は、車が壊れたときの修理費用などを出してくれる保険。
これについても、運転代行ドライバーが起こした交通事故へ適用されます。
もしも車が壊れてしまい運転代行業者側が支払をしないときには、車両保険を使って修理してもかまいません。
自賠責保険
自賠責保険は法律上、必ず加入するよう義務づけられている強制の自動車保険。
事故の加害者の人身損害に対する補償を受けられます。
こちらは任意保険の対人賠償責任保険とは異なり、運転代行ドライバーが起こした交通事故にも適用されます。
後から運転代行業者へ請求できる
もしも運転代行ドライバーが起こした交通事故によって被害者に自己負担が発生してしまったら、その負担分は後で運転代行ドライバーへ請求できます。
たとえば加害者へ賠償金を払った場合、自分のけがの治療費がかかった場合、仕事を休んだ場合、車の修理費用を負担した場合など。
依頼者が全面的に責任を負う必要はないので、きちんと請求しましょう。
運転代行業者選びに注意
運転代行サービス業者の質もさまざまです。
トラブルを避けるためには、信頼できる業者を選んで依頼しましょう。
以下のような運転代行業者には要注意です。
保険未加入の運転代行業者
上記のとおり、運転代行業を行うためには必ず一定以上の限度額の自動車保険へ加入しなければなりません。
しかし保険未加入のまま運転代行を行っている運転代行業者も存在します。
そんな業者を利用して交通事故に遭ったら、自己負担が発生して大変な出費が生じるリスクがあります。
ドライバーが2種免許をもっていない
運転代行業を行うためには、ドライバーに2種免許が必要です。
しかし中には2種免許を持たない人に運転させている運転代行業者も存在します。
そのような業者を利用すると危険な上にトラブルの原因になるので、依頼してしまわないように注意しましょう。
運転代行を依頼する場合のポイント
保険加入状況を確認
トラブルに遭わないため、まずは運転代行業者がきちんと保険に入っているか、確認しましょう。
法律上要求される最低補償額があるので、そちらを満たしているかどうかも聞いてみてください。
代行運転自動車表示を確認
運転代行サービスを利用するときには、依頼者の車両だけではなく別のドライバーが運転する「随伴車両」がついてきます。
つまり依頼者の車を運転するドライバーと随伴車両のドライバーがやってきて、2つの車で目的値に向かうのです。
そして法律上、運転代行車両には「代行運転自動車標識」をつけなければなりません。
こうした表示義務をきちんと守っているかも確認しましょう。
二種免許を取得しているか確認
上記の通り、代行運転ドライバーには2種免許が必要です。
免許なしで運転代行しようとする業者は違法ですので、利用してはなりません。
事前に2種免許の有無を確認しましょう。
説明内容を確認
運転代行業者は、事前に依頼人に対し、法律上定められた事項を説明しなければなりません。
- 事業所の名称と従業員の氏名
- 料金
- 約款
- 事故が起こった時の損害賠償内容(保険の内容)
上記についてきちんと説明してくれない業者は問題がある可能性が高いので、利用しない方がよいでしょう。
運転代行業者から受け取れる賠償金
運転代行ドライバーが交通事故を起こした場合、ドライバー本人やその使用者である運転代行業者へ損害賠償請求できる可能性があります。
請求できる内容は以下のようなものとなります。
治療費
けがをしたら、治療費を請求できます。
入通院にかかった費用、検査費、手術日、投薬料など。
親族の付添看護費や入院雑費、通院交通費なども賠償してもらえます。
休業損害
受傷して仕事ができない期間が発生したら、減収分を休業損害として請求できます。
介護費用
交通事故による受傷がひどく介護が必要になった場合には、介護費用も請求できます。
慰謝料
交通事故でけがをすると、慰謝料が発生します。
- 入通院慰謝料
一般的な人身事故で発生する慰謝料です。
入通院期間に応じて計算されます。 - 後遺障害慰謝料
後遺障害が残った場合に支払われる慰謝料です。
自賠責保険や共済で後遺障害認定を受けることにより、支払いを受けられます。 - 死亡慰謝料
被害者が死亡したときに遺族が請求できる慰謝料です。
逸失利益
被害者に後遺障害が残った場合や死亡した場合には、事故によって受け取れなくなってしまった将来の収入である「逸失利益」も請求できます。
物損の賠償
自動車が破損したら、修理費用や買い換え費用、代車費用などの物損についても請求できます。
まとめ~運転代行ドライバーの交通事故は弁護士へ相談
運転代行業者を選ぶときのポイントについても良くわかったよ。
運転代行業者の過失で交通事故が発生すると、事故の相手方だけではなく運転代行ドライバーや運転代行業者も巻き込んで、賠償問題が複雑になります。
自分だけでは対処しにくいケースも多いでしょう。
事故の相手から損害賠償請求されてしまうおそれもあります。
不利益を受けないために、困ったときには弁護士へ相談してみてください。
交通事故にくわしい弁護士は無料相談を受け付けているケースが多いので、気軽に利用してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。