だけど、休業補償は、労災に入っている人だけが受け取れる補償だから、自営業の人は受け取ることができないんだ。
今回の記事では、自営業の人が交通事故に遭ってしまった時に受け取れる休業損害について、詳しく見ていこう。
自営業やフリーランスの人が交通事故に遭って仕事を休んだら、休業に対する補償はどうなるのでしょうか?
自賠責に対する「休業損害」は請求できますが、労災保険に入っていないので「休業補償」は受け取れません。
今回は自営業者が事故に遭ったときの休業損害や休業補償についてご説明します。
目次
自営業でも休業損害や休業補償をもらえる?
自営業者の場合「休業損害」はもらえますが「休業補償」は受け取れません。
そもそも休業損害と休業補償の何が違うのか、なぜ自営業者は休業損害だけを受け取れるのか、みていきましょう。
休業損害と休業補償の違い
休業損害と休業補償は似ていますが、まったく異なるものです。
休業損害
休業損害とは「仕事ができなかったために得られなくなった収入に相当する損害」です。
自営業でも事故で仕事ができなくなったらその分の損害が発生するので、休業損害を請求できます。
請求先は自賠責保険や加害者、加害者の任意保険会社などです。
休業補償
休業補償は、労災保険から支給される休業に対する補償金です。
自営業者は労災保険に入っていないので、事故で仕事を休んでも休業補償を受け取れません。
自営業の休業損害の計算方法
弁護士基準の場合には、実収入を基準として休業した日数分を受け取ることができるんだ。
次に自営業者の休業損害はどのように計算するのか、みてみましょう。
休業損害の計算方法は「自賠責基準」と「弁護士基準」で異なります。
自賠責基準
自賠責基準は、自賠責保険が保険金を計算するときに適用する基準です。
自賠責基準の場合1日あたりの基礎収入額を一律で6,100円として計算します。
休業損害額=6,100円×休業日数
ただし自営業者の場合、確定申告書などによって1日あたりの休業損害額が6,100円を超えることを証明できれば実収入を基準に計算できます。
その場合でも1日あたりの基礎収入額の上限は19,000円となります。
弁護士基準
弁護士基準は、弁護士や裁判所が採用する法的な計算基準です。
休業損害額=1日あたりの基礎収入額(実収入基準)×休業日数
1日あたりの基礎収入額は実収入を基準とします。
自営業者の場合には事故前年度の確定申告の所得額を365日(うるう年の場合には366日)で割って基礎収入額を計算します。
自賠責基準と異なり、上限はありません。
自賠責基準と弁護士基準のどちらが有利になるのか
自賠責基準の場合、1日あたり6,100円で計算されます。
年額にすると2,226,500円程度です。
所得が低く222万6500円以下の方であれば、実収入を基準にするより自賠責基準を適用した方が有利になる可能性があります。
それ以上ある方の場合、実収入を証明できれば自賠責基準でも実収入を基準として休業損害を請求できます。
ただし1日あたり19,000円が限度で、年額にすると6,935,000円です。
自営業で6,935,000円を超える所得のある方の場合、自賠責基準を適用すると実際よりも低額な休業損害私家受け取れず、損をしてしまいます。
弁護士基準であれば収入の限度額はありません。
一定以上の収入のある自営業の方は自賠責基準ではなく、弁護士基準を適用して休業損害を請求する方が有利です。
固定費も収入に含めて計算できる
自営業者の「1日あたりの基礎収入額」を計算するとき、所得に固定費を加算できる可能性があります。
固定費は事業を続けていく上で不可欠であり、仕事をしていなくても払わねばならない費用です。
最低限、固定費に相当する収入はあるはずので、相当な範囲であれば固定費を足して1日あたりの基礎収入にできます。
認められやすい固定費
- 地代
- 家賃
- 水道光熱費
- 給料
- 保険料
- 租税公課
ただし事業の内容や規模からして明らかに不相当で高額な固定費を払っている場合、基礎収入に算定してもらえない可能性があります。
自営業で休業損害を請求する場合の注意点
その他にも、赤字経営であったり、確定申告をしていなかったりすると、休業損害を受け取れない、という事もあるから注意が必要だよ。
自営業者の場合、会社員と違って休業損害を請求するときにいろいろな注意点があります。
休業日数を証明しにくい
自営業者は会社員と違い、休業日数を証明するのが簡単ではありません。
会社員の場合、勤務先が「休業損害証明書」を書いてくれるので、休業日数を比較的簡単に証明できます。
一方自営業者の場合、休んだかどうかは自己申告になってしまいます。
入院していれば休業したことが明らかですが、通院日や自宅療養日などは休業日数として全部をカウントしてもらえない可能性があります。
基礎収入の証明が難しいケースもある
毎年正確に確定申告をしている方であれば、確定申告書から基礎収入を算定しても問題はありません。
しかし実際には、申告が適当であったり中には申告していなかったりする人もいますし、赤字申告のケースもあります。
実際の収入と確定申告書の所得が異なる場合、十分な休業損害を受け取れない可能性が高くなりますし、無申告の場合には休業損害を一切もらえない可能性もあります。
赤字申告の場合にも、現実に必要な金額よりも休業損害を減らされる可能性が高くなります。
状況別自営業者の休業損害計算方法
赤字経営の場合には、賃金サンセスを基にして休業損害が計算される事になるんだ。
確定申告をしていなかった無申告の場合
自営業者の中には「無申告」で確定申告書を用意できない方もいるでしょう。
その場合でも「実際に収入があること」を証明できれば、休業損害を請求できる可能性があります。
たとえば預金通帳における売上金や経費の入出金や各種の帳簿を資料として収入を証明できれば、賃金センサスの平均賃金を参考に算定するケースなどがあります。
ただ無申告は違法行為ですから厳しい目でみられます。
収入があるならきちんと申告しましょう。
赤字申告の場合
前年度の所得が少なく赤字だった場合、確定申告書の所得を基準にすると1日あたりの基礎収入額が0円になってしまいます。
しかし実際には固定費は払っているはずですし、何らかの収入がなければ生活していけません。
この場合、固定費や賃金センサスの平均賃金を基準として休業損害を計算できる可能性があります。
前年所得が少なかった場合
事業を始めたばかりで前年度の所得が少なかった場合や、事業が急成長中で前年度の所得今年の所得より著しく低くなっている場合などには、現状の所得を別の資料で証明すれば、今年の所得を基準に算定してもらえる可能性があります。
開業準備中の場合
開業準備中に事故に遭ってしまった場合、確定申告書を用意できません。
この場合でも、開業の蓋然性が高く、実際に開業していたら収入を得られていた見込みが高ければ、休業損害を請求できる可能性があります。
被害者の前職やこれまでの経歴、事故前の収入なども参考にして、1日あたりの基礎収入を算定します。
家族や夫婦で事業経営していた場合
夫婦や親子など、家族で自営業を営んでいた場合、「所得の全額」を基礎収入とすることはできません。
所得額には家族による貢献部分が含まれているためです。
家族経営の方の場合、所得額から家族の寄与度の分を差し引いて、被害者1人分の基礎収入額を算定します。
どのくらい差し引くかは、家族との関係、家族の業務内容、関与の程度、事業の内容や規模などの個別要素によって個別に判断する必要があります。
自営業者が休業損害として請求できるさまざまなお金
自営業者の場合、実際に休業によって得られなくなった所得以外にも以下のような費用を「休業損害」として請求できる可能性があります。
アルバイトの雇用費や外注の費用
事故で自分がはたらけなくなると、事業継続のために人を雇ったり外注したりしなければならないケースも考えられます。
その場合、雇い入れた人に対する給料や外注先への報酬などの費用を請求できます。
廃業費用
事故が原因となって仕事を続けられなくなり、廃業に追い込まれる方もおられます。
その場合、廃業に伴う損害も相手に請求できる可能性があります。
請求できる金額は以下のようなものです。
- 廃業にかかる費用
- 無駄になった設備投資費用
- 開業にかかった費用の一部
事業の時価評価額を基準として、7割~8割程度の金額を請求できるケースなどもあります。
取引先との契約が解除された場合
自営業者が長期に渡って休業していると、取引先から契約を解除されてしまったり打ち切られたりすることもあるでしょう。
その場合、本来なら得られた収入がなくなるので「損害」となり、契約解除にともなう減収分を相手に請求できる可能性があります。
ただし「交通事故によって契約が解除された」という因果関係を証明しなければなりません。
自営業者にとって契約打ち切りは通常ありうることであり、事故後に契約解除されたからといって必ずしも「事故が原因」とはいいにくいでしょう。
極めて重傷で仕事の継続が難しくなった場合、解除された取引相手に証明書を差し入れてもらえる場合などには損害賠償が認められやすいと考えられます。
自営業者が弁護士に依頼するメリット
自営業者が交通事故に遭ったら、弁護士に依頼するようお勧めします。
休業損害が増額される可能性がある
任意保険会社が休業損害を計算するとき、自賠責基準を適用するケースも少なくありません。
そうなると、6,935,000円を超える収入のある方は、実際よりも休業損害額を減らされてしまいます。
弁護士に依頼したら弁護士基準を適用してくれるので、収入が高くても実収入に即した休業損害を請求できます。
自分で交渉するより休業損害が増額されるメリットがあるといえるでしょう。
難しいケースでも対応してもらえる
赤字や無申告、開業準備中など、自営業者にはそれぞれの事情があるものです。
こういった複雑な事情があると、保険会社からは休業損害をしぶられる可能性が高くなってしまいます。
弁護士に依頼したらこれまでの裁判例などを参考に、可能な限り高額な休業損害を受け取れるよう交渉してくれます。
自分では対応が難しいケースでも、専門的な見地から休業損害を受け取れるよう動いてもらえるのは大きなメリットとなるでしょう。
慰謝料も増額される
休業損害だけではなく、慰謝料の計算方法も弁護士基準と保険会社基準で大きく異なります。
弁護士に示談交渉を依頼すると弁護士基準が適用されて、慰謝料額も大幅にアップするメリットがあります。
自営業者が交通事故に遭い、休業損害の計算方法がわからない、保険会社の提示に納得できないなら一度、交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。