それとも銀行振り込みなの?
今回の記事では、慰謝料の受け取り方について、詳しく見ていこう。
まずは示談金を受け取ることができるのはいつになるのか、説明するね。
交通事故に遭って加害者に慰謝料などの賠償金を請求するとき、最終的に決まった賠償金を受けとることができます。
ただ、実際に賠償金を受けとるタイミングはいつになるのか、また、支払い方法がどうなっているのか、気になっている方もおられるのではないでしょうか?
賠償金の受け取り方は、相手に保険会社がついているかついていないかによっても異なってきます。
今回は、交通事故の慰謝料の受取り方が銀行振込か現金払いになるのかなど、賠償金の受取方法について、解説します。
目次
交通事故の慰謝料や賠償金を受けとる時期について
基本的には、示談が成立しないと受けとることができない
そもそも、交通事故の慰謝料や賠償金を受けとる時期はいつになるのでしょうか?
前提として、交通事故で示談が成立したときに受け取れるお金は、慰謝料だけではなく「賠償金(示談金)」です。
交通事故の慰謝料は精神的な損害に対する賠償金であり、相手に支払い請求できる損害の一部に過ぎません。
実際には、加害者に対し、治療費や休業損害、逸失利益などの他の損害賠償も行うことができます。
そして、そうした損害賠償金は、加害者との示談成立後に一括して受けとることとなります。
反対に言うと、賠償金は、示談が成立しない限り、受けとることができません。
たとえば、大きな怪我をした場合などには、治療だけでも1年以上かかり、その後の示談交渉でさらに数ヶ月かかるケースなどもありますが、最終的に示談が成立するまでは、まとまったお金を受けとることはできないことになります。
支払い方法は「銀行振込み」
そして、このようにして示談成立後に保険会社が被害者に対して賠償金を支払う場合、支払い方法は「銀行振込」となります。
示談書に振込先の金融機関名を指定する欄があるので、そこに希望する金融機関名と支店名、口座の種類(普通預金か当座預金かなど)、口座番号と口座名義人を記入して返送すると、指定した口座宛に定まった賠償金を振り込んでもらうことができます。
全国の都市銀行、地方銀行、信用金庫などの金融機関を利用することができますし、ゆうちょ銀行やネット銀行も利用可能です。
そこで、賠償金を受けとりたいなら、賠償金受取り用の銀行口座を用意しておきましょう。
また、他人名義の口座では受取ができないことが普通ですので、自分名義の口座がないときには、口座を開いておく必要があります。
未成年が被害者の場合、親名義の口座ではなく未成年者名義の口座を開いておいた方が安心です。
一括払いか分割払いか
基本は一括払い
次に、示談金(賠償金)が支払われる場合、一括払いになるのか分割払いになるのかという問題があります。
基本的には、一括払いです。
相手が保険会社の場合には十分に資力がありますので、賠償金額が億単位などの高額になったとしても、「分割払いにさせてほしい」などと言われることはありません。
定期金賠償について
ただし、これには一部例外があります。
それは、「定期金賠償」となるケースです。
定期金賠償とは、将来の介護費用を賠償してもらうケースなどにおいて、「その都度、定期的に」払ってもらう方法です。
以下で、その意味を説明します。
交通事故に遭ったときには、身体に重大な後遺障害が残り、介護が必要になるケースがあります。
たとえば、植物状態になってしまった場合や、手足が麻痺して動けなくなってしまったようなケースです。
そのような場合には、生涯にわたって介護が必要となるため、将来の介護費用が必要となります。
こうした将来介護費用も、交通事故によって発生した損害ですから、加害者に賠償請求することが認められます。
そのときの支払い方法として、「一括払い」か「定期金賠償」か、選択するのです。
一括払いとは
一括払いは、生涯にわたって発生する将来介護費用を、示談時に一括で支払ってもらう方法です。
この場合、将来介護費用が発生する期間については、「平均余命」を使って計算します。
そして、将来にわたって発生する利息については、「ライプニッツ係数」という係数を使って減額するので、単純に「介護費用×平均余命の年数」で計算した金額よりは、減らされます。
一括払いによって対応すると、実際に平均余命まで生きるかどうかは分からないので、支払いすぎになる可能性があります。
反対に、平均余命以上に長生きしたとしても、平均余命までの分しか受け取れないことになるので、少なめになってしまいます。
このように、現実に発生する金額とはかなり異なった金額の支払いが行われることになる方法です。
定期金賠償とは
これに対する方法が定期金賠償です。
定期金賠償とは、将来介護費用を、毎月や毎年など定期的に支払ってもらう方法です。
これによると、ライプニッツ係数による調整は行われませんし、実際に生きた年数分の支払いを受けることになるので、現実に支出した分に近い金額が支払われることになります。
ただし、この方法によると、途中で加害者の保険会社が倒産したり、支払を拒絶したりする場合に対応できません。
特に、被害者が若いケースなどでは、この先数十年以上の平均余命までに時勢の流れがどうなるか分からず、不安があります。
このようなこともあり、交通事故の損害賠償の現場では、多くのケースで「一括払い」が行われています。
もし、保険会社が「定期金賠償」を選択してきたら、一度、それが妥当かどうかを弁護士に相談してみた方が良いでしょう。
立て替え払いしていた治療費について
領収書をしっかりと残しておくことが必要となるから注意しよう。
保険会社が治療費を立て替えてくれるケースが多い
交通事故の損害賠償金は「示談が成立したときに、するまで受けとれない」ことが原則ですが、例外もあります。
例外の1つ目は、「治療費」です。
交通事故でケガをすると、入院や通院などによって治療を継続するものですが、入通院の際の治療費は、加害者の保険会社から病院へ直接支払ってもらうことが多いです。
治療費も交通事故によって発生した損害ですから、先に説明した賠償金支払いのルール(示談成立時にまとめて支払う)によると、交通事故の示談が成立するまで受けとれないように思えます。
しかし、治療費については、任意保険会社が一括対応することにより、自賠責保険から直接病院へ通院日数分、かかった費用を支払ってもらえるケースが多く、その場合、被害者は自分で病院に治療費を支払う必要がありません。
この場合、示談成立前の段階で、通院期間分の治療費についてのみ、加害者から先払いを受けていることになります。
被害者が立て替えた治療費の取扱いについて
ただし、被害者が通院治療を受けるとき、必ずしも治療費を直接払いしてもらえるケースばかりではありません。
治療期間が長くなってくると、加害者の保険会社は治療費の支払いを打ち切ってしまうことがあるからです。
その場合には、被害者が自分で病院に治療費を支払って、通院を継続しなければなりません。
このようにして被害者が立て替えた治療費は、どのように取り扱われるのでしょうか?
これについては、原則に戻り、加害者の保険会社と示談交渉が成立したときに、慰謝料などの他の賠償金とともに、まとめて受けとることができます。
そこで、通院途中で加害者の保険会社が治療費を打ち切り、症状固定まで自分で治療費を支払って通院した場合には、いついくらの治療費を立て替えたかを証明するため、きちんと診療報酬の明細書を保管しておくことが重要です。
同時に、公共交通機関や自動車で通院をした場合には、通院交通費も請求することができるので、たとえば高速道路の料金や駐車場代の領収証や記録もきっちりとっておきましょう。
被害者請求した場合の後遺障害に対する補償について
「賠償金は、示談が成立したときに一括で受けとる」という原則に対する例外の2つ目が、被害者請求です。
被害者請求とは、被害者が直接加害者の自賠責保険や共済に対して賠償金の請求をする方法です。
被害者請求をするもっとも典型的な場面は、後遺障害等級認定するときです。
このとき、病院から後遺障害診断書を受け取り、被害者が自賠責保険や共済に直接後遺障害認定の請求を行う事で、保険金を受けとる方法が被害者請求となります。
他には、自賠責保険に対して仮払金を請求するときにも、被害者請求を行います。
被害者請求で相手の保険会社や共済組合に直接保険金を請求すると、自賠責保険や共済から、決まった保険金の支払いが行われます。
このときには、相手の任意保険会社との示談が成立していなくても、自賠責保険から先にお金が支払われます。
自賠責から支払われたお金の取扱い
被害者請求を行い、自賠責から先に後遺傷害部分についての保険金などを受けとった場合、最終的に任意保険会社と示談するとき、どのように考慮されるのでしょうか?
この場合、自賠責からの保険金を無視して、任意保険会社からも後遺障害についての慰謝料や逸失利益を受け取れるとすると、被害者は、賠償金を「二重取り」してしまうことになります。
そこで、先に自賠責保険や共済から支払いを受けていたときには、最終的な示談の際、「既払い金」として差し引かれることになります。
たとえば、後遺障害認定で被害者請求を行い、800万円の保険金を受けとったとします。
その後、任意保険会社との示談が成立して、損害賠償額が2000万円になったとします。
すると、2000万円からすでに支払われている800万円を差し引いて、残りの1200万円が、相手の任意保険会社から支払われることになります。
自賠責保険からの支払い方法も「銀行振込」
自賠責保険から保険金が支払われるとき、どのような流れになるのかについてもご説明します。
被害者請求をするときには、当初に「保険金請求書」を提出する必要があります。
その中に、保険金振込先の金融機関の口座を記入する欄があります。
そこで、保険金支払いが決定したときには、当初に被害者が指定した被害者名義の金融機関宛てに、決まった保険金が振り込まれることとなります。
このような仕組みになっているので、自賠責からの保険金を受けとるためにも、銀行口座を開設しておく必要があります。
ただ、当初に指定しなかった場合では、後日に自賠責に対して、送金を希望する金融機関を伝えれば、そちらの方へと保険金を振り込んでもらうことができます。
加害者本人が賠償金を支払う場合
双方の話し合いで、どのように賠償金を受け取るのかを相談する必要があるよ。
以上は、加害者の保険会社や共済組合から賠償金が支払われるケースを念頭に置いてご説明してきましたが、相手が保険に加入していない場合には、新たな問題が発生します。
その場合、加害者と直接示談交渉をして、加害者本人から支払いを受けなければならないためです。
加害者本人が相手の場合、保険会社とは異なる対応をとられる可能性があるので、以下で具体的に見ていきましょう。
賠償金が支払われるタイミング
まず、加害者本人が対応する場合において、慰謝料などの示談金(賠償金)は「いつのタイミングで支払われる」のでしょうか?
一般的には、加害者の保険会社が対応するときと同様、示談成立後にまとめて支払われるケースが多いです。
また、加害者本人が相手の場合には、加害者から病院に直接治療費を支払うことは考えにくいので、被害者が治療費を全額立て替えて、後で加害者に請求する流れになります。
銀行振込か現金払いかは話合い次第
次に、加害者本人が相手の場合、賠償金の支払い方法がどうなるのかについても見ておきましょう。
保険会社の場合、必ず金融機関を指定しての銀行振込となりますが、加害者本人の場合には、そうと限る必要はありません。
お互いの話合いによって、現金手渡しにすることも可能です。
たとえば、加害者が銀行振込に行くのが面倒であったり、振込手数料を負担するのを嫌ったりして、現金払いを希望することがあります。
また、被害者としても、加害者が本当に振込をしてくれるか信用できないので、直接取り立てに行ってその場で支払ってもらった方が安心、というケースがあります。
そこで、被害者と加害者が話合いをして、お互いにとってもっとも支払いやすい方法を選択します。
現金手渡しか銀行振込か、どちらにするかの判断基準として、相手が遠方に居住しているなら、通常は銀行振込が便利です。
ただ、相手が支払いをしてくれるかどうか分からず不安な場合などには、直接相手の家に行ってでも取り立てをした方が良いでしょう。
相手が了承するのであれば、現金を自宅に持参してもらうことなども相談可能です。
分割払いを主張されることもあり得る
相手が加害者本人の場合、保険会社と違って支払いの回数にも注意が必要です。
保険会社の場合、定期金賠償にならない限りは賠償金を一括で支払ってもらうことができます。
慰謝料や逸失利益、休業損害などが高額になっても、「分割払いさせてほしい」と言われることはありません。
これに対し、相手が本人の場合には「お金がない」ことがあり得ます。
その場合、どうしても一括払い出来ないので、分割払いさせてほしいと言われる可能性があります。
被害者としては、分割払いを受けても良いですし、受けなくてもかまいません。
分割払いを受けない場合には、相手が任意で一括払いに対応しない限り、「損害賠償請求訴訟」などのより強硬な手段で取り立てを行う必要があります。
相手に本当にお金がない場合には、訴訟をしても取り立てができないことも考えられますし、あまり追い詰めすぎると自己破産する可能性もあります。
ただ、そうはいっても、相手が支払いを誤魔化すために「お金がない」と言い訳をしているだけのケースも結構多いので、その当たりの見極めが重要となってきます。
相手が保険に入っておらず、示談交渉における支払い方法で対応に迷った場合には、交通事故専門の弁護士に意見を聞いてみることをお勧めします。
必ず、公正証書にしておくべき理由
交通事故の示談をするとき、相手が加害者本人なら(保険会社がついていない場合)、必ず示談書を「公正証書」にしておきましょう。
このことは、特に賠償金の支払方法を分割払いにするケースで重要です。
分割払いの約束をした場合、最後まで支払ってもらえるかどうかが定かではありません。
途中で支払いが止まってしまうおそれも高いです。
その場合、「強制執行認諾条項」という条項を入れた公正証書があると、すぐに相手の資産や給料などを差し押さえることができます。
もし、公正証書がなかったら、いちいち裁判をしないと差押えができないので、大変な手間になりますし、その間に相手に財産を隠されてしまう可能性もあります。
相手が保険会社の場合、通常一括で賠償金が支払われますし、不払いの危険などもないので公正証書にする必要はありませんが、相手が加害者の場合には、こういった配慮も必要になります。
まとめ
今回は、交通事故の慰謝料やその他の賠償金が支払われる方法について、解説しました。
相手が保険会社の場合には、示談が成立した後、銀行振込で一括払いされます。
この場合、不払いのリスクはほとんどありません。
これに対し、相手が加害者本人の場合には、現金手渡しになることもありますし、分割払いになるケースもあります。
そこで、なるべく確実に支払いを受けられるよう、しっかりと話合いをすることが重要となります。
もし、自分では適切な対応をとることが難しいと感じるのであれば、交通事故トラブルに注力している弁護士に相談をしてみることをお勧めします。
まずは弁護士費用をかけずに、無料相談を利用してみるとよいでしょう。
保険会社は、示談金の支払いを少なくするために、独自の保険会社基準や、自賠責保険基準にて示談金の提示をしてきます。
ですが、弁護士に依頼すると、任意保険基準や自賠責基準ではなく、弁護士基準や裁判所基準での賠償金額となります。
計算基準が異なるだけで示談金のアップが可能となりますから、相場での賠償額を希望する場合には、弁護士に依頼しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。