症状固定となっても自覚症状が残っているのに、後遺障害認定を受けることが出来ない場合にはどうしたら良いの?
申し立てが可能って事は、後遺障害認定が認められる可能性もあるって事?
だけど、一度目の申請書と全く同じように再申請をしたとしても、認定が認められるわけではないんだ。
今回の記事では、後遺障害認定が非該当となってしまった場合の異議申立てについて、詳しく見ていこう。
交通事故に遭ったら、後遺障害が残ってしまうケースも多いですが、その場合「後遺障害認定」を受けることが大切です。
しかし、後遺障害認定の申請をしても、等級認定を受けられないこともありますし、期待していた等級より下がってしまうこともあるでしょう。
このように、後遺障害認定で「非該当」になったり等級が低くなってしまったりした場合には、「異議申し立て」により、後遺障害を認めてもらえる可能性があります。
今回は、後遺障害認定で「非該当」になったときの「異議申し立て」について、解説します。
目次
後遺障害認定の「異議申し立て」とは
交通事故の「異議申し立て」とは、相手の自賠責保険会社が行った「後遺障害認定」結果に対し、再審査を申し立てる手続きです。
後遺障害認定の重要性について
交通事故に遭ったときには、治療を受けても完治せず、さまざまな後遺障害が残ってしまうことがありますが、その場合、加害者の自賠責保険に対し「後遺障害認定請求」を行います。
すると、自賠責保険が、後遺障害に該当するかどうかと、該当する場合の「等級」について、判断します。
ここで、「非該当」と判断されると、後遺障害は「ない」という扱いになり、後遺障害慰謝料や逸失利益は払ってもらえなくなります。
また、後遺障害には1級から14級までの「等級」があり、何級になるかによって、慰謝料や逸失利益の金額が大きく変わってきますが、後遺障害認定請求をしても、思ったより低い等級になってしまったら、後遺障害慰謝料や逸失利益を減らされてしまい、賠償額が少なくなってしまいます。
そこで、交通事故の被害者にとって、後遺障害等級認定請求は非常に重要です。
後遺障害認定に対する異議申し立てについて
しかし、実際には後遺障害等級認定請求をしても、期待していたような結果を得られないことが多いです。
たとえば、むちうちになったときに辛い痛みやしびれの症状が残っていても「非該当」とされてしまうことがありますし、本来なら12級であるところ、14級の等級認定しか受けられないケースなどもあります。
そのような場合、放っておくと賠償金が少なくなってしまうので、自賠責保険に対し、再審査を求めることができるのです。
その手続きのことを「異議申し立て」と言います。
異議申し立てで審査を行う機関は、1度目の審査を行ったのと同じ、「加害者の自賠責保険」です。
同じ機関が判断するので、1度目と同じ方法では結果を変えることが難しく、異議申し立てを成功させるには、1度目の請求時とは異なる工夫が必要となります。
異議申し立てをすべきケースとは
後遺障害の認定に対し、異議申し立てをすべきケースは、以下の2つのケースです。
非該当になった
1つは、後遺障害認定が「非該当」になった場合です。
非該当になると、「後遺障害が認定されない」ということですから、後遺障害慰謝料も逸失利益も一切受け取ることができません。
本当は身体のどこかに後遺障害が残っているのに非該当になってしまったのであれば、異議申し立てをして、後遺障害として認定を受け直す必要があります。
本来より等級が低かった
2つ目は、認定された等級が本来より低かった場合です。
たとえば、高次脳機能障害で本来は3級が認定されるべき事案でも5級になってしまうケースなどがありますし、むちうちでも、本来なら12級が認定される場合において、14級になってしまうことがあります。
このような場合、1度目の請求時の方法がまずかった可能性があるので、適切に異議申し立てを利用することによって、等級を変更してもらう必要があります。
異議申し立てが認められる確率
しっかりと対策をとれば、希望通りの認定を受けることが出来る可能性もあるから、弁護士に相談するのがお勧めだね。
実際に後遺障害認定に対して異議申し立てをすると、どのくらいの確率で結果が変更されるのでしょうか?
実は、異議申し立てによって等級が変更される例は、多くはありません。
認定結果が変わるのは、だいたい5~6%程度です。
90%以上の件では判断は変わっていません。
ただし、上記の母体の数字には、「やみくもに」異議申し立てをしているケースが非常に多く混じっています。
たとえば「痛いのに、認定してもらえないのは納得できません」などということだけを申立書に書いているようなケースです。
異議申し立てを成功させるには「後遺障害認定基準」の症状に該当することを「証明」しなければならないので、上記のように「苦情を申し立てている」だけでは、等級が変わらないのも当然です。
きちんと適切に異議申し立ての手続きをとれば、等級が変更される可能性は十分にあるので、上記の「90%以上のケースで結果が変わらない」という「確率論」に振り回される必要はありません。
やみくもな申し立てを母体数から外して、きちんと適切に異議申し立てしている件だけを母体の数字にすると、異議申し立てが認められる可能性は、グンとアップするはずだからです。
異議申し立ての期限や回数について
申請回数にも制限はないんだけれど、時効になってしまう前に異議申し立てを行う必要があるんだよ。
異議申し立ての期限について
後遺障害の等級認定結果の通知が届いたとき、「異議申し立てすることができます」と書いてあることがありますが、「いつまでに申し立てをしてください」という期限については記載がありません。
異議申し立てには期限がないのでしょうか?
実は、自賠責保険に対する異議申し立てには、期限は設けられていません。
1度目の審査を受けた後、いつまででも異議申し立てすることができます。
ただし、自賠責保険の請求には「時効」があります。
後遺障害が残るケースの場合には、症状固定日の翌日から3年以内に保険金を請求しなければなりません。
時効期間を過ぎると、異議申し立てをしても等級認定してもらえなくなるので、症状固定したら、早めに手続きすることが重要です。
実際に、異議申し立てが「時効など」によって却下されている件も、年間で2%程度、発生しています。
異議申し立ての回数について
異議申し立てには回数制限もありません。
1回だけではなく、2回でも3回でも、何度でも再審査を申し立てることができます。
ただ、異議申し立てを受け付けて再審査するのは、同じ自賠責保険なので、申請方法を変えなければ、何度やっても同じことです。
何度も異議申し立てをするのではなく、「一度の異議申し立てを確実に行う」ことが重要となります。
異議申し立てを行う方法
次に、実際に異議申し立てを行う方法をご紹介します。
事前認定と被害者請求
異議申し立てには「事前認定」と「被害者請求」の2種類の手続き方法があります。
事前認定(加害者請求)とは、加害者の任意保険会社に依頼して、後遺障害の等級認定請求を代行してもらう方法です。
任意保険会社が被害者に賠償金を支払う前に(事前に)、任意保険会社が自賠責保険に申請して等級認定してもらうので、「事前認定」と言います。
これに対し、被害者請求とは、被害者自身が直接加害者の自賠責保険に対し、後遺障害等級認定請求をする方法です。
被害者請求の場合には、任意保険会社を通さないので、被害者が自分で書類を揃えて自賠責保険と必要なやり取りをすべて行う必要があり、大変手間がかかります。
ただ、その分被害者の裁量により、自分に有利な資料などを提出しやすいので、等級認定を受けやすくなるというメリットがあります。
1度目の請求方法との関係
後遺障害の異議申し立てをするとき、事前認定と被害者請求のどちらを利用すべきなのでしょうか?
実は、1度目の請求の際にどちらの手続きをとっていたかによって、利用できる方法が異なってきます。
1度目に事前認定を利用していた場合には、異議申し立ての際にも事前認定をすることができますが、被害者請求に切り替えることも可能です。
このとき、事前認定では、被害者に有利な資料を積極的に提出することが難しいので、もしも1度目に事前認定を利用していたのであれば、被害者請求に切り替える方が良いでしょう。
これに対し、1度目に被害者請求を利用していた場合には、事前認定に切り替えることはありません。
異議申し立ての際にも必ず被害者請求の方法で申請を出すことになります。
手続きのメリットを活かして、有利な医証を提出しましょう。
異議申し立ての手順
以下では、異議申し立ての具体的な手順をご紹介します。
認定されなかった理由を分析する
異議申し立てを成功させるには、「なぜ認定されなかったのか」という理由を把握することが重要です。
後遺障害が認定されなかった理由には、いくつかのパターンがあり、それぞれの理由によって、異議申し立て時の対応策が異なってくるからです。
たとえば、以下のような理由があります。
そもそも、後遺障害に該当する症状ではない
後遺障害に該当する症状は「後遺障害認定基準」によって定められています。
そのうちどれかに該当する症状でないと、いくら「痛いです」「身体が動かないです」と言っても、後遺障害として認定されません。
まずは自分のケースで、「どのような後遺障害の症状に該当するのか」を分析する必要があります。
後遺障害に該当する症状を証明できていない
後遺障害に該当する症状があるとしても、その症状があることを適切に証明できないと、等級認定を受けることはできません。
専門医がいる病院に通い、きちんと検査を受けて、後遺障害診断書に適切な記載をしてもらうことなどが必要です。
交通事故と症状に因果関係がない
後遺障害に該当する症状があっても、それが交通事故と無関係であると言われてしまうケースがあります。
たとえば、事故前からの既往症がある場合や、小さな交通事故で、やたらと重い後遺障害が残っていると主張した場合などに、因果関係を否定されるケースがあります。
「緩解」「完治」とされている
後遺障害が残るということは、「緩解・完治の予定がない」ということです。
ところが、医師によっては後遺障害診断書やその他の診断書に「緩解」などと書いてしまうことがあり、後遺障害が否定されることがあります。
失敗の理由を検討する
以上のように、後遺障害が非該当になる理由はさまざまです。
そこで、まずは自賠責保険から受け取った後遺障害認定結果の通知書を見て、なぜ非該当もしくは低い等級となったのか、失敗の理由をしっかりと検討しましょう。
もしも、自賠責から受け取った通知書に書かれた理由がアッサリとしすぎていて、何が失敗の理由かわからない場合には、自賠責保険に申請をすることにより、詳しい認定理由を書いた書面を発行してもらうことができます。
異議申立書を作成する
1回目の請求で失敗した理由を検討したら、その結果を元にして、「異議申立書」を作成しましょう。
異議申立書には、以下のような内容をまとめて記載します。
- 1度目の認定結果に不服があること
- 認定されるべき、変更後の等級
- 1度目の認定結果が間違っている理由
- 本来の等級が認定されるべき理由
被害者の方が異議申立書を作成すると、どうしても「腕が痛い」「仕事ができなくて、辛い」「今までのように生活ができない、医師からも治る見込みがないと言われている」など、主観的な「苦情」ばかり書いてしまいがちです。
しかし、それでは異議申し立ては通りません。
より客観的に、適切な内容の異議申立書を作成するためには、弁護士に相談した方が良いでしょう。
被害者請求か事前認定か決定する
異議申立書を作成したら、被害者請求か事前認定かを決定します。
1度目の請求が被害者請求だった場合には当然被害者請求となりますが、1度目が事前認定であった場合には、被害者請求への切り替えを検討しましょう。
切り替えをするときには、相手の自賠責保険に連絡を入れて、自賠責保険請求用の書類一式を送ってもらい、交通事故証明書や事故状況説明書、診断書や診療報酬明細書など、たくさんの書類を集める必要があります(1度目が被害者請求の場合、こういった書類は1度目の際に提出済なので再度の収集は不要です)。
異議申し立てを成功させるコツ
新たに書類が増えると、審査期間が長くなってしまう事があるんだけれど、その分しっかりと審査をしてもらう事ができるよ。
異議申し立ては、やみくもに申し立てても成功しないという説明をしましたが、それではどうしたら良いのでしょうか?
以下で、異議申し立てを成功させるコツを、ご紹介します。
後遺障害診断書を取り直す
1つは、「後遺障害診断書」を再取得することです。
後遺障害診断書とは、後遺障害の内容について詳しく記載した、自賠責保険の専門様式の診断書のことです。
後遺障害認定請求をするときには、すでに後遺障害診断書を取得して提出しるはずですが、1度目で失敗したのであれば、後遺障害診断書の内容を再検討した方が良いです。
非該当または低い等級となった理由を検討し、検査を受け直し、医師や弁護士とも相談をして、より適切な内容の診断書を作成してもらいましょう。
検査を受け直す
後遺障害認定の結果を変えるためには、検査の受け直しも重要です。
1度目の請求の際、必要な検査を受けていなかったために非該当になってしまうことがあるからです。
たとえば、より精度の高いMRI機器で検査をすれば所見が得られるケースがありますし、神経学的検査を受けることでむちうち症の後遺障害を証明できることなどもあります。
専門医に相談をして、より詳細な検査を受けましょう。
受診医療機関を変える
今かかっている病院に専門性が足りない場合には、受診先の病院を変えることも必要です。
脳や脊髄の症状、骨折などでも専門医に診てもらうと、新たな事実が明らかになることがあります。
今の診断内容に納得ができないなら、より詳しい病院を探して受診してみましょう。
医師に意見書を書いてもらう
医師に、「意見書」を書いてもらうことも可能です。
意見書は、「診断内容」ではなく、症状についての、専門医としての「意見」を記載するものです。
これにより、症状の存在や内容が専門的な見地から補強されるので、後遺障害認定を受けやすくなることがあります。
自賠責への異議申し立てが却下された場合の対処方法
自賠責保険に異議申し立てをしても、却下されることがあります。
その場合には、以下のような方法が考えられます。
自賠責保険・共済紛争処理機構への申請
1つは、自賠責保険・共済紛争処理機構へ申請する方法です。
これは、自賠責保険や共済による決定内容に不服がある場合に、第三者に審査してもらえる機関で、交通事故ADR(裁判外の紛争解決機関)の1種です。
自賠責紛争処理機構に申し立てをすると、書類審査によって機構が決定内容の妥当性を判断し、不当であれば変更決定をしてくれます。
自賠責保険や共済は、自賠責保険・共済紛争処理機構の決定に従いますので、ここで変更決定をしてもらえたら、非該当の場合に後遺障害を認定してもらえたり、より高い等級を認めてもらえたりすることがあります。
裁判を起こす
もう1つの方法は裁判です。
裁判所は、終局的な紛争解決機関ですので、自賠責保険や自賠責保険・共済紛争処理機構の決定内容に不服がある場合には、訴訟で争うことができます。
訴訟を起こすと、原告及び被告が提出した証拠をもとにして、裁判所が適切な等級を決定します。
ここで自賠責による等級認定が覆ることもあるので、最後まであきらめずに争いましょう。
まとめ
異議申し立てについて、しっかりと理解できたよ!
弁護士費用を心配する人が多いんだけれど、無料相談を利用するだけでも、多くのメリットがあるから、まずは弁護士に相談してみよう。
今回は、後遺障害認定請求に対する異議申し立てについて、解説しました。
異議申し立てをすると、非該当でも後遺障害認定を受けられたり等級を上げてもらえたりして賠償金が大きくアップする可能性があります。
後遺障害認定結果に納得できない場合には、早めに交通事故トラブルに注力している弁護士に相談しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。