交通事故に遭って通院していたんだけれど、保険会社の担当者から連絡が来て、治療を打ち切ると言われてしまったんだ。
でもまだ症状が残っているんだよ。
どうしたら良いの?
通院期間が長くなってくると、治療の打ち切りと言われてしまう事は少なくないんだよ。
だけど、打ち切りと言われてしまってそのまま納得してしまってはいけないよ!
じゃあ治療打ち切りを回避するにはどうしたら良いの?
よし!では早速、保険会社から治療の打ち切りを言われてしまった場合の対処法を詳しく見ていこう!
交通事故に遭ったら、加害者の保険会社が治療費を病院に直接払いするので、被害者は自分で治療費を負担する必要がないケースが多いです。
しかし、通院が長引いてくると、保険会社が治療費支払いを打ち切ってしまうこともあります。
どうして治療費支払いを打ち切られるのでしょうか?
また、打ち切りに遭った場合どのように対応したら良いのか、押さえておきましょう。
今回は、交通事故における、保険会社からの治療費打ち切り問題について、解説します。
目次
保険会社が治療費を支払う仕組み
交通事故に遭うと、加害者の保険会社が病院に治療費を直接払いすることが多いですが、この対応のことを「一括対応」と言います。
一括対応とは、任意保険会社が自賠責保険の負担部分についても窓口となり、両方の保険金の支払いについて一括で対応することです。
つまり、加害者が自賠責保険と任意保険の両方に加入している場合、自賠責保険が最低限の保険金を負担し、それを超える部分を任意保険が負担します。
それなら、被害者側が自賠責保険に請求しなければならないはずです。
しかし、実際には被害者が直接自賠責保険に請求しなくても、任意保険がいったん支払いを立て替えて、後からまとめて自賠責保険に請求をするのです。
それが、一括対応です。
このように、加害者側が任意保険に加入している場合には、治療費支払いの一括対応が行われるので、被害者は特段何もしなくても、加害者の保険会社が治療費を病院に直接支払ってくれます。
被害者の窓口負担はありません。
保険会社が治療費を打ち切る理由
なんで保険会社は打ち切りを迫ってくるの?
任意保険側の負担が多くなってしまう事を避けるために、治療打ち切りと言ってくるんだ。
任意保険会社が基本的に一括対応するのであれば、なぜ、突然治療費支払いを打ち切られてしまうのでしょうか?
それは、治療費が高額になってきて、任意保険の負担額が高額になることを防ぐためです。
自賠責保険からは、自賠責保険基準による「最低限の保険金」は支払われますが、その限度額はかなり低くなっています。
たとえば、傷害事故の自賠責保険の限度額は120万円とで、ここから治療費や入通院慰謝料などすべて支払わなければなりません。
それを超える費用は全額任意保険会社の負担となります。
また、治療期間が長くなると、治療費だけではなく入通院慰謝料も増額されるので、影響が大きく、任意保険が負担すべき部分が増えすぎてしまいます。
そこで、治療期間が長くなると、任意保険会社は被害者に対し「そろそろ治療を終わりましょう」として圧力をかけてきます。
被害者が治療をやめないと、強制的な治療費打ち切りになってしまうのです。
どのようなケースで治療費が打ち切られるのか?
症状によって、打ち切りとなりやすいこともあるの?
そうなんだ。
特にむち打ちの場合には、打ち切りと言われやすいから注意が必要だよ。
実際には、どのようなケースで治療費打ち切られるのか、見てみましょう。
基本的には、打撲、捻挫、むちうちなど比較的軽傷のケースで打ち切られやすいです。
打撲や捻挫なら1か月、むちうちなら3か月程度で打ち切られることがあります。
特に、むちうちは通院期間が長くなることが多いので、保険会社も警戒しています。
また、骨折の場合にも、半年くらい経つと打ち切られてしまうことが多いです。
もちろんケースによって違いはありますが、注意が必要です。
治療費を打ち切られると、どうなるのか?
打ち切りとなってしまうと、何か困る事があるの?
治療費が全て自腹での立て替えとなってしまうんだ。
場合によっては、治療費の請求ができなくなってしまう事もあるんだよ。
その理由についても詳しく見ていこう。
実際に治療費を打ち切られると、どのような問題があるのでしょうか?
高額な治療費が発生する
もっとも大きな問題は、治療費が自腹になることです。
一括対応されているときには、加害者の保険会社が病院に対して治療費を一括払いしているので、被害者は窓口で一切の支払いをしなくて済みますが、一括対応されなくなったら、被害者が全額の支払いをしなければなりません。
また、保険会社が治療費を支払っているときには、診療方法が「自由診療」になっています。
自由診療とは、保険に拘束されずに医師の裁量で自由に診療する方法であり、点数計算方法が健康保険適用の場合より高額になります。
そこで、全体としてかかる治療費が高いです。
しかも、保険が適用されないので「10割負担」となります。
治療費打ち切りに遭ったときに、何もせずにそのまま被害者が自分で治療費支払いを引き継ぐと、ただでさえ保険適用より高額な治療費を10割支払わなければならないので、相当な負担額となります。
そこで、治療費打ち切りに遭った場合には、被害者の健康保険に切り替えて保険適用の上で通院を継続すべきです。
この方法については、後の項目で詳しく説明します。
示談成立時にまとめて請求できる
健康保険を適用してもしなくても、治療費打ち切り後に通院すると、被害者が治療費を負担しなければなりません。
こうして立て替えた治療費は、最終的に加害者に請求することができるのでしょうか?
被害者に発生する治療費は、交通事故によって発生した損害ですから、加害者は被害者に対し、損害賠償義務として、治療費を全額支払わねばなりません。
そこで、被害者が治療費を立て替えた場合、加害者に請求できます。
ただし、実際に支払いを受けられるのは、示談が成立したときです。
示談が成立するのは、治療が終了して示談交渉がまとまったときなので、治療費を立て替えてから相当後のタイミングになることが多いです。
後で請求できない可能性について
被害者が治療費を立て替えた場合、後に加害者に請求できるのが原則ですが、ケースにより、請求できない可能性があるので、注意が必要です。
それは、以下のようなケースです。
濃厚診療、過剰診療、高額診療のケース
1つは、濃厚診療や過剰診療のケースです。
濃厚診療というのは、症状に対して不必要に丁寧な治療のことです。
薬の量が多すぎたり不必要に検査をしたりすると、濃厚診療を言われる可能性があります。
過剰診療とは、過ぎた治療を行うことで、本来不要な検査や治療をすると、過剰診療となります。
高額診療は、社会一般的に必要とされる治療よりも明らかに高額な治療です。
これらの治療行為が行われた場合「必要かつ相当な範囲」を超えるので、交通事故と因果関係のある治療費として認められません。
整骨院などで不必要な治療を受けたケース
次に問題になりやすいのが、整骨院での治療です。
整骨院での治療費も加害者に請求できるのですが、整骨院での治療期間は長くなることが多く、すべてが治療に必要か、疑問視されることが多いのです。
特に、医師に断らずに、被害者が自己判断で勝手に整骨院に通院した場合、加害者の保険会社は治療費支払いを拒絶する傾向があります。
整骨院に通院するときには、事前に必ず整形外科医の許可や同意を取り付けましょう。
被害者の過失割合が高すぎるケース
被害者の過失割合が高い場合、加害者に治療費を請求できない可能性があります。
被害者に過失割合が認められる場合、加害者に損害賠償請求をするときに、被害者の過失割合野分を過失相殺されてしまうからです。
たとえば被害者に7割の重過失があったら、加害者は3割しか賠償額を支払いません。
すると、治療費が高額になっても、3割しか支払ってもらえないのです。
交通事故に遭ったとき、自分の過失割合が高くなっているならば、どのような治療を受けるべきか、慎重に検討すべきです。
加害者が保険会社に入っていないケース
加害者が保険に加入していれば、被害者に発生する損害額は基本的に保険会社が全額負担します。
しかし、ケースによっては加害者が任意保険に入っていないことがあります。
その場合、保険会社が支払いをしないので、自賠責保険額を超える部分は、加害者本人に支払いを求めなければなりません。
加害者に資力がなかったら、最終的に治療費を支払ってもらえないかもしれません。
相手が本人の交通事故では、慎重な対応が必要となります。
治療費を打ち切られたときにやってはいけない行動
保険会社と争うのは面倒だし、打ち切りと言われたから、もう治療はやめてしまおうかと思ってるんだ。
打ち切りと言われてしまったからといって、治療をやめる必要はないんだよ。
治療費の支払いは、交通事故被害者の正当な権利となるから、症状固定までしっかりと治療を続けよう。
交通事故後の通院で、加害者の保険会社が治療費を打ち切ってきたときに「絶対やってはいけない行動」があります。
それは、「治療を辞めてしまう」ことです。
確かに、治療費を打ち切られたら、被害者自身が病院代を支払わないといけないので、被害者には多大な負担となります。
しかし、治療を辞めてしまうと、以下のようなたくさんの大きなデメリットがあるのです。
治療を辞めることによって発生するデメリット
治療をやめてしまうと、どんなデメリットがあるの?
損害賠償金が少なくなってしまうだけではなく、後遺障害認定を取得しづらくなってしまったり、症状が残ってもその後は全て実費での治療となってしまうんだよ。
治療が中途半端になる
相手の保険会社が地旅費を打ち切ったからと言って早めに治療を辞めてしまうと、治療が中途半端になります。
すなわち、必要な治療を受けられないので、症状が完治せずに放置されてしまいます。
あるいは、より重い後遺障害が残って、その後の生活がより苦しくなります。
入通院慰謝料が減額される
次に、入通院慰謝料が減ってしまう問題があります。
交通事故後、入通院をすると入通院慰謝料を支払ってもらうことができますが、これは、入通院した期間に応じて計算されるため、入通院板期間が長ければ長いほど、高額になります。
きちんと最後まで通院したらその期間に応じた適切な慰謝料を支払ってもらえますが、通院を途中で辞めると、通院期間を短く計算されて、入通院慰謝料が少なくなります。
後遺障害認定が難しくなる可能性がある
治療を途中で辞めると、後遺障害認定を受けにくくなる可能性があります。
後遺障害は、治療を終えて最終的に症状固定したタイミングで残っている症状について認められるものです。
ところが、早期に治療を打ち切ってしまうと、医学的には症状固定していないタイミングで後遺障害認定請求することになります。
医師も後遺障害診断書を書きにくいですし、症状が流動的な状態では、さまざまな検査をしても、後遺障害の立証が難しくなることがあるので、注意が必要です。
将来治療費が自腹になる
いったん治療を辞めて「症状固定」してしまったら、その後は加害者が治療費を払ってくれることがなくなります。
症状固定後の治療費は、交通事故と因果関係がないと判断されるからです。
そして、加害者の保険会社の言いなりになって治療を途中で打ち切ってしまったら、その時点で「症状固定」したことにされます。
すると、その後「やっぱり具合が悪いので治療を受けたい」と思っても加害者の保険会社は治療費を出さないので、被害者が自腹で治療費を出さなければなりません。
もし、途中で治療をやめなければ、きちんと最後まで治療費を払ってもらうことができたのに、大きな損失となってしまいます。
打ち切りに遭ったときの正しい対処方法
じゃあ、打ち切りと言われてしまった時にはどうしたら良いの?
診断書を持って保険会社と交渉を進めてみよう。
それでも打ち切りと言われてしまう状況である場合には健康保険を利用して、治療を継続しよう。
それでは、加害者の保険会社が治療費を打ち切ってしまったら、どのように対処したら良いのでしょうか?
医師に症状固定となっているかを確認する
まずは、医師に「症状固定」したかどうかを尋ねましょう。
医師が、医学的な意味でも症状固定したと判断しているならば、治療を辞めても問題ないからです。
これに対し、もしも症状固定がまだだということであれば、いつ頃症状固定の予定か確認しましょう。
診断書を書いてもらい、加害者の保険会社に提出する
医師が、まだ症状固定していないと判断しているのであれば、症状固定の予定時期を明らかにした「診断書」を書いてもらいましょう。
そして、その診断書を加害者の保険会社に提出し、まだ治療費が必要であることを伝え、治療費支払いを継続するよう交渉します。
このことで、治療費の強制打ち切りを避けて、支払いを継続してもらえる可能性があります。
健康保険を利用して通院を継続する
上記の方法によっても無理矢理治療費支払いを打ち切られてしまったら、自分の健康保険を使って通院を継続しましょう。
通院をするときに、健康保険を適用しないと、上記のように「自由診療」となって治療費が高額になりますし、10割負担となってしまうからです。
健康保険に切り替えをするときには、加入している健康保険組合もしくは市町村に「第三者行為による傷病届」という書類を提出する必要があります。
書式は健康保険組合や市町村に用意されているので、取り寄せて自分で作成しましょう。
作成方法がわからない場合には、弁護士に相談すれば代わりに作成してもらったりアドバイスをもらったりすることができます。
健康保険適用を断られた場合の対処方法
通院している病院によっては、自由診療から保険診療への切り替えに良い顔をしないことがあります。
保険診療になると、病院の収益が落ちますし、保険適用の範囲に拘束されて、適切な治療を実施できなくなるからです。
しかし、被害者にとっては、たとえ保険適用の範囲に治療方法が限定されても健康保険を適用してもらうことの方が重要です。
そこで、病院が健康保険適用を否定してきたら、「第三者行為による傷病届」の写しなどを提示して、交通事故患者が健康保険を利用することは認められていることを主張しましょう。
それでも病院が納得しないのであれば、転院して治療を継続することをお勧めします。
いつまで通院すれば良いのか
治療はいつまで続ければよいのかな?
痛みが残っていれば、ずっと通う事になるの?
医師が症状固定と判断するまでは通い続ける必要があるんだよ。
いつまでかかるか不安に感じる場合には、医師に確認してみよう。
以上のように、健康保険を適用して治療を継続した場合、いつまで通院を継続するのでしょうか?
それは、「症状固定したとき」または「完治したとき」です。
症状固定というのは、「それ以上治療を継続しても症状が改善しなくなった状態」です。
症状固定したときに何らかの症状が残っていたら、その症状について後遺障害が認定されます。
完治というのは、後遺障害が残らずに症状が全快することです。
完治したらまったく元通りなので、通院する必要はありません。
症状固定や完治は医師が判断するので、症状が落ち着いてきたら、「そろそろ症状固定するのでしょうか?」と聞いてみましょう。
もしくは、医師の方から「そろそろ症状固定しても良いかも知れませんね」と言ってくれることもあります。
症状固定後にすべきこと
症状固定になった後には、どんな手続きを進める必要があるの?
症状固定後は、後遺障害認定の取得のための手続きを進めよう。
以上のように、健康保険などを利用して通院し、症状固定をしたら、以下のような手順で手続を進めます。
後遺障害認定請求をする
まずは、加害者の自賠責保険に対し、後遺障害等級認定請求をする必要があります。
何らかの症状が残っていても、きちんと後遺障害として認定を受けないと、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することができないからです。
後遺障害認定請求をするときには、事前認定と被害者請求の2種類の方法があり、ケースに応じて適切な方法を選択することが重要です。
一般的には、弁護士に依頼をして「被害者請求」の方法で手続を進めると、認定を受けやすくなるケースがあるので、一度相談してみると良いでしょう。
示談交渉をする
後遺障害の認定手続きを終えたら、加害者の保険会社と示談交渉を行います。
示談交渉の際には、被害者が自分で交渉をするのと弁護士に依頼するのとで、支払われる賠償金の金額が大きく変わってきます。
弁護士が対応すると、高額な弁護士基準が適用されるからです。
できるだけ高額な賠償金を獲得したいなら、示談交渉は弁護士に依頼しましょう。
まとめ
保険会社から治療の打ち切りを迫られた場合でも、治療をやめずに通い続けることが必要なんだね。
保険会社との示談交渉だけではなく、打ち切りと言われてしまった場合の対応も、弁護士に依頼する方が安心だね。
自分が加入している任意保険に弁護士特約が付いている場合には、費用がかからずに弁護士に依頼することが可能だよ。
今回は、保険会社が治療費を打ち切ってきた場合の対処方法をご紹介しました。
治療費打ち切りに遭っても、治療を打ち切ってはいけません。
健康保険を使ってでも、症状固定するまで通院を継続しましょう。
保険会社とのやり取りで対応に迷ったら、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。