タクシーと事故を起こしてしまったら、誰に損害賠償請求をすれば良いの?
交通事故を起こしてしまった相手がタクシーである場合、タクシー共済に損害賠償請求をする事になるんだよ。
タクシー共済と、任意保険会社は同じなの?
それが全く違うんだ。
タクシー共済が相手だと、正当な賠償金を得ることが出来ない事が多くなってしまうんだよ。
今回の記事では、タクシーと交通事故を起こしてしまった場合の、損害賠償請求について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭ったとき、相手がタクシーというケースがあります。
相手がタクシーやトラックなどのプロの運転手の場合、通常の交通事故とは異なる対応をされて、被害者が不利になってしまうことも多いです。
タクシーが相手の場合、具体的にどういった問題があるのでしょうか?
以下では、タクシー相手に交通事故に遭ったときにありがちな問題と、慰謝料その他の賠償金請求方法を、解説します。
タクシーと交通事故に遭ったときに賠償請求できる相手
タクシー相手に交通事故に遭ったとき、誰に対して治療費や慰謝料を請求することができるのでしょうか?
まずは、損害賠償請求の相手を確認しましょう。
タクシー運転手
まず、タクシー運転手本人に請求することが考えられます。
タクシー運転手は、過失によって被害者に怪我をさせているので、「不法行為」が成立します(民法709条)。
また、タクシーを運転して利益を得ているので、「運行供用者責任」という責任も負います(自賠法3条)。
そこで、タクシー相手に事故に遭ってケガをすると、タクシー運転手に対して不法行為や運行供用者責任にもとづいて、損害賠償請求ができます。
物損事故の場合、運行供用者責任は発生しませんが、不法行為責任は成立するので、やはり車の修理費等を支払ってもらうことができます。
ただし、相手がタクシー運転手個人の場合、きちんと支払いを受けられる保証はありません。
運転手が個人資産によって支払いをするので、相手に資産がなければ、支払いを受けられない可能性があるのです。
たとえ裁判をしても、タクシー運転手個人に十分な財産がなければ、取り立てることもできません。
そこで、タクシー運転手個人に対して賠償金を請求する方法は、あまり確実性のある方法ではありません。
タクシー会社
2つ目に考えられる賠償金の請求先は、タクシー会社です。
タクシー会社は、タクシー運転手を雇用しており、タクシー運転手に運転させることによって利益を上げています。
このように、使用する人が不法行為をした場合、使用者にも不法行為が成立します(民法715条)。
この責任のことを、「使用者責任」と言います。また、タクシー会社にも「運行供用者責任」が発生します。
使用者責任が発生する場合、使用者と被用者の責任は「連帯債務」の関係になりますので、被害者は、タクシー会社にもタクシー運転手本人にも同じように損害賠償請求することができます。
つまり、タクシー会社とタクシー運転手の双方に、損害賠償額を請求することができて、両者の負担割合を考慮する必要はない、ということです。
損害の分担については、後にタクシー会社とタクシー運転手が話し合って清算することとなります。
ただ、タクシー会社を相手にする場合にも、必ずしも支払いを受けられるとは限りません。
たとえば、タクシー会社が営業不振で支払い能力がなかったら逃げられる可能性がありますし、タクシー会社が倒産してしまったら、一切の支払いを受けられなくなるおそれもあります。
この意味で、タクシー会社に請求する方法も、不確実な方法と言えます。
タクシーの任意保険
タクシー会社やタクシー運転手が任意保険に加入している場合には、任意保険に対して慰謝料やその他の賠償金を請求することができます。
任意保険は、加入者が交通事故を起こして被害者に物損や人身損害を与えた場合、代わりに賠償をしなければならない義務を負うからです。
任意保険と示談交渉をして、賠償金の金額が決定したら、任意保険が全額を支払ってくれます。
「お金がない」と言われて支払いを受けられないリスクなどはありません。
この意味で、タクシーの任意保険に請求する方法は、慰謝料を支払ってもらうために、かなり確実性の高い方法となります。
そして、タクシー営業を行うときには、タクシーには何らかの保険や共済に加入すべき義務があります。
そこで、実際に事故が起こったときには、被害者はタクシーの任意保険または次に説明する「タクシー共済」と示談交渉をすることになるケースが多いです。
タクシー共済とは
タクシー相手に交通事故に遭ったとき、タクシー会社は「タクシー共済」に加入していることが多いです。
その場合、被害者側は、タクシー共済に対して賠償金の請求を進めていく必要がありますが、そもそも「タクシー共済」とはどのようなものなのでしょうか?
タクシー共済は、タクシー会社が寄り集まって自主的に作っている、交通事故損害賠償に備えるための共済です。
タクシー会社にとって、交通事故への対策は非常に重要です。
たくさん交通事故を起こすと、監督官庁からも注意を受けますし、最悪の場合、タクシー業の認可を取り消されることも考えられます。
また、交通事故が起こると、経済的な損失も多く発生します。
運休車が発生するので営業損失が出ますし、運転手がケガをすると、人員も不足してしまいます。
さらに、被害者がいる場合、自賠責保険の額を超えたら、タクシー会社が賠償金を支払わなければなりません。
多くのタクシーを使って営業をしているタクシー会社は、高い交通事故のリスクを負っていますので、タクシー会社は、通常の一般車以上に任意保険に加入しておく必要性が高くなります。
一方で、タクシー会社が所有しているタクシー車両の数は膨大です。
それぞれについて、すべて任意保険に加入していると、莫大な保険料が発生して、収益が圧迫されます。
そこで、タクシー会社は、自分たちで「タクシー共済」という共済を作り、その中で交通事故対応をしようとしています。
これが、タクシー共済の仕組みです。
タクシー共済は、「共済」とは言っても一般の任意保険とは大きく異なり、タクシー会社の任意団体のようなものです。
タクシー共済の目的、存在意義は任意保険と大きく異なる
任意保険は交通事故の被害者を救済するための制度という側面が強いのですが、タクシー共済の目的は、これとは全く異なります。
タクシー共済は、タクシー運転手やタクシー会社を保護するための制度です。
このことから、タクシーと交通事故に遭った被害者がタクシー共済と示談交渉をするときには、一般の交通事故のケースとは異なる、さまざまな不利益を受ける可能性が出てくるのです。
タクシー共済の問題点
タクシー共済との示談交渉は何で難しいの?
金融庁の許可を受けていない団体だから、示談交渉で多少無理をいっても、お咎めがないんだ。
そのため、タクシー会社の利益ばかりを優先してしまって、きちんとした補償を受けることが出来ないんだよ。
タクシー共済には、以下の述べるようなさまざまな問題点があります。
金融庁の監督を受けていない
まず、タクシー共済は、金融庁による監督を受けていません。
一般の損害保険会社は、保険会社としての営業を行うために、金融庁における認可を受ける必要があります。
認可を受けないで保険業務を行うのは違法ですので、どのような任意保険会社もきちんと登録を受けています。
きちんと認可を受けて登録している保険会社は、金融庁による監督を受けます。
もしも悪質な保険金不払いなどの問題を繰り返していると、是正勧告や立入検査を受ける可能性もありますし、最悪の場合、認可を取り消されてしまうおそれもあります。
そこで、任意保険会社の場合、極端に逸脱した、無茶な主張を行うことはありませんし、被害者の言い分に対しても、ある程度真摯に対応します。
これに対し、タクシー共済は、タクシー会社が自主的に作っている集まりですし、営業行為として保険業務を行っているわけでもありません。
そこで、タクシー共済は、そもそも金融庁で認可を受けておらず、無認可共済です。
そもそも保険業の登録をしていませんし、金融庁による監督を受けないので、担当者が多少無茶な主張をしたり共済金の不払いを起こしたり、被害者からいろいろなクレームが来たりしても、「保険業」の登録を取り消される心配をする必要がありません。
そこで、タクシー共済は、加入しているタクシー会社やタクシー運転手のため、被害者無視の無茶な主張をしてくることが多いです。
そのようなときにも、被害者が金融庁に申し立てをして、タクシー共済にプレッシャーをかけることなどはできません。
事故慣れしている
タクシー共済は、「事故慣れ」していることも問題です。
タクシー共済は、加入しているタクシー会社やタクシー運転手が事故を起こすと、加入者に代わって示談交渉を行います。
毎日のようにたくさんの事故処理をしていますし、常にタクシー側に立って被害者を抑えつけるための交渉を繰り返しているので、こうした対応には慣れていますし、被害者に対して高圧的に接してくることも多いです。
タクシー相手に交通事故に遭った被害者が、「タクシー共済が対応してくれるから、任意保険会社と同じように対応してもらえるし、最低限、きちんと慰謝料も支払ってもらえるだろう」と期待していると、大きく裏切られることになりやすいです。
強硬な主張をしてくる
タクシー共済は、加入しているタクシー会社やタクシー運転手のための共済です。
そこで、被害者の立場など一切考えず、ひたすらタクシー側の利益を追求してきます。
たとえば、以下のような無茶な主張をしてくることがあります。
【そもそも、交通事故が起こっていない】
明らかに交通事故が起こっていて被害者が怪我をしているケースであっても、平気で「事故が発生していない」と言うことがあります。
物損事故の場合、さらに対応が適当になることが多いです。
【そちら側の一方的な過失による交通事故だから、慰謝料は支払わない】
明らかにタクシー運転手側に過失が大きな事案であっても、100%被害者の過失であると言ってきます。
また、被害者に少しでも落ち度があると、大げさに評価して、被害者に過大な過失割合を割り当てて賠償金を減額しようとすることも多いです。
【こっちも多大な損害を受けているのだから、支払いはできない】
これも、よくあるタクシー会社の主張です。
交通事故が起こったことにより、休車損などの営業損害を受けているため、それと相殺して賠償金を払わない、などと言ってくることがあります。
【この程度の交通事故で、そんな怪我をするはずがない。虚偽申告だ】
被害者が交通事故で怪我をしたと申告し、治療費を請求すると、怪我と交通事故に因果関係がないと言われるケースがあります。
交通事故の程度が軽いので、ケガをするはずがない、と言うのです。
診断書を提出しても、「交通事故とは別の原因で怪我をしたのではないか?」と言われることもあります。
ときには、被害者が虚偽申告しているのではないかという扱いをされて、被害者が驚き、怒りを感じるケースも見られます。
【そんな怪我で、後遺障害が残るはずがない、治療費もかからないはずだ】
たとえば、交通事故で後遺障害が残った場合には、その程度の怪我で後遺障害が残るはずがないと言うことがあります。
また、診断名を見て、この程度の怪我では、こんなに多額の治療費がかかるはずがないという理由で、治療費支払いを拒絶されることもあります。
タクシー共済への反論方法
タクシー共済に反論する方法ってあるの?
状況によって、反論方法は変わってくるんだ。
シーン別による反論方法を詳しく見ていこう!
タクシー共済から上記のような無茶な請求をされたときには、どのように反論したら良いのでしょうか?
以下で、それぞれの主張に対する反論方法を検討していきましょう。
「そもそも交通事故が起こっていない」と言われたケース
まずは、そもそも交通事故が起こっていないと言われてしまった場合の対処方法を見てみましょう。
この場合には、「交通事故証明書」を取得して提示することが有効です。
交通事故が起こったとき、きちんと警察を呼んでいれば、後に「交通事故証明書」を発行してもらうことができます。
交通事故証明書は、交通事故が起こったことを証明するための資料ですから、これがあるのに「交通事故が起こっていない」と言うことはできません。
交通事故証明書は、自動車安全運転センターでも取得できますし、郵便局で払込をすることにより、申請取得することも可能です。
「そっちの一方的な過失による事故だから、賠償金を支払えない」と言われたケース
過失割合について無茶な主張をされた場合には、ドライブレコーダーや監視カメラなどの画像を確認したり、目撃者に証言を求めたり、「実況見分調書」を入手して内容を検討したりする方法が有効です。
そのためには、日頃から車にドライブレコーダーを搭載しておくこと、事故に遭ったときには周囲の人に声をかけて、目撃者を確保しておくことなどが重要です。
実況見分調書は、検察庁で申請取得できますが、よりスムーズに取り寄せるには弁護士に依頼しましょう。
「こっちも多大な損害を受けているから、支払えない」と言われたケース
タクシー会社も多大な損害を受けているから支払いができないと言われた場合、「そもそも損害賠償金については相殺ができない(民法509条)」と反論する方法があります。
特に人身損害の場合、損害賠償金は必ず現金で払わないといけないので、タクシー会社に損害が発生しているとしても、支払を拒絶する理由にはなりません。
また、タクシー会社にどれだけの損害が発生しているのか、資料と根拠の提示を求めましょう。
タクシー共済が「多大な損害が発生している」と主張していても、被害者の損害より小さい場合もあるためです。
タクシー共済が証拠を提出しない場合、タクシー共済の主張に理由はありません。
「この程度の事故でケガをするはずがない」と言われたケース
タクシー共済から、事故と怪我の因果関係を否定されたときには、交通事故後すぐに病院に行っておけば、診断書を発行してもらえて怪我を証明できます。
また、治療をしてもらった医師に意見書を書いてもらう方法などもあります。
「この程度のケガで後遺障害が残らない、治療費もかからない」と言われたケース
この場合にも、病院の医師に協力を求める方法が効果的です。
ケガにより後遺障害が残った場合、そういうことも医学的に起こりうるという内容の意見書を書いてもらうと良いですし、治療費が発生することについても、病院の診療報酬明細書や診断書を取得すれば、証明できます。
それでもタクシー共済が支払いに応じない場合の対処方法
反論したけれど、それでもタクシー共済が応じてくれないような場合には、どうしたら良いの?
まずは弁護士に相談してみよう。
弁護士が介入することで、弁護士基準での賠償額の計算となるから、任意保険基準や自賠責基準よりも高い損害賠償金額を請求することが可能となるんだ。
通院日数が多い場合や、後遺障害認定を受けることが出来る場合には、保険会社基準よりも弁護士基準で請求するのがお勧めだよ。
弁護士に依頼してもうまく示談が進まない事もあるの?
弁護士が介入してもうまく示談が進まない場合には、訴訟を検討する必要があるね!
このように、さまざまな対処をしても、タクシー共済やタクシー会社、タクシー運転手が支払いをしないケースもあります。
その場合、タクシー共済やタクシー会社、運転手などに対し、損害賠償請求訴訟を起こすことにより、裁判所から相手に対して賠償金の支払い命令を出してもらうことができます。
裁判では、きちんと交通事故の事実と損害発生を証明できれば、相手が支払いを拒絶したり責任を否定したりしていても、裁判所が加害者側に対して支払いを命ずる判決を出してくれるためです。
ただ、交通事故の損害賠償請求訴訟は専門的な手続きであり、法律知識とノウハウを持っている弁護士によるサポートを受ける必要が高いです。
また、裁判前に弁護士に間に入ってもらって、タクシー会社と示談を進めてもらうことにより、示談交渉がスムーズに進む可能性もあります。
そこで、交通事故に遭って相手がタクシーであったり、タクシー共済が出てきて示談が進まなくなってしまったりした場合には、できるだけ早めに弁護士に相談しましょう。
まとめ
タクシーとの交通事故の場合には、適正な賠償額を受け取ることが出来なくなる可能性が高いなんて、知らなかったよ。
たとえ、タクシー共済が示談交渉の相手だとしても、泣き寝入りしてはいけないよ!
弁護士に依頼して、正当な賠償金を受け取るようにしよう!
弁護士費用が気になる場合には、自分が加入している任意保険のオプションで、弁護士特約の保険金額を支払っていないか確認してみよう。
今回は、タクシー相手に交通事故に遭った場合の対処方法を説明しました。
タクシーが相手だと、一般の交通事故以上に対応が困難になることが多いです。
適切に慰謝料を始めとした賠償金を受け取るため、できるだけ早めに弁護士に相談しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。