歩行中に交通事故に遭ってしまった場合って、慰謝料はいくらもらえるの?
事故の状況によって慰謝料は変わってくるんだ。
どんな事故だと、歩行中の事故でも慰謝料が減額されてしまうのか、増額させるにはどうすれば良いのか、詳しくみてみよう。
道路を歩いている最中にいきなり自動車やバイクにはねられたら、被害者は大けがをしてしまうことも多いです。
そのようなときには、加害者にきちんと損害賠償金を支払ってもらう必要があります。
自分自身で加入している人身傷害補償保険や、搭乗者傷害保険、対人賠償保険、自転車に乗っていた場合には、自転車保険を利用して補償を受ける事も可能ですが、慰謝料などの損害金は、加害者本人や加害者が加入している任意保険から受け取る必要があります。
歩行者と自動車の事故では明らかに歩行者のダメージが大きくなりますが、過失割合や慰謝料の金額などはどのような相場になっているのでしょうか?
今回は、歩行中の交通事故の過失割合や慰謝料についての法的な考え方をご説明します。
目次
歩行者と自動車の交通事故の特徴
交通事故の当事者はさまざまです。
自動車同士の事故、自動車とバイクの事故、自動車と自転車の事故などもありますが、今回取り上げるのは自動車と歩行者との交通事故です。
自動車と歩行者の事故にはどのような特徴があるのか、理解しておきましょう。
歩行者の損害が大きくなる
歩行中の交通事故では、歩行者に大きな損害が発生する可能性が高くなります。
自動車は車体も大きく重量感のある鉄の固まりで、なおかつスピードを出しているケースも多いです。
このようなものと、身体がむきだしの歩行者が接触した場合、自動車にはほとんど衝撃がなくても歩行者は大けがをしてしまいます。
歩行者に重大な後遺障害が残る可能性もありますし、死亡のリスクも相当あります。
このような重大な結果が発生すると、慰謝料などの損害賠償額も高額になります。
任意保険基準や自賠責保険基準ではなく、弁護士基準や、裁判基準になると、更に損害賠償請求は高額になります。
賠償金は、加害者側の自賠責保険会社で賄えなかった分(自賠責基準を超えた場合)を、任意保険会社が負担し、保険金を支払うのが通常です。
自動車保険に加入している保険者は、損害金を支払う必要はありません。
歩行者には「弱者」が含まれる
自動車やバイクを運転する人は、運転免許を取得している人です。
子どもは免許を取得できないので運転しませんし、高齢者や障害者などの人も、あえて運転をしない人が多いです。
これに対し、歩行者にはあらゆる社会的弱者が含まれます。
たとえば認知症の高齢者や幼児、身体障害者なども普通に歩いていて、車にはねられる可能性があるのです。
これらの人には、適切に事故を回避するための行動を期待しにくいので、車側に課される注意義務の程度が高くなります。
歩行者の過失割合が低くなる
自動車と歩行者を比べると、交通事故が起こったときのダメージは圧倒的に歩行者の方が大きく、歩行者は不利な立場です。
また、自動車は車体も大きくスピードも出るので、事故を回避する能力は基本的に車の側が高いと考えられています。
歩行者と自動車の過失割合
信号を渡っていたり、横断歩道を渡っている事故でも歩行者側が悪くなってしまう事ってあるの?
歩行者側に何も問題がない場合には、車が一方的に悪くなるんだよ。
以上を前提に、以下では歩行者と自動車の交通事故の過失割合がどのくらいになるのか、みていきましょう。
基本的に歩行者が優先される
歩行者と自動車の交通事故では、歩行者が優先されるのが原則となります。
自動車と歩行者を比べると、歩行者が明らかに弱い立場になるからです。
特に横断歩道上の歩行者は絶対的とも言える保護を受けます。
自動車は、横断歩道の近辺を走行するときには、歩行者がいないかどうか常に注意して、歩行者がいたらすぐに停止できるように徐行なければならないと道路交通法に定められているからです。
そこで、横断歩道を渡っている歩行者に自動車が接触して怪我をさせたら、自動車の過失割合が100%、歩行者の過失割合は0%となります。
歩行者にも過失割合が認められる場合
歩行者に過失割合が発生するのはどんな事故となるの?
信号無視をしたり、道路に寝そべっていたりと、明らかに危険な行為をした場合だよ。
ただし、歩行者の過失割合が常に0%になるという意味ではありません。
以下では、歩行者にも過失割合が認められるケースをご紹介します。
- 信号無視をした場合
- 危険な行為をした場合
- 横断歩道を使わなかったとき
- 車道に歩行者が進入した場合
- 道路上に寝ていた場合
- 高速道路上の事故
信号無視をした場合
まず、歩行者が信号無視をしたケースです。
道路交通法上、歩行者にも信号機による指示を守るべき義務が課されます。
信号無視は重大な法律違反なので、これによって交通事故を引き起こしたら歩行者にも高い過失割合が割り当てられるのです。
信号無視した場合、たとえ横断歩道上を歩いていても、歩行者に過失割合が発生します。
たとえば、信号機のある交差点において、歩行者が横断歩道を渡っていて自動車が直進するときに接触した交通事故の過失割合は、以下の通りとなっています。
歩行者の信号機の色 | 自動車の信号機の色 | 歩行者の過失割合(%) | 自動車の過失割合(%) |
青 | 赤 | 0 | 100 |
黄 | 赤 | 10 | 90 |
赤 | 赤 | 20 | 80 |
赤 | 黄 | 50 | 50 |
赤 | 青 | 70 | 30 |
青信号で横断を開始し、途中で赤になった | 赤 | 0 | 100 |
赤信号で横断を開始し、途中で青になった | 赤 | 10 | 90 |
青信号で横断を開始し、途中で赤信号になった | 青 | 20 | 80 |
黄信号で横断を開始し、途中で赤信号になった | 青 | 30 | 70 |
なお、安全地帯のない道路上での交通事故を前提としています。
上記を見るとわかることですが、歩行者が赤信号、自動車が青信号の状態で横断歩道を渡ると、歩行者の過失割合が70%にもなってしまいます。
そうなったら相手に請求できる損害額が3割減となります。
歩行者といえども信号無視をすることは許されないので、急いでいるときでも信号が青になるまで横断歩道を渡るのを待ちましょう。
危険な行為をした場合
歩行者の過失割合が高くなるケースとしては、歩行者が危険な行動をとった場合もあげられます。
危険な行為とは、以下のようなものです。
- 急な飛び出し
急に歩行者が車の前に飛び出してきたら、自動車は歩行者を避けることができません。
事故現場の状況にもよりますが、車道で飛び出しをした場合などには歩行者に30~40%などの高い過失割合を割り当てられる可能性もあります。
- 突然立ち止まる、後退する
歩行者が横断中に突然立ち止まったり後ろに下がり始めたりすると、自動車は歩行者の行動を予測できず、事故の可能性が高まります。
そこで、このような危険な行為をした歩行者の過失割合が5~10%程度、上がります。
- 自動車の直前や直後を横断する
歩行者が自動車の直前や直後を横断すると、自動車から歩行者が死角になり、交通事故発生のリスクが高まります。
そこで、歩行者の過失割合が5~10%程度、加算されます。
横断歩道を使わなかったとき
歩行者は、横断歩道がある場所では必ず横断歩道を使って道路を渡るべき義務を負います。
それにもかかわらず、歩行者が横断歩道を使わずに車道を横断すると危険なので、歩行者の過失割合が上がります。
車道に歩行者が侵入した場合
歩行者がいきなり車道に進入してきたら、自動車は歩行者の存在を予測しにくいので交通事故発生のリスクが高まります。
そこで、歩車道の区別のある場所で歩行者が車道を歩いていた場合などには歩行者の過失割合が上がります。
その場合、歩行者の過失割合が20%程度となります。
また、歩車道の区別のない場所での交通事故でも、歩行者が道路の真ん中を歩いている場合などには歩行者の過失割合が高くなり、10~20%程度の過失割合が適用されます。
道路上に寝ていた場合
歩行者が道路上に寝ていると、自動車は歩行者の存在を予測することができず、事故を避けられません。
そこで歩行者にも高い過失割合が認められます。
特に夜間は自動車から歩行者を発見しにくくなるので歩行者の過失割合が上がります。
昼間の場合には歩行者の過失割合が30%程度、夜間の場合には歩行者の過失割合が50%程度が基準となっています。
高速道路上の交通事故
一般道では歩行者が強く保護されますが、高速道路上の事故では状況が変わってきます。
歩行者は、高速道路への進入が許されていないからです。
歩行者が正当な理由なく高速道路上を歩いていて自動車に跳ねられた場合、歩行者に高い過失割合が割り当てられます。
通常の道路状況で歩行者が高速道路上を歩いていて交通事故に遭った場合には、歩行者の過失割合が80%、自動車の過失割合が20%となります。
ただ、高速道路においても、自動車がエンストなどを起こして駐停車し、運転者や同乗者が停止表示板などをおいてやむなく車外に出ているケースがあります。
このような場合には、道路を走行している車両にとっても歩行者の存在を予測しやすくなるので、徐行するなどして事故を避ける努力をすべきです。
そこで、駐停車している車両の近くで事故が起こった場合には、高速道路上の事故でも歩行者の過失割合が下がり、40%程度となります。衝突した自動車の過失割合が60%です。
以上のように、一般道では歩行者が強く保護されますが、高速道路上ではそうはならないことがわかります。
また、一般道であっても信号無視をすると、歩行者に高い過失割合が割り当てられることもわかります。
道路を歩くときには、こういったことを知り、きちんと交通ルールを守るようにしましょう。
歩行者に認められる慰謝料とは
歩行者はどんな慰謝料を受け取ることができるの?
入通院慰謝料と、後遺障害慰謝料、そして死亡慰謝料の3つだよ。
次に、歩行者が自動車と接触したとき、歩行者が自動車に対してどのくらい慰謝料を請求できるのか、みてみましょう。
歩行者が自動車に請求できる可能性のある慰謝料は、以下の3種類です。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、歩行者が事故に遭って怪我をしたときに発生する慰謝料です。
歩行者は怪我をして、大きな精神的苦痛を受けるので、加害者に慰謝料請求できます。
入通院慰謝料は、入通院の期間に応じて発生します。
入通院の期間が長くなればなるほど、慰謝料の金額が高額になります。
たとえば通院6か月なら116万円程度、入院1か月通院6か月なら149万円程度、入院3か月通院10か月なら230万円程度となります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、歩行者が怪我をしたことにより、後遺障害が残ってしまったときに発生する慰謝料です。
被害者が自分で請求を行う被害者請求と、相手方保険会社に任せる事前認定とがあります。
後遺障害の程度が重くなるほど慰謝料の金額も上がります。
後遺障害の等級は重い方から1級~14級までありますが、各等級の後遺障害慰謝料の目安の金額は、以下の通りです。
- 1級 2800万円
- 2級 2370万円
- 3級 1990万円
- 4級 1670万円
- 5級 1400万円
- 6級 1180万円
- 7級 1000万円
- 8級 830万円
- 9級 690万円
- 10級 550万円
- 11級 420万円
- 12級 290万円
- 13級 180万円
- 14級 110万円
死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、被害者側が死亡してしまったことによって発生する慰謝料です。
被害者に被扶養者がいたかどうかなどで異なり、金額的には2000~2800万円程度となります。
被害者が一家の大黒柱であった場合には2800万円程度、被害者が配偶者や母親などで遭った場合には2500万円程度、被害者が高齢者や子ども、未就労の人であった場合などには2000~2500万円程度となります。
歩行者に認められる逸失利益とは
その他に受け取ることができる損害金はないの?
仕事をしていた場合には、逸失利益を受け取ることが可能だよ。
歩行者が交通事故に遭ったとき、「逸失利益」という損害に注意を向けましょう。
以下で、その理由と内容を説明します。
逸失利益は高額になるケースが多い
逸失利益とは、交通事故によって得られなくなってしまった将来の収入です。
交通事故で、被害者に後遺障害が残ると、労働能力が低下してそれまでのように効率的には働けなくなります。
そこで、事故に遭わなかった場合と比べて減収が発生すると考えられます。
また、被害者が死亡したら、その後一切の収入を得ることができません。
そこで、歩行者に後遺障害が残ったり死亡したりすると、事故の相手の保険会社にこうした減収分を損害として、「逸失利益」を請求することができるのです。
逸失利益は、慰謝料と比べても高額になることが多いです。
たとえば後遺障害慰謝料は1級でも2800万円程度ですが、逸失利益は1億円を超えることも珍しくありません。
逸失利益が認められるケース
逸失利益は「将来の失われた収入」なので、逸失利益が認められるのは、基本的に「事故前に労働をして収入を得ていた人」です。
たとえばサラリーマン、自営業者、フリーランス、アルバイトやパートなどの人には逸失利益が認められます。
また、主婦や子ども、学生でも逸失利益を請求することができます。
主婦の場合、家事労働に経済的な価値があると考えられるので働けなくなって逸失利益があると考えられますし、子どもや学生の場合には将来働いて収入を得る蓋然性が高いと考えられるからです。
無職の場合
事故当時無職だった人の場合、基本的似逸失利益を請求することはできません。
まったくの無職無収入の人だけではなく、株式配当や不動産賃貸料などの不労所得で生活している人にも逸失利益は認められません。
不労所得の場合、その人が身体を壊して働けなくなっても同じように収入を得られるからです。
年金生活者の場合には、後遺障害逸失利益は認められませんが、死亡逸失利益は認められるケースが多いです。
歩行者が交通事故に遭ったときに注意すべきケース
歩行者との交通事故でそのほかにも注意することってあるの?
歩行者が高齢者だった場合、過失割合が修正される事があるんだよ。
その他にも、仕事中の事故の場合にも労災認定が適用となることもあるから注意しよう。
以下では、歩行者が交通事故に遭ったときに注意すべきケースを2つ、ご紹介します。
歩行者が高齢者の場合
歩行者(被害者)が高齢者だったときには、さまざまなことに注意が必要です。
まず、過失割合についての問題です。
歩行者が65歳以上の高齢者であった場合、基本的に歩行者の過失割合が低く修正されます。
高齢者には、適切な事故回避のための行動を期待しにくいからです。
具体的には、5~10%程度、過失割合が減らされることが多いです。
被害者が高齢者の場合、逸失利益にも注意が必要です。
高齢でも仕事をしている場合には逸失利益を請求できますが、このとき、「いつまでの分を請求できるか」が問題となるためです。
一般的には、逸失利益は67歳までの分とされています。しかし高齢者の場合、67歳を超えても働く蓋然性が高い人も多いですし、すでに67歳を超えている方もおられます。
そこで、高齢者の方が被害者になる場合、逸失利益は以下の長い方の年数を基準に計算します。
- 67歳までの年数
- 平均余命の2分の1
68歳以上の高齢者の場合には、平均余命の2分の1を基準に算定します。
また、高齢の場合、老齢年金のみで生活しているケースがあります。
その場合、後遺障害逸失利益は認められませんが、死亡逸失利益は認められます。
被害者が生きている以上、後遺障害が残っても年金は減らされませんが、死亡すると年金をもらえなくなるからです。
年金には、家族を扶養する意味合いもあると考えられているため、遺族が加害者に対して死亡逸失利益を請求できます。
歩行者が仕事中や勤務中であった場合
次に、歩行者が仕事中や通退勤の途中で交通事故に遭った場合にも知っておくと役に立つことがあります。
この場合、交通事故が「労災」になる可能性があります。
労災とは、業務に起因して労働者が病気や怪我をすることです。
勤務時間中に交通事故に遭った場合だけではなく、通退勤の途中に事故に巻き込まれたケースでも労災になる可能性があります。
たとえば、営業で外回りをしているときに自動車にはねられたケースや、会社に行く途中で車に接触されたケースなどでは、労災認定を受けられるということです。
労災認定を受けると、治療費を全額労災保険から支払ってもらえますし、休業補償や障害補償(後遺障害に対する補償)、介護給付などを受けられます。
被害者が死亡した場合には、葬祭料の支給や遺族への補償なども行われます。
ただし労災給付を受けるためには、労働基準監督署に申請をして、さまざまな調査や照会を受けた上で「労働災害」として認定されなければなりません。
本人や遺族が自分たちで進めると思うように認定を受けられないことも多いので、労災や交通事故に精通している弁護士に対応を依頼することをお勧めします。
まとめ
歩行者と自動車の交通事故では、歩行者側の損害が大きくなることが多いので、適正な賠償を受ける必要性が高いです。
しかし、被害者が自分で示談交渉をすると不利になってしまい、示談金に納得できないことも多々あります。
できる限り早い段階で、交通事故に詳しい弁護士を探してアドバイスを受けておきましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。