交通事故に遭ったときには「過失割合」が非常に重要となります。被害者の過失割合が高くなると、その分相手に請求できる賠償金の金額を、大幅に減らされてしまうからです。
自動車事故の過失割合は、どのようにして決まるのでしょうか?
被害者に有利に話を進める方法についても、押さえておきましょう。
今回は、自動車事故の過失割合の決まり方をご説明します。
目次
過失割合とは
過失割合の基本
そもそも、交通事故の「過失割合」とはどのようなものなのでしょうか?
過失割合は、被害者と加害者の、交通事故の結果に対する責任の割合です。
どちらにどのくらいの責任があるか、ということです。
過失割合が高いと、賠償金が減ってしまう
交通事故の示談交渉では、過失割合を巡って保険会社と争いになることが多いです。
被害者は、保険会社から高い過失割合を割り当てられることが多いため、不満に感じるのです。
被害者の過失割合が高くなると、相手に請求できる賠償金の金額を、大きく減額されてしまう問題が起こります。
交通事故の損害は、損害を発生させた人が負担すべきです。
そして、被害者にも過失がある場合、被害者は、自分の過失の分は、損害を負担すべきと言えます。
そこで、被害者の過失割合に相当する分は、相手に請求できる金額から減額されてしまうのです。
このことを、過失相殺と言います。
たとえば、被害者の過失割合が20%の場合、相手に請求できる金額は、発生した損害の8割(20%減)となってしまいます。
被害者の過失割合が高くなればなるほど、運転者である加害者に請求できる賠償金の金額が減ってしまうので、注意が必要です。
過失割合はどのように決まるのか?
このように、被害者にとって非常に重要な過失割合ですが、いったいどのようにして決めるのでしょうか?
示談交渉の場合、過失割合は、被害者が相手の保険会社と話し合うことにより、決定します。
ときどき、警察が過失割合を決めてくれると思われていることがありますが、警察はそのような評価はしてくれません。
自分たちで話し合って合意をする必要があるのです。
そしてこのとき、保険会社の担当者は、被害者が思っているより高い過失割合を割り当ててくることが多いです。
被害者の過失割合が高くなると、保険会社の支払金が減って保険会社が得をするので、本来よりも高めに過失割合を主張してくるのです。
この場合、被害者が何も知らずに、「それでいいですよ」と答えると、相手の言うままの高い過失割合が適用されて、賠償金を減らされてしまいます。
過失割合について、「納得できない」「おかしい」と感じたら、すぐに示談せずに弁護士に相談に行った方が良いでしょう。
適切な過失割合とは
裁判所の定める法的な基準
このように、過失割合を決めるときには、保険会社と被害者が話し合って決めることが多いのですが、実は、過失割合には「法的に適切な基準」があります。
その基準は、裁判所が交通事故の過失割合を算定するときに採用しているものです。
交通事故のケースに応じて、どのくらいの過失割合が妥当か、細かく定められています。
たとえば、四輪車同士の事故、四輪車と単車の事故、四輪車と自転車の事故、四輪車と歩行者の事故などに分けられていて、信号のある交差点での事故、信号のない交差点での事故、追い越し際の事故など、ほとんどすべての交通事故について、被害者と加害者の基本の過失割合が決められています。
裁判をして加害者に賠償金の請求をするときには、裁判所は、この法的な過失割合の基準を当てはめて賠償金を計算しています。
このように正当な基準があるのですから、相手の保険会社が主張する基準が、法的な過失割合の基準と異なる場合には、そのことを指摘して、適正な過失割合の基準をあてはめさせるべきです。
被害者の過失が0である場合、自分が契約をしている任意保険は利用することができませんが、少しでも過失がある場合には、保険会社同士での話し合いとなることがほとんどです。
適切な過失割合の調べ方
それでは、被害者が適切な過失割合を知りたい場合、どのようにして調べたら良いのでしょうか?
この場合、いくつか方法があります。
判例タイムズを購入する
1つ目は、「判例タイムズ」という本を購入する方法です。
判例タイムズというのは、「判例タイムズ社」という会社が出版している法律に関連する雑誌です。
ふだんは、弁護士や裁判官などの法律家が定期購読していることが多いのですが、この別冊において、過失割合の認定基準を細かく特集しているものがあります。
時折改訂版が発行されるのですが、現時点において最新のものは、2014年7月10日に発行された「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本です。
判例タイムズ社のホームページからでも購入できるので、過失割合を調べたいときには、一冊購入すると良いでしょう。
この本には、各交通事故の基本の過失割合が詳しく載っているので、自分が遭った交通事故と同じケースを確認して、過失割合を確認しましょう。
なお、過失割合の認定基準が別冊判例タイムズに掲載されていることは、非常に有名です。
そこで、判例タイムズは、過失割合についての基準の代名詞のようになっていて、世間では、過失割合の基準のことを「判例タイムズの基準」と呼ぶことがあります。
交通事故関連の調べものをしていて「判例タイムズの基準」と書いてあったら、それは、裁判所で使われている法的な過失割合の基準のことだと理解すると良いです。
赤い本、青い本で調べる
過失割合を調べる方法の2つ目としては、「赤い本」「青い本」を購入する方法があります。
赤い本、青い本というのは、本に対するニックネームです。
これらの本は、弁護士会の交通事故相談センターが発行しています。
赤い本は、交通事故相談センター東京支部が発行している本で、正式名称は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」です。
青い本は、交通事故相談センターが発行している本で、正式名称は「交通事故損害額算定基準」です。
どちらも、弁護士会交通事故相談センターのサイトで購入することができるので、関心をお持ちの場合には、購入すると良いでしょう。
また、赤い本や青い本には、過失割合の基準だけではなく、交通事故の損害賠償金計算方法について、いろいろな情報が載っています。
交通事故全般について調べものをしたいときにも、とても役立つ本です。
ただし、内容が専門的になりますので、少し法律に詳しい人や、難しい本を読み込むのになれている人でないと、難しいかもしれません。
弁護士に確認する
適切な過失割合を調べる方法の3つ目としては、弁護士に相談をする方法があります。
この方法なら、自分で本を購入したり、読み解いたりする必要がありません。手っ取り早く、妥当な過失割合を知りたい場合には、一番の方法と言えます。
弁護士は、法律のプロですから、当然交通事故のケースごとの過失割合を把握しています。
そこで、弁護士に尋ねると、相手の保険会社が行っている過失割合が妥当かどうか、判断できます。
弁護士に相談をすると、法律相談料がかかると思われていることが多いのですが、最近では、多くの法律事務所が、交通事故の無料相談を実施しています。そのようなサービスを利用すると、無料で弁護士に過失割合を教えてもらうことができます。
無料相談を利用したからと言って、無理に依頼を勧誘されることなどはないので、不安がらずにどんどん利用しましょう。
過失割合の事例
交通事故には、事故ごとに適正な過失割合の基準がありますが、それによると、具体的にはどのような割合が認定されるのでしょうか?
以下では、典型的なケースについて、過失割合の具体的な割合を確認していきましょう。
車と歩行者の事故は車の過失割合が高くなる
まずは、車と歩行者の交通事故について、ご説明します。
車と歩行者の交通事故の場合、基本的に車の過失割合が高くなります。
車は、車体も大きくスピードも速いので、事故を避けやすい立場にあると言えます。
これに対し、歩行者側は、身体も小さく速く動けませんから、事故を避けにくいです。
また、交通事故が起こったときに、大きな損害を受けるのも、歩行者です。
そこで、車の方に高い注意義務が課されるので、車の過失割合が高くなるのです。
特に、横断歩道上では、歩行者は絶対的とも言えるほどの保護を受けます。横断歩道上で事故が発生したケースでは、基本的に車の過失割合が100%、歩行者の過失割合が0%となります。
歩行者にも過失割合が認められるケース
ただし、歩行者が信号無視をしていたケースや、歩行者が横断歩道ではない車道を歩いていたケースなどでは、歩行者にも過失割合が認められます。
たとえば、歩行者の信号が赤、車の信号が青だった場合には、横断歩道上の事故であっても、歩行者の過失割合が70%、車の過失割合が30%となります。
どちらの信号も赤だった場合には、歩行者の過失割合が20%、車の過失割合が80%となります。
追突事故の場合は10対0の過失割合となる
次に、追突事故の過失割合についても、ご説明します。
追突事故とは、後ろから車が前の車両に追突したケースです。
このような場合、基本的に後ろの車が悪いということは、一般的な感覚でもわかりやすいでしょう。
そこで、追突した車の過失割合が100%、追突された車の過失割合は0%となります。
追突された車は、自分自身の車両保険を利用する事なく、修理代を請求できます。
ただし、これについても例外があります。
それは、前の車が不必要に急ブレーキをかけた場合です。
このような場合、前の車にも過失があると言えますから、前の車の過失割合が30%、後ろの車の過失割合が70%となります。
交差点での事故で過失割合を決める条件とは
交通事故は、交差点上で発生することが非常に多いです。
交差点上での交通事故の過失割合は、どのような条件によって、決まるのでしょうか?
以下で、交差点での過失割合を決める要素について、説明をします。
信号機の有無
1つ目は、信号機の有無です。
車も歩行者も、当然信号を守る義務を負っています。
そこで、信号機の設置されている交差点では、基本的に信号を守っている方が保護されます。
青信号であれば過失割合は非常に少なくなるか、0になりますが、黄信号の場合には過失割合が上がります。赤信号の場合、過失割合は非常に高くなり、100%に近くなってきます。
これに対し、信号機のない交差点の場合には、信号の色だけでは過失割合を決められないので、他の要素によって双方の過失割合を算定します。
左方優先
交差点を進行するときには、「左方優先の原則」があります。
同じ条件ならば、左側を走行してきた車の方が右折車よりも優先されるのです。
そこで、同じ程度の道路幅で、直進車同士が交差点で接触した場合、左側の道路を走行してきた車の方が、過失割合が低くなります。
具体的には、左側の車両の過失割合が40%、右側の車両の過失割合が60%となります。
優先道路、一方通行、一時停止義務
交差点では、一方の道路の幅が明らかに広く、優先道路となっていることがあります。
このように、優先道路とそうでない道路の交差点では、優先道路を通っていた車の過失割合が低くなります。
たとえば、優先道路を通っていた車とそうでない車が交差点で接触した場合(双方直進していた場合)、優先道路を通っていた方の車の過失割合は10%、非優先道路の方の車の過失割合は90%となります。
また、道路には、一方通行規制が及んでいることがあります。
この場合、一方通行規制を無視していたら、その車の過失割合は当然高くなります。
直進者同士の事故で、一方の車に道路交通法の一方通行違反があった場合、違反していなかった車の過失割合は20%、違反していた車の過失割合は80%となります。
道路で、交差点に入る前に一時停止義務が課されているケースもあります。
この場合、一時停止をせずに交差点に進入すると、過失割合が上がります。
直進車同士の事故で、一方の車に一時停止義務違反があった場合、違反していなかった車の過失割合が20%、違反していた車の過失割合が80%となります。
以上のように、過失割合は、さまざまな要素によって決まります。
詳しくは、判例タイムズを読むか、弁護士に聞くなどして、調べましょう。
適切な過失相殺の基準を適用するには
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被害者側が相手の保険会社と示談交渉を進める中で、保険会社は、過失割合の認定基準を無視して被害者に高い過失割合を割り当ててくることが多いです。
この場合、どのようにすると、適切な過失割合を適用してもらうことができるのでしょうか?
判例タイムズの基準を示して、自分で交渉をする
まずは、判例タイムズや赤い本などで適切な過失割合を調べて、保険会社に通知することが考えられます。
該当するページをコピーして、「この過失割合になるはず。御社の言っていることはおかしい」と修正要素を指摘すると良いでしょう。
このことにより、相手の態度が変わって、適切な過失割合を適用してもらえる可能性があります。
弁護士に示談交渉を依頼する
ただ、この方法によっても、必ずしも適切な過失割合が適用されるとは限りません。
たとえば、「このケースは、被害者が徐行していなかったので、被害者の過失割合が上がる」「あなたの指摘している判例タイムズの事例とは異なる」などと言われることなどが考えられます。
このように、被害者が自分で交渉をしても、適切な過失割合が適用されない場合には、弁護士に示談交渉を依頼すべきです。
弁護士は、法律のプロですから、それぞれのケースに置いて、どのような過失割合を適用することが一番妥当か、正確に理解しています。
相手の保険会社の言っていることが不当であれば、きちんと修正させて、被害者の過失割合を下げることができます。
このことで、過失相殺されなくなり、相手に請求できる賠償金の金額が大幅にアップする可能性が高くなります。
そこで、交通事故後、示談交渉をしていて、相手の保険会社が主張する過失割合の数値がどうもおかしいと感じるなら、早めに弁護士に相談に行くことをお勧めします。
間違っても、相手から送られてきた示談書に、署名押印をしてはいけません。
いったん示談書に署名押印をしてしまったら、その内容で示談が成立してしまいます。
示談が成立すると、基本的にやり直しはできません。
後になって適切な過失割合を知り「過失割合について勘違いをしていたから、示談をやり直したい」と言っても、錯誤であると認められる可能性は非常に小さいです。
示談交渉が決裂したら、裁判をする
弁護士を立てて相手と示談交渉をしても、過失割合についての争いを解決できないケースがあります。
相手の保険会社が、弁護士を相手にしても、強行に無理な過失割合の主張をすることがあるためです。
その場合には、裁判を起こすことによって、適切な過失割合を認定してもらうことができます。
裁判所は、過失割合の認定基準に従って過失割合を判断しますので、相手の保険会社が無理な主張をしていても、認めることはありません。
正しい主張をしていれば、最終的に裁判をすると、適切な過失割合の認定をしてもらうことができます。
相手の保険会社が不当な主張をしてきても、諦めずに、弁護士に依頼して訴訟を起こしてもらいましょう。
まとめ
今回は、過失割合について解説をしました。
被害者にとって、過失割合は非常に重要です。
できるだけ多額の賠償金を獲得するためには、過失割合を減らすことが必要です。
相手の保険会社が主張する過失割合に納得できないなら、早めに交通事故に強い弁護士を探して相談して、適切な過失割合を認定してもらいましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。