交通事故に遭ってしまったら、休業損害っていうのをもらえるって聞いたんだ。
…休業損害って何??
休業損害とは、交通事故に遭ってしまったことで、仕事をする事が出来なくなってしまったり、減収してしまったりするのを補てんする損害賠償金だよ。
交通事故が原因で仕事を休んでしまった場合にもらえるんだね!
もらうにはどうしたら良いの?
何か手続きが必要になるのかな?
よし!では早速、休業損害でもらえる金額と、手続きの方法について、チェックしていこう!
働いている方が交通事故に遭うと、治療のために仕事を休まなければならない日が発生します。
その場合、得られるはずの収入を得られなくなるので「休業損害」を請求できます。
休業損害については会社員、自営業者、主婦、アルバイトなど就業形態によって休業損害の計算方法が異なるので、正しい知識を押さえておきましょう。
今回は、交通事故の休業損害について詳しく解説します。
目次
休業損害とは
休業損害とは「仕事ができなかったことによって発生する損害」です。
交通事故でけがをすると、入通院して治療を受けなければなりませんし自宅療養が必要なケースもあります。
入院すると当然その日は働けませんし、通院日も半日は働けない可能性が高くなります。
自宅療養を指示された場合にも仕事はできないでしょう。
しかし仕事を休むとその分減収が発生します。
このような減収は交通事故がなかったら発生しなかった損害なので「休業損害」として相手に請求できます。
休業損害を請求できる被害者は、「交通事故前に仕事をしていた人」です。
具体的には会社員や公務員、自営業者やアルバイトなどの方に休業損害が認められます。
主婦や主夫などの家事労働者は実際にはお金を稼いでいませんが、家族のために家事をすることに経済的な価値があるので休業損害が認められます。
一方無職の方や不労所得で生活している方には休業損害が認められません。
休業損害の計算方法について
休業損害って誰が計算しても同じなの?
休業損害は、自賠責基準で計算するか、弁護士基準で計算するかによって、その額は大きく変わってくるんだ。
弁護士に依頼したり、裁判になったりすると、弁護士基準で計算することができるんだよ。
休業損害額の計算方法はどのようになっているのでしょうか?
実は休業損害の計算方法は、「自賠責基準」と「弁護士基準」とで異なります。
自賠責基準とは自賠責保険が保険金を計算する際に利用する基準、弁護士基準は弁護士や裁判所が損害賠償金を計算するときに利用する法的な基準です。
以下でそれぞれの計算方法をご紹介します。
自賠責基準の計算式
自賠責保険が休業損害を計算するときには、以下の計算式を採用します。
休業損害額=5700円×休業日数
1日あたりの収入は基本的に一律5700円として計算します。
実際には5700円より低い人でも5700円にしてもらえます。
ただし給与明細書などの資料により、実際には5700円よりも高額な収入があったことを証明できれば実収入を基準にできます。
その場合にも19,000円が限度となります。
弁護士基準の計算式
弁護士基準の場合には、基本的に実収入を基準にします。
ただし家事労働者などの実収入を算定できない方の場合には「賃金センサスの平均賃金」という統計データと使って休業損害を計算します。
休業損害額=1日あたりの基礎収入×休業日数
休業損害における稼働日数の計算方法
半休や有休をとった場合には、休業損害は受け取れないの?
そんなことはないよ。
半休の場合には、半日分の休業損害を請求できるし、有給の場合には、丸一日分の休業損害を請求可能だよ。
以下では休業損害における「休業日数」の考え方を個別に説明していきます。
半日休業した場合
通院のために仕事を休むとき、丸1日休むケースもありますが、半休などをとって半日のみ休むケースもあります。
休業損害は、実際に発生した休業による減収を請求するものですから、半日働いて半日分の給料が出たら、その分は請求できません。
1日まるごと休んだら1日分の休業損害を請求できますが、半日しか休まなかったなら基本的に半日分しか請求できません。
有給を消化した場合
サラリーマンの方の場合「有給」を使って通院することも可能です。
有給を使うとその日の給料が支給されるので減収が発生しません。
休業損害は減収を前提とするものですから、有給を消化したら支払われなくなるのでしょうか?
実は有給を使った場合でも休業日数としてカウントされ、全額の休業損害が支給されます。
なぜなら有給は「労働者の権利」だからです。
労働者には「働かなくてもお金をもらえる有給取得権」が認められます。
本来この権利はけがの治療以外の目的で自由に使えるはずです。
ところが交通事故のけがの治療のためにせっかくの権利を使ってしまい、経済的に損失を受けていると考えられます。
そこで有給を消化しても休業日数としてカウントしてもらえます。
ただし有給としてカウントされるのは入通院治療や自宅療養のために有給を消化したケースです。
交通事故によるけがとは無関係に家族で旅行に行くために取得した有給は「休業日数」になりません。
そのような場合、自分の余暇のために自由に有給を使えているので「交通事故によって有給取得権を消化せざるを得なくなった」わけではありません。
損害が発生していない以上、休業損害は発生しないと考えられます。
職業別の休業損害計算方法
休業損害の額は誰でも同じなの?
職業や年収によって、休業損害の額は変わってくるんだよ。
職業別に詳しく説明するね。
休業損害の計算方法は、職業によっても変わってきます。
以下ではサラリーマン、アルバイト、自営業者、主婦の休業損害計算方法をご紹介していきます。
サラリーマン
サラリーマンの場合には、基本的に「事故前3か月分の給与額」を合計し、それを3か月分の日数で割り算して1日あたりの休業損害額を求めます。
給与額は、税金や健康保険料等をすべて足した金額ですから、手取り額より多額になります。
もちろん残業代も含まれます。
ただし交通費は省きます。
たとえば事故前の3か月の給与額が30万円、35万円、33万円、日数が90日だったサラリーマンの場合、1日あたりの収入は(30万円+35万円+33万円)÷90日=10888円となります。
アルバイト
アルバイトの場合にも、基本的には事故前3か月分の給料額を基準にして計算します。
ただ、稼働日数が少ない方の場合、サラリーマンと同様に90日で割り算してしまうと1日あたりの収入額が非常に少なくなるケースもあります。
そこで、アルバイトやパートで稼働日数の少ない方は、実際に働いた日数で割り算して1日あたりの基礎収入を求めるケースも多くなっています。
たとえば事故前の給与の総支給額が10万円、8万円、9万円だったアルバイトの方で稼働日数が40日だった場合、1日あたりの基礎収入は(10万円+8万円+9万円)÷40日=6750円となります。
自営業者
自営業者の場合には、毎月給与をもらっているわけではないので給与の額を基準に基礎収入を算定できません。
この場合には「年間の収入」を使って1日分の基礎収入を算定します。
自営業者は毎年「確定申告書」を税務署に提出しているので、それをみれば1年分の収入を明らかにできます。
確定申告には「総売上」「経費」「所得」などのいくつかの欄があります。
基本的には手取り金額に近い「所得」の欄の金額を基準にして基礎収入を算定します。
ただ、青色申告の特別控除分については実際に払っている金額ではないので足します。
また固定経費は休業していても払わねばならず、実際に「損失」として発生しているので、所得に足して計算します。
そこで自営業の場合、所得の金額に青色申告の特別控除や固定経費の金額を足した金額を365日(うるう年の場合には366日)で割った金額が1日あたりの基礎収入額となります。
たとえば所得が300万円、特別控除が60万円、固定経費が200万円の自営業者の場合、(300万+60万+200万)÷365日=15342円が1日あたりの基礎収入額となります。
主婦
主婦の場合には、実際にお金をもらっているわけではないので実収入を使うことができません。
この場合には「賃金センサスの平均賃金」という政府の統計データを使います。
その中でも「全年齢の女性の平均賃金」1日分を算定します。
するとだいたい1日1万円程度となります。
兼業主婦の場合には、外で働いて得ている収入と女性の平均賃金の「どちらか多い方の金額」をもとに基礎収入を算定します。
パート程度であれば女性の平均賃金の方が高くなりますが、フルタイムで働いている方や専門職の方などの場合には外での収入の方が高くなるでしょう。
男性の主夫の場合にも「全年齢の女性の平均賃金」を使って計算します。
「男性の平均賃金」を使うと、女性よりも大幅に高額になって主婦の場合と不公平になるためです。
主夫の場合にも1日あたりの基礎収入は1万円程度です。
休業損害の請求方法
休業損害を請求する場合には、どんな書類が必要になるの?
職業によって必要になる書類は変わってくるんだ。
職業別でチェックしてみよう。
休業損害を受けとりたい場合には、相手の任意保険会社に以下の書類を提出します。
必要書類の内容は被害者の職業によって異なるので、それぞれご紹介します。
会社員、アルバイト
被害者が会社員やアルバイトの場合には、以下のような書類が必要です。
- 休業損害証明書
休業損害証明書は勤務先の会社や事業主に作成してもらう書類です。
給料の金額や休業した日にち、半休か全休か、有休を使ったかどうかなどを書いてもらいます。
会社によってはなかなか書いてもらえないケースがありますし「書き方がわからない」と言われてしまうケースもあります。
休業損害証明書がないと保険会社は休業損害の支払いに応じてくれないので、会社が非協力的な場合にはきちんと説明をして、書いてもらうことが重要です。 - 給与明細書
1日あたりの基礎収入を算定するため、最低限事故前3か月分の給与明細書が必要です。 - 源泉徴収票
給与明細書だけでは足りず「事故前数年分の源泉徴収票」を要求されるケースもあります。
源泉徴収票を紛失しているなら、市町村役場で「市民税県民税の証明書」を取得して提出しましょう。 - 賃金台帳等
最近働き始めたばかりで源泉徴収票がない場合、税務署に申告している源泉徴収票の金額と実際の支給額が異なる場合などには、まれに賃金台帳の提出を求められるケースもあります。
自営業者
- 確定申告書
自営業者の場合、確定申告書の記載内容をもとに1日あたりの基礎収入を算定するので、事故前の確定申告書が必要です。 - 売上げ台帳や通帳など
自営業者の中には「実際の収入額」と確定申告書の所得額が異なる方も多数おられます。
その場合には売上げ台帳や出納帳、入金、経費支払いを行っている銀行口座の取引履歴、通帳などが必要になる場合があります。
主婦
主婦の場合、収入を証明する資料は不要です。
- 住民票、家族構成証明書
主婦が休業損害を受け取るには「家族のために家事労働を行っている」ことが必要です。
その証明のため、世帯全体の住民票や、家族構成を示した「家族構成証明書」の提出を求められるケースがあります。
診断書について
会社員の場合には休業損害証明書によって休業日数を証明できますが、自営業者や主婦の場合には誰も休業日数を証明してくれません。
入院していた日については問題なく全額の休業損害を受け取れますが、通院した日については「半日休めば足りたのではないか」と言われるケースがありますし、自宅療養に至っては「休業日数にカウントできない」と言われる可能性もあります。
そこで自営業者や主婦が休業損害を請求する際には、診断書を取得する必要性が高くなります。
たとえば医師に「〇週間自宅療養が必要」などと書いてもらえば、自宅療養の根拠とすることが可能です。
休業損害はいつ受け取れるのか
休業損害っていつ受け取ることができるの?
月払いになることもあれば、示談後に一括で支払われる事もあるよ。
休業損害を受け取れる時期は、ケースによって異なります。
サラリーマンの場合、毎月休業損害証明書をきちんと提出すれば、毎月休業損害を支払ってもらえるケースもあります。
ただしそういった対応をしてもらえず、示談成立時にまとめて支払われることもあります。
自営業者や主婦の場合には、基本的に示談が成立したときにまとめて支払ってもらえます。
ただし主婦が交通事故に遭って家政婦を雇い、実際に支出が発生した場合には、そういった費用を先に支払ってもらえるケースもあります。
休業損害で適切な額を受け取るには弁護士に相談しよう
休業損害をもらえるのは助かるけれど、なんだか手続きが大変そうだな…
休業損害は弁護士に依頼することで、スムーズに手続きを進める事ができるし、弁護士基準で請求できるから、弁護士に相談するのがお勧めだよ。
交通事故に遭った被害者にとって、休業損害は非常に重要です。
適切な金額で計算してもらい確実に払ってもらうには、専門家である弁護士のサポートを受ける方が有利です。
休業損害を請求したい方、保険会社から言われていることに納得できない方は、一度交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。