加害者が飲酒運転の場合には慰謝料って増額可能なの?
今回の記事では、通常の事故と飲酒運転による事故との違いについてチェックしていこう。
交通事故の加害者が飲酒運転していた場合、被害者としては通常の事故と異なる対応を要求されるのでしょうか?
飲酒運転の場合、加害者の過失割合が高くなり刑事罰も重くなる可能性が濃厚です。
慰謝料の金額は被害者の受けた損害の程度に応じて異なりますが、飲酒運転の悪質性が高い場合には増額される可能性が充分にあります。
今回は飲酒運転の交通事故と通常の交通事故との違い、飲酒運転の場合の慰謝料について、解説します。
目次
飲酒運転による交通事故は通常の事故とどう違う?
飲酒運転にもとづく交通事故は通常の交通事故とどういった点が異なるのか、みていきましょう。
飲酒運転していると過失割合が高くなる
1つ目の違いは「過失割合」です。
過失割合とは、事故当事者それぞれの交通事故発生に対する責任の割合です。
過失割合が高くなると、相手に請求できる賠償金額が減額されます。
飲酒運転をしていると、当然「過失割合」が高くなります。
どのくらい高くなるかは、飲酒の程度に応じて異なります。
酒気帯び運転のケース
酒気帯び運転とは「呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15㎎以上」含まれる状態で運転することです。
この場合「著しい過失」があると判断されるので、通常のケースよりも加害者の過失割合が5~15%程度、加算されます。
酒酔い運転のケース
酒酔い運転とは「アルコールの影響で正常な運転ができない状態」で運転することです。
たとえば酩酊状態でろれつが回らない、まっすぐ歩けない状態で運転すると酒酔い運転となります。
呼気中のアルコール濃度とは無関係に酩酊状態かどうかで判断されます。
酒酔い運転をすると「重過失」が認められるので、通常のケースよりも10~20%程度、加害者の過失割合が加算されます。
飲酒運転による交通事故でも任意保険を使える?
加害者が飲酒運転している場合、保険が適用されるのか不安を感じる被害者の方がおられます。
この点については心配いりません。
飲酒運転は加害者側の事情であり、これによって無関係な被害者がリスクを負うのは不合理だからです。
加害者の対物賠償責任保険や対人賠償責任保険が適用されるので、被害者は加害者の保険会社へ慰謝料をはじめとする賠償金を請求できます。
一方加害者本人は、自分の保険から保険金を受け取れません。
人身傷害補償保険、搭乗者保険などが適用されないので、けがをしたとしても自分でリスクを背負う必要があります。
自賠責保険について
加害者が飲酒運転で交通事故を起こした場合でも、加害者の「自賠責保険」は適用されます。
万一加害者が任意保険に入っていなくても、被害者は加害者の自賠責保険から最低限の補償を受けられます。
加害者の刑事責任
加算される点数も高くて、飲酒運転での交通事故は、免停、もしくは免取になるよ。
加害者が飲酒運転をしていた場合、通常の交通事故よりも加害者の刑事責任が重くなります。
自動車運転処罰法違反の罪
通常の交通事故なら、加害者に成立する犯罪は以下のどちらかです。
- 過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条)
通常の過失によって事故を起こした場合に成立する犯罪です。
罰則は7年以下の懲役または禁固、あるいは100万円以下の罰金刑です。 - 危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条)
故意にも匹敵するほどの危険な運転によって交通事故を起こした場合に成立する犯罪です。
被害者がけがをしたときに15年以下の懲役刑、被害者が死亡すると1年以上の有期懲役刑となります。
飲酒運転の罪
飲酒運転の場合、上記だけではなく「飲酒運転の罪」が適用されます。
- 酒気帯び運転
呼気1リットル内に0.15㎎以上のアルコールを含んだ状態で運転していた場合、酒気帯び運転の罪が成立します。
罰則は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑です。 - 酒酔い運転
酩酊状態で運転していた場合、酒酔い運転の罪が成立します。
罰則は5年以下の懲役または100万円以下の罰金刑です。
飲酒運転で交通事故を起こすと、自動車運転処罰法だけではなく飲酒運転の罪も成立するので、刑罰が加重されます。
過失運転致死傷罪の場合には最長で10年6か月、危険運転致傷罪の場合には最長で22年6か月、危険運転致死罪の場合には最長で30年もの懲役刑が科される可能性があります。
また飲酒運転で事故を起こすと、そもそも過失運転致死傷罪で済まずに危険運転致死傷罪が成立する可能性が高くなります。
運転免許の点数について
飲酒運転で交通事故を起こすと、加害者の運転免許の点数も通常の交通事故より大きく加算されます。
酒気帯び運転の場合、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15~0.25㎎であれば13点加算され免停90日となり、0.25㎎以上であれば25点加算されて一発で免許取消となります。
酒酔い運転の場合には35点加算で免許取消です。
刑事罰や免許の点数など加害者の受けるペナルティは、被害者の立場としても予備知識として押さえておくと良いでしょう。
飲酒運転の交通事故で被害者が受け取れる慰謝料の相場
その他にも、飲酒運転による重過失が認められるから、通常の事故よりも2割から3割程度増額して慰謝料を受け取ることができるんだ。
飲酒運転で交通事故に遭った場合、被害者はどの程度の慰謝料を受け取れるのでしょうか?
相場をみてみましょう。
飲酒運転による慰謝料の相場とは
飲酒運転による交通事故の慰謝料は、被害者が受けた損害の程度によって異なります。
入通院慰謝料について
基本的には被害者の受傷の程度が大きくなるほど慰謝料は高額になります。
受傷の程度は「入通院期間」によって判定されるので、入通院による治療期間が長くなると慰謝料は高額になると考えましょう。
入通院期間ごとの慰謝料の相場は以下の通りです。
入院 |
|
1ヶ月 |
2ヶ月 |
3ヶ月 |
4ヶ月 |
5ヶ月 |
6ヶ月 |
7ヶ月 |
8ヶ月 |
9ヶ月 |
10ヶ月 |
|
通院 |
53 |
101 |
145 |
184 |
217 |
244 |
266 |
284 |
297 |
306 |
||
1ヶ月 |
28 |
77 |
122 |
162 |
199 |
228 |
252 |
274 |
291 |
303 |
311 |
|
2ヶ月 |
52 |
98 |
139 |
177 |
210 |
236 |
260 |
281 |
297 |
308 |
315 |
|
3ヶ月 |
73 |
115 |
154 |
188 |
218 |
244 |
267 |
287 |
302 |
312 |
319 |
|
4ヶ月 |
90 |
130 |
165 |
196 |
226 |
251 |
273 |
292 |
306 |
326 |
323 |
|
5ヶ月 |
105 |
141 |
173 |
204 |
233 |
257 |
278 |
296 |
310 |
320 |
325 |
|
6ヶ月 |
116 |
149 |
181 |
211 |
239 |
262 |
282 |
300 |
314 |
322 |
327 |
|
7ヶ月 |
124 |
157 |
188 |
217 |
244 |
266 |
286 |
301 |
316 |
324 |
329 |
|
8ヶ月 |
132 |
164 |
194 |
222 |
248 |
270 |
290 |
306 |
318 |
326 |
331 |
|
9ヶ月 |
139 |
170 |
199 |
226 |
252 |
274 |
292 |
308 |
320 |
328 |
333 |
|
10ヶ月 |
145 |
175 |
203 |
230 |
256 |
276 |
294 |
310 |
322 |
330 |
335 |
後遺障害慰謝料について
交通事故で被害者に後遺障害が残ると、通常の交通事故よりも被害者が受ける精神的苦痛が強くなるので慰謝料が高額になります。
後遺障害の内容や程度により、慰謝料の金額の相場が定められています。
後遺障害には1級から14級までの等級があり、等級が高くなればなるほど高い慰謝料が認められます。
等級 | 裁判基準 |
1級 | 2,800万円 |
2級 | 2,370万円 |
3級 | 1,990万円 |
4級 | 1,670万円 |
5級 | 1,400万円 |
6級 | 1,180万円 |
7級 | 1,000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
死亡慰謝料
飲酒運転の交通事故で被害者が死亡すると、本人や遺族は極めて強い精神的苦痛を受けるので高額な慰謝料が発生します。金額の相場は以下の通りです。
- 被害者が一家の支柱だった…2800万円
- 被害者が母親や配偶者だった…2500万円
- その他のケース…2000万円~2500万円
以上のように飲酒運転の交通事故の慰謝料は「被害者の受傷の程度や死亡したかどうか」で決まるので、一概に「いくらくらい」とはいえません。
個別的なケースごとの算定が必要です。
慰謝料の増額が認められる場合とは
飲酒運転の場合、通常の交通事故よりも慰謝料が増額される可能性があります。
それは以下のような場合です。
- 加害者が酩酊状態
- 加害者が飲酒運転を繰り返しており悪質
- 事故態様が悪質で危険度が高い
- 加害者が救護活動をしなかった
- 加害者に反省がない
- 加害者が有利になるために虚偽を述べている
- 加害者が任意保険に入っていない
上記のように、加害者の行為が悪質であったり反省がなかったりする場合には、慰謝料が2~3割程度増額されるケースが多数です。
飲酒運転で慰謝料が増額された具体例
半年通院した場合、入通院慰謝料の相場は89万円ですが140万円の慰謝料が認められた事案(東京地裁八王子支部 平成15年4月24日)。
後遺障害5級となった場合、後遺障害慰謝料の相場は1,400万円ですが1,700万円の後遺障害慰謝料が認められた事案(大阪地裁平成21年1月30日)。
一家の大黒柱であった被害者が死亡した場合、死亡慰謝料の相場は2,800万円ですが3,600万円の慰謝料が認められた事案(東京地裁平成16年3月4日)。
(参考 https://iroha-law.jp/koutsujiko/solatium/drunken-driving/#i-17)
飲酒運転の加害者が任意保険に加入していない場合の対処方法
足りない分は、直接加害者本人に請求する事になるんだ。
もしも飲酒運転で交通事故を起こした加害者が任意保険に入っていない場合、被害者はどう対処すれば良いのでしょうか?
自賠責保険に保険金を請求する
加害者が任意保険に入っていなくても、自賠責保険には加入しているのが通常です。
自賠責保険は強制加入の保険であり、加入しないで運転するのは違法だからです。
そこでまずは加害者の自賠責保険に対し、保険金を請求しましょう。
自賠責保険からも治療費や休業損害、慰謝料などの給付を受けられます。
自賠責保険へ請求する方法
加害者の自賠責保険会社は事故現場で直接相手に確かめることもできますし「交通事故証明書」を取り寄せれば記載されています。
自賠責保険に連絡を入れて保険金請求用の書類を送付してもらい、必要書類を揃えて返送しましょう。
自賠責保険の注意点
ただし自賠責保険の支払い基準は法的な基準よりもかなり低くなっており、充分な補償を受けられない可能性があります。
また限度額も低く抑えられているため、重傷を負って治療期間が長引いたり入院したりすると、不足してしまうケースが少なくありません。
また自賠責保険が適用されるのは「人身損害」のみです。
車が壊れた場合の物損被害については自賠責保険から補償されません。
相手に直接請求する
自賠責保険から給付を受けても足りない部分については、加害者本人に直接請求する必要があります。
相手に連絡を入れて話し合いを進めましょう。
相手がきちんと対応して合意に達することができれば、合意書を作成して賠償金を支払ってもらえます。
加害者に一括払いする余裕がなく分割払いを認める場合には、必ず「公正証書」を作成すべきです。
公正証書にしておけば、相手が不払いを起こしたときにすぐに相手の給料や預貯金を差押えられるからです。
後々の差押えのことを考えて、合意時には相手の勤務先がどこなのかもさりげなく聞いておくと良いでしょう。
被害者の任意保険を利用する
交通事故に遭ったとき、被害者自身の任意保険を利用できるケースもあります。
人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険を適用すれば、治療費や休業損害、慰謝料などの補償を一定程度まで受けられるので、保険会社に連絡しましょう。
飲酒運転の交通事故被害に遭ったら弁護士に相談
弁護士に依頼すると慰謝料を増額できるし、加害者本人と示談を行う場合でも、トラブルを回避することができるよ。
飲酒運転をするような規範意識の低い加害者が相手だと、当事者同士で話し合っても示談がスムーズに進まない可能性が高くなります。
相手が無視したり「払わない」と開き直ったりするケースも少なくありません。
相手の任意保険が適用されるケースであっても、保険会社が相場より低額な慰謝料を提示してくる事例が多々あります。
そんなときには弁護士に相談してみてください。
弁護士が示談交渉をすれば法的な基準が適用されるので、慰謝料が大幅に増額される可能性があります。
相手が本人で不誠実な対応をするときにも、弁護士名で内容証明郵便を送ってプレッシャーをかけたり訴訟を起こしたりして責任追及できます。
飲酒運転は非常に悪質な犯罪行為です。
被害に遭ったら泣き寝入りをせず、法律の専門家の力を借りて正当な権利を実現しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。