今回の記事では、慰謝料や賠償金の額に納得できない場合の対処法について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭って加害者側の保険会社と示談交渉を進めるとき、あまりに低額な慰謝料額を提示されて納得できない被害者の方がおられます。
不満をぶつけても「これが限度です」「同意できないなら裁判してください」などとすげなく言われたらショックを受けてしまいますよね?
示談が決裂した場合の対処方法はいくつかあります。
「本当にこの金額で妥当なのだろうか?」と疑問を感じたら弁護士に相談してみてください。
今回は交通事故で加害者側から提示された慰謝料の金額に不満がある場合の対処方法を、解説します。
慰謝料の計算方法には3つの基準がある
そもそも保険会社の提示する慰謝料の金額はなぜ低額なのでしょうか?
それは交通事故の慰謝料計算基準には3種類があり、どの基準を使うかで算定される金額が大きく変わるからです。
以下で具体的な違いをみていきましょう。
自賠責保険基準とは
自賠責基準は自賠責保険が保険金を計算するときに使う基準です。
自賠責保険は被害者へ最低限度の補償をするための保険なので、自賠責基準で計算した慰謝料の金額は低くなります。
任意保険基準とは
任意保険基準は、任意保険会社が保険金を計算するときに使う基準です。
加害者の保険会社が被害者へ慰謝料額を提示するときには任意保険基準が適用されます。
金額的には自賠責基準より多少高い程度となり、法的な基準よりはかなり低額です。
このように、任意保険会社の基準が法的に認められた基準より低いために、被害者へ提示される賠償金の金額が安くされてしまうのです。
弁護士基準(裁判基準)とは
弁護士基準は被害者に認められた法的な権利内容にもとづく基準です。
弁護士や裁判所が賠償金を計算するときに利用します。
金額としてはもっとも高額になり、被害者にはもともと弁護士基準で計算した慰謝料を受け取る権利があります。
保険会社から任意保険基準で計算された慰謝料を提示されて納得できないなら、弁護士基準で計算し直して支払いを要求すべきといえます。
それぞれの計算基準による慰謝料額の違い
今回は、通院6ヶ月のケース、後遺障害12級に該当するケース、後遺障害7級のケース、死亡してしまったケースにおいて、慰謝料にどの位の違いがあるのか、詳しい金額をチェックしてみよう。
それぞれの計算基準により具体的に慰謝料額がどの程度変わってくるのか、具体的なケースにあてはめて比較してみましょう。
通院6か月(実通院日数60日)のケース
交通事故でけがをすると「入通院慰謝料」が払われます。
通院期間が6か月で、その間の実通院日数が60日程度の場合の入通院慰謝料を各基準で計算すると、以下の通りの金額となります。
- 自賠責基準…504,000円
- 任意保険基準…643,000円程度
- 弁護士基準…通常は116万円程度、軽傷なら89万円程度
むち打ちで後遺障害12級となったケース
後遺障害が残ると、入通院慰謝料の他に「後遺障害慰謝料」が払われます。
それぞれの基準による後遺障害慰謝料の金額は以下の通りです。
- 自賠責基準…93万円
- 任意保険基準…100万円程度
- 弁護士基準…290万円程度
高次脳機能障害で後遺障害7級となったケース
それぞれの基準による後遺障害慰謝料の金額は以下の通りです。
- 自賠責基準…409万円
- 任意保険基準…500万円程度
- 弁護士基準…1,000万円程度
被害者が死亡したケース
一家の大黒柱の男性が死亡し、妻と1人の子どもが残されたケースにおける死亡慰謝料の金額は以下の通りです。
- 自賠責基準…1,200万円
- 任意保険基準…1,500~2,000万円程度
- 弁護士基準…2,800万円程度
弁護士基準で計算すると、任意保険会社の2~3倍やそれ以上になるケースも少なくありません。
被害者が死亡した事案では1,000万円以上の差額が出る可能性もあります。
保険会社の提示額で妥協してしまうと明らかに損になってしまいます。
慰謝料の金額に納得できない場合の対処方法
慰謝料を増額するための方法について、見ていこう。
任意保険会社からの慰謝料提示金額に納得できない場合、以下のように対応しましょう。
再提案をする
まずは相手に「その金額では納得できない」と伝え、再提案してみましょう。
可能であれば弁護士基準で計算した慰謝料の金額を調べたうえで、その数字を提示してみてください。
根拠のある数字であれば相手も受け入れやすくなるものです。
相手が保険に入っておらず加害者本人の場合、相手自身も適切な計算方法を理解していないのが通常ですので、こちらから積極的に法的基準を提示して支払いを求めましょう。
交通事故紛争処理センターへ申し立てをする
相手が保険会社の場合、被害者が自分で弁護士基準による慰謝料の金額を請求しても応じてくれないケースがほとんどです。
示談が決裂したら「交通事故紛争処理センター」や「日弁連交通事故相談センター」などの「ADR」を利用してみてください。
ADRとは、裁判外の紛争解決機関です。
裁判をしなくてもADRの担当者に間に入ってもらって話し合いを調整したり、賠償金額を決めてもらったりできます。
ADRを利用すると、まずは相手と話し合いをしますが、決裂したらADRで賠償金額を決定してもらえます。
被害者が納得できない場合には結果を受諾する必要がありませんが、保険会社はADR(交通事故紛争処理センター)の判断内容に拘束されるので、異議を申し立てられません。
相手だけが拘束されるので被害者に有利です。
またADRが賠償金を算定するときには基本的に「弁護士基準」を用いるので、自分で示談交渉するより高額な賠償金を受け取れます。
弁護士に依頼せずになるべく高額な慰謝料を獲得したい方にはADRがお勧めです。
弁護士に相談する
加害者側から提示された慰謝料額に納得できないなら、弁護士に相談してみてください。
弁護士は「法的基準による適切な慰謝料の金額」を算定できます。
保険会社の提示額と法的に適切な慰謝料額の差額が大きくなければ、「それなら示談で合意してもかまわない」と考えるかもしれません。
一方差額が数百万、数千万となれば、必ず弁護士に依頼して弁護士基準による慰謝料額を請求してほしいと思うでしょう。
実際に弁護士が示談交渉に対応すれば、弁護士基準が適用されて賠償金が2~3倍、それ以上にアップするケースが多々あります。
まずはどのくらい増額される可能性があるかを確認し、その結果に応じて示談交渉を弁護士に依頼しましょう。
加害者が保険に入っていない場合の注意点
加害者が任意保険に入っておらず直接交渉する場合には、以下の点に注意してください。
相手は適正な慰謝料計算基準を知らない可能性が高い
交通事故の加害者には法的な知識がないのが通常です。
相手から慰謝料額の提案を受けたとき、まったく根拠がない可能性もありますし「自賠責基準」で計算されているケースもあります。
そのまま受諾すると損になるので、必ず弁護士に相談して適切な慰謝料額を確認しましょう。
資力があり話の通じる相手であれば、こちらから根拠を示して正しい慰謝料額を提示すれば、受け入れてもらえる可能性があります。
「加害者本人は適正な慰謝料計算基準を知らない可能性が高い」事実を意識しましょう。
相手に支払い能力がない可能性がある
保険会社が相手方の場合、「支払い能力がない」可能性はありません。
決まった慰謝料の金額はほぼ100%、すぐに振り込んでもらえます。
しかし相手が加害者本人の場合にはその保障はありません。
そもそも「お金がないから支払えない」と言われる可能性がありますし、約束を守ってくれないケースもよくあります。
加害者本人と示談するときには、必ず示談書を作成して「公正証書」にするようお勧めします。
公正証書を作成しておけば、相手が支払いをしないときに預貯金や給料などを差し押さえて慰謝料を回収できるからです。
加害者本人が相手の場合、支払い能力がない可能性について考慮しましょう。
弁護士に相談するメリット
その他にも、裁判になった時や、後遺障害認定を受ける時にサポートしてもらう事ができるし、示談交渉をストレスなく進めることができるんだよ。
加害者側から提示された慰謝料の金額に納得できない場合、弁護士に相談すると以下のメリットがあります。
弁護士基準で慰謝料を受け取れる
交通事故の慰謝料の金額は、適用する計算基準によって大きく異なります。
被害者は本来弁護士基準で計算された慰謝料を受け取る権利がありますが、任意保険会社は低額な任意保険基準で慰謝料を計算するので示談交渉ではどうしても低い金額の提示しか受けられません。
弁護士に示談交渉を依頼すると、弁護士基準(裁判基準)で慰謝料の計算をできるので、慰謝料が大きく増額されます。
弁護士費用を払ってもそれ以上の利益を得られて被害者の手取り額が大幅にアップするでしょう。
適正な過失割合になる
被害者が加害者側と示談交渉を進めると「過失割合」についての争いが発生するケースが多々あります。
過失割合とは交通事故による損害発生に対する被害者と加害者の責任割合です。
被害者の過失割合が高くなるとその分賠償金額を減額されてしまうので、被害者にとっては過失割合をなるべく小さくした方が得になります。
ところが保険会社は被害者の過失割合を高めに算定するケースが多く、そのまま受け入れると不当に賠償金を減額されるおそれがあります。
弁護士に相談すると適正な過失割合の数字を教えてもらえますし、示談交渉を依頼すれば正しい過失割合をあてはめてもらえます。
結果的に大きく賠償金が増額されるでしょう。
裁判になったときにサポートしてもらえる
保険会社との示談交渉でどうしても慰謝料額に納得できない場合、最終的に裁判になる可能性もあります。
自分1人で裁判を進めると大きく不利になってしまいますし、多くの方は「無理」と感じるのではないでしょうか?
弁護士に裁判を依頼すれば依頼者はほとんど何もしなくても高額な慰謝料を勝ち取ってもらえます。
また「交通事故紛争処理センター」などのADRを用いるときにも弁護士によるサポートがあると安心です。
一緒に出席してくれて書面や資料提出などの作業も行ってくれるので、ADR手続き内の示談あっせんや審査の手続きを有利に進められる可能性が高まります。
後遺症が残ったとき、後遺障害等級認定の手続きを進めてもらえる
交通事故で後遺症が残ったら「後遺障害認定」を受ける必要があります。
弁護士に依頼すると、自分で手続きするより適切な等級認定を受けやすくなるものです。
後遺障害認定の手続きには専門知識やノウハウが必要ですが、交通事故に詳しい弁護士ならそういったスキルや知識を蓄えているからです。
必要に応じて「被害者請求」を行い、より高い等級の後遺障害認定も受けられるでしょう。
※被害者請求とは、被害者自身が加害者の自賠責保険へ後遺障害認定の請求をする手続きです。
手間がかかりノウハウが要求されるので、専門家に依頼する必要性が高くなります。
等級が上がれば後遺障害慰謝料が大きく増額されて、被害者の手取り額がアップします。
示談を任せればストレスが軽減される
保険会社や加害者とのやり取りは、被害者にとって大きな精神的負担となるものです。
弁護士に全てを任せれば直接対応しなくて良くなるのでストレスがかからなくなりますし、「きっと有利な条件で解決できる」という安心感も得られます。
まとめ
低い賠償額で諦めてしまうところだったよ!
まずは無料相談などを利用して、弁護士に相談してみよう!
交通事故で加害者の保険会社から提示される慰謝料の金額は、低額な「任意保険基準」で計算されているのが通常です。
そのまま受け入れると損をしてしまうおそれが高いので、必ず弁護士に相談しましょう。
弁護士基準で計算してもらい、結果に応じて示談交渉を依頼するかどうか判断してみてください。
一般的に後遺障害が残ったり半年以上通院したりした場合には、弁護士に依頼すると明らかに被害者の手取り額が大きくなります。
そういったケースでは必ず弁護士に依頼しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。