脱臼すると、どの位の慰謝料を受け取ることができるの?
今回の記事では、脱臼は後遺障害等級何級に該当するのか、等級によって異なる慰謝料の金額について、詳しく見ていこう。
まずは、脱臼の症状や治療法について、説明するよ。
交通事故に遭うと、関節を「脱臼」してしまうケースが少なくありません。
肩などを脱臼すると、強い痛みを感じますし後遺症が残ってしまうことも。
その場合、加害者にどのくらいの賠償金を請求できるのでしょうか?
今回は脱臼の症状や後遺障害認定、請求できる慰謝料や賠償金について解説します。
交通事故でケガをしてしまった方は是非、参考にしてみてください。
目次
交通事故による脱臼の基本的な知識
そもそも脱臼とは?
脱臼とは、関節を作っている骨の本来の位置関係がずれてしまった状態をいいます。
関節は骨と骨が接合して形成されていますが、通常時であれば骨同士は正しい位置関係にあります。
そうすると痛みも生じませんし、関節をスムーズに動かしてさまざまな行動ができます。
ところが脱臼すると骨の位置がずれてしまうので、痛みが出たり関節を動かせなくなってしまったりします。
これが「脱臼」の基本的な状態です。
脱臼が生じる原因は、外部的な要因によるものと内部的な要因によるものがあり、交通事故は外部的な要因による脱臼です。
激しいスポーツによって脱臼するケースも多く、たとえば野球選手(ピッチャー)や相撲取りなどの方もよく肩関節を脱臼してしまいます。
交通事故で脱臼しやすいパターン
交通事故の中でも脱臼が起こりやすいのは、バイク事故。
バイクで転倒すると、地面に肩を強く打ち付けることにより、肩関節が脱臼しやすいのです。
脱臼すると、強い痛みが出て肩を動かせなくなってしまうケースが少なくありません。
無理に動かそうとせず、早めに病院へ行って適切な治療を受けましょう。
また脱臼と骨折は素人には見分けがつきにくく、骨折と思っても脱臼だったりその逆であったりするケースもあり、自覚しているより重症な場合も少なくありません。
軽い症状と思っても、放置せずに整形外科を受診しましょう。
脱臼の症状
- 痛み
- 腫れ
- 関節を動かせない
- 関節の変形
特に、脱臼した関節に強い「疼痛」が発生するケースが多く、ほとんどの場合には動かせなくなります。
また脱臼に特有の症状として、脱臼箇所を外部的な力で動かしたときに弾力的な抵抗が起こり、自然に元に戻る、というものがあります。
たとえば脱臼した肩を自分で無理に動かすと、手を離した瞬間に自然に元の形に戻ってしまう、ということです。
これを「弾発性固定」「弾発性抵抗」といいます。
脱臼の種類
脱臼にはいくつかの種類があります。
【脱臼の程度による分類】
- 亜脱臼(不完全脱臼)
骨がずれているけれども、部分的に関節面の接触が残っている場合です。 - 脱臼(完全脱臼)
完全に骨の関節面がずれてしまい、接触面が残っていない状態です。 - 高度脱臼
肩鎖靭帯と烏口鎖骨靭帯が両方とも断裂してしまい、鎖骨が完全にはずれてしまった重症の脱臼です。
【脱臼の方向による分類】
- 前方脱臼
- 後方脱臼
- 上方脱臼
- 下方脱臼
- 側方脱臼
脱臼の治療方法
肩を脱臼した場合の治療方法は、基本的に「保存療法」。
患部を安静にして自然治癒を待つ治療法です。
肩関節の脱臼の場合、三角巾で腕の重さを支えたり、鎖骨を上から抑え込むようにテーピングしたりして様子をみます。
肩鎖関節脱臼用の装具を使用するケースもあります。
重傷で保存療法では治せない場合、手術が必要になり、軽傷のケースより後遺症が残るリスクも高くなります。
脱臼で遺障害等級認定を受けるためにすべきこと
交通事故で脱臼してしまうと、治療を受けても関節が元に戻らないケースも少なくありません。
そんなときには後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。
以下では脱臼で後遺障害認定されるためにすべきことをご説明します。
画像診断を受ける
脱臼を原因として後遺障害認定を受けるには、脱臼の症状を「医学的に証明」しなければなりません。
具体的には以下のような「画像診断」により、脱臼を証明する必要があります。
- レントゲン
- CT
- MRI
資料を残すため、事故に遭ったら早めに整形外科へ行き、患部の撮影や検査をしてもらいましょう。
症状固定まで治療を受ける
交通事故で後遺障害認定を受けるには、症状固定時まできちんと治療を受け続ける必要があります。
最低でも6ヶ月は通院を継続しなければ後遺障害として認定を受けるのは難しくなると考えましょう。
自己判断で通院を途中でやめてはなりません。
また症状が慢性的になってきたとしても、通院頻度は一定以上に保つべきといえます。
あまりに通院回数が少ないと「既に症状は完治している」と判断されてしまいやすいからです。
軽度な脱臼の場合にはついつい通院を後回しにしてしまう方もおられるので、そういったことのないよう注意してください。
可動域検査を受ける
典型的な脱臼の後遺障害は「運動障害」です。
運動障害とは、関節の可動域(動かせる範囲)が小さくなってしまう障害。
これを証明するには、健側と比較して脱臼の生じた側でどのくらい可動域制限が起こったか、測定しなければなりません。
また可動域検査の結果は後遺障害診断書に記載してもらう必要があります。
治療が終わって症状固定したら、かかっている病院できちんと可動域検査をしてもらいましょう。
脱臼で取得できる後遺障害認定の等級、慰謝料の相場とは
症状別に後遺障害等級をチェックしてみよう。
交通事故で脱臼してしまったとき、認定される後遺障害等級は何級になるのでしょうか?
運動障害
運動障害は関節を動かせる可動域が狭くなってしまう後遺障害。
関節を脱臼すると、完全にもとの状態に戻らず動かしにくくなってしまうケースが少なくありません。
運動障害による後遺障害等級
運動障害で認定される後遺障害等級は以下の3種類です。
- 8級6号
「1上肢の3大関節の中の1関節の用を廃したもの」
「用を廃したもの」とは「完全に肩関節を動かせない状態」や「10%以下しか動かせなくなった状態」です。
後遺障害8級の後遺傷害慰謝料は830万円程度となります。 - 10級10号
「1上肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、肩関節の可動域2分の1以下になってしまった場合です。
後遺障害10級の後遺傷害慰謝料は550万円程度となります。 - 12級6号
「1上肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの」
「関節の機能に障害を残すもの」とは、肩関節の可動域が4分の3以下になってしまった場合をいいます。
後遺障害12級の後遺傷害慰謝料は、290万円程度となります。
なお上記の慰謝料の金額はすべて「弁護士基準」で計算したものです。
保険会社が採用する「任意保険規準」を適用すると大幅に低くなる可能性があるので、示談交渉の際に相手の保険会社から示談金の提示を受けたら注意して金額をチェックしてみてください。
なお関節の可動域については、脱臼した肩と健康な側の肩の動きを比較して測定します。
変形障害
脱臼すると、関節が変形したまま元に戻らないケースも少なくありません。
この場合「変形障害」として後遺障害認定を受けられる可能性があります。
認定される等級は以下の通りです。
- 12級5号
「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」
脱臼の場合、レントゲンやCTなどの画像によっては変形を把握できても外見上はわからないケースが少なくありません。
それでは等級認定を受けられないので注意しましょう。
裸になって直接患部をみたときに明らかに変形している場合でないと変形障害が認定されません。
後遺障害12級の慰謝料は290万円程度となります。
神経症状が残っている場合には
肩を脱臼して運動障害や変形障害が残らなくても、うずきや痛みが持続するケースが少なくありません。
そういった場合には「神経症状」による後遺障害が認められる可能性があります。
- 12級13号
「局部に頑固な神経症状を残すもの」
頑固な神経症状とは、レントゲンやCT、MRIなどの画像診断によって客観的に異常を把握できる症状です。
こうした画像診断によって異常を把握できない場合、12級にはなりません。
12級の後遺障害慰謝料は290万円程度です。 - 14級9号
「局部に神経症状を残すもの」
レントゲンやCT、MRIによって異常を証明できなくても14級が認定される可能性があります。
14級9号の後遺傷害慰謝料は110万円程度となります。
14級の「局部に神経症状を残すもの」という場合、画像診断によって医学的に症状を証明する必要はありません。
ただし「医学的に合理的な説明」ができなければなりません。
たとえば以下のような事情があると後遺障害認定されやすいといえるでしょう。
- 事故態様や程度からしてその症状が発生するのが自然である
- 治療内容や治療経過からして、症状があると考えられる
- 一定以上の頻度で通院している
- 症状が一貫している、連続している
14級の神経症状は、画像によって証明できないので、適切に後遺障害認定の手続きを進めないと非該当とされてしまうリスクが高まります。
素人では対応が難しいケースも多々あります。
困ったときには弁護士に相談してみましょう。
他の後遺障害と併合される場合
バイクで転倒すると、脱臼だけでは済まず他のさまざまな部分にも後遺障害が残る可能性があります。
たとえば顔面に醜状が残ったら外貌醜状、腕や脚の一部を失ったら欠損障害なども認められるでしょう。
別の後遺障害が認定されると、等級が併合されて繰り上がったりするので、上記より高い等級が認定される可能性もあります。
参考までに各等級の後遺障害慰謝料を掲示するので、みておいてください。
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
まとめ
受け取れる慰謝料についても、良くわかったよ。
弁護士に依頼すれば、必要な書類集めのサポートをしてもらう事が出来るから、高い等級を取得しやすくなるし、弁護士基準で慰謝料を計算できるんだ。
後遺症が残るくらいの状態の場合には、出来るだけ早く弁護士に依頼しよう。
バイクで転倒して肩関節を脱臼したら、まずはきちんと治療を受けて完治を目指しましょう。
治療を受けても後遺障害が残ってしまったら、画像やその他の検査を受けてできるだけ高い後遺障害の等級認定を受けるべきです。
1人で対応すると知識不足によって不利益を受ける可能性が高くなるので、できるだけ早い段階で交通事故にくわしい弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。