今回の記事では、大回り右折や早回り右折が過失割合にどのくらい影響があるのか、詳しく見ていこう。
交通事故では「早回り右折」や「大回り右折」をすると「過失割合」が高くなってしまいます。
そもそも「早回り右折」「大回り右折」とはどういった行動をいうのか、具体的にどのくらい過失割合が高くなるのか、確認しましょう。
今回は交通事故の修正要素である「早回り右折」「大回り右折」について解説します。
事故に遭われて保険会社から提示された過失割合に納得できない方、修正要素について知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
早回り右折、大回り右折は過失割合の「修正要素」になる
「早回り右折」、「大回り右折」は交通事故で重要な「過失割合」の「修正要素」とされています。
まずは過失割合や修正要素とは何なのか、簡単に確認しましょう。
過失割合とは
過失割合とは、交通事故の当事者それぞれに認められる損害発生に対する責任の割合です。
交通事故が起こった場合「どちらか一方が100%悪い」ケースは少数です。多くの場合、被害者にも何がしかの責任が認められます。
そこで加害者と被害者の過失の責任割合を数値化したものが「過失割合」です。
被害者の過失割合が高くなると、割合的に加害者へ請求できる賠償金を減額されます。
交通事故の被害者にとって、自分の過失割合をいくらにされるのかは非常に重大な問題といえるでしょう。
修正要素とは
修正要素とは、過失割合を事案に応じて修正するための個別事情です。
過失割合には事故の状況に応じた「基本の過失割合」の数値が定められていますが、「どちらかが飲酒していた」「スピード違反していた」など、事情によっては基本の過失割合を加算・減算すべきケースがあります。
そこで修正すべき事情をパターン化したものが「修正要素」です。
今回ご紹介する「早回り右折」や「大回り右折」は、過失割合を加算する修正要素となっています。
早回り右折で事故を起こした場合の過失割合
早回り右折とは
早回り右折とは、交差点で右折するときに「交差点の中心の直近の内側に寄らず、早めに右折してしまうことです。
道路交通法では、交差点を右折するときには「交差点の中心の直近の内側」を徐行しなければならないと規定されています(道路交通法34条2項)。
【道路交通法34条2項】
自動車、原動機付自転車又はトロリーバスは、右折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の中央に寄り、かつ、交差点の中心の直近の内側(道路標識等により通行すべき部分が指定されているときは、その指定された部分)を徐行しなければならない。
しかしスピードを出したまま右折しようとしたり急いでいたりすると、交差点の中心に寄る手間を省いて早回りで右折しまうドライバーが少なくありません。
右折車がこのような行動をとると、対向車にとって予測不可能となり交通事故の危険が高まります。
そこで早回り右折した車両には5~10%程度、過失割合が加算されます。
以下で早回り右折するとどのくらい過失割合があがるのか、具体例をみてみましょう。
信号機のない交差点において、直進車と右折車が接触した交通事故
この場合、基本の過失割合は「直進車:右折車=20%:80%」です。
しかし右折車が「早回り右折」すると右折車の過失割合が5%加算され、「直進車:右折車=15%:85%」となります。
信号機のない交差点において、右折車が左方、直進車が右方の交通事故(判例タイムズ115番)
この場合、基本の過失割合は「直進車:右折車=40%:60%」です。
しかし右折車が「早回り右折」すると右折車の過失割合が10%加算され「直進車:右折車=30%:70%」となります。
大回り右折で事故を起こした場合の過失割合
右折車が「大回り右折」した場合にも過失割合が上がります。
大回り右折とは
大回り右折とは、あらかじめ道路の中央に寄らないで左の方から大きく回って右折することです。
道路交通法34条2項では、右折車は「あらかじめできる限り道路の中央に寄らねばならない」と規定されています。
ところが漫然と運転していたり運転が下手だったりすると、道路の中央に寄らずに左端から大回りで右折してしまうドライバーが少なくありません。
そのような行動をとると、周囲の車にとっては予測不可能なので交通事故の危険性が高まります。
そこで「大回り右折」をすると、5~10%」程度、過失割合が加算されます。
以下で具体例を確認しましょう。
信号機のない交差点において、直進車と右折車が接触した交通事故
この場合、基本の過失割合は「直進車:右折車=20%:80%」です。
しかし右折車が大回り右折すると右折車の過失割合が5%加算され、「直進車:右折車=15%:85%」となります。
信号機のない交差点で左折車と対抗する右折車の交通事故(判例タイムズ134番)
この場合、基本の過失割合は「左折車が30%、対抗する右折車が70%」です。
右折車が大回り右折すると過失割合が10%加算され、左折車が20%、対抗する右折車が80%に上がります。
直近右折について
右折車の修正要素には「直近右折」もあるので知っておきましょう。
直近右折とは、対向車のほど近い場所で右折する行為です。
このような行動をとると対向車にとって予測不可能で極めて危険なので、右折車の過失割合が10%程度加算されます。
右折の際には守らねばならない道路交通のルールがいくつかあるので、正しく把握しておいてください。
早回り右折、大回り右折の事故での賠償金、慰謝料の相場
入通院期間が長くなってしまったり、後遺症が残ってしまった場合には、多くの賠償金を受け取ることができるよ。
交通事故の加害者が早回り右折、大回り右折した場合、被害者に賠償金や慰謝料はどのくらい支払われるのでしょうか?
賠償金額は事故の大きさや内容で変わる
交通事故で支払われる賠償金の内容や金額は、事故の大きさや結果によって大きく変わります。
被害者が大ケガをしたり死亡したりすると賠償金は極めて高額になり、1億円を超える可能性があります。
一方、軽傷で済んだ場合には数十万円になるケースもありますし、物損事故であれば慰謝料は請求できません。
払ってもらえるのは車の修理費用程度となるでしょう。
賠償金は「過失相殺」される
交通事故の賠償金については、「発生した損害の全額」を払ってもらえるわけではありません。
賠償金は「過失相殺」によって減額されるためです。
過失相殺とは、過失割合の程度による割合的な減額計算。
たとえば被害者の過失割合が30%であれば、支払ってもらえる賠償金額は発生した損害額の70%(30%減)になります。
相手が大回り右折や早回り右折していると、相手の過失割合が上がるので被害者の過失割合が下がります。
その分、基本的なケースより高額な賠償金を払ってもらえる可能性が高くなるといえるでしょう。
被害者が適切な金額の賠償金を受け取るためにも、過失割合は適正な数字をあてはめてもらわねばなりません。
3種類の慰謝料
交通事故の中でも「人身事故」に遭ったら慰謝料を請求できます。
慰謝料とは精神的苦痛に対する損害賠償金。
事故でケガをしたり死亡したりすると人は大きな精神的苦痛を受けるので、その賠償として慰謝料を払ってもらえるのです。
交通事故の慰謝料には以下の3種類があります。
- 入通院慰謝料
交通事故でケガをした場合の慰謝料です。
たとえばむちうちで3ヶ月通院したら53万円程度、骨折で1ヶ月入院、6ヶ月通院したら149万円程度となります。 - 後遺障害慰謝料
交通事故で後遺症が残ってしまった場合に払われる慰謝料です。
むちうちで14級に認定されると110万円程度、12球になった場合には290万円程度が支払われます。 - 死亡慰謝料
交通事故で被害者が死亡したときに払われる慰謝料です。
被害者によって扶養されていた人がいたかどうかで異なりますが、だいたい2000~3000万円程度が相場となります。
慰謝料額は計算基準によって変わる
実は交通事故の慰謝料額は、「計算基準」によって変わるので、注意してください。
慰謝料の計算基準には以下の3種類があります。
- 任意保険基準(任意保険会社が独自に定める基準)。
- 自賠責基準(国土交通省が定める自賠責保険や共済の支払い基準)
- 弁護士基準(弁護士や裁判所が採用する法的な基準)
上記の中でもっとも高額になるのは弁護士基準です。
他の基準の場合、弁護士基準の3分の1程度になってしまうケースもあるので、被害者の立場としては弁護士基準を適用する必要性が高くなります。
交通事故で高額な賠償金を獲得するには
弁護士に依頼すると、弁護士基準で慰謝料の計算ができるし、適正な過失割合を当てはめてもらう事ができるから、大幅に慰謝料を増額できるんだ。
交通事故に遭ったら、なるべく高額な慰謝料を払ってもらいたいでしょう。
そんなときには弁護士に相談してみてください。
適正な金額を算定してもらえる
素人では、どのくらいの賠償金が適正なのか正しく判断するのが困難です。
保険会社から提示を受けたとき、受諾して良いものかどうか迷う方も多いでしょう。
弁護士に相談すれば適正な金額を判断してもらえます。
知らずに低い金額で示談してしまうリスクを防げるので、大きなメリットがあるでしょう。
弁護士基準で賠償金を請求できる
弁護士に示談交渉を依頼すると、高額な弁護士基準で賠償金を計算してもらえます。
被害者が自分で示談交渉すると通常は低い「任意保険基準」を適用されるので、弁護士に任せるだけで慰謝料が2~3倍に上がるケースも少なくありません。
ケガの治療が長引いた場合や後遺障害が残った場合などには、必ず弁護士に相談するようお勧めします。
過失割合が適正になる
加害者が早回り右折、大回り右折、直近右折などの危険行為をした場合、加害者の過失割合は高くなります。
ところが保険会社から提示された過失割合においては、こういった修正要素が正確に適用されていないケースも少なくありません。
弁護士に依頼すると適正な過失割合を当てはめてもらえるので、不当に過失相殺によって賠償金を減額されるのを避けられるでしょう。
後遺障害認定のサポートを受けられる
ケガの治療をしても完治しなかったとき、後遺障害認定のサポートをしてもらい、手間を省いて高い等級の認定を受けられるケースも少なくありません。
ストレスを軽減できる
交通事故の示談交渉などの対応は非常にストレスのたまる作業ですが、弁護士に任せれば毎日を気楽に過ごせるようになる方がたくさんおられます。
交通事故に遭ったとき、自分ひとりで抱え込んでしまうと物理的にも精神的にもつらくなってしまうでしょう。
そんなとき、あなたを助けてくれるのは弁護士です。
困ったときには早めに弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。