脳挫傷となってしまったら後遺障害認定を受ける事は可能なのかな?
では早速、脳挫傷とはどんな症状なのか、どのくらいの慰謝料を受け取ることが可能なのか、詳しく見ていこう。
交通事故に遭うと、頭部に傷害を負うケースが非常に多いです。
その場合、「脳挫傷」と診断されることがありますが、「脳挫傷」とはどのような傷病なのでしょうか?
脳挫傷になったときの典型的な症状、治療方法や症状固定後の後遺障害認定についても把握しておきましょう。
今回は、交通事故の「脳挫傷」について、解説します。
目次
脳挫傷とは
そもそも脳挫傷とは
交通事故の傷病の1つである「脳挫傷」とは、どのようなものなのでしょうか?
これは、人間の頭の中にある「脳」の損傷です。
頭部に強い衝撃を受け、頭蓋骨の内部の脳にまで衝撃が及び、脳そのものが傷を負ってしまうものです。
脳挫傷になるのは、交通事故の中でも頭部を強く打ったり揺さぶられたりした場合です。
頭部の外傷と脳挫傷の関係
脳挫傷になるケースでは、たいていの場合頭部に外傷が及びます。
たとえば、頭部を骨折したり出血したりします。
ただ、まれに外的には損傷を受けたかどうかが分からないケースもあるので、注意が必要です。
たとえば、脳が強く揺さぶられた結果脳全体に損傷が及んでいるけれども、外目には変化がないことなどがあります。
頭蓋骨が陥没しているけれども外的な出血はないので症状を見逃してしまうケースもあります。
そのようなとき、放置しておくと重大な結果が発生する可能性もあるので、交通事故で頭部を強打したら、たとえ目立った外傷がなくても「必ず病院へ行く」ことが大切です。
このとき受診すべき診療科は「脳神経外科」です。
脳内出血が起こっている場合などには、早く病院に行かないと命に関わります。
脳挫傷の症状
最悪の場合死亡してしまう事もある怖い傷病なんだよ。
交通事故で脳挫傷になると、どのような症状が顕れるのか、見てみましょう。
まず、頭蓋骨骨折や脳内出血が発生することが多いです。
一気に大量の脳内出血が起こると、死に至ることもあり、非常に危険です。
また、脳挫傷の傷害を負うと、事故現場で意識を失うことも多いです。
重傷のケースでは、脳挫傷を負って被害者の意識が混濁し、そのまま意識が回復しなくなる例もあります。
これが、後にご説明をする、交通事故の後遺障害の1種である「遷延性意識障害」につながります。
事故直後に嘔吐やけいれん、麻痺などの症状が発生することも多いので、こうした症状が出たら「脳に損傷を受けたのではないか?」と注意を払いましょう。
また、局所的な症状として、身体の一部が麻痺したり、感覚障害や言語障害が発生してろれつが回らなくなったり、記憶障害が発生して物事を覚えられなくなったりするケースもあります。
症状の程度はケースによって異なりますが、軽い場合でも放っておくと死亡などの重大な結果につながるので、しつこいようですが、必ず病院に行くことが重要です。
脳挫傷の検査方法では、MRIが重要
脳挫傷の傷害を負ったら、どのような手法で検査を行うべきか、説明します。
まず、検査方法で重要なのは、CTとMRI、レントゲンによる画像検査です。
この中で、CTとレントゲンは、主に骨の異常を把握するための検査です。
頭蓋骨の骨折状況などを把握することができます。
これに対し、MRIは筋肉などの軟部組織を把握できる検査です。
そこで、細かい脳内出血などについては、MRIを使って検査する必要があります。
たとえば、交通事故で脳挫傷になった際によくある「びまん性軸索損傷」という傷病の場合には、交通事故直後のMRIが非常に重要な証拠となることがあります。
事故直後にMRI撮影をしておかないと、後遺障害認定が厳しくなってしまうのです。
そこで、脳挫傷の傷害を負ったときには、必ずCTとレントゲン検査、MRI検査を受けましょう。
明らかに重傷のケースなら何も言わなくても医師が撮影してくれますが、軽傷と思われる場合でも画像診断が重要ですので、医師と相談して、適切な検査を受け、診断書を作成してもらいましょう。
脳挫傷の治療方法について
そのため治療により、完全な回復は難しいんだよ。
脳挫傷になった場合、どのようにして治療をすべきなのでしょうか?
事故後、意識を失ってしまった人や各種の障害が発生した被害者の方が、元に戻ることができるのかが問題です。
実は、脳挫傷の治療はとても難しいのが現状です。
というのも、いったん破壊された脳細胞や神経系統を再生させる技術は、今のところ、「ない」からです。
そこで、治療方法としては、急性症状への対応や、これ以上悪化させないことが主となってきます。
まず、頭蓋骨を骨折していたり大量の脳内出血をしていたりするならば、緊急手術を行う必要があります。
脳内に血腫ができたケースでは、血腫が大きくなっていたら手術によって取り除きますが、小さければそのまま様子を見ることが通例です。
症状が比較的軽い場合には、手術は行わず、薬物療法を行います。
投与されるのは、脳圧降下薬や点滴注射です。
漢方薬が処方されるケースもあります。
こうした治療を受けた後、リハビリによって各種の症状の改善を目指します。
たとえば、歩きづらくなった方が歩く練習をしたり、言葉が出なくなった方が話す練習をしたり、末端にしびれが出てしまう場合には足指、手指を動かす練習をするなど、徐々に日常生活に戻れるように訓練を行います。
脳挫傷の場合、死滅した脳細胞が生き返ることがないため、リハビリを継続しても、完全には元に戻らないことが多いです。
リハビリ後も回復せずに残った症状については「後遺障害」としての認定を受けることとなります。
脳挫傷による後遺障害
その他にも、精神疾患やてんかん、言語障害や歩行障害など、さまざまな後遺症があるよ。
それでは、脳挫傷になると、どのような後遺障害が認められる可能性があるのでしょうか?
典型的なものは、以下の3種類です。
- 遷延性意識障害
- 高次脳機能障害
- 外傷性てんかん
それぞれがどのような症状なのか、見ていきましょう。
遷延性意識障害とは
遷延性意識障害の場合、後遺障害認定は、一番重い等級となるよ。
遷延性意識障害とはどのようなことか?
遷延性意識障害とは、いわゆる植物状態のことです。
交通事故の脳挫傷による後遺障害の中でももっとも重い後遺障害です。
交通事故現場で頭部を打って意識を失い、そのまま回復しない症状です。
いったん遷延性意識障害になると、一生回復しないことが一般的です。
先にも説明したように、一度死滅した脳細胞を生き返らせることができないため、遷延性意識障害になった方の意識を呼び戻す有効な方法は、確立されていません。
ただ、人の感覚を刺激すると有効であると言われていることから、朝になったらカーテンを開けて光を入れたり、家族が積極に的に話しかけたり手を握ったり、好きだったものの臭いを嗅がせたりして感覚神経をできるだけ刺激するようにします。
電気刺激による治療法が選択されるケースもあります。
患者が若い場合には、比較的回復につながりやすいとされています。
遷延性意識障害の後遺障害
遷延性意識障害になった場合、後遺障害の等級は、最高等級である1級が認定されます。
1級の場合の後遺障害慰謝料は2,800万円、労働能力喪失率は100%です。
遷延性意識障害の介護の問題
また、遷延性意識障害になると、基本的に全面的な介護を要する状態となりますので、加害者に対し、生涯にわたる介護費用の請求ができます。
このとき、職業介護人を雇うのか、家族が介護するのかにより、請求できる介護費用が大きく変わってきます。
職業介護人の場合、実際に雇った場合の相場の金額が基本となるので、家族が介護するケースよりもかなり金額があがるからです。
また、自宅介護とするのか施設介護とするのかによっても、認められる介護費用の金額が大きく異なってきます。
施設介護にすると、だいたい5,000万円程度となりますが、自宅介護にすると、自宅の改装費用が認められるので、1億円程度になります。
ただし、自宅介護は常に認められるわけではありません。
家族が被害者の介護に理解をもっており、実際に介護できる状況にあること、また、近隣に連携している病院があり、何かあったらすぐに対応できることなどが必要となります。
遷延性意識障害と逸失利益
遷延性意識障害になったときには、逸失利益の計算の際に注意が必要です。
1級なので、当然高額な逸失利益が認められるのですが、加害者の保険会社からは「生活費控除」を主張されることがあるためです。
生活費控除とは、逸失利益から、被害者の生活費を差し引くことです。
つまり、遷延性意識障害になった人は、普通の人ほど生活費がかからないから、その分生活費が浮いてくるはずだというのです。
そして、その分を逸失利益から差し引いてほしいという言い分です。
しかし、このようなことは、被害者の家族にとっては全く納得できないことでしょう。
実際に、裁判例でも遷延性意識障害における逸失利益の生活費控除は認めないのが通例です。
保険会社がこのような主張をしてきても、受け入れるべきではないと言えるでしょう。
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害について、詳しく見ていこう。
高次脳機能障害について
次に、「高次脳機能障害」をご紹介します。
高次脳機能障害は、ひと言で言うと、脳の認知機能の障害です。
ただ、そのように言われてもわかりにくいでしょうから、以下でもう少し詳しく説明をします。
脳は、身体の各器官に命令を送っている中枢組織です。
ここが損傷を受けることにより、命令がうまく伝達できなくなって、いろいろな障害が発生します。
たとえば、以下のような症状が起こります。
- 記憶障害
物事を覚えられなくなったりすぐに忘れたりします。 - 注意障害
集中力がなくなったり、周囲に注意を払うことができなくなったりします。右半分の視野に写った部分を認識できなくなることなどもあります。 - 失語症、失認症
言葉が出なくなったり、物事を認識できなくなったりします。 - 遂行機能障害
- ものごとをやり遂げることができなくなります。同時に2つ以上のことをすることも難しくなります。
- 社会適応障害
その場に適さない言動をしてしまったりして、社会に適応しにくい状態となってしまいます。 - 性格の変化
暴力的な正確に変わってしまうなど、性格に変化が発生することも多いです。
高次脳機能障害の注意点
高次脳機能障害になったときには、症状が見逃されやすいので、注意が必要です。
1つには、高次脳機能障害が比較的新しく、あまり研究が進んでいないことが原因です。
専門的な医師でないと、症状を見落としてしまうことがあります。
また、軽度なケースでは、「単なる性格の変化」「交通事故のストレスのせい」などとして、片付けられてしまうことがあります。
MRIなどの撮影をしなければ、症状が発見されないままになってしまうのです。
さらに、本人に病識がないことも影響します。
高次脳機能障害になり、リハビリが必要な状態になっても、本人は「治療の必要はない」と言って拒絶することがあるほど、病識が欠如する症状です。
適切な治療を受けるためには、家族が異常に気づいて良い専門医を探し、受診と検査を受けることが重要です。
交通事故で被害者が頭を打ち、その後被害者の行動や様子が少しでも以前と違うと感じたら、すぐに専門の脳神経外科を受診しましょう。
高次脳機能障害の後遺障害等級
高次脳機能障害になったときに認定を受けられる後遺障害の等級は、以下の通りです。
重い方から、1級、2級、3級、5級、7級、9級
外傷性てんかんとは
?
てんかんの場合、事故直後に起こる時と、事故からしばらく日数が経過してから起こる場合があるんだけれど、後遺障害認定となるのは、日数が経過してからのてんかんの場合となるよ。
外傷性てんかんについて
交通事故で脳挫傷になると、「外傷性てんかん」という症状が発症することもあります。
てんかんとは、いきなり意識を失ったりけいれんしたりする発作が起こる症状のことです。
てんかんの原因にはさまざまなものがありますが、先天性や内的要因とは異なり、外傷によるもののことを「外傷性てんかん」と言います。
交通事故で強く頭を損傷すると、その後、慢性的にてんかん発作が発生する状態になるケースがあるのです。
てんかんにはいくつかの段階があります。
事故直後の24時間以内に起こるてんかんを「超早期てんかん」と言います。
事故後1週間以内のてんかん発作は「早発てんかん」です。
事故後1週間が経過してから発生するてんかん発作のことを「晩発てんかん」と言います。
この晩発てんかんの発作が残ったとき、交通事故の後遺障害認定対象となります。
外傷性てんかんを診断するには、脳波測定が有効です。
てんかん患者の場合「てんかん性放電」などの異常を発見することができるからです。
脳波により、てんかんの疑いが強いケースでは、CTやMRIによる画像検査を受けます。
画像によって脳挫傷による器質的な異常(物理的な異常)を確認できれば、あとは過去の病歴なども参照して、そういったものがなければ、交通事故による「外傷性てんかん」と認められます。
外傷性てんかんで認められる後遺障害等級
外傷性てんかんで認定される可能性のある後遺障害等級は、以下の通りです。
重い方から、5級、7級、9級、12級
脳挫傷の場合、相場を超える慰謝料を請求できる?
交通事故で脳挫傷になった場合には、上記のようにさまざまな後遺障害が認定される可能性があります。
そして、後遺障害の認定を受けると、「後遺障害慰謝料」を請求できます。
後遺障害慰謝料の金額は、各等級によって相場が決まっています。金額は、以下の通りです。
- 1級 2800万円
- 2級 2370万円
- 3級 1990万円
- 4級 1670万円
- 5級 1400万円
- 6級 1180万円
- 7級 1000万円
- 8級 830万円
- 9級 690万円
- 10級 550万円
- 11級 420万円
- 12級 290万円
- 13級 180万円
- 14級 110万円
ただ、上記の金額は、あくまで「相場」「基準値」に過ぎません。
それぞれの交通事故のケースに応じて増減額される可能性はあります。
たとえば、認定された等級に対し、実際の生活や仕事に対する支障が大きい場合には、その等級の平均的な慰謝料よりも大きな慰謝料が認められることもあります。
脳挫傷を負うと、高次脳機能障害となったり遷延性式障害などの重大な障害が残ったりするので、患者に対する影響が非常に大きくなりやすいです。
そこで、裁判をすると、相場の慰謝料より大きな金額が認定される事例がたくさんあります。
脳挫傷となり、その後苦しい思いをされているならば、一度交通事故トラブルに注力している弁護士に相談して、できるだけ多額の慰謝料を獲得することを、お勧めします。
交通事故脳挫傷で、後遺障害を認めてもらうために
弁護士に依頼する
交通事故で脳挫傷になってさまざまな後遺障害が残ったときには、加害者の自賠責保険や共済において「後遺障害認定」を受ける必要があります。
後遺障害の認定を受けないと、必要な後遺障害慰謝料や逸失利益を受けとることができないからです。
このとき、被害者が自分で認定請求をしても、思ったような結果が得られないことがあるので注意が必要です。
特に、高次脳機能障害や外傷性てんかんなどの場合には、うまく症状の証明ができないと、等級が落ちてしまって損害賠償金を大きく減らされることなどもあります。
後遺障害認定を成功させるためには、交通事故対応の専門家である弁護士に依頼することが重要です。
弁護士なら、どのようなケースでどの程度の等級の後遺障害認定を受けられるのか、把握していますし、後遺障害認定のテクニックも持ち合わせているので、より高い等級の後遺障害認定を受けることができるでしょう。
まとめ
弁護士基準や裁判基準での賠償金を受け取るためにも、弁護士事務所に依頼して被害者請求にて示談交渉を進める事が大切だよ。
今回は、交通事故の「脳挫傷」についてご説明をしました。
脳挫傷は非常に重大な後遺障害を残すこともあるので、適切に対応する必要があります。
交通事故で頭を強打したら、まずは、交通事故トラブルに注力している弁護士に相談に行きましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。