てんかんが起きるようになってしまったら、慰謝料はどのくらいもらえるのかな?
今回の記事では、交通事故後のてんかんの症状や受け取れる慰謝料について、詳しく見ていこう。
まずはてんかんの症状について、チェックしていくよ!
交通事故で頭部を損傷すると「てんかん」になってしまうケースがあります。
てんかんとは突然けいれんしたり意識を失ったりする「発作」が起こる症状で、ひどい場合には日常生活にもさまざまな困難が生じてしまいます。
今回は「てんかん」の症状や後遺障害認定について解説します。
交通事故後、てんかん発作が起こってお困りの方や、医師から「脳波に異常が発生している」といわれた方はぜひ参考にしてみてください。
目次
交通事故後に発症する「てんかん」とは
そもそも「てんかん」とはどういった症状なのでしょうか?
てんかんは脳内の神経細胞が過剰に興奮して発作を起こす症状で、一種の神経疾患です。
てんかんによる発作は「てんかん発作」とよばれます。
てんかん発作のよくある症状
- 顔や手足が痙攣する
- つっぱりが生じる
- 突然意識を失う
痙攣や意識喪失によって転倒したり交通事故を起こしてしまったりするリスクもあります。
てんかん発作の種類
てんかん発作は以下のような種類に分類されます。
部分発作
脳の「一部分」に限定して過剰な電気的興奮が起こる発作です。
意識がはっきりしている場合を「単純部分発作」、意識障害を伴う場合を「複雑部分発作」といいます。
全般発作
脳の全部または大部分で過剰な電気的興奮が生じる発作です。
ほとんどの場合、患者の意識は消失します。
単純部分発作
部分発作の中でも意識障害が発生しないタイプです。
- 手足や顔のつっぱり、ねじれ
- 痙攣
- 体全体が一方方向へ引っ張られる
- 回転する
- 輝く点や光が見える、ピカピカする、音が響く、耳が聞こえにくくなる、カンカンという音が聞こえるなどの視覚聴覚異常
- 頭痛や吐き気などの自律神経異常
などの症状がみられます。
複雑部分発作
意識障害を伴うてんかん発作で、意識が次第に遠のいて周囲の状況がわからなくなってしまいます。
- 急に動作を止めてボーっとした表情になる
- 辺りをフラフラ歩き回る
- 手をたたく、口をモグモグさせるなどの無意味な動作を繰り返す
- 突然倒れる
こういった症状が出ます。
てんかん発作は事故直後に出る場合もありますが、事故後8日後など数日が経過してから発症するケースもあります。
いったん発作が出ると一般的に完治は困難とされます。
てんかんの原因
てんかんの原因は脳の病気や子ども時代に発症するタイプ、外傷を要因とするものなどがありますが、原因不明なケースもあります。
外傷を原因とするてんかんを「外傷性てんかん」といい、交通事故によって生じるてんかんも「外傷性てんかん」に分類されます。
外傷性てんかんで認定される後遺障害等級
高次脳機能障害になっている場合には1級から3級に該当するけれど、てんかん発作だけの場合には、5級、7級、9級、12級のいずれかに該当する事になるよ。
交通事故が原因で外傷性てんかんになってしまったら、後遺障害認定を受けられます。
認定される可能性のある等級は以下の通りです。
等級 |
症状の内容 |
5級2号 |
月に1回以上てんかん発作があり、その発作が「意識障害の有無を問わず転倒する発作」または「意識障害があり、状況にそぐわない行為を示す発作」である |
7級4号 |
転倒する発作等が数ヶ月に1回以上ある または転倒する発作等以外の発作が月に1回以上ある |
9級10号 |
数ヶ月に1回以上の発作があるが、転倒はしない または服薬継続によりてんかん発作をほぼ完全に抑制できている |
12級13号 |
発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認める |
月に2回以上強度のてんかん発作が生じる場合、「高次脳機能障害」になっている可能性もあります。
高次脳機能障害とは脳の損傷によって生じる認知機能の障害です。
記憶力、注意力や集中力、感情をコントロール能力、通常の動作や発語などができなくなります。
高次脳機能障害の場合、1~3級の後遺障害等級に該当する可能性があります(1、2級は要介護)。
てんかん発作で後遺障害等級認定を受ける方法
外傷性てんかんになって後遺障害等級認定を受けるには、最低限以下の2点の対応が必要です。
脳波検査
まずてんかんに特有の異常な脳波が出ていないか調べなければなりません。
事故直後、またはてんかん発作が出たらすぐに脳波の検査を受けましょう。
Walkerの基準にあてはめる
交通事故による「外傷性」のてんかんといえるためには「事故以外にてんかんとなる原因がなかったこと」を証明しなければなりません。
その判定のため、以下の「walkerの診断基準(6項目)」が用いられるケースが多数です。
- 典型的なてんかん発作がある
- 受傷前にてんかん発作が生じていなかった
- 脳損傷を起こす程度の強い外傷であった
- 外傷後あまり時間が経過していない時期に最初のてんかん発作が起こった
- 他にてんかん発作を起こす脳や全身の疾患がない
- てんかん発作の型や脳波所見が脳損傷の部位と一致している
ただし上記6つの項目は絶対ではなく、いずれかを満たさなくても「外傷性てんかん」と診断される可能性はあります。
外傷性てんかんになったときに受け取れる慰謝料
その他、弁護士に依頼するか否かでも、慰謝料の金額が大きく変わるんだよ。
交通事故によって外傷性てんかんになってしまったら、慰謝料を請求できます。
後遺障害が残った交通事故の慰謝料は「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」の2種類です。
- 入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故でけがをしたときに請求できる慰謝料です。
後遺障害が残らなくても支払いを受けられます。
金額は入通院治療にかかった期間が長くなるほど高額になります。 - 後遺障害慰謝料
後遺障害等級認定を受けられたときに支払われる慰謝料です。
認定された後遺障害等級が高くなるほど金額が上がります。
慰謝料の金額は「計算基準」によって異なる
入通院慰謝料も後遺障害慰謝料も、適用する「計算基準」によって金額が異なるので注意が必要です。
交通事故の慰謝料計算基準には以下の3つがあります。
- 弁護士基準
弁護士や裁判所が適用する法的な根拠のある基準です。
金額的にはもっとも高額になります。 - 自賠責基準
自賠責保険が自賠責の保険金額を計算するときに適用する基準です。
国土交通省によって一律の計算方法が定められています。
金額的には3つの基準でもっとも低額になるのが通常です。 - 任意保険基準
任意保険会社がそれぞれ定めている保険金計算基準です。
保険会社によってまちまちですが、相場としては「自賠責基準より多少高い程度」になるのが一般的です。
てんかんの後遺障害慰謝料の金額
交通事故で外傷性てんかんとなり後遺障害認定されたときの等級ごとの後遺障害慰謝料の相場金額は以下の通りです。
等級 |
自賠責基準 |
弁護士基準 |
5級 |
618万円 |
1400万円 |
7級 |
419万円 |
1000万円 |
9級 |
249万円 |
690万円 |
12級 |
94万円 |
290万円 |
任意保険基準の場合、上記「自賠責基準」より多少高い程度の金額になり、弁護士基準には遠く及びません。
なお高次脳機能障害となって1~3級が認定されると以下の後遺障害慰謝料を受け取れる可能性があります。
等級 |
自賠責基準 |
弁護士基準 |
1級(要介護) |
1650万円 |
2800万円 |
2級(要介護) |
1203万円 |
2370万円 |
3級 |
861万円 |
1990万円 |
後遺障害慰謝料と入通院慰謝料は別計算
上記では後遺障害慰謝料の相場の金額をご紹介しましたが、後遺障害慰謝料と入通院慰謝料は「別計算」です。
後遺障害認定を受けられたら、入通院慰謝料に上記の後遺障害慰謝料が加算されて支払われると考えましょう。
その結果受け取れる慰謝料額が大きく上がります。
慰謝料計算の具体例
【事故で頭部を挫傷して入院2ヶ月、通院8ヶ月間治療を受け、後遺障害7級が認定された】
この場合、入通院慰謝料は194万円、後遺障害慰謝料は1,000万円となるので合計で1,194万円の慰謝料を請求できます(ただし弁護士基準で計算)。
てんかんで後遺障害認定を受ける場合のポイント
交通事故でてんかんになってしまった場合、高額な慰謝料を請求するには後遺障害等級認定を受けなければなりません。
以下で後遺障害等級認定を受けるためのポイントをお知らせします。
できるだけ早く検査を受ける
てんかんで後遺障害認定を受けるには、事故後なるべく早めに脳波の検査を受けましょう。
時間が経過すると、事故と症状の因果関係を疑われる可能性が高くなってしまいます。
交通事故で頭部を打ったらすぐに脳神経外科へ行きましょう。
もしも事故直後に通院しなかった場合、引きつりやチカチカする、変な音が聞こえる、ぼーっとするなどの「てんかん発作」とみられる症状が出たらすぐに脳神経外科へ通院すべきです。
放っておくと後遺障害認定を受けられないリスクが高まります。
脳障害の専門医に診てもらう
てんかんの後遺症を証明するには医師の力も重要です。
医師には「外傷性てんかん」と診断してもらわねばなりませんし、後遺障害認定で必須となる「後遺障害診断書」も作成してもらう必要があります。
脳障害の専門医を探して検査や診察、診断をしてもらいましょう。
被害者請求を行う
後遺障害等級認定の手続き方法には「事前認定」と「被害者請求」の2種類があります。
事前認定は加害者の保険会社に後遺障害認定の手続きを任せる方法、被害者請求は被害者自身が直接自賠責保険へ後遺障害認定を請求する方法です。
一般的には「被害者請求」の方が被害者にとって有利になりやすい方法といえるでしょう。
ただし被害者請求にはたくさんの書類が必要ですし、損害保険料率算出機構、調査事務所とのやり取りにも対応しなければなりません。
自分で行うハードルが高いと感じる方は弁護士に依頼するようお勧めします。
できるだけ早く弁護士に相談する
交通事故でより確実に後遺障害認定を受けるには弁護士によるサポートが有用です。
- いつのタイミングでどのような検査を受けるべきか
- 後遺障害診断書に記載すべき事項
- 医師への症状の伝え方
- 通院先の選択
- 通院頻度や方法
上記のようなアドバイスを受けられますし、被害者請求の手続きも任せられます。
場合によっては医師に意見書作成を依頼してもらえるケースもあります。
自分一人で対応すると適切な等級の認定を受けられない可能性があるので、できるだけ早いタイミングで交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。