今回の記事では、交通事故後に神経痛が残ってしまった場合に受け取れる慰謝料や、認定される後遺障害等級について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭うと神経痛を発症したり、今まで患っていた症状が悪化したりするケースが少なくありません。
適切な賠償金を獲得するには、どういった原因で神経痛が起こるのか、後遺障害として認定される可能性があるのかなどの知識が必要です。
今回は交通事故によって生じる神経痛の種類や後遺障害の等級、慰謝料や高額な賠償金を獲得するポイントについて、解説します。
事故後にむちうちや椎間板ヘルニア、坐骨神経痛などの症状が出ている方はぜひ参考にしてみてください。
交通事故による神経痛の種類
ひとことで「神経痛」といってもいくつかの種類に分類されます。
以下では交通事故でおこりうる主な神経痛の種類や症状をお伝えします。
むちうち
むちうちは、首の骨である「頚椎」内を通る神経がダメージを受けて生じる各種の症状です。
交通事故でもっとも多い傷害といわれており、多くは後方から追突された衝撃で、首が一瞬S字状にしなってしまうのが原因です。
なおむちうちは正式な診断名ではなく、頚椎捻挫、外傷性頚部症候群と診断されるのが一般的です。
主な症状
- 首を動かすと痛い
- 首の可動域が狭くなる
- 肩や背中のコリ、痛み
- 頭痛や吐き気
- めまいや耳鳴り
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニア(ついかんばんへるにあ)とは、背骨を構成する「椎間板」の一部が飛び出してしまう症状です。
飛び出して変形した椎間板が神経を刺激するために痛みが生じます。
首部分のヘルニアを「頸部椎間板ヘルニア」、腰部分のヘルニアを「腰部椎間板ヘルニア」といい、部位によって分類されます。
主な症状
- 手や腕の痛み
- 手や腕のしびれ
- 手や腕を動かしにくい
- 力が入りにくい
- お尻や脚の痛み
- お尻や脚のしびれ
- 脚を動かしにくい
- 重症の場合には歩行困難
- 首筋や肩甲骨の痛み
坐骨神経痛
坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)は、お尻から太ももやふくらはぎを通り、足の裏まで走っている「坐骨神経」に生じる神経痛です。
交通事故の衝撃で坐骨神経がダメージを受けると坐骨神経痛になる可能性があります。
主な症状
- 下半身の痛みやしびれ
- 下半身の麻痺
- 強い痛みや麻痺による歩行障害
肋間神経痛
肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)は、背中から肋骨に沿って走行する「肋間神経」がダメージを受けて生じる神経痛です。
胸腹部にある肋骨や肋軟骨が帯状疱疹などによって炎症を起こしたり、交通事故で外傷を受けたりすると、肋間神経痛となる可能性があります。
主な症状
- 咳やくしゃみをすると痛い
- 上半身を曲げると痛い
- 肋骨に沿って痛みが生じる
三叉神経痛
三叉神経痛(さんさしんけいつう)は、顔の温痛覚を脳に伝える神経である「三叉神経」が損傷して生じる神経痛です。
こめかみの部分から目やあご、頬の3つに枝分かれしているので「三叉神経」とよばれます。
主な症状
- 顔面がピリピリ痛む
- ハリで刺したような非常に強い痛みを感じる
神経痛の治療方法
保存療法
神経痛となった場合、保存療法を施すのが基本です。
- 安静にする…患部を動かさないように固定し、なるべく痛みが少ない姿勢をとって安静にし、治癒を目指します。
- 理学療法…痛みが発生する部分をひっぱって神経への圧迫を軽減する「牽引療法」や、痛みのある部分を温める「温熱療法」、痛みのある部分に電気刺激を与える「電気療法」、コルセットやネックカラーで固定する「固定療法」などです。
- 薬物療法…痛みが出ている場合、鎮痛剤や抗炎症薬、筋弛緩薬や抗痙攣薬等などを投与して痛みを和らげます。
- 神経ブロック注射…強い痛みが生じているとき、痛みの出ている部分の末梢神経に注射をして痛みをとる方法です。
外科手術
保存療法では対処できない場合、外科手術が必要となります。
程度のひどい椎間板ヘルニアとなって強い痛みがおさまらない場合などに外科手術を施すケースが多数です。
整骨、鍼灸
- 整骨院治療…整骨院でマッサージなどをしてもらい体調を整えてもらう治療方法
- 鍼灸療法…鍼灸院で鍼や灸を施してもらい、痛みやしびれなどの症状をやわらげる方法
整骨、鍼灸療法がどこまで効果を発揮するかについては個人差があります。
また整骨院や鍼灸院で対応するのは医師ではなく柔道整復師や鍼灸師であるため、病院で診察治療を受けたことにはなりません。
後遺障害等級認定の請求をするには、「整形外科」や「脳神経外科」などの病院で診察や治療を受ける必要があります。
事故後に整骨院や鍼灸院にしか通院していない場合、後遺障害認定を受けられなくなったり慰謝料や休業損害を払ってもらえなくなったりするケースもあります。
神経痛になったら、まずは病院へ通い、医師の同意や指導のもとに整骨院や鍼灸院への通院を開始しましょう。
神経痛で認定される後遺障害等級
交通事故によって神経痛を発症した場合には「後遺障害等級認定」を受けられる可能性があります。
後遺障害等級認定を受けられれば、高額な後遺障害慰謝料や逸失利益が支払われるので一気に賠償金が増額されます。
ただし神経痛があるからといって、必ずしも後遺障害認定されるとは限りません。
「他覚的所見」がないと、認定されないケースも多々あります。
他覚的所見とは、MRIやCT、レントゲンなどで医学的に証明できる症状をいいます。
以下では神経痛によって認定される可能性のある後遺障害等級や慰謝料の金額を紹介します。
事故後に椎間板ヘルニアやむちうち、坐骨神経痛、三叉神経痛などの神経痛が生じた場合に認定される可能性のあるのは、以下のいずれかの等級です。
12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
MRIやCT、レントゲンなどで医学的に症状を証明できれば「局部に頑固な神経症状を残す」として12級13号の認定を受けられる可能性があります。
後遺障害慰謝料の金額は弁護士基準で290万円程度となります。
14級9号「局部に神経症状を残すもの」
医学的に症状を証明できなくてもMRIなどで他覚的所見を立証できない場合でも、自覚症状があることを合理的に説明できる場合には「局部に神経症状を残す」として14級9号の認定を受けられます。
後遺障害慰謝料の金額は弁護士基準で110万円程度が相場です。
神経痛で後遺障害認定を受けるポイント
その他、必要な検査をしっかりと受けること、弁護士に依頼する事などが必要になってくるね。
事故で神経痛が生じたときに後遺障害等級認定を受けるためのポイントをお伝えします。
医師とのコミュニケーションが重要
医師とのコミュニケーションは非常に重要です。
通院時から、日頃感じている症状の内容を正確に伝えましょう。
途中で主訴が変わるなど不自然な変遷をすると、後に後遺障害認定されにくくなります。
通院頻度があまりに低いと「完治した」と捉えられる可能性もあるので、なるべく週2、3回程度は通院するとよいでしょう。
必要十分な検査を受ける
神経痛の症状をMRIやCT、レントゲンなどの画像検査によって立証できれば12級13号の認定を受けやすくなります。
できるだけ精度の高い医療機器を使用して必要な検査をしてもらいましょう。
画像検査以外にも、ジャクソンテストや反射テスト、筋力テストや電気生理学検査、完治テストなどのさまざまな検査方法があります。
症状の内容に応じた検査を施してもらいましょう。
後遺障害診断書の内容
後遺障害等級認定の手続きにおいて、医師の作成する「後遺障害診断書」の内容が非常に重要です。
後遺障害診断書とは、後遺障害の内容について記載する、自賠責の専門書式による診断書です。
後遺障害に関する検査結果や医師の所見内容などが記載されます。
適切に記載してもらえたら後遺障害認定を受けられる可能性が高くなるので、後遺障害認定制度について理解した上で、医師とよく相談して作成してもらうのが理想です。
もしも自分ではどういった記載をしてもらうと良いかわかりにくい場合、交通事故に詳しい弁護士に相談してみましょう。
弁護士から医師にコンタクトをとってもらえるケースもよくあります。
神経痛で受け取れる慰謝料を増額するポイント
その他、治療打ち切りになったとしても、症状固定までしっかりと継続して通院する事も大切だよ。
事故で神経痛になった場合、慰謝料を増額するには以下の対応が重要です。
症状固定まで通院する
1つは「症状固定」まで病院に通院し続けることです。
むちうちなどの神経痛になった場合、通院期間が長引いて保険会社から途中で治療費を打ち切られるケースが少なくありません。
しかし治療を途中でやめてしまったら、その分入通院慰謝料や休業損害などの賠償金を減額計算されてしまい、後遺障害認定も受けにくくなる可能性があります。
保険会社から治療打ち切りの打診を受けても、医師が「症状固定」と判断するまでは通院を継続しましょう。
その際、整骨院や鍼灸院ではなく「整形外科」「脳神経外科」「脊髄神経外科」などの「病院」を選択することも重要です。
後遺障害認定を受ける
交通事故で賠償金を増額するには、後遺障害等級認定を受けるべきです。
等級認定されないと、後遺障害慰謝料や逸失利益を受け取れず、賠償金額は少なくなってしまいます。
事故直後から通院を開始して適宜必要な検査を受けて、医師に適切な後遺障害診断書を作成してもらって後遺障害等級認定の申請を行いましょう。
後遺障害等級認定の手続きは「被害者請求」の方法で行うようお勧めします。
被害者請求とは、被害者が自分で自賠責へ後遺障害等級認定の申請を行う手続きです。
弁護士に依頼する
交通事故の賠償金を増額するには、示談交渉を弁護士に依頼すべきです。
弁護士が示談交渉を行う場合、「弁護士基準」で慰謝料やその他の賠償金が計算されるためです。
弁護士基準を適用すると、任意保険会社の基準よりも大幅に慰謝料額がアップします。
むちうちや椎間板ヘルニア、坐骨神経痛などの神経痛の慰謝料も2~3倍以上に増額される可能性があり、自分で示談交渉すると損になってしまいます。
まとめ
出来るだけ早く弁護士に相談するって事が良くわかったよ!
交通事故で神経痛になったら、後遺障害認定を受けるためにも高額な賠償金を獲得するためにも弁護士によるサポートが必要です。
事故後の辛い痛みやしびれなどの症状にお悩みであれば、まずは一度、交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士へ状況を相談してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。