今回の記事では、雪道での事故における過失割合について、詳しく見ていこう。
雪道では車がスリップしやすく、交通事故が多発します。
事故に巻き込まれたら、お互いの「過失割合」を決めなければなりません。
雪道の場合、通常道路の事故とは異なる視点から過失割合を定めるべきケースも多々あります。
過失割合を適正に定めないと、不必要に高く過失相殺されてしまい、受け取れる賠償金が減額されるリスクも高まります。
雪道で事故に遭ったなら、どういった要素によって過失割合を算定するのか基準を把握しておきましょう。
そうすれば、保険会社から過失割合の提示を受けた際に適正かどうか判断できて、損をせずに済みます。
今回は雪道で交通事故が起こった場合の過失割合の基準について解説します。
雪国にお住まいの方、旅行先や帰省先などで雪道でのスリップ事故に巻き込まれた方はぜひ参考にしてみてください。
目次
雪道による追突事故の過失割合
雪道で追突事故が起こった場合の過失割合の基本的な考え方は以下のとおりです。
基本は追突事故の過失割合
雪道で追突事故が起こった場合、基本の過失割合は「追突した車が100%」となります。
道路交通法上、車を運転する際には前方車両との間で適切な車間距離をとらねばなりません。雪道でも同様です。
それにもかかわらず車間距離を詰めて追突した以上、後方車両に高い過失割合が認められるのです。
前方車両が法律を守って運転していたなら、過失は認められません。
追突事故の基本の過失割合は追突車:被追突車=100%:0%であり、雪道であっても特別な修正は適用されません。
前方車両が急ブレーキを踏んだ場合
ただし前方車両が急ブレーキを踏んだ場合、前方車両にも30%程度の過失割合が認められます。
道路交通法上、危険を回避するためやむを得ない場合以外は急ブレーキを踏むべきではないと規定されているためです(道路交通法24条)。
玉突きスリップ事故の過失割合
雪道では、スリップによって3台以上の車が玉突き事故を起こしてしまうケースも多々あります。
玉突き事故とは、最後尾の車両が前方車両へ追突し、その衝撃で前方車両が更に前の車両へ追突してしまう交通事故です。
たとえば前から順番にA車とB車とC車(A車が最前、B車が真ん中、C車が最後尾)が玉突き事故に巻き込まれてしまった場合、過失割合はどのようになるのかご説明します。
玉突き事故が発生した場合、基本的に最後尾の車両の過失割合が100%となります。
たとえばA車とB車とC車の3台(C車が最後尾)が玉突き事故に巻き込まれた場合、A車とB車の過失割合は0%、C車の過失割合が100%となって、C車の運転者がA車やB車の運転者へ賠償金を払わねばなりません。
前方車両が急ブレーキを踏んだ場合
A車やB車が急ブレーキを踏んだために事故が起こった場合、急ブレーキを踏んだ車両にも過失割合が認められます。
最後列のC車の過失割合は100%になりません。
真ん中の車両が先に追突した場合
3台の自動車が関与する事故には、真ん中の車両であるB車がはじめに前方のA車に追突し、その影響で最後尾のC車がB車へ追突してしまうケースもあります。
この場合、先に追突したB車の過失割合がもっとも高くなり、次にC車に過失割合が認められます。
A車には基本的に過失がありませんが、急ブレーキを踏んだならA車にも過失が認められます。
以上のように雪道における玉突き事故の場合、単純に最後尾の車両だけに過失割合が認められるとは限りません。
個別的な検討を要するケースが多々あります。
雪道事故での過失割合に影響する要素
その他、雪が原因で標識が見えない場合には、標識はないものとして過失割合が決定する事になるんだ。
雪道での交通事故の過失割合を判断するときには、通常の道路とは異なる要素が影響する可能性があります。
走行速度、車間距離
雪道を運転する際には通常道路を走行する場合より慎重になるべきです。
速度を落とし、スリップの可能性を考えて車間距離は広めにとる必要があります。
それにもかかわらずスピードを出して運転していたり、車間距離を詰めていたりすると過失割合が上がる可能性があります。
急ブレーキを踏んだ
道路交通法上、雪道以外の通常の道路においてもみだりに急ブレーキを踏んではならないと規定されています(道路交通法24条)。
まして雪道の場合、急ブレーキを踏むとスリップの原因となるため極めて危険です。
不必要な急ブレーキによって事故を起こした場合、高めの過失割合が認められる可能性があります。
ハンドル、ブレーキ操作の誤り
一方のドライバーに著しく不適切なハンドル・ブレーキ操作があると、高い過失割合をあてはめられます。
雪道でもハンドルやブレーキなどの運転操作を適切に行っていなければ過失割合が高くなります。
急ブレーキとはいえないまでも不適切にブレーキを踏み込んだり、危険な急ハンドルによってスリップを引き起こしたりスピンしてしまったりすると、その運転者に高い過失割合が認められるでしょう。
ノーマルタイヤで事故を起こした
雪道ではスリップを避けるためにタイヤチェーンを巻いたりスタッドレスタイヤ(冬用タイヤ)をつけたりして走行すべきです。
それにもかかわらずノーマルタイヤで車両を運転し事故を起こしてしまった場合、過失割合が上がると考えましょう。
ふだん雪道を走りなれておらず旅行先などで雪道を走行する場合、いつもの感覚でノーマルタイヤのまま走ってしまう方が多いので要注意です。
雪国へ行くときには、必ずタイヤチェーンやスタッドレスタイヤを準備しましょう。
積雪と道幅の関係
雪道では、積雪の影響によって道路幅が狭まってしまうケースもあります。
その場合、もともとの道幅ではなく積雪後の道幅が考慮されて、過失割合が判定される可能性があります。
降雪により道路標識が見えなくなっていた場合
交通事故が起こったとき、道路標識を無視していたら過失割合は高くなるものです。
ただし雪が積もると、道路標識が隠れて見えなくなる可能性もあるでしょう。
その場合、道路標識は「ない」ものとして過失割合を決定される可能性があります。
たとえば一方通行の標識が積雪で見えなくなっていた場合、間違って侵入してしまっても一方通行違反とは判定されないケースもあります。
雪道の交通事故に備える方法
万が一視界が遮られた場合には、ハザードをつけて徐行運転をしよう。
雪道を走行する際には、交通事故を起こさないように特に注意すべきです。
事故に備える方法をみてみましょう。
装備を万全にする
雪道では交通事故が起こりやすいので、装備を万全に整えていくべきです。
ガソリンは満タンにして、以下のようなものを車に搭載して備えましょう。
- タイヤチェーンを巻く、スタッドレスタイヤにする
- 除雪用ブラシ
- スコップ
- ドライバーをはじめとする工具
- 軍手や長靴、防寒具
- 新聞紙、・ガムテープ
- 自動車けん引用のロープ
- ブースターケーブル
急激な運転操作をしない
雪道で急激な運転操作をすると極めて危険です。
特にカーブや交差点などのアイスバーンができやすい場所で急激なハンドブレーキ操作をすると、スリップやスピンを起こして操作不能となってしまう可能性があります。
交差点や交差点付近では、車が雪を踏みしめて圧縮され、鏡のように凍って滑りやすくなる「ミラーアイスバーン」という状態になりやすいのです。
交差点やその近辺、カーブでは可能な限り徐行して、急激なハンドル・ブレーキ操作を避けましょう。
視界不良となった場合の対処方法
雪道では、吹雪が起こって視界不良となるケースが多々あります。
周囲がほとんど見えない状態になったら、減速してハザードランプをつけながら徐行しましょう。
安全な場所が見つかれば、一時退避するのも有効です。
雪道事故での過失割合を適正にする方法
示談交渉が上手くいかない時や、過失割合に納得できない場合には、弁護士に相談しよう。
雪道で交通事故に遭ったとき、過失割合に納得できなくてもめてしまうケースが多々あります。
適正な過失割合をあてはめてもらうにはどうすれば良いのでしょうか?
ドライブレコーダーを設置
1つ目の対策としては、ドライブレコーダーを設置しておくべきです。
雪道で交通事故が起こった場合
- 「どの程度の積雪であったか」
- 「吹雪が生じていたか」
- 「視認不良だったか」
- 「道路標識が見えなくなっていたか」
- 「道路幅は狭まっていなかったか」
などの事情が問題となりやすいからです。
お互いの意見が食い違うとき、単に言い争うだけでは真実の状態を確定できません。
ドライブレコーダーで事故時の道路状況を確認できれば、どちらの言い分が正しいのか判定できます。
通常道路を走行する場合もですが、特に雪道で運転する場合にはドライブレコーダーの設置が必須といえるでしょう。
弁護士に相談する
雪道の交通事故における過失割合の考え方は、一般の道路以上に複雑です。
確かに単純な追突事故であれば後方車両の過失割合が100%となります。
しかし雪道では、さまざまな個別事情が影響するので単純に100%:0%として割り切れるとは限りません。
弁護士に相談すれば、事故の状況に応じた適正な過失割合を提示してもらえます。
自分で保険会社と話し合っても適正な過失割合にしてもらえない場合には、弁護士に示談交渉を代行してもらうことも可能です。
弁護士であれば、過去の裁判例や過失割合の法的な基準を保険会社に提示して、適正な過失割合をあてはめてくれるでしょう。
保険会社がどうしても納得しない場合には、裁判を起こして裁判所に正しい過失割合を決めてもらえます。
過失割合が1割異なると、賠償金の金額が1割違ってくるので被害者にとって非常に大きな影響を及ぼします。
少しでも疑問があるなら、保険会社から提示された過失割合を鵜呑みにせずに弁護士へ相談してみてください。
まとめ
過失割合に納得できない場合には、弁護士にサポートしてもらうようにしよう。
雪道では通常の道路以上に交通事故が発生しやすいので、慣れない方は事故を起こしてしまうケースが多々あります。
事故に巻き込まれたら、適正な金額の賠償金を受け取るためにも正しい過失割合をあてはめてもらいましょう。
ただ自分では法的な過失割合の基準がわからない方が多いですし、被害者が自分で保険会社と交渉しても保険会社が過失割合を訂正してくれるとは限りません。
迷ったときには、交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士へ相談してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。