スタッドレスタイヤをはいていないと、過失割合が変わるって聞いたんだけれど本当?
今回の記事では、雪道事故の過失割合や、タイヤの種類によって変わってくる過失割合について、詳しくみていこう。
目次
ノーマルタイヤの雪道走行は道路交通法違反
雪道をノーマルタイヤで走行した場合、道路交通法違反になるのでしょうか。
道路交通法71条1項6号は、車両の運転手の遵守事項として、
「前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」
と定めています。
そして、東京都道路交通規則8条6号は、
「積雪又は凍結により明らかにすべると認められる状態にある道路において、自動車又は原動機付自転車を運転するときは、タイヤチェーンを取り付ける等してすべり止めの措置を講ずること。」
と定めています。
ですので、明らかに滑る雪道をノーマルタイヤで走行すると、道路交通法に違反することとなります。
また、道路交通法71条1項6号に違反した場合、道路交通法120条1項10号によって、5万円以下の罰金が科される可能性があります。
ただし、反則金を納めれば罰金を科されることはなく、反則金は、大型車7000円、普通車6000円、自動二輪車6000円、原動機付自転車5000円となっています。
雪道事故で過失割合が増えるケースとは
ノーマルタイヤでの走行
雪道をノーマルタイヤで走行していると、スリップしやすくなります。
スリップした場合、車が停止するまでの距離が長くなります。
スリップしたことによって交通事故が発生した場合や事故の損害が大きくなったような場合、ノーマルタイヤで走行していた車両の運転者の過失割合が高く評価されることになります。
例えば、信号のない道路における出合いがしらの交通事故などで、雪道であるにもかかわらず、一方の車両がノーマルタイヤであり、スリップしてしまったことが交通事故発生の原因である場合には、通常の過失割合から修正(ノーマルタイヤの車両の運転手に不利に修正)される可能性が高いといえます。
ちなみに、雪道において、スリップしないようにする措置としては、タイヤにチェーンを巻く、タイヤをスタッドレスタイヤにするなどといった方法があります。
溝が少ないタイヤでの走行
道路運送車両の保安基準の細目を定める告示は、タイヤの溝は1.6ミリメートル以上と定めています。
タイヤの溝が1.6ミリメートル未満となった場合、車検に合格することができません。
そして、車検に合格するか否かのタイヤの溝の深さは、ノーマルタイヤでもスタッドレスタイヤでも変わりはありません。
スタッドレスタイヤの溝が1.6ミリメートル未満の場合において、タイヤの溝が浅いためにスリップしてしまい、交通事故を発生させてしまった場合、タイヤの溝が浅い車両の運転者に過失割合が不利に修正されると考えられます。
ただ、スタッドレスタイヤは新品から50%以上、溝が浅くなると性能が失われてしまうという話があります。
新品のタイヤの溝が一般的に8ミリメートルと言われていますので、4ミリメートル未満になると雪道での性能が低下するということです。
実際のところ、スタッドレスタイヤの性能は、徐々に失われると考えられますので、過失割合において、1.6ミリメートル以上4ミリメートル未満のスタッドレスタイヤの溝が考慮されるかは、ケースバイケースということになります。
スリップ事故の過失割合
先ほど述べたとおり、タイヤの滑り止めの措置を講じなかったことが原因でスリップし、そのことによって交通事故が発生した、又は、損害が大きくなったという場合において、タイヤのスリップは過失割合において考慮されます。
では、例えば、前方車両が赤信号などで停止している場合において、後続車両がスリップして追突した場合はどうでしょうか。
一般的な追突事故は、後続車両の過失が100%です。
仮に、後続車両がスリップしたことを考慮したとしても、結局のところ、過失割合が100%を超えることはありませんので、結果として、後続車両のスリップは考慮されないこととなります。
追突事故においても、状況によって前方車両の過失が認定されることがあります。
例えば、前方車両が必要のない急ブレーキを踏んだときなどが典型例です。
しかしながら、急ブレーキに限定される必要はなく、例えば、前方車両がスリップしてしまって90度右に回転して急に後続車両の前方に立ち塞がってしまい、追突した場合などは、前方車両に過失が認められると考えられます。
そういった場合においては、前方車両のスリップが過失割合に影響を与えると考えられます。
雪道事故で任意保険は使えるのか
ただし、任意保険を使うと、次年度の保険料が上がってしまうから注意しよう。
雪道をノーマルタイヤで走行していることは道路交通法違反にはなるものの、それによって、任意保険が使えないということはありませんし、保険金の支払額が減額されることもありません。
ただし、任意保険を使用すると、保険等級が上がり(級の数は減ります)、次年度以降の保険料が高くなります。
雪道事故は専門家に相談
雪道での交通事故も、事故発生から早期の段階で、専門家に相談することが良いと考えられます。
最近の車両にはドライブレコーダーが設置されていることが多いので、ドライブレコーダーの動画や事故現場の写真等、客観的な証拠を保存して、相談に行くのが良いでしょう。
費用面その他の心配がある場合には、交通事故に関するADR(交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターなどがあります。)を検討するのも良いでしょう。

阿部栄一郎
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。2006年司法試験合格、2007年東京弁護士会登録。
交通事故、不動産、離婚、相続など幅広い案件を担当するほか、顧問弁護士として企業法務も手がける。ソフトな人当たりと、的確なアドバイスで依頼者からの信頼も厚い。交通事故では、被害者加害者双方の案件の担当経験を持つ。(所属事務所プロフィールページ)
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故の加害者・被害者には、誰でもなり得るものです。しかしながら、誰もが適切に交通事故の示談交渉をできるわけではありません。一般の人は、主婦が休業損害を貰えることや適切な慰謝料額の算定方法が分からないかもしれません。ましてや、紛争処理センターや訴訟の対応などは経験のない人の方が多いと思います。保険会社との対応が精神的に辛いとおっしゃる方もいます。
不足している知識の補充、加害者側との対応や訴訟等の対応で頼りになるのが弁護士です。相談でもいいですし、ちょっとした疑問の解消のためでもいいです。事務対応や精神的負担の軽減のためでもいいですので、交通事故に遭ったら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。