脳脊髄液減少症の疑いがあると言われたんだけれど、脳脊髄液減少症ってどんな症状なの?
脳は通常水分で覆われているんだけれど、その水分が外に漏れてしまう事で、むち打ちのような症状が改善しないんだ。
今回の記事では、脳脊髄液減少症はどんな症状なのか、どんな検査や治療が必要となるのかなど、詳しく説明するよ。
交通事故で頭部外傷を受けると「脳脊髄液減少症」という症状になってしまう可能性があります。
脳脊髄液減少症は、近年まで保険適用も認められていなかった症状で、研究もあまり進んでおらず、難しい症例です。
もしも交通事故で脳脊髄液減少症になってしまったら、適切に治療を受けて後遺障害認定請求をしなければなりません。
今回は、交通事故で脳脊髄液減少症について、解説します。
目次
脳脊髄液減少症について
脳脊髄液減少症とは
そもそも「脳脊髄液減少症(のうせきずいえきげんしょうしょう)」とはどのような傷病なのでしょうか?
これは、脳の「硬膜」が破れるなど損傷を受けることで、脳内の「髄液」という液体が外に漏れ出してしまう症状です。
脳脊髄液減少症を理解するためには、まずは「脳の構造」を知っておく必要があります。
人間の脳の仕組み
人間の身体は、脳や脊髄などに存在する「神経」による指令を受けて、動いているものです。
神経の中でも脳や脊髄の神経は人間が生きていくために非常に重要なものであり「中枢神経」と言われます。
そして、「硬膜」と呼ばれる硬い膜で覆われて守られており、硬膜の中は「髄液」という液体で満たされています。
脳は、その液体の中に浮いたような形で存在するのです。
脳自体は、とてもやわらかい組織であり、外傷性に強いものではありません。
まずは頭蓋骨でしっかりガードをして、硬膜によって覆い、さらに液体の中に存在することにより、脳は外からの衝撃から厳重に保護されているのです。
脳脊髄液減少症の原因
ここで、もう一度脳脊髄液減少症を見てみましょう。
脳脊髄液減少症は、脳の外側にある「硬膜」が損傷を受けて、中の髄液が漏れ出すことだと説明しました。
脳の硬膜内には液体がありますが、硬膜の外と中は、通常時には同じ圧力になるように保たれています。
ところが、中の髄液が漏れ出すと、内部の圧力が低下して、そのバランスが崩れてしまい、さまざまな症状につながるのです。
内圧が低下するため、脳脊髄液減少症は「低髄液圧症候群」と呼ばれることもあります。
脳脊髄液減少症になりやすいケースとは?
脳脊髄液減少症になりやすいのは、どのようなケースなのでしょうか?
これは、脳の硬膜が破れる(損傷を受ける)症状ですから、当然、頭部に強い衝撃を受けたときに発症しやすいです。
具体的には、交通事故被害者やスポーツによって、頭部に通常のものをはるかに超える強い衝撃を受けたときに発症することが多いです。
体幹に衝撃を受けたときに脊髄の髄液が漏れ出して、低髄液圧症候群になることもあります。
脳脊髄液減少症の研究は平成19年から研究班が組まれ、厚労省のからの補助金により研究が進められるようになったばかりであるため、まだ判明していないことも多いのが現状です。
交通事故と因果関係がなく、原因不明で発症することなどもあります。
脳脊髄液減少症の症状
脳脊髄液減少症では、起立性頭痛が起こるんだよ。
交通事故で脳脊髄液減少症になった場合、どのような症状が顕れるのでしょうか?
脳脊髄液減少症では、様々な機能障害が起こるのですが、代表的な症状を確認しましょう。
- 起立性頭痛
脳脊髄液減少症の主症状です。
起き上がったときに頭痛が強くなります。
横になると楽になることが多いです。
立ち上がると、脳が下の硬膜に触れてしまうことが原因とされています。 - 視力や聴力の低下
脳神経が損傷を受けるため、視力や聴力が低下してしまうことがあります。 - 頚部痛
首のあたりに痛みを感じます。
むちうちの症状と似ています。 - 全身倦怠
疲れやすくなります。 - めまい、吐き気、耳鳴り
めまいを起こしやすくなったり、ふとしたときに吐き気を感じたり耳鳴りが発生したりする方もおられます。 - うつ
精神的に落ち込みが激しく、うつ病となってしまう方もおられます。
むちうちと間違われることが多い
脳脊髄液減少症の症状は、むちうちと共通するものが多いです。
たとえば、頸部痛やはきけ、めまい、耳鳴り、倦怠感やうつなどは、むちうちで発症することが多いことが知られています。
そこで、脳脊髄液減少症になったとき「むちうち」と誤診されて、むちうちの治療(経過観察など)が適用されてしまうケースがあります。
しかし、それでは脳脊髄液減少症の症状は良くなりません。
きちんと治療を受けるには、「脳脊髄液減少症」であることを的確に発見する必要があります。
脳脊髄液減少症とむちうちの見分け方
むちうちと脳脊髄液減少症を見分けるには、どのようにしたら良いのでしょうか?
症状としての大きな違いは、起立性の頭痛です。
脳脊髄液減少症の典型的な症状ですが、むちうちの場合、特にこういった症状は知られていません。
また、一般的なむちうちの場合、時間が経過すると徐々に状態が良くなり、6ヶ月未満で改善することが多いのですが、脳脊髄液減少症の場合には長期化しますし、何もしなければ数年以上も症状が持続します。
脳脊髄液減少症の診断方法
検査方法をチェックしてみよう。
次に、脳脊髄液減少症の診断方法をご紹介します。
脳脊髄液減少症は比較的最近になって認知された症状です。
平成23年になって、ようやく厚生労働省が診断基準を公表し、現在ではその基準が使われています。
低髄液圧症の診断基準
起立性頭痛があることが必要。
それに足して、以下の2つの症状により、判断する。
- 60mm水柱以下の髄液圧
- びまん性硬膜肥厚造影所見(脳MRI)
まず、起立性の頭痛は脳脊髄液減少症の典型的な症状ですから、これが発生している必要があります。
①と②の両方があれば「確定」的に脳脊髄液減少症と診断されます。
①または②のどちらか一方の症状しかない場合にも「確実」とされます。
脳MRI撮影において、「びまん性硬膜肥厚造影所見」があるだけの場合には、「強疑」所見となります。
つまり、脳脊髄液減少症が強く疑われる、ということです。
これ以外の複数の「参考」所見がある場合には、「脳脊髄液減少症の疑いあり」となります。
脳脊髄液減少症の診断や検査の手順
具体的な診断方法は、以下の通りです。
問診
まずは、問診を行います。
症状やこれまでの経過、発症状況などを医師が確認します。
特に起立性頭痛や、体位による症状の変化は脳脊髄液減少症に典型的な症状ですので、診断に重要な要素となります。
めまいや耳鳴り、視力聴力の低下や自律神経症状などの有無や程度も確認されます。
脳や脊髄のMRI
髄液の減少は脳のMRI撮影によって確認することができます。
このとき、以下のような所見が見られると、脳脊髄液減少症となっている可能性があります。
- びまん性硬膜増強効果
- 脳下垂
- 硬膜下髄液貯留、硬膜下血腫
- 脳室狭小化
- 下垂体腫大
- 静脈、静脈洞拡張
なお、脊髄の低髄圧症候群の場合には、MRI所見で以下のようなものが確認できます。
- くも膜下腔外の液体貯留
- 硬膜外液体貯留
- 硬膜造影
- 硬膜外静脈叢拡張
放射性同位元素(RI)脳槽シンチグラフィー
放射性同位元素(RI)脳槽シンチグラフィーという検査方法もあります。
この検査では、腰にから硬膜へと細い針を刺しこみ(このことを腰椎穿刺と言います)、RIを髄液腔(くも膜下腔)へ入れます。
そして、ガンマカメラで頭蓋や脊椎を撮影することで、RIを介して髄液の流れを確認することができます。
正常な場合、硬膜からRIが漏れないのですが、脳脊髄液減少症の場合、漏れ出すので、硬膜外にRIが確認できます。
また、硬膜外へRIが漏れた場合、頭蓋円蓋部にRIが流入しなくなったり減ったりすることがあります。
さらに、急速に血管内にRIが吸収されるため、尿内にRIが写ることがあり、急速に尿として排泄されるので、体内のRI残存率が下がることもあります。
CTミエログラフィー
RI脳槽シンチグラフィーと同じように、腰に細い針を差し込んで髄腔内に造影剤を入れて、全身CTを撮影します。
このことにより、造影剤が髄腔から硬膜外へと造影剤漏出していないか、確認することができます。
MRミエログラフィー
ここまでご紹介した方法で脳脊髄液減少症を確認できないとき、試されることの多い検査方法が、MRミエログラフィーです。
これを使うと、髄液が漏れている部位を明確に描き出せる可能性がありますし、造影剤が不要で検査時間も短く、いろいろなメリットがあるので注目されています。
腰椎穿刺によって髄腔内に造影剤を入れてMRミエログラフィーを行う方法が有効という報告もあります。
脳脊髄液減少症の治療方法
交通事故で脳脊髄液減少症になってしまったら、どのように治療をすれば良いのかも知っておきましょう。
脳脊髄液減少症の治療方法には、以下の2種類があります。
安静にして水分補給
発症後1ヶ月以内の「急性期」には、2週間程度、横になって安静にすることが多いです。
症状の改善のためには水分摂取が重要なので、意識して水分を摂りますが、必要に応じて点滴を行うこともあります。
慢性期や重症のケース
発症後1ヶ月以上が経過した場合や、安静と水分摂取によっては改善しない重症のケースでは、別の対応が必要です。
重症のケースとは、たとえばRIによって髄液の漏出が確認された場合などです。
この場合「硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ)」という治療法を検討することが多いです。
硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ)
ブラッドパッチとは、髄液が漏れ出している場所の知覚で、硬膜の外側から患者本人の血液を針で注入し、その血液によって、漏れを塞いでしまう方法です。
「血液(ブラッド)」により「パッチ」をするので、「ブラッドパッチ」と言われます。
ブラッドパッチを行うと、1回で20%程度の患者さんが改善するという報告があります。
1回では効果が出なかった場合には、何度か繰り返してブラッドパッチを行います。
1年治療を続けると、7割程度が改善すると言われています。
ただし、ブラッドパッチには副作用もあります。
たとえば、針を刺して注入するときに強い痛みや放散痛を感じることがありますし、脊髄の神経を圧迫するために、痛みやしびれ、知覚低下や尿失禁などが発生することなどがあるのです。
頭痛や微熱、髄液漏や感染なども起こる可能性があるとされています。
脳脊髄液減少症で認められる後遺障害の等級
脳脊髄液減少症と診断された場合の等級や慰謝料、逸失利益などについて、詳しく見てみよう。
等級
脳脊髄液減少症になってしまった場合、治療を受けても完治に至らないことがあり、その場合、後遺障害等級認定を受けることができます。
裁判例にて脳脊髄液減少症で判決として認められる可能性のある後遺障害等級は、一般的には以下の通りです。
- 9級10号
神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの - 12級13号
局部に頑固な神経症状を残すもの - 14級9号
局部に神経症状を残すもの
それぞれの後遺障害慰謝料と労働能力喪失率は、以下の通りです。
後遺障害慰謝料
- 9級10号の場合、690万円
- 12級13号の場合、290万円
- 14級9号の場合、110万円
労働能力喪失率
労働能力喪失率は、後遺障害の「逸失利益」を計算するための基準となる数値です。
脳脊髄液減少症で、起立性の痛みやめまい、耳鳴り、吐き気などのさまざまな症状が出ると、その分仕事の効率が悪くなって、労働能力が低下すると考えられます。
そこで、労働能力が減少した分、減収が発生すると言えるので、その分を「逸失利益」として、加害者に請求することができるのです。
後遺障害の等級ごとに労働能力喪失率が異なり、当然、等級が上がるほど数値が上がり、逸失利益も高額になります。
具体的な労働能力喪失率の数字は、以下の通りです。
- 9級10号の場合、35%
- 12級13号の場合、14%
- 14級9号の場合、5%
脳脊髄液減少症により後遺障害認定を受ける場合には
脳脊髄液減少症となり、後遺障害認定を受けるためには、どのようなことに注意したら良いのでしょうか?
以下で、適切に後遺障害認定を受けるための工夫すべきポイントをご紹介します。
専門医を受診する
まずは、脳神経の専門医の医療機関を受診する必要があります。
脳脊髄液減少症は、最近になってようやく認知されてきた症状であり、これまでは「原因不明」「むちうち」などとして片付けられてきたものです。
そこで、あまり詳しくない医師の場合、この症状のことを把握していない可能性があります。
むちうちなどと誤診されてしまったら、必要な治療も受けられないまま辛い症状を抱えて放置されることになりかねません。
また、必要な問診や検査を受けられないので、後遺障害認定につなげることもできず、治療期間が一定になると治療費を打ち切られて示談して終わり、ということになる可能性もあります。
まずは、脳脊髄液減少症であるという診断をきちんと受けて、必要な治療と検査を受けることが、後遺障害認定の第一歩となります。
自覚症状の説明方法
脳脊髄液減少症では、自覚症状の説明も重要です。
特に14級9号の場合、明確な「起立性の頭痛」があるかどうかが重大な診断基準となっています。
後遺障害認定の際にも、事故当初からのカルテを参照されて、継続的に起立性の痛みが発生しているかどうかを精査されます。
そこで、事故当初の段階から主治医に対し、「頭痛があること」と「どのような場合に痛みが発生するのか、どんな風にすると痛みが増強するのか、または楽になるのか」を告げて、カルテに記載してもらうことが大切です。
必要な検査をすべて受ける
脳脊髄液減少症を証明するためには、各種の画像検査を受けることが重要です。
MRIだけではなく、RIの脳槽シンチグラフィーやCTミエログラフィー、MRミエログラフィーなども重要となります。
ブラッドパッチによって顕著な症状改善があった場合などにも脳脊髄液減少症の参考所見として後遺障害認定につながるので、こうした検査や措置を的確に受けて、脳脊髄液減少症の証拠を積み立てていくことが大切です。
脳脊髄液減少症で、弁護士に相談する必要性
最後に、脳脊髄液減少症となった場合に弁護士に相談する必要があるのか、考えてみましょう。
的確なアドバイスを受けられる
交通事故に遭ったとき、ただでさえ自分ではどうしたらよいかが分からない方が多いものです。
それだけではなく、脳脊髄液減少症については専門医も少なく、どこへ行っても正しい対処方法を教えてもらうことができないので、途方に暮れてしまうケースもあります。
事故当初から、どのようなことに注意して生活や通院などすれば良いのかも、分からないことが普通でしょう。
そのようなとき、弁護士に相談をすると、とるべき対応について、的確にアドバイスしてもらうことができます。
そうすれば、自信を持って正しい選択ができますし、後の後遺障害認定にもつなげやすくなります。
後遺障害認定請求を任せられる
後遺障害等級認定の手続きは、自分でするとなかなか難しいことが多いです。
期待していたような等級の認定を受けられないこともありますし、そもそも後遺障害として認定されないこともあります。
弁護士であれば、必要な医学的知識や後遺障害認定基準についての知識、手続を進める際のノウハウなども持っているので、より確実に高い等級の認定を受けやすくなります。
手続きを弁護士に任せて自分は治療に専念することも可能です。
まとめ
脳脊髄液減少症は、非常に難しい症状ですが、最近では診断基準も明確となり、交通事故の後遺障害としても認められています。
お心当たりのある方は、よろしければ弁護士に相談してみてはいかがでしょうか?
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。