自分が加入している任意保険のオプションとして、弁護士特約に加入していれば、弁護士の費用不安がなく、依頼することができるんだよ。
利用できない場合もあるの?
今回の記事では、弁護士特約が利用できる場合とできない場合について、詳しく見ていこう。
人身事故などの交通事故に遭ったとき、弁護士に依頼することで、任意保険基準や自賠責保険基準ではなく、弁護士基準での計算となり、慰謝料などの賠償金額を大幅にアップすることが可能となります。
相手保険会社が弁護士を立ててきた場合にも、弁護士に依頼する方が安心です。
弁護士に依頼すると、費用がかかってしまうからと不安に感じてしまう人が多いのですが、自動車保険に「弁護士特約(弁護士費用特約)」をつけておくと、無料もしくは非常に低い金額で弁護士に示談交渉などの対応を依頼することができるので、メリットが大きいです。
ただ、せっかく弁護士費用特約をつけていても、場合によっては特約が利用できないケースがあります。
具体的には、どのようなケースで特約が適用されないのでしょうか?
今回は、交通事故で利用できる弁護士特約のことと、特約を利用できないケースについて解説します。
目次
- 1 弁護士特約とは
- 2 弁護士特約を利用できる具体的なケース
- 3 弁護士特約の利用条件
- 4 弁護士費用特約を利用できない場合とは
- 4.1 被保険者の故意や重過失によって事故が発生したケース
- 4.2 無免許運転や薬物摂取状態、飲酒運転での交通事故
- 4.3 闘争行為や自殺行為、犯罪行為などによって事故を起こしたケース
- 4.4 権利者の許可なく勝手に運転して事故を起こしたケース
- 4.5 特定の人に損害賠償請求を行う場合
- 4.6 地震、噴火、津波や台風、洪水、高潮により発生した事故による損害
- 4.7 被保険者が所有、管理する物の欠陥や摩滅による事故
- 4.8 自動車に適切に乗車していなかった場合、異常かつ危険な方法で車に乗っていた場合
- 4.9 日常生活の事故など、交通事故ではない場合
- 4.10 自家用バスを運転していたケース
- 4.11 自動車検査証に「事業用」と書かれている車を運転していたケース
- 4.12 相手が自転車の交通事故
- 4.13 業務中の事故
- 4.14 自分が加害者となるケース
- 5 過失割合がある場合でも弁護士特約を利用できる
- 6 保険会社の裁量によって弁護士費用特約を利用できないことがある?
- 7 交通事故に遭ったら、弁護士費用特約を使おう!
弁護士特約とは
そもそも、弁護士費用特約(弁護士特約)とはどのようなものなのか、簡単におさらいしておきましょう。
弁護士費用特約は、自分が加入する自動車保険につけておく特約の1種です。
弁護士費用特約をつけておくと、交通事故に遭ったとき、自分の自動車保険会社が、かかった弁護士費用を負担してくれます。
法律相談料なら1つの交通事故で10万円まで支払ってもらえますし、示談金や裁判などの事件解決にかかる費用なら、1つの被害事故で300万円まで保険会社に負担してもらうことができます。
このように、弁護士費用特約を利用すると、交通事故でかかる弁護士費用負担が大きく軽減されるので、運悪く事故に遭ってしまったときには是非とも利用したいところです。
弁護士特約を利用できる具体的なケース
相手が歩行者や自転車事故の場合には、利用できないから注意しよう。
それでは、弁護士費用特約を利用できるのは、どういった場合なのでしょうか?
以下で、具体的な適用場面を確認しましょう。
交通事故に遭った場合(歩行中、自転車の乗車中を含む)
まず、自動車保険の弁護士費用特約が適用されるのは、交通事故に遭った場合です。
たとえば、転倒や火災に巻き込まれたなど、他の原因による事故の場合には、弁護士費用特約は適用されません。
ただ、相手が自動車の交通事故であれば、基本的にどのようなものでも適用されます。
自分が自転車であっても歩行中であっても、相手が四輪車や単車、原付などであれば、特約を利用できるということです。
家族が交通事故に遭った場合
弁護士費用特約は、契約者のみならず家族が交通事故に遭ったケースでも適用されます。
たとえば、家族が車を運転していたケース、家族が保険の対象者以外の車に乗車していたケース、家族が歩行中や自転車に乗っていて交通事故に遭ったケースなどでも、弁護士費用特約を利用できる可能性があります。
契約自動車に乗車していた場合
自動車保険に加入するときには「契約自動車」を指定します。
契約自動車とは、保険の対象となる自動車です。
そして、弁護士費用特約は、契約自動車に乗車していた人すべてに適用されます。
そこで、契約自動車が事故を起こしたときには、たとえ家族ではなく友人や知人などであっても、乗車していた人には弁護士費用特約が適用されます。
契約自動車を所有していた場合
契約自動車の「所有者」と「運転者」が異なるケースがあります。
たとえば、人に貸して車を運転させているような場合です。
このような場合に契約自動車が事故を起こすと、車の所有者にも損害が発生することがあります。
その場合、契約自動車の所有者にも弁護士費用特約が適用されるので、無料で弁護士に相談したり依頼したりすることができます。
弁護士特約の利用条件
このように、弁護士費用特約が適用される場面は非常に広いのですが、具体的な利用条件は、どのようになっているのでしょうか?
一般的な保険約款では、以下のような条件のもとに弁護士費用特約が適用されます。
記名被保険者が交通事故に遭った
記名被保険者とは、「保険がかかっている人」のことです。
契約者と一致することが多いですが、一致させないケースもあります。
たとえば、車をよく運転する人と契約者が異なる場合には、運転する人を被保険者として、契約者と分けることがあります。
記名被保険者は、弁護士費用特約を利用できます。
歩行中でも自転車に乗っているときの事故でも、相手が自動車であれば弁護士費用特約が適用されます。
記名被保険者の配偶者が交通事故に遭った
記名被保険者だけではなく、その配偶者が交通事故に遭ったときにも弁護士費用特約が適用されます。
たとえば、妻が自動車保険に入っておらず、車にも乗らないけれども歩行中に車にはねられたケースにおいて、夫が自動車保険に加入していたら、夫の弁護士費用特約を利用して、妻が弁護士に依頼できる可能性があります。
記名被保険者またはその配偶者の同居の親族
記名被保険者や配偶者だけではなく、同居の親族も弁護士費用特約を利用できる可能性があります。
記名被保険者または配偶者と同居していれば良いので、たとえば被保険者とは別居していても、配偶者と同居している配偶者の親などが弁護士費用特約を利用できます。
同居の場合、特に子どもなどに限定されていないので、親や兄弟であっても弁護士費用特約が適用されます。
記名被保険者またはその配偶者の別居の未婚の子
次に、記名被保険者や配偶者と「別居している子ども」にも弁護士費用特約が適用される可能性があります。
別居している場合には、適用される子どもは「独身」である必要があり、既婚の場合には、親の弁護士費用特約を利用することができません。
また、別居の親族で弁護士費用特約が適用される可能性があるのは「子ども」のみであり、別居の親や兄弟姉妹などには弁護士費用特約が適用されません。
上記以外の者で、契約自動車に搭乗中の者
上記で紹介した人(記名被保険者本人、配偶者、同居の親族、別居の未婚の子ども)以外であっても、「契約自動車」に乗車していた人は、弁護士費用特約を利用することができます。
たとえば、友人の車に乗せてもらっていたときに交通事故に遭ったとして、その車が自動車保険の弁護士費用特約をつけていたら、その車の弁護士費用特約を使って弁護士に対応を依頼することができます。
上記以外の者で、契約自動車の所有者
先にも少し説明しましたが、契約自動車の所有者も、弁護士費用特約を利用することができます。
たとえば、自分の車を人に貸していて事故が発生した場合、自動車の物損事故被害を加害者に賠償金請求することができますが、その際には、弁護士費用特約を使って、無料で弁護士に対応してもらうことができます。
弁護士費用特約を利用できない場合とは
その他にも弁護士特約を利用できないケースを詳しく見ていこう。
以上に対し「弁護士費用特約を利用できないケース」があります。それはどういった場合なのでしょうか?
以下で、順番に確認しましょう。
被保険者の故意や重過失によって事故が発生したケース
まずは、被保険者自身の故意や重過失によって交通事故が発生したケースです。
このような場合、被害者を保護する必要性が小さく、被害者自身が交通事故を引き起こしたとも言えるので、弁護士費用特約が適用されません。
ただし、後に詳しく説明しますが、被害者に過失があったら一切弁護士費用特約が適用されないという意味ではありません。
過失があっても特約は適用されます。
無免許運転や薬物摂取状態、飲酒運転での交通事故
たとえば自動車の運転者が無免許であった場合や、飲酒や薬物によって正常に運転できない状態で、車を運転して交通事故を起こした場合には、弁護士費用特約が適用されません。
このような場合にも、やはり被害者を保護する必要性が小さいからです。
たとえば、麻薬や大麻、あへんや覚せい剤、シンナーなどの禁止薬物もそうですし、脱法ドラッグの影響があった場合にも弁護士費用特約は使えません。
闘争行為や自殺行為、犯罪行為などによって事故を起こしたケース
たとえば横を走っている車と闘争していたり、自殺のために危険な場所に突っ込んだり犯罪を犯そうとしたりして交通事故を起こした場合には、弁護士費用特約は使えません。
権利者の許可なく勝手に運転して事故を起こしたケース
たとえば、盗んだ車など、所有者や権利者の許可を受けずに勝手に車を運転して交通事故を起こした場合には、弁護士費用特約を利用できません。
特定の人に損害賠償請求を行う場合
以下の人に損害賠償請求する場合、弁護士費用特約は適用されません。
- 記名被保険者やその家族
- 契約自動車の所有者
基本的には弁護士費用特約が適用されるシーンであっても、損害賠償の相手方によっては特約を利用できないケースがあります。
まず、被保険者やその家族相手に賠償請求をするときには、特約が適用されません。
自動車保険は、第一義的には被保険者やその家族を守るためのものだからです。
次に、契約自動車の所有者に対する損害賠償請求を行う場合にも、やはり弁護士費用特約は適用されません。
自動車に乗車しているときに事故に遭ったら、自動車の所有者には「運行供用者責任」という責任が発生するので、所有者に損害賠償請求することができますが、そのときには弁護士費用特約を使うことはできないということです。
地震、噴火、津波や台風、洪水、高潮により発生した事故による損害
こうした天変地異にもとづく被害の場合には、弁護士費用特約が適用されません。
被保険者が所有、管理する物の欠陥や摩滅による事故
交通事故の原因が、被保険者が所有、管理する物の欠陥や摩耗、サビなどによる場合には、弁護士費用特約が適用されません。
自動車に適切に乗車していなかった場合、異常かつ危険な方法で車に乗っていた場合
たとえば、自動車から大きく身を乗り出して危険な運転をしていたケースやトランクに入っていたケースなど、予定されている乗車方法を逸脱していた場合には、弁護士費用特約が適用されません。
日常生活の事故など、交通事故ではない場合
弁護士費用特約が適用されるのは、「交通事故」のみですので、日常生活の事故には適用されません。
ただ、一般の傷害保険などにも弁護士費用特約がついていることがあり、そういったものであれば、日常の事故でも特約を利用できる可能性があります。
自家用バスを運転していたケース
車両の用法用途が「自家用バス」である場合には、基本的に弁護士費用特約を利用できません。
ただし、保険会社によってはこうした自動車であっても特約が適用されることがあります。
保険に加入する際に、特約が適用されるかどうか、確認しておきましょう。
自動車検査証に「事業用」と書かれている車を運転していたケース
事業用の車には、弁護士費用特約が適用されないことが多いです。
ただし、当初から事業用自動車であることを保険会社に通知した上で保険に加入していたら、特約が適用されるケースがあります。
保険に加入する際に、対象車でも弁護士費用特約が適用されるのか、確認しておきましょう。
相手が自転車の交通事故
自分が歩行者や自転車で、相手も自転車の交通事故では弁護士費用特約を利用できないことが多いです。
相手は自動車や単車、原付などである必要があります。
業務中の事故
業務中に交通事故が発生した場合には、弁護士費用特約が適用されない可能性があります。
具体的な取扱いは保険会社によって異なるので、加入の際にきちんと確認しておきましょう。
また、保険会社の担当者であっても、正確に弁護士費用特約の適用の可否を理解していないことがあるので、約款などを見て、自分の目でも確認しておくことが大切です。
自分が加害者となるケース
自動車保険の弁護士費用特約は、交通事故被害者のための制度ですので、依頼者が交通事故の加害者の場合には、弁護士費用特約は適用されません。
たとえば、事故を起こして被害者から損害賠償請求をされたり、起訴されて刑事事件になったりした場合に弁護士費用特約を使って弁護士に依頼することはできません。
弁護士費用特約を利用できるのは、自分が被害者として、相手に損害賠償請求をするケースに限られます。
過失割合がある場合でも弁護士特約を利用できる
上記では、被害者に故意や重過失があったら弁護士費用特約を利用できないと説明しましたが、このように説明すると「被害者に過失割合があると、弁護士費用特約を使えない」と思ってしまう方がいます。
しかし、そのようなことはありません。
弁護士費用特約が適用されない「故意または重過失」については、被害者に相当大きな過失があるケースに限られます。
たとえば、上記で例示されているように、飲酒運転や薬物摂取状態での運転、危険な乗車方法をとっていた場合などに匹敵するほどの重過失であると考えると良いでしょう。
そこで、たとえば被害者に3割や4割程度の過失があっても、弁護士費用特約は適用されます。
特約を利用できないのは、追突事故のような被害者の過失が10割やそれに近いケースに限られてきます。
保険会社の裁量によって弁護士費用特約を利用できないことがある?
交通事故の被害者が弁護士費用特約を利用する場合には、加入している保険会社に連絡を入れて、「弁護士費用特約を使いたい」と申し出る必要があります。
このとき、保険会社が弁護士費用特約の適用に消極的な態度を取るため、被害者の方が「弁護士費用特約が使えないのか?」と思ってしまうことがあり、注意が必要です。
実際に、保険約款を確かめてみると「保険会社が同意した場合に限り、弁護士費用特約が適用される」という旨の条項が入っていることもあります。
保険会社が拒絶したら、弁護士費用特約を利用できないのでしょうか?
実際には、このような条項があったとしても、弁護士費用特約の適用に際して保険会社に全面的な裁量が認められるわけではありません。
特約が適用されるべき場面であれば、基本的に保険会社は特約の適用を否定することはできないのです。
当初から契約をして、弁護士費用特約の分の自動車保険料も支払っているのですから、これは当然のことと言えます。
そこで、特に自分に非がなく、天変地異などの適用除外事由もないにもかかわらず、保険会社が弁護士費用特約の適用に消極的な場合には、諦める必要はありません。
きちんと契約内容を主張して、特約を適用してもらいましょう。
また、保険会社が、保険会社の顧問弁護士を勧めてきた場合でも、必ずしもその弁護士に依頼しないといけないわけではありません。
保険会社にもよりますが、自分で弁護士を選べるケースも多いので、相談するときには交通事故トラブルに注力している弁護士を探してみると良いでしょう。
交通事故を普段からよく取り扱っている弁護士は、弁護士費用特約についても詳しいことが多いので、特約適用の可否などについて対応に迷ったときでも、一度相談を受けてみることをお勧めします。
交通事故に遭ったら、弁護士費用特約を使おう!
ありがとう!
最近の自動車保険には、弁護士費用特約がセットになっていることが多いので、自分でも意識せずに弁護士費用特約をつけている方が多いです。
また、弁護士費用特約は、一般で理解されているよりも適用場面が広いため、弁護士費用特約が使えるのに気づかずに放置してしまう方も多いです。
そのようなことは非常にもったいないですし、弁護士費用特約を利用しても、保険等級が下がることもありません。
交通事故に遭ったら、自分や家族の自動車保険加入状況を調べて、利用できるのであれば是非とも弁護士費用特約を適用してもらいましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。