交通事故の損害賠償請求には時効があるって聞いたんだけれど本当?
そうなんだ。
交通事故の賠償請求には時効があるから、時効が成立してしまうと、賠償金などの示談金を受け取ることが出来なくなってしまうんだよ。
どの位の期間が経過すると時効になるの?
事故の状況によって時効の起算点は変わってくるんだよ。
今回の記事では交通事故による損害賠償請求の時効や、時効をストップさせる方法について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭ったときには、被害者請求権によって、加害者側から治療費や慰謝料などの賠償金を受け取ることができます。
ただ、事故からあまりに長い日にちが経ちすぎると、保険金請求権が時効にかかり、もはや慰謝料などを支払ってもらえなくなる可能性があるので、注意が必要です。
事故発生から時効が成立するまでの期間や起算日は、交通事故の種類によっても異なります。
今回は、交通事故の損害賠償請求権の時効について、解説します。
交通事故による損害賠償請求に時効がある!
交通事故に遭ったら、通常は加害者の保険会社と示談交渉を進めて賠償金を支払ってもらうことができるものです。
しかし、交通事故後、相当な期間が経過すると、損害賠償請求権が「時効」にかかります。
時効が成立すると、「損害賠償請求権」、「保険請求権」という権利そのものが消滅してしまいますので、もはや相手に対して賠償金の請求ができません。
保険会社に対して示談を持ちかけても、保険会社は話合いに応じてくれなくなりますし、加害者個人に対して支払い請求することもできません。
重大な後遺障害が残ったケースや死亡事故のケースでも同じであり、損害額が大きいからと言って特別扱いはありません。
そこで、交通事故に遭った場合には、なるべく早めに損害賠償請求手続を進めて、支払いを受けてしまうことが大切です。
損害賠償請求権の時効の根拠と期間
時効が成立する場合には、どんな決まりがあるの?
被害者と加害者が事故を起こしたことを知ってから3年というのが時効の考え方の基本となるんだよ。
それでは、交通事故の損害賠償請求権には、どのような理由で時効が認められるのでしょうか?時効期間についても、合わせて確認しておきましょう。
まず、交通事故の損害賠償請求権は、法律的に「不法行為にもとづく損害賠償請求権」というものです(民法709条)。
加害者が、自動車を運転する際の過失によって、被害者を死傷させているため、不法行為が成立するのです。
そして、民法上、不法行為にもとづく損害賠償請求権の時効期間は、「被害者が損害及び加害者を知ってから3年」とされています(民法724条)。
そこで、交通事故の損害賠償請求権は、被害者が「交通事故にもとづく損害の発生」と「加害者」の両方を知ったときから3年間で時効にかかって消滅します。
なお、交通事故で被害者が加害者に対して請求する権利としては「運行供用者責任」もあります。
これは、自動車の運行を支配し、運行から利益を受けていることによって生じる責任です。
運行供用者責任についても、不法行為の時効の規定が準用されているので、やはり同じように「損害及び加害者を知ってから3年間」で時効消滅します。
交通事故ごとの時効の数え方
どんな事故になると、時効の期間が変わってくるの?
加害者が誰かわからないような場合や、後遺障害が残るような場合には、交通事故を起こした時が起算点ではなくなるんだ。
交通事故の種類による時効の違いを詳しく説明するね。
「損害及び加害者を知ってから3年間」と言われても、それが具体的にどのくらいの間なのかわからないことが多いでしょう。
実は、交通事故の時効期間の数え方は、以下のような交通事故の類型ごとに異なっています。
- 物損事故
- 人身事故(傷害。後遺障害なし)
- 人身事故(後遺障害あり)
- 死亡事故
- ひき逃げ事故、当て逃げ事故
それぞれのケースについてどのように時効期間を計算するのか、見てみましょう。
物損事故の場合
まずは、物損事故のケースです。
物損事故の場合には、損害発生を知った日も加害者を知った日も、両方とも交通事故が発生した日となります。
そこで、交通事故が発生した日から3年間が経過すると、損害賠償請求権が時効消滅します。
ただし、民法には、「初日不算入の原則」という決まりがあります。
これは、期間を計算するときに、初日を計算に入れないという考え方です。
初日は、まるまる24時間に足りないので、初日を入れると、期間が本来より短くなってしまうからです。
そこで、物損事故の場合、正確には「交通事故の翌日から3年」が経過した時点で損害賠償請求ができなくなります。
人身事故の場合(傷害、後遺障害なし)
次に、人身事故の場合を見てみましょう。
人身事故は、傷害事故と死亡事故に分けられ、傷害事故はさらに、後遺障害のあるなしによって分類できます。
ここでは、人身事故で、被害者側が傷害を負ったけれども後遺障害が残らなかったパターンを検討します。
この場合、被害者が損害発生を知った日も加害者を知った日も、交通事故があった日となります。
そこで、物損事故のケースと同様、交通事故日を基準として時効期間をカウントします。
ただし、この場合も「初日不算入の原則」があるので、「交通事故日の翌日から3年間」が経過した時点で損害賠償請求権が時効消滅します。
人身事故(後遺障害あり)
次に、人身事故の中でも、被害者が傷害を負い、後遺障害が残ったケースを見てみましょう。
この場合、後遺障害が確定するまでの間は損害内容が確定しないので、時効期間が進行しません。
そして、後遺障害が確定するのは「症状固定」したときです。
そこで、後遺障害が残る事案では、症状固定した日を基準として、時効を計算します。
症状固定日は、基本的に担当医が判断し、後遺障害診断書に書き込んでくれるので、その日を基準に3年が経過したら、損害賠償請求をできなくなると考えましょう。
また、この場合にも、やはり初日不算入の原則が適用されるので、正確には「症状固定日の翌日から3年間」が損害賠償請求権の時効期間となります。
死亡事故の場合
続いて、死亡事故のケースを見てみましょう。
死亡事故で損害が確定するのは、被害者が死亡したときです。
そこで、基本的には死亡した日を基準に時効期間を計算します。
即死事案ではなく、交通事故後被害者がしばらく生きて、その後死亡したケースであっても、時効期間は死亡日を基準とします。
ただし、この場合にも初日不算入の原則が適用されるので、正確には死亡日の翌日から数えて3年間で、損害賠償請求権が消滅します。
ひき逃げ、当て逃げのケース
ひき逃げや当て逃げの場合には、上記のケースとは異なる考え方が適用されます。
損害賠償請求権の時効期間がカウントされるのは「損害及び加害者を知ってから」です。
しかし、ひき逃げや当て逃げの場合、加害者が不明な場合があります。
その場合、損害発生についてはわかっていても、加害者の損害がわからないので、時効期間が進行しません。
そこで、ひき逃げや当て逃げで加害者が不明なケースでは、加害者が判明するまで時効期間が経過せず、除斥期間が経過する前であれば、いつまでも賠償請求できる可能性があります。
ただし、ひき逃げや当て逃げの場合でも、加害者が判明していれば、通常の事故と同様の時効の計算方法となります。
除斥期間とは
交通事故の損害賠償請求権の時効に関連して、もう1つ押さえておくべき知識があります。それは「除斥期間」です。
除斥期間とは、その期間が過ぎると、当然に権利が消滅するという期間です。
時効のように、権利者が「知っているか知らないか」という主観に関わりませんし、権利者が「援用」しなくても、裁判所が勝手に権利消滅を認定してしまいます。
損害賠償請求権の場合「不法行為時から20年間」が経過すると、除斥期間が経過して、権利が完全に消滅します。
交通事故の場合「不法行為時」は「交通事故発生時」です。
そこで、交通事故後20年が経過すると、たとえひき逃げや当て逃げなどで加害者不明なケースでも、損害賠償請求ができなくなります。
また、除斥期間の場合、物損事故、人身事故、死亡事故などの違いはなく、事故後20年の経過をもって、同じように権利が完全消滅します。
時効になりやすい交通事故のケース
実際に時効になってしまう事もあるの?
保険会社としては、時効になれば賠償金を支払う必要がないから、被害者が示談交渉を進めてこない場合には、そのまま時効にしてしまうような事もあるんだよ。
その他にも死亡事故の場合や、通院が長引いている場合など、被害者と中々示談を進める事ができないような場合、時効になってしまう事もあるね。
以上のように、損害賠償請求権に時効が成立すると、もはや賠償金を請求できなくなってしまうので、被害者にとっては重大な問題です。
交通事故の中でも、特に時効にかかりやすい事故のパターンはあるのでしょうか?以下で見てみましょう。
示談交渉が難航するケース
交通事故で賠償金請求権が時効にかかりやすい例として「示談交渉が難航するケース」があります。
たとえば、被害者が、比較的軽傷であるにもかかわらず長期にわたって通院していると、加害者の保険会社が「治療と交通事故に因果関係がないから治療費を支払わない」と言って、もめごとになる例などがあります。
また、加害者の保険会社が被害者に対し、「過失割合が高いので、賠償金を払わない」などと言って、当初から支払いの態度を示さない例などもあります。
このような場合、被害者と加害者の間でまったく示談交渉が進まなくなってしまいます。
被害者が訴訟などの別の手続きを利用して請求手続をとらないと、時間だけがどんどん経過して、時効が完成してしまいます。
治療が長期に及ぶケース
次に、被害者の治療期間が長期に及ぶパターンがあります。
たとえば、むちうちでも被害者が2年以上通院するケースがあります。
すると、通院を終了するまでの間、示談交渉を開始できません。
このとき、後遺障害が残れば症状固定時を基準として時効を計算するので、あまり切羽詰まった状態にはなりませんが、後遺障害が残らなければ、交通事故日が基準となるので、治療終了後早急に示談を成立させないと、時効が成立してしまう可能性があります。
また、治療期間が3年以上に及ぶ場合には、治療中に時効が成立してしまうことも考えられます。
交通事故後、治療期間が長期に及ぶ場合には、特に損害賠償請求権の時効の問題に注意しておく必要があります。
後遺障害に争いがあるケース
もう1つ、多いのが後遺障害に争いがあるケースです。
後遺障害については、加害者の自賠責保険会社において認定が行われるのですが、認定結果に争いが発生することも多いです。
納得できない場合、被害者は異議申し立てすることができますが、異議申し立てには回数制限や期間制限がありません。
そこで、被害者が時間をかけて何度も被害者請求を行い、異議申し立てを繰り返していると、期間がどんどん経過してしまいます。
また加害者請求により、後遺障害の認定結果に納得できないからと言って、加害者の任意保険会社との示談をせず放置していると、その間に3年が経過してしまうこともあります。
死亡事故のケース
死亡事故の場合にも、時効にかかる可能性が高まるので注意が必要です。
死亡事故では、被害者自身が示談交渉を進めることができないので、相続人である遺族が保険会社と示談交渉をすることになります。
このとき、相続人が複数いたら、相続人の代表者を決めて、その人を窓口にして示談交渉を進めなければなりません。
それぞれの相続人がばらばらに示談交渉を進めようとしても、保険会社は受け入れないからです。
ところが、相続人同士でまとまりがもてないケースもあります。
代表者を誰にするかを決められずに時間が経過してしまうこともありますし、連絡を取りにくい相続人がいて、委任状をもらえない場合などもあります。
また、死亡事故では、遺族の心痛や精神的苦痛が強すぎて、示談交渉に前向きになれないケースもあります。
事故のことを忘れたいので、保険会社から連絡が来ても放置してしまう方がおられます。
しかし、そうして時間が経過すると、やがて損害賠償請求権が時効にかかり、賠償金そのものの受け取りができなくなってしまいます。
ひき逃げ、当て逃げのケース
ひき逃げや当て逃げ被害の場合には、そのまま犯人が見つからず、放置していて時効が成立してしまうことがあります。
これらのケースでも、加害者が判明していたら3年で時効となりますし、加害者が不明なケースでも、20年が経過すれば除斥期間で損害賠償請求が封じられます。
ひき逃げ、当て逃げのケースでは、早めに犯人を検挙してもらい、犯人が見つかったらすぐに賠償請求をすることが重要です。
時効を中断する方法
時効ギリギリになってしまった場合、時効を中断させる方法はないの?
訴訟を起こすことで、時効は中断させることが可能だよ。
その他の時効の中断方法について、詳しく見ていこう。
このように、交通事故の損害賠償請求には時効があり、所定の期間が経過すると、損害賠償請求できなくなるのが原則です。
しかし、さまざまな事情で時間が経過して、時効が成立しそうになってしまうこともあります。
そんなとき、時効を止めることはできないのでしょうか?
時効の中断とは
実は、時効には中断という手続きがあります。
時効の中断とは、一定の事情が発生したときに時効の進行が止まり、また始めから、期間の数え直しになることです。
たとえば、時効期間が2年経過した時点で時効の中断が発生すると、0に巻き戻り、そのときから3年間が経過しないと時効が成立しなくなります。
中断を繰り返していると、除斥期間が経過するまでの間、延々と権利を維持し続けることができます。
ただし、除斥期間には中断は認められないので、交通事故後20年が経過したときには、権利消滅を受け入れるしかありません。
以下では、どのようなときに時効が中断するのか、確かめていきましょう。
債務承認
時効が中断する1つ目のケースは「債務承認」です。
債務承認とは、債務者自身が「債務があります」と認めることです。
口頭でも債務承認が成立しますが、証拠を残すためには書面を取っておくことが重要です。
また、債務の一部を支払った場合にも、債務承認が成立します。
交通事故の場合、任意保険会社が一部の保険金や仮渡金を支払うか、書面で債務承認をすれば、時効が中断します。
ただ、示談交渉で争いになっている場合には、債務承認をしてほしいと言っても断られる可能性が高いでしょう。
訴訟を起こしたとき
交通事故の損害賠償請求権の時効を中断させるもっとも有効な方法は、損害賠償請求訴訟を起こすことです。
「裁判(訴訟)」は、時効の中断事由となっているからです。
訴訟を起こすと、訴訟提起時に時効が中断するので、裁判の途中で3年の時効期間が経過しても権利が消滅することはありません。
また、訴訟によって判決が出て確定すると、そのときから10年間、時効が延長されます。
そこで、時効が成立しそうな場合、保険会社に対して損害賠償請求訴訟を起こすと、時効の進行を確実に止めて権利を守ることができます。
内容証明郵便で請求する
ただ、いきなり訴訟を起こすと言っても、急にはできないこともあります。
訴訟を起こすときには、弁護士にも依頼しなければなりませんし、訴状の作成や証拠の準備などが必要となるからです。
そのようなときには、内容証明郵便によって請求書を送付すると、そのときから半年間、時効期間を延長することができます。
その延長された期間内に訴訟を起こせば、確定的に時効を中断できます。
そこで、時効がいよいよ完成しそうなケースでは、保険会社に対して取り急ぎ内容証明郵便で請求書を送り、弁護士を探して早めに損害賠償請求訴訟を起こしましょう。
調停を起こしたとき
調停を起こしたときにも時効が中断します。
ただ、調停が不成立になったときにすでに時効期間が過ぎているケースでは、その後1か月以内に訴訟を起こす必要があります。
裁判に間に合わないと時効が成立してしまいます。
ADR、自賠責への請求では時効が中断しない
注意しないといけないのは、交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターなどのADRへの申請や、自賠責保険への保険金請求では、時効が中断しないことです。
時効が完成しそうな場合には、内容証明郵便や訴訟を利用しましょう。
まとめ
交通事故の賠償請求には決められた期間があるんだね。
時効間際になってしまった場合には、少しでも早く時効の中断を行う事が大切だね。
交通事故に遭うと、戸惑ってしまい、適切な対応を取ることができないまま時効を迎えてしまう人も少なくないんだ。
だからこそ、早めに弁護士に相談することがお勧めだよ。
今回は、交通事故の損害賠償請求訴訟の時効について、解説しました。
無保険車傷害保険に加入している場合にも、保険金請求の時効は3年となっていますから、注意が必要です。
交通事故に遭ったら、時効が完成する前に、早めに請求をしてしまうことが重要です。
事故後長期間が経過してしまい、時効が心配なケースでは、早めに弁護士に相談しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。