交通事故を起こしてしまったら、示談交渉は、保険会社同士が行うんでしょ?
状況によっては、加害者本人と示談交渉を進めなければいけない事もあるんだよ。
加害者と直接示談交渉をするなんて、何の知識もないからどうすれば良いかわからないよ・・・
交通事故は滅多にある事ではないから、知識がない人の方が多いよね。
そんな人のためにも、今回の記事では、加害者と直接示談交渉をしなければいけなくなってしまった時の注意点について、詳しく説明するよ。
まずは、加害者と直接示談交渉を進めなければいけなくなってしまうのはどんな場合となるのか、チェックしていこう。
交通事故の被害に遭ったとき、一般的には加害者の保険会社と示談交渉を進めていくパターンが多いですが、ときには加害者と直接示談交渉しなければならないケースがあります。
加害者によっては保険に入っていない人がいますし、相手が保険に加入していても、保険が適用されない事例もあるためです。
そのようなときには、事故の相手方と直接示談交渉をしなければならず、さまざまな困難が発生するかもしれません。
今回は、交通事故で相手方と直接示談交渉しなければならないケースと、そういったケースにおける注意点、示談の進め方についてご説明します。
交通事故で、直接相手と示談交渉するケースとは
交通事故に遭ったとき、通常は加害者の保険会社が示談交渉を代行しますが、そうならない場合があります。
加害者側に保険会社がつかないので、被害者が加害者本人と直接示談交渉しないといけないのです。
具体的にはどういったケースでそのような結果となるのか、みてみましょう。
無保険車(任意保険に加入していない)
一つ目は、加害者が任意保険会社に加入していない「無保険車」であったケースです。
交通事故で当事者の代わりに示談交渉を代行するのは任意保険(対人対物賠償責任保険)ですから、相手が任意保険に加入していなかったら、示談代行サービスは適用されません。
自動車保険には自賠責保険もありますが、自賠責保険には示談代行サービスがついていないので、加害者が自賠責保険に加入していても任意保険に加入していなかったら、示談交渉の相手は保険屋ではなく、本人となります。
任意保険に加入していても、保険が適用されない場合
加害者が任意保険に加入していても、保険が適用されないケースがあります。
それは、以下のような場合です。
家族限定
1つは、自動車保険契約に「家族限定」がついている場合です。
家族限定がついていると、同居の親族、あるいは別居の配偶者か子どもにしか自動車保険が適用されません。
そこで、たとえば契約者の家族以外の友人や親戚の子どもなどが運転者である時に事故が起こると、自動車保険が適用されない結果になります。
年齢制限
自動車保険には年齢制限をつけることができます。
保険が適用されるドライバーの年齢を一定以上にすることで、保険料を安くできるのです。
しかし、年齢制限がついていると、制限より低い年齢の人が運転していて起こした交通事故には保険が適用されません。
加害者が未成年で親の車を勝手に乗り回していたようなケースでは、この制限にひっかかって保険が適用されないパターンがあります。
免責される場合
自動車保険には、保険会社が「免責」されるケースがあります。
免責とは、保険会社が適用されず、保険会社が保険金を支払わなくて良いという意味です。
一般的に保険会社が免責されるのは、以下のようなケースです。
- 契約者や被保険者が故意で事故を起こしたケース
- 競技や曲技のために車を使用したケース
- 地震や噴火、津波による損害
- 台風、洪水、高潮による損害
- 父母や配偶者、子どもに対する損害賠償請求
- 戦争や暴動、内乱やそれらに類似する事変によって発生した損害
- 核燃料物質によって発生した損害
60日以内に事故を申告しなかった場合
一般的に交通事故発生後60日が経過しても、事故の相手方がきちんと保険会社に報告をしなかった場合にも、損害賠償請求権が消滅し、任意保険が適用されなくなる可能性があります。
被害者としては、相手保険会社の担当者ではなく、加害者本人と直接示談交渉しなければならない状態に陥るのですから、迷惑な話です。
交通事故の相手と直接交渉するときにありがちな問題
加害者との示談交渉では、どんなトラブルが起きやすいの?
交渉に応じてもらえない事もあるし、過失割合や示談金に難癖をつけてくるような場合もあるよ。
一番多いトラブルとしては、示談金を支払ってもらえないという事だね。
治療費の支払いをしてもらえない時には、自分の健康保険を利用して通院しよう。
交通事故に遭ったとき、加害者(相手)と直接示談交渉をするとさまざまな問題が発生します。
以下で、ありがちなパターンをご紹介します。
無視される
一つ目に、被害者が加害者に対して損害賠償請求をしようとしても、無視されるケースがあります。
特に物損事故の場合に誠実に対応しない加害者が多いです。
人身事故の場合には、加害者が刑事事件の被疑者となり、被害者に誠実に向き合わないと刑が重くなってしまいますが、物損事故の場合には、刑事罰が適用されないからです。
また、人身事故であっても請求を無視する加害者はいます。
何度連絡を入れてもつながらず、折り返しの連絡も無いので、被害者としては困り果ててしまいます。
「お金がない」と言われる
加害者が示談の話し合いに応じたとしても「お金がないから賠償金を支払えない」と言ってくるパターンがあります。
交通事故で発生する損害は、大きくなりがちです。
それほど大きな事故でなくても数百万円単位の損害賠償額が発生することは多いですし、大きな事故なら数千万円以上の損害が発生します。
相手が一般人の場合、このような大金を請求されても、支払えないと考えます。
そこで、損害額を計算して加害者に通知しても、加害者が「支払えない」と開き直り、最悪の場合には自己破産されてしまうケースもあります。
難癖をつけられて示談できない
加害者本人が示談交渉の相手のとなる場合、被害者にも加害者にも損害賠償金計算方法についての基礎知識がありません。
そこで、被害者が賠償金を計算しても「なぜそのような金額になるのか分からない、納得できないから支払えない」と言われる可能性があります。
また、過失割合について合意ができず、トラブルになってしまうこともありますし、「そんなに多額になるはずがない」と言われて支払を拒絶されるケースもあります。
相手が本人の場合、いろいろと難癖をつけられて賠償金を支払ってもらえなくなる可能性があるのです。
示談したのに支払われない
加害者本人が相手の場合、示談が成立しても安心してはいけません。
相手に保険会社がついている場合には、示談が成立して示談書を作成すると、放っておいても速やかに確定した金額の示談金を振り込んできます。
しかし、加害者本人の場合、示談書を作成しても約束通りの支払いをしない人がたくさんいます。
示談書を作成したのに、その後入金せずに音信不通になってしまう加害者もいるので、注意が必要です。
以上のように、交通自己の相手が加害者本人の場合、相手が保険会社の場合とは異なるさまざまな問題が発生する可能性があります。
確実に賠償金を受け取るためには、被害者側としても慎重に対応しなければなりません。
加害者と直接示談を進める場合の注意点
加害者との示談交渉はどんな事に注意すれば良いのかな?
事故直後に示談してしまったり、警察に届け出ないような事は決して行ってはいけないよ。
その他にも、示談書を公正証書としておくことも大切だね。
交通事故に遭って加害者と直接示談交渉をするときには、以下のような点に注意しましょう。
事故直後の示談には応じない
事故が起こったとき、加害者が保険会社に加入していないと、加害者は事故現場で示談を求めてくる例があります。
交通事故を警察に届け出ると、事故が公になって刑事事件になってしまう可能性がありますし、保険が適用されないので、加害者本人が莫大な賠償金を負担しなければならないかも知れないからです。
それであれば、警察に届けずに、その場で支払える金額で被害者を納得させて示談してしまった方が良いと考えるのです。
しかし、交通事故現場で示談をすると被害者にとっては非常にリスクが高くなります。
警察を呼ばないと「交通事故証明書」が作成されず、交通事故の存在を証明できなくなるからです。
自分の保険会社に人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険、無保険車傷害保険などの保険金を請求することもできなくなりますし、加害者の自賠責保険に対する保険金請求もできません。
また、交通事故によって重大な後遺障害が残るケースもありますが、事故現場で示談すると、示談した金額を超える請求が難しくなってしまいます。
予想外に重症だったとしても、治療費や手術代はすべて被害者の自腹となってしまいますし、後遺障害の慰謝料や逸失利益も払ってもらえないので、あまりに大きな不利益が及びます。
以上のように、交通事故現場で加害者と示談すると、被害者にとって1つも良いことがないので、絶対に応じないようにしましょう。
示談ができたら「示談書」を作成する
次に、示談が成立したときの注意点があります。
加害者に保険会社がついていて、保険会社と示談を進めるときには、示談が成立したら必ず「示談書」を作成します。
ただ、被害者が案を作成する必要はなく、保険会社が示談書を作成して被害者宅に郵送してくれるので、被害者は署名押印して返送するだけでかまいません。
返送をすると、速やかに定められた保険金が支払われます。
しかし、加害者本人が相手の場合、話し合いがついたとしても、相手が示談書を作成してくれることは少ないので、被害者が自分で示談書を作成しなければなりません。
口約束のままにしておくと、支払いを受けられなくなるおそれがあるので、必ず書面化しておきましょう。
示談書には、以下のような内容を書き入れます。
- 交通事故の日時、場所、態様、車のナンバー
- 当事者名
- 損害賠償の金額
- 入金期日
- 振込先の表示
- 本件以外に当事者間において債権債務関係のないことの確認
示談した日付を書き入れて、当事者双方が署名押印して2通作成し、加害者と被害者がそれぞれ1通ずつ保管します。
加害者本人が相手の場合、示談書を作成するときには慎重にならないといけません。
たとえば相手が保険会社の場合、損害賠償金額が少し間違っていたり、振込先の表示が間違っていたりしても、「間違っていました」と言って訂正するだけで済みますが、当事者同士の場合には、損害賠償金額を間違えて少なく書いてしまうと、その金額で示談したことにされてしまい、必要な支払いを受けられなくなる可能性があります。
また、入金先の口座を間違って記入すると、相手から「振り込みができなかったから支払いをしなかった」と言われてしまい、その後新たに支払先を伝えても支払ってもらえなくなるかもしれません。
特に重要なのが、入金期日です。
保険会社が相手の場合には、入金期日を決めなくても示談後速やかに支払いをしてくれるので、あまり大きな問題になりませんが、相手が本人の場合には、期日を決めておかないと一向に支払いが行われない可能性があります。
また、支払時期を定めていないと、裁判で示談金の支払いを求めることも難しくなってしまいます。
示談するときに必ず入金期日を定め、書面に書き入れておきましょう。
示談書を公正証書にする
交通事故の加害者本人との間で示談が成立した場合には、できる限り示談書を「公正証書」にしておくことをお勧めします。
公正証書とは、公務員の1種である公証人が作成する公文書です。
信用性が非常に高く、相手から「偽造」「自分は署名押印していない」などと言われるリスクが低くなります。
また、原本が公証役場で保管されるので、紛失や破棄、偽造変造の恐れも小さいです。
さらに重要なポイントが「強制執行認諾条項」です。
これは、金銭債務の債務者が約束通り支払いをしなかったときに、債権者が公正証書を使って強制執行(差し押さえ)をすることができるという条項です。
つまり、公正証書に強制執行認諾条項をつけておくと、加害者が示談で決まった賠償金の支払いをしないときに、被害者はすぐに加害者の預貯金や不動産、車や給料などを差し押さえることができるのです。
もしも公正証書がなかったら、いったん裁判を起こしてからでないと、差し押さえができません。
以上より、加害者と示談をするときには、必ず強制執行認諾条項付きの公正証書にしておくべきなのです。
ただ、公正証書を作成するためには加害者の協力が必要ですし、費用も発生します。
加害者が公正証書作成を拒絶したら強制はできませんし、相手がどうしても費用を払わないなら被害者が全額を負担しなければならない可能性もあります。
公正証書作成費用は、示談金の金額によって変わり、示談金が上がるほど手数料も高額になります。
相手が賠償金を払わないときの対処方法
加害者が損害賠償金を支払ってくれない場合にはどうしたら良いのかな?
たとえ、お金がないと言われたとしても、自賠責保険会社に自分自身で請求を行う事で、最低限の補償は受けることができるよ。
加害者が支払いをしてくれない場合には、裁判を視野に入れて弁護士に相談してみよう。
弁護士に依頼すると、任意保険基準ではなく、弁護士基準や裁判基準での賠償金請求をする事ができるよ。
次に、加害者が賠償金を支払わないときの対処方法を説明します。
内容証明郵便を送る
示談交渉しようとして相手に連絡を入れても無視される場合には、内容証明郵便を使って損害賠償請求書を送ってみましょう。
内容証明郵便は手渡し式の郵便になりますし、請求書や裁判の予告などによく使われるので、相手にプレッシャーを与えることができるからです。
内容証明郵便を送ると、相手が話し合いに応じる可能性もあります。
少額訴訟、支払督促を申し立てる
相手と話し合いをしても示談が成立しない場合や内容証明郵便を送っても相手が無視する場合には、少額訴訟や支払い督促という手続きを使って請求する方法もあります。
少額訴訟とは、60万円以下の金銭を請求するときに利用できる簡易な訴訟手続きです。
判決まで1日で終えることができるので、迅速に問題を解決できますし、手続きが比較的簡単なので被害者本人でも進められます。
支払督促は、相手が異議を申し立てないときに、すぐに強制執行する権利を認めてもらえる裁判手続きです。
支払督促には金額の制限がないので、500万円や1000万円以上の賠償金の請求もできます。
支払督促を申し立てて2週間以内に相手が異議を申し立てなければ、相手の預貯金や不動産、給料などを差し押さえて強制的に賠償金を支払わせることが可能となります。
通常訴訟をする
賠償金額が60万円を超える場合には少額訴訟はできませんし、支払督促をしても相手が異議を申し立てることがあります。
そのような場合には、通常訴訟によって加害者に対する賠償金請求手続を進めましょう。
通常訴訟できちんと損害の発生を証明できれば、裁判所が加害者に対して判決で賠償金支払い命令を下してくれます。
ただし、通常訴訟は非常に専門的で複雑であり、被害者が自分一人で進めるのは難しいので、交通事故トラブルに注力している弁護士に依頼されることをお勧めします。
強制執行する
判決が出ても相手が支払いをしない場合や公正証書を作成しても相手が約束通りの入金をしないときには、相手の資産や給料に対して強制執行できます。
強制執行するときには、相手の住所地を管轄する地方裁判所に申立をして、債権や不動産、動産などの差し押さえ命令を出してもらう必要があります。
被害者が一人でもできる手続きではありますが、難しいと感じるなら弁護士に相談すると良いでしょう。
自賠責保険に請求する
加害者が自動車保険会社に加入していなかったり任意保険が適用されなかったりするケースでも、加害者が自賠責保険に入っていたら自賠責保険金の請求ができます。
このように、被害者が直接加害者の自賠責保険に保険金を請求する手続きを「被害者請求」と言います。
全額の損害賠償には足りなくても、政府が定めた最低限の給付を受けることができるので、加害者が誠実に対応しない場合には先に被害者請求すると良いでしょう。
政府保障事業を利用する
加害者が無保険の場合、任意保険だけではなく自賠責保険にも加入していないケースがあります。
そのようなときには、「政府保障事業」を利用しましょう。
政府保障事業を利用すると、自賠責保険基準と同額のてん補金が支払われるので、最低限の救済を受けられるからです。
政府保障事業については、民間の損保会社が窓口となっているので、交通事故証明書を持って一度お近くの損保会社の窓口に相談に行くと良いでしょう。
まとめ
加害者との示談交渉は、上手くいかない事もあるんだね。
なんだか不安を感じるよ・・・
知識を持って示談交渉に臨んだとしても、不安を感じるのは当たり前の事だよね。
そんな時には、弁護士事務所の無料相談などを利用して弁護士回答を得ることで、不安を払拭してから示談交渉を進めよう。
今回は、交通事故に相手の任意保険が適用されず、加害者本人と示談交渉しないといけない場合について、解説しました。
相手が無保険の場合にも弁護士に相談するとケースに応じた有効なアドバイスをもらえる可能性が高いです。
困ったときには、交通事故トラブルに注力している弁護士に無料相談を申し込んでみると良いでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。