交通事故に遭ったときには、被害者が自分で対応すると、いろいろな点で不利になってしまいます。
有利な条件で示談をしたり高額な賠償金を獲得したりするためには、弁護士に依頼する必要があります。
ただ、「弁護士に依頼すると、高額な弁護士費用がかかるんじゃないの?」と心配されている方も多いでしょう。
実は、最近ではとても安く弁護士に依頼する方法があるので、是非とも知っておきましょう。
今回は、交通事故の弁護士費用と安くする方法を、ご紹介します。
目次
交通事故で、弁護士は何をしてくれるのか?
交通事故に遭ったら、弁護士に依頼する必要があります。
ただ、具体的に弁護士がどのようなことをしてくれるのかイメージしにくいことがあるでしょう。
以下では、簡単に、交通事故で弁護士に頼めることを、ご紹介していきます。
交通事故に関するアドバイス
まずは、交通事故問題全般について、アドバイスを求めることができます。
一般的には、「交通事故に遭うのは初めて」、ということが多いでしょう。
そこで、今後どのような流れで手続きが進んでいくのか、また、どのように進めていくのが良いのか、現時点で正しく対応できているのか、賠償金はどのくらいもらえるのか、など、いろいろなことが心配になります。
そこで、弁護士に相談すると、そうした1つ1つの疑問や不安に答えてもらえます。
このことで正しい対処方法がわかり、将来示談交渉を有利に進めることも可能となりますし、余計な不安も解消されます。
示談交渉の代理人
交通事故では、示談交渉が重要です。
示談交渉を成功させると、多くの賠償金を獲得することができるからです。
ただ、被害者が自分で示談交渉をすると、保険会社に言いくるめられて、保険金を減らされてしまうことが多いです。
弁護士に示談交渉を依頼すると、法的な知識やテクニックを活かして、より高い金額の賠償金を獲得してもらうことができます。
調停・ADRの代理人
弁護士には、調停やADRの代理人を依頼することもできます。
調停やADRは、被害者が自分で行うことも可能ですが、代理人としての弁護士が就いていると、非常に心強いものです。
被害者の代わりに意見を言ってくれますし、法的な根拠をつけて主張してくれるので、調停委員や担当弁護士を説得して、被害者の有利に手続を進めやすくなります。
訴訟の代理人
交通事故で、相手の保険会社と示談が決裂すると、最終的には訴訟対応が必要となります。
素人の方が、1人で訴訟を進めるのは、非常に困難です。
相手が保険会社の場合、ほとんど確実に顧問弁護士に代理を依頼するので、被害者が1人だと、圧倒的に不利になります。
そこで、被害者も、弁護士に訴訟を代理してもらうことができます。
弁護士に訴訟を任せると、被害者が有利になるだけではなく、ほとんど裁判所に行く必要もありません。手間も省けて精神的にも非常に楽になります。
後遺障害認定請求
交通事故の被害者にとって、後遺障害の認定は非常に重要です。
後遺障害が認定されると、高額な後遺障害慰謝料や逸失利益を支払ってもらえるからです。
ただ、被害者が自分一人で後遺障害の認定請求をしても、思うように認定を受けられないことがよくあります。
そこで、後遺障害の認定手続きを、弁護士に依頼することができます。
交通事故に強い弁護士なら、これまでの経験とノウハウ、専門的な知識を持って、より高い等級の後遺障害認定を獲得してくれるでしょう。
弁護士費用の内訳
このように、交通事故で被害者にとって非常に心強い味方となる弁護士ですが、相談や依頼をすると費用がかかります。
具体的にどのような費用が必要になるのか、見てみましょう。
法律相談料
まずは、法律相談料です。
これは、弁護士に交通事故の相談をしたときにかかる費用です。
法律相談料は、相談時間に応じて課金されるので、相談時間が長くなると、費用が上がります。
ただ、実際に示談交渉などの手続きを依頼すると、法律相談料は不要になります。
事件の依頼料に、相談料も含まれると考えられるからです。
着手金
次に、着手金という費用がかかります。
着手金とは、弁護士に何らかの手続を依頼したときに、当初に必要になるお金です。
たとえば、示談交渉を依頼するときや調停を依頼するとき、訴訟を依頼するときなどに発生します。
着手金の計算は、手続きごとになりますから、示談交渉を依頼していても、決裂すると、別途訴訟や調停の着手金が必要になります。
着手金は、弁護士費用の中でも高額になりやすいです。
報酬金
弁護士費用の中では、報酬金が非常に重要です。
報酬金とは、事件が解決されたときに発生する費用です。
交通事故の場合には、相手と示談が成立したときや、訴訟によって相手から支払を受けられたときなどに発生します。
金額は、解決内容によって、異なります。
より有利な内容で解決ができたら、その分報酬金は上がります。
交通事故の場合には、基本的に、弁護士が介入することによって、アップした賠償金の金額に対して加算されます。
たとえば、報酬金のパーセンテージが15%の事務所の場合、弁護士に依頼して1000万円アップしたら、その15%である150万円などが報酬金となります。
実費
弁護士に対応を依頼すると「実費」というお金も必要となります。
実費とは、実際に事件を処理するために必要となる費用です。
たとえば、郵便切手代や交通費、裁判所に提出する収入印紙などです。
実費は、弁護士に依頼せずに、被害者が自分で手続きを進めたとしても、かかります。
ただ、弁護士に対応を依頼すると、こうした実費も一緒に支払うことになるため、実費も弁護士費用に含めて考えられることが多いです。
日当
弁護士に手続きを依頼したとき「日当」という費用が発生することがあります。
日当とは、出張手当のことです。
たとえば、交通事故現場が遠方にあって、弁護士が出張して現場検証に行った場合や、遠方の裁判所で調停や訴訟が行われるので、弁護士が出張した場合などに必要となります。
出張がなければ特に発生しません。
手数料
弁護士に、単発で何らかの手続や対応を依頼すると、手数料が発生することがあります。
たとえば、単発で書類作成を依頼した場合などです。
後遺障害認定の手続きを依頼するときに、手数料がかかる弁護士事務所もあります。
交通事故による弁護士費用の相場
次に、交通事故にかかる弁護士費用の相場を確認していきましょう。
法律相談料
法律相談料の相場は、だいたいどこの事務所でも、30分5000円(+税)となっています。
ただ、最近では、法律相談料を無料にしている弁護士事務所が増えています。
ホームページに「無料相談」「交通事故の相談無料」などと書いてある法律事務所です。そのような事務所であれば、無料で弁護士のアドバイスを受けることができます。
ただし、「当初30分無料」「初回の法律相談無料」など、無料になる範囲がいろいろなので、利用の際には、どこまで無料になるのかきちんと調べておくべきです。
交通事故の相談は、1時間程度はかかってしまいますから、当初30分無料の弁護士事務所に相談をすると、残りの30分は相談料が課金されることになります。
着手金
着手金の相場は、依頼する手続の内容によって異なります。
般的な示談交渉の着手金相場
示談交渉の場合、着手金はだいたい10万円~20万円程度となっています。
着手金無料の弁護士について
ただ、最近では「着手金無料」の弁護士が増えています。
当初に支払う着手金は無料で、相手からお金を回収できたときに発生する「報酬金」のみの支払で良いとされるのです。
着手金無料の弁護士を利用すると、手元にお金がなくても弁護士に依頼できますし、最終的にあまりお金が入ってこなかったときに足が出る可能性もなくなるので、安心な面もあります。
訴訟の場合の相場
弁護士に訴訟を依頼するときには、弁護士会の旧報酬規定を使っている事務所が多いです。
弁護士会の旧報酬規定とは、過去に弁護士会が定めていた、弁護士費用の基準です。
今はこの規定が撤廃されているのですが、特に訴訟の場合には、まだこの基準を利用している事務所が多いです。
旧報酬規定による着手金の金額は、請求金額によって異なります。具体的には、以下の通りです。
請求金額が300万円以下の場合 | 8% |
請求金額が300万円を超え3000万円以下の場合 | 5%+9万円 |
請求金額が3000万円を超え3億円以下の場合 | 3%+69万円 |
請求金額が3億円を超える場合 | 2%+369万円 |
たとえば、相手に2000万円の請求をするときの着手金は、2000万円×5%+9万円=109万円となります。
報酬金
交通事故の報酬金には、いくつかのパターンがあります。
弁護士に依頼してアップした賠償金に対し、一定割合で課金するパターン
1つは、相手から回収できた回収額に対し、一定の割合で課金するパターンです。
たとえば、相手から回収できた賠償金に対し、一律で15~20%とする事務所などがあります。
定額+定率で課金するパターン
2つ目は、「定額+定率」の金額がかかるパターンです。
たとえば、15万円+10%、10万円+10%などとする事務所などが多いです。
旧報酬規定によるパターン
もう1つのパターンは、「弁護士会の旧報酬規定」による計算方法です。
それによると、報酬金は、以下の通りとされています。
経済的利益が300万円以下の場合 | 16% |
経済的利益が300万円を超え3000万円以下の場合 | 10%+18万円 |
経済的利益が3000万円を超え3億円以下の場合 | 6%+138万円 |
経済的利益が3億円を超える場合 | 4%+738万円 |
旧報酬規定によると、相手から回収できた金額によって、課金されるパーセンテージが変わってきます。
報酬金計算の具体例
たとえば、弁護士に依頼することにより、賠償金が1000万円アップした場合の報酬金を計算してみます。
- 一律で一定割合を課金するパターン
一律で20%の事務所なら、報酬金は200万円です。
一律で15%の事務所なら、報酬金は150万円となります。 - 定額+定率で課金するパターン
10万円+10%の事務所なら、110万円です(10万円+100万円)。
20万円+10%の事務所なら、120万円となります(20万円+100万円)。 - 旧報酬規定で計算するパターン
1000万円の場合、旧報酬基準によると、100万円+18万円=118万円となります。
実費
次に、実費を見てみましょう。
実費は、依頼する手続き内容によって、大きく変わってきます。
示談交渉の場合には、ほとんど実費はかかりません。
相手の保険会社との郵送費用くらいです。
ただ、後遺障害の認定を同時に行うときには、病院から資料を取り寄せる際の費用が必要となります。
ケースにもよりますが、1~2万円程度はかかることが多いです。
実費が高額になるのは、訴訟をするケースです。訴訟をするときには、裁判所に収入印紙を納めなければならないからです。
収入印紙代は、請求金額が上がるほど高額になります。
300万円の請求をするなら2万円、500万円の請求をするなら3万円、1000万円の請求をするなら5万円、3000万円の請求をするなら11万円の印紙代が必要となります。
また、訴訟をするときには、郵便切手も必要です。
だいたい5000~7000円程度となります。
弁護士が遠方の裁判所に行くときには、弁護士の交通費も必要となります。宿泊する場合、宿泊費用の負担も発生します。
日当
日当の相場は、半日出張の場合、1~3万円程度、1日出張の場合には3~5万円程度となります。
手数料
弁護士に単発で文書作成などを依頼すると、内容に応じた手数料が発生します。
金額は、5~10万円程度ですが、難しい手続きであれば、さらに多くのお金がかかる可能性もあります。
少しでも安く弁護士費用を抑えるなら
弁護士に依頼するとき、少しでも費用を安く抑えるには、どのような工夫をすることができるのでしょうか?
以下で、その方法をご紹介します。
相談料無料の弁護士を利用する
まずは、無料相談を利用しましょう。
相談料が有料の場合、30分で5000円もかかってしまいますが、無料相談ならそれが0になるのですから、かなりお得です。
また、複数の事務所で無料相談を受けることにより、各事務所の対応を比較することも可能です。
気になる事務所でいくつか費用の見積もりをとってみて、中でも一番安い見積もりを出してくれた事務所に依頼すると、費用を抑えることも可能となります。
弁護士特約を利用する
次に必ずお勧めしたいのが、弁護士費用特約の利用です。
弁護士費用特約とは、自分が加入している自動車保険会社が、弁護士費用を負担してくれる特約のことです。
任意保険のオプションとして追加すると、数百円から数千円程度の増額分の支払いだけで、いざという時に役立ちます。
法律相談料、着手金、報酬金、実費、手数料、日当など、弁護士にかかわるすべての費用が保険会社によってまかなわれるので、被害者が負担する必要はまったくありません。
ただし、限度額が300万円となっているので、300万円を超過する費用が発生した場合には、超過分は被害者が負担する必要があります。それであっても、300万円までの分は無料となるのですから、大きいです。
また、300万円の弁護士費用が発生する事件というと、だいたい経済的利益が2000万円くらいのケースです。
このように、相当大きな交通事故でない限り、被害者の自己負担が発生することはないので、安心しましょう。
日弁連交通事故相談センター、紛争処理センターを利用する
弁護士に依頼しなければ、弁護士費用は発生しません。
日弁連交通事故相談センターや、交通事故紛争処理センターの手続きであれば、弁護士に依頼せず、被害者が自分で手続を進めることも可能です。
このようなADR機関の利用は無料ですから、ほとんど費用をかけずに交通事故の賠償問題を解決することが可能となります。
着手金無料の弁護士事務所について
弁護士費用を抑える方法として、着手金が無料の弁護士を利用することも考えられます。
ただし、着手金無料の弁護士は、必ずしも「安い」とは限らないので、注意が必要です。
着手金無料の場合、報酬金が高めに設定されていることが多いからです。
たとえば、着手金が無料でも、報酬金が20%であれば、着手金10万円で報酬金10%の事務所より高額になることが普通にあります。
弁護士費用を安くするためには、目先の着手金の金額だけではなく、全体として費用がいくらかかるか、検討することが重要です。
加害者に弁護士費用を請求できるの?
交通事故では、基本的に加害者に弁護士費用を請求することができません。
ただし、訴訟になった場合には、認容された賠償金の金額の10%を弁護士費用として認めてもらうことができます。
たとえば、相手に1000万円の支払い命令が出た場合、100万円の弁護士費用が追加で認められるということです。
この場合、相手からは合計1100万円の支払いを受けることができます。
加害者が任意保険に入っていなかった場合には
加害者が保険会社に入っていない場合、賠償金の請求をしても、実際に支払を受けられるとは限りません。
すると、弁護士費用が持ち出しになってしまう可能性があります。
このようなときには、弁護士費用特約を利用できると、非常に便利です。保険会社が弁護士費用を負担するので、たとえ1円も回収できなくても、持ち出しにならないからです。
また、請求額が少額であれば、自分で少額訴訟を利用することもできます。
少額訴訟は、通常の訴訟と比べて非常に簡単なので、被害者が1人で進めることも可能です。
1日で判決まで出してもらえるので、手間も負担も小さいです。
自分でどう対応して良いかわからない場合には、とりあえず、一度弁護士の無料相談を受けるのも1つの方法です。
ケースに応じて良い方法を提案してくれるでしょう。
まとめ
今回は、交通事故にかかる弁護士費用について、解説しました。
弁護士に依頼すると、支払った費用以上の見返りがあります。
また、無料相談や弁護士費用特約を上手に利用すると、大きく弁護士費用の負担を減らすことも可能です。
交通事故に遭われた場合には、まずは交通事故に力を入れている弁護士の無料相談を受けてみることをお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。