「ながらスマホ」という言葉を知ってる?
何かをしながらスマホをみたり操作したりすることだよね。
この前歩きながらスマホしてたら、歩行者にぶつかっちゃったことがあるよ。
おっと、それは危険だね。
実はこの「ながらスマホ」を原因とした交通事故も増加しているんだよ。
今回は、ながらスマホによって実際にどのような交通事故が起こっているのか、またながらスマホの事故を起こすとどのような責任が発生するのか解説していくよ。
目次
ながらスマホの事故件数
ながらスマホの交通事故は、どのくらいの頻度で起こっているのでしょうか?
実は、ながらスマホの事故件数は、近年どんどん上昇しています。
警視庁の発表しているデータによると、2018年における携帯電話など使用中の交通事故件数(カーナビ使用を含む)は2790件、2017年には2832件となっています。2010年には1502件しかなかったので、8年間で1.8倍以上に増えている計算です。
ながらスマホの事故は死亡事故割合が高いのも特徴的です。
携帯電話など使用中の事故の死亡事故率は、全体の交通事故における割合の2.1倍です。
このように、近年「ながらスマホ」の交通事故が非常に多発しており多くの被害者が出ていることには注意が必要です。
ながらスマホは自動車に乗っているときだけに起こるものではありません。
自転車でながらスマホしていて交通事故を起こす人もいますし、歩行中にながらスマホをしていて車の前に飛び出してきて交通事故につながるケースもあります。
自動車や自転車のながらスマホでの事故事例
過去にながらスマホの交通事故にどのようなものがあったのか、事例をみてみよう
ながらスマホで追突事故、5人死傷事故を起こした事例
2017年11月、滋賀県の名神高速道路上でスマホを操作しながらトラックを運転して追突事故を起こし、多数の車を巻き込んで5人を死傷させた交通事故が起こりました。
加害者であるトラック運転手は「自動車運転処罰法違反(過失致死傷)」となり、裁判所は検察側の求刑であった禁錮2年を上回る禁錮2年8か月の判決を言い渡しました。
川崎での自転車ながらスマホの事故
2017年12月、神奈川県川崎市において女子大学生(当時20歳)がイヤホンをつけて音楽を聴きながら電動自転車に乗り、
77歳の歩行者に衝突して死亡させた交通事故が発生しました。
加害者は左手でスマホの操作を行い、自転車は右手のみで操作している「片手運転」の状態で、スマホをズボンのポケットに入れようとして運転操作が不適切になり、事故を起こしました。
「重過失致死罪」で在宅起訴されていましたが、裁判所は加害者に対し禁錮2年執行猶予4年の判決を言い渡しました。
加害者が当時あまり速度を出していなかったことや、自転車保険に入っており、賠償金が支払われる見込みが高いことなどもあり、
死亡事故の割に軽い刑罰で済んだ事案です。
男子大学生による「自転車ながらスマホ」による死亡事故
2018年6月、茨城県つくば市で男子大学生がスマホを見ながらマウンテンバイクに乗り、62歳の歩行者の男性をはねて死亡させる交通事故を起こしました。
事故時は夜間(午後8時45分頃)でしたが大学生は自転車のライトもつけていませんでした。
大学生は「重過失致死罪」で書類送検されましたが、未成年だったため(当時19歳)、家裁へ送致されて少年審判となりました。
参考:またしても「自転車スマホ」による死亡事故、男子大学生を書類送検
ながらスマホの自転車事故は、若者が多い
交通事故の全体件数でみると、10代や20代の若者が加害者となる件がそこまで多くないけど、
自転車で歩行者とぶつかる事故は10代が一番多く引き起こしているんだね。
特に10代では18歳以上しか自動車の免許を取得できませんし、原付の免許を取得できるのも16歳以上ですから、ドライバーの人数自体が少なくなっています。
ところが自転車の場合、免許制度がないので子どもや学生でも運転をします。
そしてスマホを積極的に利用するのは10代や20代の若者が多数です。
そこで自転車事故の加害者は、どうしても若者の割合が高くなります。
警視庁によると、2014~2018年の5年間に発生した「自転車が歩行者をはねた死亡・重傷事故」の運転者1528名のうち、10代が最多で36%にも及んでいます。
人数的には10代が555人、うち高校生が301人で最も多くなっており、継いで中学生の132人となっています。
また高校生の交通事故の約4割は、午前7~8時台の「登校時間帯」に起こっています。
10代が起こす交通事故には上記で紹介した事故のように、スマホ操作やイヤホンで音楽を聴きながらの「ながら運転」を原因とするものが多いのも特徴的です。
ながら運転以外の危険な交通違反について
自転車で交通事故を起こすとき「ながらスマホ」以外にも危険なパターンがあるよ。
イヤホンで音楽を聴きながらの運転
1つは「イヤホンで音楽を聞きながらの運転」です。イヤホンで耳が塞がれていると、
周囲の物音が聞こえにくくなるので車や歩行者、他の自転車などが接近していても気づきません。
また音楽に気をとられて、周囲に気を配ることが難しくなってしまいます。
最近では音楽をスマホで聴く若者が多いので、そうなると「ながらスマホ」と「イヤホンで音楽を聴きながらの運転」がセットになり、非常に危険な状態となります。音楽を聴くためにスマホを操作するので、片手運転にもなります。
上記で紹介した川崎市の女子大学生の交通事故がまさにこのパターンでした。
夜間の無灯火運転
もう1つが「無灯火運転」です。無灯火とは、夜間であるにもかかわらず自転車の「ライト」をつけないことです。
夜間に自転車のライトがついていない場合、少し離れると自転車の姿を見つけるのが非常に難しくなってしまいます。
歩行者からしてみると、突然出てきた自転車にぶつかられる結果になってしまいますし、
車からも自転車が見えないので、突然飛び出してきた自転車を轢いてしまいます。
ながらスマホをしながら夜間に無灯火で運転していると、自分の注意力が散漫になる上相手からは自分の姿が見えないので非常に危険な状態となります。
これが原因で起こったのが、まさに上記で紹介した茨木市の男子大学生の交通事故です。
このように自転車で「ながらスマホ」などの危険な運転をしていると、歩行者に大けがをさせたり死亡させたりするケースがありますし、
自分が被害者になってしまう可能性も高まります。
自転車に乗るときには絶対にスマホ操作やその他の交通違反行為をしてはいけません。
ながらスマホで事故に巻き込まれた場合の賠償金
ながらスマホをしていて交通事故を起こしてしまった場合、どのくらいの賠償金が発生するんだろう?
車を運転していたケースと自転車を運転していたケースで違いがあるのかなども紹介するよ。
車でも自転車でも賠償金額は同じ
一般に自動車の交通事故と自転車の交通事故を比べると、自転車の交通事故は軽視されがちです。
「自転車で交通事故を起こしてもそんなに大変なことにはならない、賠償金もそんなに多額にはならないだろう、だから保険にも入らなくていい」と考えている方も多数です。
しかし現実には、自動車でも自転車でも賠償金の計算方法や金額はまったく同じです。
被害者が死亡したり後遺障害が残ったりしたら高額な死亡慰謝料や逸失利益(将来の失われた収入)を賠償しなければなりません。
金額的には、死亡事故や重傷事故を起こすと8000万~1億円以上の損害賠償が必要になるケースもあります。
自転車の場合「自賠責保険」がないので、自主的に自転車保険に入っていなければ最低限の補償すら行われません。
全額が加害者本人の自腹になってしまうので、大変なことになります。
一生働いても返済できない金額の賠償金が発生する可能性もあるんだね。
ながらスマホの自転車事故の賠償金額事例
実際に、自転車の交通事故でどのくらいの賠償金が発生する事例があるのでしょうか?
2008年9月、兵庫県神戸市で小学5年生の男の子が67歳の被害者をはねてしまい、被害者が寝たきり状態になってしまった交通事故がありました。
この交通事故により、加害者の男の子の親に対して「9,520万円」の損害賠償命令が下りました。
このように高額な賠償金が必要になったのは被害者が寝たきりになって介護を要する状態になり「将来介護費用」が大きくかかったためです。
加害者の家族は自転車保険(個人賠償責任保険)に入っていなかったので全額を自分で支払うしかなくなり、自己破産を余儀なくされたという情報もあります。
ながらスマホを起こして事故を起こした場合にも、賠償金の計算方法は同じです。
自転車のながらスマホで高齢者相手に衝突事故を起こして重大な後遺障害を発生させたら、
ある日突然1億円の負債を負うことになってしまう可能性が誰にでもあるのです。
ながらスマホの事故の賠償金の項目
実際にながらスマホで交通事故を起こしたとき、どのような賠償金が発生するのか一覧で紹介するよ。
治療費 | まずは被害者のけがの治療にかかった治療費を払わねばなりません。 |
付添看護費用 | 被害者が入院して親族が付添看護を行った場合には、1日あたり6500円程度の付添看護費用を払わねばなりません。 |
入院雑費 | 被害者が入院したら、1日あたり1500円程度の雑費が発生します。 |
文書料等 | 被害者が診断書や交通事故証明書を取り寄せるなどのために費用を支出したら、それについても加害者が賠償します。 |
休業損害 | 被害者が有職者の場合、事故で仕事ができない期間が発生します。その間の休業損害は加害者が負担します。 |
器具、葬具の費用 | 被害者に後遺障害が残ったら、コンタクトレンズや義手義足、義歯、車いすなどの器具や装具が必要です。こういったものも賠償の対象です。 |
自宅や車の改装費用 | 被害者に重大な後遺障害が残ったら、自宅や車を回送しないと生活出来なくなる可能性があります。そういった費用も加害者が負担します。 |
将来介護費用 | 被害者に重大な後遺障害が残って介護を要する状態になったら、一生分の介護費用を加害者が負担しなければなりません。 |
慰謝料 | 被害者がけがをしたら、入通院の慰謝料や後遺障害が残った事による慰謝料、死亡したことによる慰謝料を払わねばなりません。 |
逸失利益 | 被害者が事故当時仕事をしていた場合、後遺障害が残ったり死亡したりしたら、それ以後得られるはずだった収入を得られなくなります。その分の逸失利益も払わねばなりません。逸失利益の金額も、将来介護費用と同様に高額になりやすいです。 |
葬儀費用 | 被害者が死亡したら葬儀費用が発生します。そちらについても加害者が賠償します。 |
物損 | ながらスマホの交通事故でも物損被害が発生します。たとえば相手の自転車や自動車が壊れたら修理費用や買換費用を払わねばなりません。歩行者の持ち物や衣類が壊れた場合などには、そういった物損も賠償の対象となります。 |
保険に入っていたら上記のような賠償金は保険から支払われますが、もしも保険に入っていなかったら加害者の自己負担となります。
自動車事故の場合には自賠責がある程度払ってくれますが、自転車事故の場合には全額自腹です。
そうなると、先に紹介した小学生の家族のように自己破産するしかなく、自己破産しても免責を受けられない可能性もあります。
ながらスマホ運転での事故は想像以上にリスクが大きいんだね。。
まとめ
ながらスマホで事故に遭ったら、加害者になった場合も被害者になった場合にも自分一人で対応するのは荷が重いものです。
加害者なら刑事事件への対応が必要ですし、被害者なら適切に賠償金を支払ってもらう必要があります。
不十分な対応をすると、後で大きく損をしてしまうかもしれません。
交通事故に詳しい弁護士に相談をして、示談交渉を始めとした各種の対応を任せましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。