高齢者が交通事故に遭ってしまった場合って、受け取れる損害賠償額は若い人とは違うの?
損害賠償金の種類によっては、年齢によって減額されてしまう物もあるんだ。
今回の記事では高齢者が交通事故に遭ってしまった時に受け取れる損害賠償金について、詳しく見ていこう。
高齢者が交通事故で負傷したら、賠償金の計算において若い人とは異なる取扱いが行われる可能性があります。
基本的に「慰謝料」は年齢によって変わりませんが、「逸失利益」という賠償金の考え方が大きく変わってきます。
また高齢者が仕事をしていたか、していなかったか、年齢によっても計算方法が変わります。
今回は高齢者が交通事故に遭ったときの賠償金計算方法や、適切な示談交渉の進め方を解説していきます。
目次
高齢者の交通事故で請求できる損害賠償金とは
高齢者が交通事故に遭ってしまった時には、どんな種類の損害賠償金を受け取ることができるの?
積極損害、消極損害、慰謝料の3つを受け取ることができるよ。
高齢者が交通事故に遭ったとき、どのような損害賠償金を請求できるのでしょうか?
人身事故で請求できる損害賠償金には、
- 積極障害
- 消極障害
- 慰謝料(精神的損害)
の3種類があります。
積極損害
積極損害とは、交通事故によって実際に支払いが必要になった分の損害です。
たとえば以下のようなものが積極損害となります。
- 治療費
- 付添看護費用
- 入院雑費
- 交通費
- 診断書取得費用
- 介護費用
- 器具や装具の費用
- 自宅や車の改装費用
高齢者であっても、上記のような積極損害はすべて請求可能で、一般の若い方との違いはありません。
消極損害
消極損害は「事故によって得られなくなった利益」に相当する損害です。
交通事故で認められるのは、以下の3つです。
- 休業損害
- 後遺障害逸失利益
- 死亡逸失利益
休業損害は、治療を終了するまでの間、治療のために仕事を休んだために失われた収入です。
後遺障害逸失利益は、後遺障害が残って労働能力が低下したために発生する将来の減収です。
死亡逸失利益は、被害者が死亡したために得られなくなったその先の収入です。
高齢者の場合、休業損害や逸失利益の計算において、一般の若い被害者とは異なる計算方法となる可能性があります。
慰謝料(精神的損害)
慰謝料(精神的損害)とは、交通事故に遭ったことで被害者が受ける精神的苦痛に対する損害賠償金です。
交通事故で被害者が感じる大きな恐怖や、交通事故でけがをしたり後遺障害が残ったり死亡したりした苦痛に対し、賠償金が支払われます。
交通事故によって受ける精神的苦痛の大きさは、年齢によって変わるものではないので、高齢者であっても若い人と同様に請求できます。
ただし死亡慰謝料については、被扶養者の人数が考慮されるので、誰も扶養していない高齢者の場合には低額になります。
年齢によってもらえる損害賠償金は変わるのか
高齢者でも仕事を休まなければいけない場合には、休業損害は請求できるよね?
そうだね。
仕事を休んだ場合だけではなく、失業中でも休業損害を受け取ることができる場合もあるよ。
交通事故の被害者が高齢者だった場合、相手から支払ってもらえる損害賠償金の金額が変わるのでしょうか?
高齢者の場合、上記の「消極損害」が変わる可能性があるので、以下でそれぞれの損害についての考え方をみてみましょう。
休業損害について
休業損害は、事故前に仕事をしていた人に認められます。
そこで高齢者であっても、事故前に仕事をしていたならその収入を基礎として休業損害を請求できます。
一方、年金のみで生活している高齢者の場合には、治療のために働けなくなっても損害が発生しないので、休業損害を請求できません。
問題になるのは、失業中の高齢者です。
これから就職しようとしていた場合には、以下のような条件を満たせば休業損害を認めてもらえる可能性があります。
- 就労能力があった
高齢でも休業損害が認められるには、実際に働ける能力が必要です。 - 就労意欲があった
本人に働く意欲があったことが必要です。 - 具体的な就労可能性があった
就職活動をして内定を得ていたなど、何らかの具体的な就労可能性があったことが必要です。
上記の条件を満たせば失業中の高齢者であっても、平均賃金を数割減額した数字などを基礎収入として休業損害を請求できる可能性があります。
高齢者の休業損害は若者の場合と金額が変わるのか
高齢者であっても、休業損害を請求できる場合には若者と同じ計算方法になるので、金額が減ることはありません。
求職中のケースなどで基礎収入を「平均賃金の2割減、3割減」などとされたら比較的低額になりますが、若者でも低収入な人や失業者はいるので、一概に高齢者の休業損害が少ないとは言い切れません。
ただし主婦の場合、若い主婦は「全年齢の女性の平均賃金」を採用されますが、高齢の主婦の場合にはそこから減額されたり年齢別の平均賃金を採用されたりするので、若い主婦の2割減、3割減くらいの休業損害額になる可能性があります。
逸失利益について
高齢者の場合には、若い人に比べると、その分残りの人生は短くなるよね?
逸失利益はどう計算されるの?
高齢者の逸失利益は67歳まで残り何年か、平均寿命の2分の1のどちらかで計算する事になるんだよ。
もう1つ、高齢者の場合に問題になりやすいのが逸失利益です。
後遺障害逸失利益と死亡逸失利益で考え方が異なる面があるので、分けてご説明します。
後遺障害逸失利益の場合
後遺障害逸失利益の計算式は、以下のとおりです。
後遺障害逸失利益=事故前の基礎収入×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
特に問題になるのが、事故前の基礎収入と就労可能年数です。
【基礎収入について】
基礎収入については、休業損害の場合と同じ考え方となります。
すなわち、事故前に実際に働いていた高齢者については実際の収入を基準として計算します。
事故前に失業していた高齢者については、休業損害の項目で紹介した要件を満たす場合に平均賃金を適用して逸失利益を計算します。
つまり、以下の3要件を満たせば、逸失利益を請求できる可能性があります。
- 就労能力
- 就労意欲
- 具体的な就労可能性
年金生活者の場合には、後遺障害逸失利益が認められません。
後遺障害が残っても年金を減らされることがなく、損害が発生しないからです。
【就労可能年数について】
逸失利益を計算するときには「就労可能年数」が重要です。
就労可能年数とは「あと何年働けるか」ということです。
逸失利益は「本来得られるはずだったのに得られなくなった収入」なので、就労可能年数分を請求できます。
一般的なケースの場合、就労可能年齢の上限は67歳とされています。
しかし高齢者の場合、67歳を目前にしているけれど仕事を辞める予定がない人や、すでに67歳を超えても働いている人がいるので「67歳が上限」とするのは不合理です。
そこで就労可能年数については、以下の長い方の期間を採用します。
- 67歳までの年数
- 平均余命の2分の1
平均余命については、5年ごとに男女別に厚生労働省から発表されているので、こちらを使って計算しましょう。
死亡逸失利益の場合
死亡事故になってしまった場合には死亡逸失利益はもらえるの?
死亡してしまった場合には、年金受給者であっても死亡逸失利益が認められるよ。
死亡逸失利益の計算式は、以下の通りです。
死亡逸失利益=事故前の基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
【基礎収入について】
事故前の基礎収入の考え方は、休業損害や後遺障害逸失利益とほとんど同じですが、年金生活者のみ取扱いが異なります。
年金生活者の場合、休業損害や後遺障害逸失利益は認められませんが、死亡逸失利益は認められます。
交通事故でけがをしたり後遺障害が残ったりしても年金が減額されませんが、死亡すると年金を受給できなくなるからです。
年金は、本人だけではなく家族の生活をさされるという側面も持っているので、年金を受け取れなくなったことについての死亡逸失利益が認められるのです。
【就労可能年数について】
就労可能年数については、後遺障害逸失利益と同じ問題が発生します。
一般的なケースでは就労可能年数は67歳が限度とされていますが、高齢者の場合67歳を超えて働くケースもあるからです。
死亡逸失利益の計算の際にも後遺障害逸失利益と同様に、以下の2つのどちらか長い方を採用して就労可能年数を計算します。
- 67歳までの年数
- 平均余命の2分の1の年数
高齢者の逸失利益は若者と比べて金額が減るのか
高齢者と若者では、逸失利益にはどの位の差が出るの?
年収が同じだった場合、20歳と70歳での逸失利益がどの位違うのか、計算してみよう!
高齢者であっても、逸失利益が認められる場合には必ずしも若者より減るわけではありません。
計算式も同じです。
ただし後遺障害逸失利益と同様、失業者などで基礎収入を平均賃金の2割、3割減などとされると、その分請求金額が減額されます。
また高齢の場合、若者より就労可能年数が短くなるのでその分逸失利益が減ることは考えらえます。
以下で後遺障害逸失利益についての計算の一例を示します。
【事故前の年収が300万円の被害者が後遺障害12級となった場合】
- 被害者が20歳
300万円×14%×17.981(就労可能年数47年に対応するライプニッツ係数)=755万2020円
- 被害者が70歳(男性)
300万円×14%×5.786(平均余命15.59、2分の1として7年に対応するライプニッツ係数)=243万120円
このように、同じ年収でも年齢によって随分と逸失利益に差が出てきます。
これは、働ける年数が異なる分、やむを得ないことです。
高齢者が受け取れる慰謝料の種類について
精神的苦痛は若者と同じだから、高齢者でも慰謝料は受け取れるよね?
そうだね。入通院慰謝料や、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つを受け取ることができるよ。
交通事故に遭ってけがをしたら、慰謝料も受けとれます。
高齢者の場合でも若い人でも同じように
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
を請求できるので、その内容をご紹介します。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故でけがをしたことに対する慰謝料です。
後遺障害が残らなくても、人身事故に遭って入通院したら誰にでも認められます。
入通院慰謝料は、入通院した期間によって金額が異なり、治療期間が長くなれば慰謝料も高額になります。
たとえば入院3か月、通院6か月の場合の入通院慰謝料は211万円程度です。
同じ交通事故に遭った場合でも、高齢者の場合には治療期間が長引く可能性が高いので、一緒に事故に遭った若者よりも入通院慰謝料が高額になる可能性は十分に考えられます。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は交通事故で後遺症が残り、後遺障害等級認定を受けられたときに支払われます。
金額は、認定等級が高くなるほど高額になります。
【認定された等級ごとの慰謝料の表】
等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
高齢者は慰謝料が減額されてしまう事があるって本当?
年を重ねると足腰が痛くなる人が多いよね。
だから交通事故との関連を否定して慰謝料を減額されてしまう事もあるんだよ。
高齢者の場合、症状が残っても「事故前からあった症状ではないか」などと言われて後遺障害認定を受けにくいケースがあります。
経年によってどうしても頸椎などが傷んだり変形していたりする人が多いためです。
もともと既往症がある場合、逸失利益を減額されるケースもよくあります。
このように高齢者の場合、後遺障害を否定されたり既往症によって減額されたりする可能性があるので、若者よりも逸失利益を減らされやすいと言えます。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は若者とは変わらないよね?
死亡慰謝料も高齢者の場合には、低く設定されてしまうんだ。
その理由として、子供が巣立ってしまっている事が多く、扶養家族が少ないため、死亡慰謝料も少なく設定されてしまうんだよ。
死亡慰謝料は、死亡したことによる精神的苦痛に対する慰謝料です。
高齢者でも若者でも死亡によって受ける精神的苦痛は同じですから、基本的に金額は変わりません。
ただし死亡慰謝料は「被扶養者」つまり被害者によって扶養されていた人がいなかったか、またその人数によって金額が変わります。
高齢者の場合、すでに引退して誰も扶養していないケースが多いでしょうから、現役世代の一家の大黒柱の方よりは死亡慰謝料が低くなりやすいと言えます。
【死亡逸失利益の相場】
- 一家の大黒柱の場合の死亡慰謝料…2800万円程度
- 配偶者や母親の場合の死亡慰謝料…2500~2800万円程度
- それ以外のケース(高齢者など)…2000~2500万円程度
交通事故に詳しい弁護士に依頼すると高齢者の慰謝料請求を増額できるのか
高齢者は交通事故の損害賠償額は少なくなりがちなんだね。
同じように事故に遭っているのに減額されてしまう事が多いなんて、驚いたよ。
不当に減額されてしまう事がないようにするためにも、交通事故に遭ってしまったら、弁護士に相談するのがお勧めなんだ。
交通事故案件に長けている弁護士なら、高齢者であっても適正な損害賠償金を受け取ることが可能だよ。
高齢者は逸失利益や慰謝料を減額されやすいことは間違いありません。
法的に減額を避けられないケースもありますが、保険会社によって不当に減額されるケースも多々あります。
そのような場合、弁護士に示談交渉を依頼すると賠償金を大きく増額してもらえる可能性が高くなります。
慰謝料は「弁護士基準」を適用することによって数百万円、数千万円以上増額されるケースもめずらしくありませんし、弁護士に交渉してもらうと不当に否定されていた逸失利益を払ってもらえるケースもあります。
「高齢だから賠償金が少なくなっても仕方ない」と諦めることなく、一度交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に対応を相談してみることをお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。